Carnosauria

カルノサウリア

 定義:鳥よりもアロサウルスに近いすべてのアヴィテラポーダ:鳥獣脚類(Avetheropoda)

Definition of Carnosauria : Carnosauria comprises all avetheropods closer to Allosaurus than to Neornithes. ( Padian et al 99, pp72 )

アロサウルス

Allosaurus fragilis

 大型恐竜の化石を多産することで有名なアメリカのモリソン層から見つかる肉食恐竜。ジュラ紀の末期、1億5000万年あまり前の北米にすんでいました。体長は6〜7メートルくらいで、肉食恐竜のなかでは中形から大型といったところ。ただしあるものは10メートル以上あったようです。同じ時代の動物にはアパトサウルスやケラトサウルスなどがいました。アロサウルスは地層によって大きさや特徴が違うという話や、異なる種類がいるという話もありますが詳しくは知りません。前足の指は3本で人さし指がもっとも長く、そういうところはヴェロキラプトルや鳥と類似しています。手首の骨も基本的には同じつくりでおそらく柔軟でした。ただし、ヴェロキラプトルや鳥ほど自由には動かせなかったようです。

 コエルロサウリアと比較すると足やかかと、腰の構造は比較的原始的といってよいでしょう。よく対比されるティラノサウルスのような、高速で疾走できそうな洗練されたデザインには見えません。ちなみに学名を正確にラテン語読みをするとアッロサウルスという発音が正しいみたいです(まあどうでもいいことですけどね・・・・だってアロサウルスって和名だよね)。

  

 カルノサウリアとは?:

 カルノサウリアとは鳥よりもアロサウルスに近い恐竜たちのことです(上の定義はそういう意味)。古典的には大型肉食恐竜をくくったカテゴリーでしたが、現在ではこのような意味で使います(詳しくはこのコンテンツの下を見よ)。そういうわけで大型の肉食恐竜であっても系統の異なるケラトサウルスや、スピノサウルスティラノサウルスはいずれもカルノサウリアではありません。またSereno などは Allosauroidea (直訳するとアロサウルス上科)をこれとほぼ同じ意味で使っていますが、ここではゴーティエなどにしたがってカルノサウリアという名称の方を用いています。

 カルノサウリアに含まれるのはいずれも中形から超大型の肉食恐竜たちで最大は12メートル以上になりました。

 

 カルノサウリアの特徴:

 1:ネイザルボウンの側面が antorbital cavity に加わる

 2:クアドレートジューガーに関節するクアドレートのフランジが発達する

 3:ブレインケースの basipterygoid processes が極めて短い

などがあります。

アロサウルスのブレインケースの模式図

 ブレインケースと口蓋の骨(Ect=ectopterygoid)、(Pt=pterygoid)、およびクアドレートを示したもの。メモでしかないのであくまで参考。カルノサウリアは bpt (basipterygoid processes)の様子と、aof(antorbital fenestra)とネイザルボウンの位置関係が特徴的ってことだそうな。

 さて、2006年の夏はカルノサウリアの頭骨を観察するには少しばかり恵まれた年で、幕張の恐竜博ではアロサウルスの部分頭骨の、しかも腹面から見た展示があり。一方では9月3日まで国立科学博物館で行なわれていた南極展にクリオロフォサウルスの頭骨が来ていました。クリオロフォサウルスの頭骨はじつに美しいもので、つきなみな言い方をすれば萌え死にそうになるくらい。この動物は南極から見つかった肉食恐竜で、頭骨の特徴からカルノサウリアであると考えられています。たしかに頭骨を見た限りでは以上の特徴をアロサウルスと共通して持っていることがうかがえました(ちなみに撮影した写真やらイラストは残念ながら版権の問題があるのでアップできません・・・・)。

 しかし化石ってやつはしばしば石になっちゃった骨なので、どこがスーチャー(縫合線)なのか、どこがクラック(ひび)なのかよく分からないことがままある。クリオロフォサウルスに関していうと1、2、は確かに見て取れましたが、3が良く分からない。見た限りではたぶんクアドレートと口蓋の骨(プテリゴイド)で隠されて basipterygoid processes が側面からは直接見ることができないのではないかと思えました。もちろん、こういう確認は理想的にはアクリルケースごしにではなくて、間近でライトで照らし、光りの位置をかえて比較検討するのが望ましいのだけど、あいにく研究者ではないのでそんなことはできません。まあなんというか、こちらは論文から垣間見る研究者の観察とロジックの展開を漠然と追うしかないので、ここらあたりが限界ですね、残念無念。

 とはいえ、クリオロフォサウルスがカルノサウリアだというロジックを実感するにはこれでも十分。とてもいい展示でありました。恐竜博のアロサウルスもまた同様。本物のアロサウルスのブレインケースを間近で、しかも口蓋の方向から観察できる機会はそうそうありません。そして確かにアロサウルスの basipterygoid processes は極めて短い。

 なお、こうした知見も外群となる生物と比較しないと価値が少ないので、注意するべきなのでしょう。カルノサウリアの共有派生形質については以下の文献が参考になります。

 Holtz , Molnar & Currie 2004, Basal Tetanurae, [ The Dinosauria 2ed ], University of California Press

 Sereno et al 1996, Nature,vol.272, pp986~991

 Sereno et al 1994, Science,vol.266, pp267~271

 また。ブレインケースの比較には手ごろには例えば以下の文献が参考になりそうです。

 Molnar,Kurzanov & Zhiming 1990, Carnosauria, [ The Dinosauria ], University of California Press

 Xu, etal 2002, Nature,vol.415, pp780~784

 アロサウルスそのものに関しては、

 Bulletin 109 Utah Geological saurvey, reprinting 1993, Allosaurus faragilis: a revised Osteology 

を参考のこと。

 

 代表的なカルノサウリア:

 アロサウルス

 カルカロドントサウルス

 ギガノトサウルス

 アクロカントサウルス

 ネオベナトール

 シンラプトル

 モノロフォサウルス

 クリオロフォサウルス

 シャモティランヌス?

 

 カルノサウリアの歯:

 知られているカルノサウリアのすべてが大型で肉食動物です。彼らの歯を見るとそれが分かります。右の写真はカルノサウリアの一種:カルカロドントサウルスの歯(より正確にいうとカルカロドントサウルスの歯として売られていた化石)の写真です。

 カルカロドントサウルスは通常、カルノサウリアであると考えられています。カルノサウリアの歯はブレード状で、縁にセレーション(鋸歯:きょし)と呼ばれるギザギザがあります。もっとも、このような歯は肉食恐竜では典型的なものですし、恐竜以外の肉食爬虫類でもしばしば見ることができます。

 カルノサウリア(Carnosauria)には”肉食の爬虫類”という意味があります。獣脚類の多くが肉食であることを考えると、少し変な名前かもしれません。なお、一般的にはカルノサウルス類(=カルノサウリア)の方が通りがよいかもしれません。

 

 カルノサウルリアという言葉の歴史:

 先に少し述べたようにカルノサウリアとは、古典的に”身体が大きい”肉食恐竜を束ねた分類群でした。ようするに身体が大きいからカルノサウリアであるということなのですが、これは明らかに不安定な定義の仕方ですね。”大きい”という特徴が収斂だったり、あるいは大きい身体の祖先から小さな子孫が産まれた、そういうことを想定してみましょう。とたんに”大きい”という特徴で束ねられたこの分類群は系統を反映しないものになってしまいます。

 実際、1986年、現在はイェール大学の教授であるゴーティエの系統解析によって、身体の大きな獣脚類、ケラトサウルスはカルノサウルスではないことが明らかになりました。さらに彼は、アロサウルスと鳥が姉妹のような関係であり、何種類かの獣脚類はアロサウルスに近い系統に入ってくることを明らかにしました。こうした研究以後、カルノサウリアというのは鳥よりもアロサウルスに近い系統の名前として使われるようになっていきます。さらに94年にはホルツによってティラノサウルスもカルノサウリアとは独立に大型化した獣脚類であることが明らかになります。

 なお、より詳しく説明しますと1986年のゴーティエの論文では、テタヌーラの大きな2つの系統のうち、アロサウルスよりも鳥に近い系統の方にはコエルロサウリアという名前を与えることが示されています(Gauthier 1986. Memoirs of the California Academy of Science. No.8. The Origin of Birds and the Evolution of Flight. pp26 )。

 しかし、もう一方の系統であるカルノサウリアの方には明白には定義が与えられませんでした(By implication, Carnosauria Would be defined as these taxa and all others closer to them than to birds within Tetanurae (as Gauthier's cladgram in his fig .9 indicates) : Padian et al 1999 pp72 を参考のこと)。

 カルノサウリアという名称はゴーティエの論文でも、その後の著作などでも使われ続けたのですが、明白な定義が与えられたのはかなり最近になってからのことです。

 このコンテンツの冒頭で示した、

Carnosauria comprises all avetheropods closer to Allosaurus than to Neornithes

という定義はゴーティとそれ以後の結果を踏まえた、Padian et al. 1999 の見解に基づいています。

 なお、今でも時々、カルノサウルス類(=カルノサウリア)は存在しない、という人がいますが、それはその人が1986年、あるいは1999年以前の古いカルノサウリアが念頭にあるためでしょう。その点ではコエルロサウルス類(=コエルロサウリア)と同じような誤解をされている名前です。

 

 

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