Plantaeプランタ/植物

あるいは

Land plants/ランドプランツ/陸上植物

あるいは

Embryophyta/エンブリオフィタ

直訳すると胚植物

有胚植物という訳語あり

 

 

 植物とは?:

 ここで言うプランタとは、陸上植物のことをさします。植物というと広い意味では、光合成をして水と二酸化炭素から有機物と酸素を作り、その化学反応で生活する生物のこと、ですが、このような生活をする生物には幾つか異なる由来のものが含まれています。コンブやワカメ、ゾウリムシ、タンポポはそれぞれ別々に光合成を行う能力を獲得しました。こうした広い意味での植物、という言葉は系統を反映しておらず、厳密な意味において、望ましいものではありません。

*一方、以上のような広い意味合いでの”植物”という言葉は古典的にはよく使われましたし便利です。例えば植物プランクトンと言うと、”単細胞で、なおかつ水中を浮遊する植物のような生活をしている生き物だよ”、という意味で使えます。草を食べるシマウマがライオンに食われる、というのと同様、生態系の基礎は海でも植物と光合成が基本なのだ、という事実を説明する時には便利です。ただし、こういう使い方は「サーベルタイガーも恐竜だろ?」と言うぐらい、大雑把で感覚本意な分け方でもあります。

  プランタというのは狭い意味ではいわゆる陸上植物のことで、英語ではLand plants(ランドプランツ)とも言います。系統的には、ゼニゴケ、スギゴケ、ツノゴケ、マツバラン、イワヒバ、トクサ、ワラビ、ソテツ、針葉樹、マオウ、そして花を咲かせる被子植物をまとめた生物群のことです。これらは単一の系統であって、緑藻の一部から進化しました。セコイヤデンドロンのように生物界最大の大きさに成長するものから、体長が1ミリにしかならないミジンコウキクサ、海へ進出したアマモなどいろいろな種類がいます。

 

 

 植物/陸上植物/エンブリオフィタの共有派生形質:

 :胚(Embryo:エンブリオ)を持つ事

 

 

 植物/陸上植物/エンブリオフィタの用語解説:

 半数体と二倍体(ハプロイドとディプロイド)

 ある役割、例えば役割Aを司る遺伝子Aを1つだけ持つもの、それが半数体(haploid:ハプロイド)です。

 ある役割、例えば役割Aを司る遺伝子Aを2つ持つもの、それが二倍体(diploid:ディプロイド)です。

 植物は半数体の個体から二倍体の個体が生まれ、その二倍体の個体から半数体の個体が生まれます。つまり世代交代のたびに半数体、二倍体を繰り返します。ただ以下で述べるように、二倍体が半数体の上で成長する、反対に半数体が二倍体の上で成長するという形式をとるため、こういうことをしているようには見えません。

 *遺伝子の”役割”という言葉が目的論的に聞こえるなら、効果とか、そういう言葉で置き換えてもかまいません。

 *考えてみれば二倍体の半分なら一倍体だろ? なぜ半数というの? なんですが、用語は二倍体と半数体です。同じ遺伝子を2つ、つまりペアで持っているから二倍体。その半分だから半数体、そういう文脈で理解すべき用語かもしれません。

 *植物は半数体と二倍体がくっついているので、別個体に見えませんし、世代交代しているようにも見えません。核に含まれる遺伝子の有り様(フェーズ:phase)が交代するので、核相交代(alteration of nuclear phases)という言葉もあります。

 

 有性生殖

 2つの個体の遺伝子を混ぜ合わせて新しい個体を作る。これを有性生殖と言います。性を持つ生物は多く、動物も植物も、その多くは性を持ちます。さて、2個体の遺伝子を混ぜると、世代が経つにつれて遺伝子の量が2倍、4倍、8倍...と増えて取り返しがつかなくなりそうですが、そうはなりません。二倍体の個体は同じ遺伝子をペアで持っています。例えばAA。このAAを分けて、Aを1つだけ含む細胞を作ります。つまり半数体の細胞ですね。これを提供し、相手が提供したものと組み合わせれば再びAAに戻ります。つまり、

 半数体+半数体=二倍体

 人間も含めて動物の場合、体はAA(つまり二倍体)ですが、体内でAを1つだけ含む半数体の細胞を作ります。この細胞が、男性あるいは雄のものなら精子、女性あるいは雌のものなら卵子です。このように、”遺伝子を混ぜ合わせた子供を作る際に使われる半数体の細胞”を配偶子(gamete:ガメート)と呼びます。

 さて、動物の有性生殖は以上のようなものですが、このコンテンツで取り上げている植物では、遺伝子を混ぜ合わせる過程が動物よりも複雑です。

 まず、AA(つまり二倍体)の個体からAを1つだけ含む(つまり半数体の)細胞が作られます。これが胞子(spore:スポーレ)です。注意しなければいけませんが、胞子は半数体ではありますが、精子や卵子ではありません(つまり配偶子そのものではありません)。

 胞子はこのままある程度成長して組織を作ります。つまり半数体の個体になります。そして、この半数体の個体が精子や卵子のような配偶子を作るのです。こうして作られた精子と卵子が受精するとAA、つまり二倍体の個体が誕生します。

 このように植物は二倍体の個体が作った胞子から半数体の個体が生まれ、半数体の個体が作った精子と卵子が受精することで二倍体の個体が誕生します。

 

 胞子体と配偶体

 植物において、二倍体で胞子を作る個体を胞子体(sporophyte:スポロフィテ)と呼びます。

 *つまり胞子体(スポロフィテ)=二倍体(ディプロイド)

 *胞子体自身は二倍体ですが、作り出す胞子は半数体であることには注意が必要です

 胞子から発芽して成長するのが配偶体(gametophyte:ガメトフィテ)です。胞子はAをひとつしか持たない半数体ですから、そこから成長した配偶体も半数体です。そして、配偶体はその名の通り、配偶子(ガメート)を作ります。

 *配偶体(ガメトフィテ)=半数体(ハプロイド)

 *配偶体(ガメトフィテ)は半数体(ハプロイド)であり、作り出す配偶子(ガメート)も半数体です

 

 胞子体と配偶体のありかた

 植物がややこしいのは、胞子体と配偶体を世代交代の要領で繰り返しているのに、両者がくっついている、というところです。

 コケ植物(広義かつ古典的な意味でのBryophyta)の場合

 *以下に述べるように、ここで言うコケ植物は系統を反映しないグルーピングです(*狭義の意味のコケ:ブリオフィタはこちら

 大きな配偶体に小さな胞子体が乗っかっているのが、いわゆるコケ植物(広義の意味でのBryophyta:ブリオフィタ)です。コスギゴケはふさふさした緑の体から細いキセルのようなものが伸びますが、土台になっている緑の部分が配偶体(ガメトフィテ)、それにのっかったキセルのようなものが胞子体(スポロフィテ)です。

コスギゴケ 撮影2012.12.06 神奈川県

緑のところが配偶体(ガメトフィテ)で、半数体の部分です。画像を見ると配偶体に茎と葉っぱがあることが分かるでしょう。上へ伸びたキセルのようなものが胞子体(スポロフィテ)で、二倍体の部分。先端にある膨らみの中で減数分裂が行われ、半数体である胞子が作られています。見ての通り、コケ植物では配偶体が主体です。

 

 シダ植物/プテリドフィタの場合

 *以下に述べるように、シダ植物は系統を反映しないグルーピングです

 一方、いわゆるシダ植物(Pteridophyta:プテリドフィタ)では、配偶体の上に胞子体が乗っているところはコケと同じですが、胞子体がはるかに巨大に成長します。森の中でよく見かける大きなシダ、リョウメンシダも、配偶体は指先に乗る小さな、そしてぺらぺらのフィルムのようなしろものです。見た目はコケのようですし、実際、私たちが目にするコケの緑色の部分に該当します、配偶体は精子と卵子を作り、それが受精し、やがて配偶体から二倍体である胞子体が生えてきます。この大きく成長した胞子体が、我々が目にするシダとなります。

幼いリョウメンシダ(おそらく) 撮影:2012.12.04 神奈川県

成長し始めたリョウメンシダ。配偶体(半数体)は葉っぱの付け根にある緑色で薄い、ぺらぺらのフィルムのようなものです。葉っぱの部分が胞子体(二倍体)。成長は様々で、小さな葉っぱをやっとのばしたものから、もっと枝分かれしたものまで見えています。

一部拡大

 この画像では3つか4つの個体(何をもって個体というのか難しいところですが)が見えます。シダの配偶体は典型的にはハート形で、ハートの割れ目から胞子体が伸びますが、上の配偶体はちょうど伸び始めたところ。よく見ると、ハート形の割れ目から芽が顔をのぞかせていますね。この配偶体は下のものより大きいので、ひょっとしたら別のシダのものでしょうか? これらの配偶体の周囲に生えていたシダはリョウメンシダとイノデ、数は少ないが、ヤブソテツなどでした。ちなみに、シダの配偶体は前葉体(Prothallium:プロタリウム)とも呼ばれます。

  

 種子植物/スペルマトフィタの場合

 コケもシダも、その胞子体は遺伝子をひとつしか持たない胞子を作り、散布します。胞子から発芽した配偶体はそれぞれ卵子と精子を作りますが、精子が卵子にまで泳いでいかないと受精できません。精子が泳ぐには水が必要です。コケ植物やシダ植物が湿った環境を好むのはこのためです。どちらの植物にも乾燥に強いものがいますが、受精の時ばかりはどうしても水が必要です。こうした中、受精時に水を必要とする配偶体(ガメトフィテ)を、胞子体(スポロフィテ)で保護するものが現れました。具体的には

:胞子は散布されないまま胞子体の上で成長し、小さな配偶体になる

:こうした配偶体のうち、”卵子を作る配偶体”は胞子体の上にそのままとどまっている

:一方、”精子を作る配偶体”は、風などの手段で散布される(言い換えると風で飛ばされるほど小さい)

:運良く”卵子を作る配偶体”にまで辿り着けたらそこで精子を放つ

:”卵子を作る配偶体”は胞子体に包まれており、水分を供給されているので、周囲が乾燥していても精子は泳ぎ、受精が可能

組織で覆われた”卵子を作る小さな配偶体”が種子(seed:シード)です。種子を作る植物は種子植物(Spermatophyta:スペルマトフィタ)と呼びます。また、”精子を作る配偶体”とは花粉(pollen:ポーレン)のことです。

 このように、種子植物では配偶体(ガメトフィテ)は胞子体(スポロフィテ)の上で成長する、ごく簡単で小さな組織に成り果てています。

 

 コケ植物とシダ植物は側系統群/あるいは偽系統群

 古典的に陸上植物はコケ植物、シダ植物、種子植物に分けられ、それらは以下のようなグループから成り立ち、それぞれ次ぎのような特徴で定義づけられてきました。

コケ植物:

:タイ(ゼニゴケ)類 セン類 ツノゴケ類

:胞子から成長した配偶体が自立して生活する

:配偶体から胞子体が生える  

:生活環において配偶体が目立ち、胞子体より大きい

 

シダ植物:

:マツバラン類 ヒカゲノカズラ類 トクサ類 狭義のシダ類 

:胞子から成長した配偶体が自立して生活する

:配偶体から胞子体が生える

:生活環においては配偶体よりも胞子体の方が主体で、はるかに大きい

 

種子植物:

:裸子植物 被子植物

:胞子に該当する細胞は散布されず、配偶体は自立しない 

:配偶体は胞子体の上でごく簡単な組織にまで成長し、一部は散布される(種子の中身と花粉)

:配偶体よりも胞子体がはるかに大きく、生活環において主体

 以上3グループのうち、コケ植物、シダ植物は原始形質を手がかりとしたグルーピングです。実際、派生形質の分布を検討すると、以上のような古典的なコケ植物、シダ植物は成り立たないことが分かりました。コケやシダというグルーピングは同定や分類、認識、会話には便利ですが、科学的にはそれ以上の意味を持っていません。また、注意が必要ですが狭義のシダ類も単系統群ではなく、薄嚢シダとそれ以外に分解し、トクサなどと合わさってまとまった系統群(モニロフィテス)を構成していると考えられています。それぞれの植物間の系統関係は以下を参考にしてください。

 

 

 プランタ/植物の系統: 

_______________Marchantiophyta:タイ類:ゼニゴケなど

   |  ?_________Anthocerophyta:ツノゴケ類:ツノゴケ

   |____________Bryophyta:セン類:ギンゴケなど

      |_________Lycophyta:ヒカゲノカズラ類:イヌカタヒバなど

         |______Monilophytes:モニロフィテス:ツクシ、ワラビ、フユノハナワラビなど

            |___Spermatophyta:種子植物

 

 いわゆるコケ類はタイ類、ツノゴケ類、セン類よりなります。ただ、このグルーピングは原始形質に基づいたもので、単系統であるという証拠がありません。現生種のみで考えると、陸上植物ではゼニゴケの仲間(タイ類)が一番原始的であるようです。ギンゴケのようなセン類は一部の種が気孔を持つことなどから、より派生的な陸上植物に近いという証拠があります(*ただし議論の余地あり)。つまり広義のコケ植物は単系統群ではない、ということです。

 伝統的に使われてきた、いわゆるシダ植物はマツバラン、ヒカゲノカズラ、ツクシ、ワラビ、リュウビンタイ、フユノハナワラビなどを指しますが、葉っぱやそれを通る維管束の構造からすると、これらのうちヒカゲノカズラ以外のグループ、ツクシ+ワラビ+リュウビンタイ+フユノハナワラビはより派生的で、種子植物に近いと考えられています。つまり広義のコケ植物と同様、広義のシダ植物も単系統群ではありません。また、ツクシ、ワラビ、リュウビンタイ、フユノハナワラビは単系統群(モニロフィテス:Monilophytes)を作るようです。言い換えれば、モニロフィテスは種子植物と姉妹関係にあります。

 なお、マツバランの所属は議論の余地がありますが、意外なことにモニロフィテスの一員ではないか? という解釈があります。

 以上の系統関係をもっと細かく示したのが以下です。

 

_____________Marchantiophyta:タイ類:ゼニゴケ・ウロコゴケなど

   |  ?_______Anthocerophyta :ツノゴケ類

   |___________Bryophyta:セン類:コスギゴケ・ギンゴケなど 

     |_________Lycophyta:ヒカゲノカズラ類:ヒカゲノカズラ・イヌカタヒバなど

       |_______Sphenophyta:トクサ類:トクサ・ツクシ/スギナ

       |  |____Marattiales:リュウビンタイ類

       |  | ?__Psilotales:マツバラン

       |  |____Ophioglossales:ハナヤスリ類:フユノハナワラビなど

       |  |____Polypodiales:薄嚢シダ類に該当:ワラビ・ヤブソテツなど 

       |_______Archaeopteris:アルカエオプテリス 

          |____Ginkgophyta:イチョウ

            |__Cycadophyta:ソテツ

            |__Pinophyta:マツ・スギ・ヒノキ・イチイ・ナンヨウスギなど

            |__Gnetophyta:グネツム類:グネツム・マオウ・ウェルウィッチア

            |__Magnoliophyta ( Angiospermae ):被子植物 

 

 *なお、以上で示した系統名は[The Tree of Life A phylogenetic Classification] BELKNAP HARVARD 2006 と [Plant Systematics] Elsevier Academic Press, Simpson 2006 を参考にしました。まだ用語の語尾変化や使用方法の歴史的な変遷などは把握し切っていないので、表記には暫定的な側面があります。また本や論文、教科書、参考書によって、同じ系統群や分類群、あるいはグループに対して複数の異なる名称が用いられることがあります。どれがどのグループなのか知るには所属する植物を見た方が理解しやすいかもしれません。

 

  

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