私のベスト5 2002年


 ことしも、読者のみなさまから寄せられた「ことしはこれだ!」という展覧会を紹介します。
 まずは、昨年も寄せてくださいました、SHさんです。
 (参考までに、関連記事のあるものにはリンクをはっておきます)

 こんにちは。SHと申します。

私は今年、多分1年間の日付よりも多くギャラリーを回ったと思います。

1.今年最も印象的だったのは東京国立博物館の「江戸蒔絵 ―光悦・光琳・羊遊斎―」展と同時に展示されていた「曹源寺の十二神将像」です。蒔絵の「もう満腹」と言いたくなるような豪華さと、十二神将揃い踏みのお姿が良かった。

2.今年の道立近代美術館では「スカンディナビア風景画展」が一番良かったです。  時には青空の広がる、時には陰鬱な、北海道に近い風景画がいい。(画像あり)

3.「ゴッホ展」で近代美術館が混雑している中、岩見沢の「松島正幸美術館」に行って来ました。この日の来館者は私が2人目。静かな中で、松島さんの端正な画が見れました。2階では栗谷川健一さんのポスター。これも良かった。

4.「イタリア・ルネサンス三大巨匠素描展」これも見て損はなかった。素描ですから、たいしたことないかなあと想像していたよりははるかに印象的。
  特にレオナルド・ダ・ヴィンチの幾何学デザイン画などは興味を惹かれました。(画像あり)

5.個人名を挙げると、伊藤光悦さん(上手い、美しい)と石垣亜希さん(若い)でしょうか。道展の芝桐子「WHO IS JOKER?」もいい。入口ホールにいきなりのあの画。インパクトありました。  伊藤光悦展(画像あり)

 つづいては、穂積利明さん(美術評論家、道立函館美術館主任学芸員)のベスト5です。

1.ドクメンタ11(6月8日〜9月15日、カッセル)
ナイジェリア出身で、アートのグローバル化推進の立て役者であるオクィ・エンヴェゾーをディレクターに迎えた過去最大規模のドクメンタ11は、マイノリティにフィーチャーした1993年のホィットニー・バイエニアルに舞い戻ったようにポリティカルにすぎる作家選定でしたし、何より展覧会全体が難解で面白みに欠けるものであったのですが、それでも、良きにつけ悪しきにつけ今後のアートシーンで何かと当展が引き合いに出されることは間違いがありません。混乱しながらも他の展覧会よりも考えることが多く、知的刺激に満ちていたという点でベストワンです。 

2.スクリーン・メモリーズ(4月13日〜 6月 9日、水戸芸術館)
セカンドベストは映像展なのですが、今はやりの映像作家をまんべんなく取り上げた総花的紹介展ではなく、丁寧にアーティストを選んでいたことに好感を持っています。とりわけ初めてみたアイザック・ジュリアンが良かった。国際展のスター、ダグ・エイケンの価値もそれまで僕にはわかりづらかったのですが、当展を見てなんとなく(あくまでなんとなくですが)理解し始めました。夏から秋にかけてNYCのグッゲイハイム美術館で開催された映像展「ムービング・ピクチャーズ」よりも僕としてはこちらの方が好みです。

3.ヘルマン・ムテジウスとドイツ工作連盟:ドイツ近代デザインの諸相(11月2日〜12月23日、京都国立近代美術館)
今年京都は「大レンブラント展」「雪舟展」「カンディンスキー展」など展覧会としてはすごかった一年ですが、中でも表題展は、知られざるバウハウスの同時代のデザイン史を、バウハウスとは別の動きに着目しながら解読しており、非常に勉強になりました。確かに近代デザインの金字塔であったバウハウスっていきなり出てきたわけではないんですよね。2000年の「万国博覧会と近代陶芸の黎明」展も良かったし、京近美の工芸研究はすばらしいものがありますね。

4.マシュー・バーニー「クレマスター」スーパーサイクル(9月3日−8日、東京・シネマライズ他)
展覧会というよりはフィルム上映なのですが、念願のクレマスターの全貌を見ることができて大満足。ほぼ8時間半もの間、狭い映画館の椅子に縛りつけられたことで眼精疲労と腰痛を引き起こしましたけどその価値はありました。「ただの物語つくるにも困難な時代なのに、自らの肉体を活用して、壮大な神話レベルの物語を構築しようとしている」といういつかどこかで見たバーニー評に深く納得しました。バーニーの強烈な自己超克の欲望、そしてそれを表現しようとする欲望にはすさまじいものを感じます。

5.極東ロシアのモダニズム 1918-1028−ロシアアヴァンギャルドと出会った日本(7月16日−9月1日、北海道立函館美術館ほか)
手前味噌で申し訳ないのですが、やはりこれは2002年に開催された展覧会の中で最も優れたものの一つだと思います。この展覧会を企画し、実現まで根気よく導いた町田市国際版画美術館の滝沢さんは、当展によって倫雅賞を受けました。不満があるとすれば、作品数が未消化のままで多すぎたこと。すなわち最終章の日本のアヴァンギャルドの紹介は既存の美術のコンテクストにのっており、ここにロシアとのつながりを強調することで作品を発掘し精選できればもっと良いものになったのでしょう。とはいえ、ここまで緻密な研究と地道な調査に基づいた展覧会は私にはできません。一緒にチタというシベリアの辺境まで出かけていってつくづくそう思いました。



 ヤナイのも挙げておきます。
 ことしの道内は、展覧会の当たり年だったとおもいます。
 そこで、ズルイのですが、個展と、それ以外の展覧会と、5つずつえらぶことにしました。

 まず個展。
 順不同。リンク先はすべて画像なし。

 ●井上まさじ展 (8−9月、ギャラリーミヤシタ)
 フォルムのない、ほとんど色彩とマチエールだけの絵が、いったいなぜこれほど人を感動させることができるのか。

 ●広河隆一展−アフガン・パレスチナ 戦火の中の子どもたち (8月、サッポロファクトリー)
 さすが長年にわたって紛争地帯を撮り続けている人は問題意識が違う。ショックだった。

 ●小寺真知子彫刻展 (6−7月、札幌彫刻美術館。6月、小品展=コンチネンタルギャラリー)
 イタリア具象彫刻の伝統の最良部分を受け継いだ、力と優美さを兼ねそなえた作品群。 

 ●赤穴宏展 (9−11月、釧路芸術館)
 北方のきびしさを秘めた精神的な画風の抽象画にとくに惹かれた。 

 ●小川誠彫刻展 (10月、大同ギャラリー)
 生命が宿っているかのような、生き生きとした人物像。 

 現代絵画のひとつの可能性を提示した林亨展(6月、ギャラリーミヤシタ)、童画的な表現の向こうに理想への希求をひそませる小池暢子銅版画展(同、札幌時計台ギャラリー)、何気ない風景を感動的に切り取ってみせた大八木茂写真展(5月、コニカプラザサッポロ)、いまある風景に廃墟を幻視した伊藤光悦展(8月、札幌時計台ギャラリー)、抽象版画で空気感や風土まで表現した渋谷俊彦展(7月、コンチネンタルギャラリー)、そして先日の新明史子展(12月、TEMPORARY SPACE)などもすてがたい。あれ、ベストテンになってしまいました。

 つづいて、個展以外の企画。

 ●極東ロシアのモダニスム (7−9月、道立函館美術館)
 前衛美術が国境を超えて広がっていくダイナミズム。日本の大正期前衛運動への目配りも充実。 

 ●描かれた北海道 (7−8月 北海道開拓記念館)
 江戸後期から明治にかけての、絵画やすごろく、本などの図像から、北海道に対するイメージがどのように形成されてきたかをさぐった労作。 ■

 ●ぼくらのヒーロー&ヒロイン展 (7−9月 市立小樽美術館)
 タイガー立石、BOME、村上隆ら、ジャンルを無化し、既成の美術史を見直させる意欲的な展観。 

 ●スカンディナビア風景画展 (4−6月、道立近代美術館)
 北海道と似た風土を見つめた、地味だがすばらしい絵画がそろっていた。 (画像あり)

 ●札幌美術展2002 20人の試み展 (3月、札幌市民ギャラリー)
 道内でほとんど初めてシミュレーショナルアート的な表現を確立した鈴木涼子の新作に驚嘆。杉山留美子の大作のとほうもない美しさ。伊藤ひろ子のコミュニケーションアートの可能性。 

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