第三夜
スタンドの四大定理
(中篇)

 蛇の舌のようにチロチロと燃えるロウソクの灯が、爬虫類のように蠢(うごめ)く影をつくりだしている。

「次は2番目の定理を検討してみよう。2番目の定理は「スタンドは1人1体である」。JAGの補足説明によると、ハーヴェストのような複数体でも能力の指向性は基本的に1つであるため「1体」と解釈できる、だそうだ。この考え方は正しいと僕は思う。ただ問題なのは「1体」という表現だろうな」縫希は左の人差し指でテーブルをコツコツ叩いた。「例えば群体型スタンドの数体による別働隊は侮れない存在である。具体例を挙げれば、広瀬康一を襲ったバッド・カンパニーの特殊部隊(グリーンベレー)。ハーヴェスト数体によるアルコール注射作戦。フー・ファイターズ―農場で徐倫達を襲った彼の事だが―も群体型スタンドと言える。このスタンドは何体にも分かれて徐倫とエルメェスを苦しめただろ」

「知っている、縫希(ぬうの)?「体」という数え方は元々は神仏の像を数える単位なのよ」

 話の腰を折った季子(きこ)をにらみつけて、縫希は話を続けた。
「さっきも言ったけど、スタンドのルールは第6部になっても変化している。この「スタンドは1人1体」というのはすでに修正されている」

「もしかして…さっきも出たフー・ファイターズのエピソードかしら?」

「その通りだ、季子」縫希は左の人差し指で季子を指さした。「フー・ファイターズが言った「1人一能力」!このシンプルな表現を今まで思いつかなかったのが不思議なくらいだ。シンプルだが秀逸だ!だいたい、僕たちは第3部を中心とした人型のヴィジョンを…」

「まって縫希!あの時、フー・ファイターズが「1人一能力」と言ったのは、エルメェスが「3人とも本体なのか?」という問いに「1つの能力に本体は1人」という意味で使ったのよ。それをわかっている?」

「………」

 ビックリして黙ってしまう縫希を見て季子はクスクス笑った。
「でも縫希の言う通りよネ。「1人一能力」という表現は秀逸だわ。ジョジョのスタンド能力の中には強引なのが有るけれど、1つのキーワードで括られるのが特徴だものね」

「そうのとおりだ」声が甲高く上擦ってしまったため、縫希はごまかすように咳払いをした。「まあ、確かに反則スレスレの能力もあるね。筆頭としてはベイビィ・フェイスだろうな…僕は便宜上『』と『』にわけて考えるようにしている。強引に1つにまとめるなら「生物を物体の一部にするスタンドを育てる能力」といったところか」

「そうね…。もっと例を挙げるなら…」季子は顔にかかった髪を耳の後ろにかけた。バイツァ・ダストは過去に戻る能力だけどその理由が凄いわよね。「時間を爆破」するからですって。ホワイトスネイクも登場エピソードの時はかなり話題になったわ…「眠らせて」「幻覚をみせて」「肉体を溶かして」「スタンドを奪う」…いくつ能力があるのかって。スタンドをDISC化すると解かったら解かったで、奪ったスタンドを使えるに違いない…それはズルすぎるだろうって。結局、そんなことは無かったけどホワイトスネイクも反則スレスレの能力であることは違いないわ」
 言っていることはキツイが、季子は穏やかに話している。むしろ、肯定して楽しんでいるのだろう。

「続いて第3の定理を検討しよう」縫希は姿勢を正した。「第3の定理は「スタンドの射程距離とパワーは反比例する」。いくらスタンド能力が何でもありでも最低限のルールはある。その中でも最もシンプル、それゆえに重要なルールだ」

 季子も楽しそうに縫希のマネをして姿勢を正した。
「ここでは『パワー』としか言われていないけれど、この言葉は『パワー』に『スピード』、加えて『精密性』も含んでいると考えるべきなのよネ」

「『精密性』?」

「そうよ」聞き返されたことに逆に季子は驚いた。「遠隔操作型のスタンドよりも近距離操作型の方が『精密性』が高いのは明らかじゃないの」

「え…明らか……」

「縫希…以前に見せてもらったスタンドのパラメータはあなたが判定したんでしょ」

 縫希はうなずいた。

「スタンド自体がどれだけ精確な動きをするかを判定した『精密性』においてSランクを獲得したのは…」
 季子は縫希のメモ帳から紙を1枚破ってもらいサラサラと何体かのスタンド名を書いた。

精密性Sランク
スタープラチナ
クヌム神
ハーヴェスト
フー・ファイターズ(怪物)
ジャンピン・ジャック・フラッシュ
ダイヴァー・ダウン


「この中には『遠隔操作型スタンド』はいない」季子は前髪をかきあげた。「ハーヴェストは遠隔操作型じゃなかったわよね、縫希?」

「あぁ、僕の考えではハーヴェストは遠隔操作型スタンドではない。遠隔操作型の定義は「スタンドと本体が空間的隔離状態でも本体がスタンドの状態を把握することができ、しかも本体の意のままに活動させることができる」。よってスタンドが遠隔に行くと状況がわからないハーヴェストは遠隔操作型ではない…」

「詳しい数はわからないけれど、総じて遠隔操作型は近距離操作型よりも『精密性』のランクは低かったわ」

「待ってくれ、チョット調べてみる」
 縫希はCDコンポの置かれている台から分厚いファイルを取り出し、ページをめくりだした。その間、季子はCDコンポにFIREHOUSEの1stアルバムを落とし、縫希が作業を終えるまでの間、音楽をを楽しみ出した。


(第4夜に続く)