ガウスの超幾何関数値を係数にもつ、「その5」とは別のζ(s)類似の値を求める。
「その5」で、ガウスの超幾何関数値を分子にもつζ(s)類似値を求めたが、ここでは同類だが形が異なるものを求める。
次の二つの積分表示を導出する。
(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))/1^4 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))/2^4 + (1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))/3^4 +・・・ --@
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))/1^4 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))/2^4 + (4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))/3^4 +・・・ --A
「その5」と同様、これらはζ(4)類似となっている。萩L号で書くと
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4 ----@
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4 ----A
F(・・)の部分をF()などと簡略化して書くと次のようである。
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F()/n^4
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F()/n^4
F(a,b,c; x)はガウスの超幾何関数であるが、定義を再度書いておく。
F(a,b,c; x)=(n=0〜∞){Γ(a+n)・Γ(b+n)・Γ(c)}/{Γ(a)・Γ(b)・Γ(c+n)}(x^n/n!)
ここでΓ(x)はガンマ関数でありΓ(x)=∫(0〜∞) e^(-t)・t^(x-1) dt (x>0) またn>=0の整数とすると、Γ(n+1)=n!
さて、ここで活躍する中心的なフーリエ級数の公式は、
1/(cosh(a)-cosx)^α
=2^α・e^(-aα){F(α,α,1; e^(-2a)) + 2(n=1〜∞) (e^(-na)Γ(n+α)/(n!Γ(α)))・F(α,n+α,n+1; e^(-2a))cos(nx)}
(-π<= x <=π, a,α>0 )
である。@を求めるには、a=2π,α=1の場合、すなわち、
1/(cosh(2π)-cosx)
=2e^(-2π){F(1,1,1; e^(-4π)) + 2(n=1〜∞) (e^(-2nπ)Γ(n+1)/(n!Γ(1)))・F(1,n+1,n+1; e^(-4π))cos(nx)}
(-π<= x <=π)
を用いる。またAを求めるにはa=2π,α=2の場合、すなわち、
1/(cosh(2π)-cosx)^2
=4e^(-4π){F(2,2,1; e^(-4π)) + 2(n=1〜∞) (e^(-2nπ)Γ(n+2)/(n!Γ(2)))・F(2,n+2,n+1; e^(-4π))cos(nx)}
(-π<= x <=π)
を用いる。(上の公式は、例えば「数学公式U」(森口・宇田川・一松著、岩波書店)p.251を参照)
また同時に公式
cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 + ・・=(1/48){2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15} (0<=x<=2π)
も使う。これらは同書p.74にある。
@から求めていくことにする。
(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))/1^4 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))/2^4 + (1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))/3^4 +・・・ --@
すなわち、
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4 ----@-2
の積分表示を求める。
[(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4 導出]
@の形から次のcos級数
f(x)=(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))cosx/1^4 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))cos2x/2^4
+ (1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))cos3x/3^4 + (1/e^(8π))F(1,5,5; e^(-4π))cos4x/4^4 +・・・ ----A
を考える。周期は2π。
この級数の直交性を用いて、
(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))/1^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cosx dx
(1/(e^4π))F(1,3,3; e^(-4π))/2^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos2x dx
(1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))/3^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos3x dx
・
・
これらの右辺を部分積分する。f(x)はAであるから、簡単な計算から次となる。
(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))/1^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))sin2x/2^3+・・)(sinx/1) dx
(1/(e^4π))F(1,3,3; e^(-4π))/2^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))sin2x/2^3+・・)(sin2x/2) dx
(1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))/3^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))sin2x/2^3+・・)(sin3x/3) dx
・
・
これらを縦に足し合わせて
(1/e^(2π))F(1,2,2; e^(-4π))/1^4 + (1/e^(4π))F(1,3,3; e^(-4π))/2^4 + (1/e^(6π))F(1,4,4; e^(-4π))/3^4 +・・・
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2;e^(-4π))sinx/1^3+(1/e^(4π))F(1,3,3;e^(-4π))sin2x/2^3+・・)(sinx/1+sin2x/2+・・)dx
左辺を@-2の形で書くと、
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2;e^(-4π))sinx/1^3+(1/e^(4π))F(1,3,3;e^(-4π))sin2x/2^3+・・)(sinx/1+sin2x/2+・・)dx
ここで右辺にSin-Cos移動の法則(部分積分)を適用すると、上式は次のように次々と機械的に変形できる。
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2;e^(-4π))cosx/1^2+(1/e^(4π))F(1,3,3;e^(-4π))cos2x/2^2+・・)(cosx/1^2+cos2x/2^2
+・・) dx
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2;e^(-4π))sinx/1+(1/e^(4π))F(1,3,3;e^(-4π))sin2x/2+・・)(sinx/1^3+sin2x/2^3+・・) dx
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((1/e^(2π))F(1,2,2;e^(-4π))cosx+(1/e^(4π))F(1,3,3;e^(-4π))cos2x+・・)(cosx/1^4+cos2x/2^4+・・)dx
-------B
さて、ここで冒頭で見たフーリエ級数の公式
1/(cosh(2π)-cosx)
=2e^(-2π){F(1,1,1; e^(-4π)) + 2(n=1〜∞) (e^(-2nπ)Γ(n+1)/(n!Γ(1)))・F(1,n+1,n+1; e^(-4π))cos(nx)} ----C
(-π<= x <=π)
に着目しよう。冒頭の定義より、F(1,1,1; e^(-4π))は、F(1,1,1; e^(-4π))=e^(4π)/(e^(4π)-1) となり、またΓ()値なども
整理して、Cより次を得る。
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))cos(nx)
= e^(2π)/{4(cosh(2π)-cosx)}- e^(4π)/{2(e^(4π)-1)} ----D
このDと、別のフーリエ級数の公式
cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 + ・・=(1/48){2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15} (0<=x<=2π)
をB右辺に代入して、整理すると、
(n=1〜∞) (1/e^(2nπ))F(1,n+1,n+1; e^(-4π))/n^4
=(1/(48π))∫(0〜π) {e^(2π)/{2(cosh(2π)-cosx)}-e^(4π)/(e^(4π)-1)}{2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15}dx --E
となる。目的の積分表示が得られた。
じつは
F(1,2,2; e^(-4π))=F(1,3,3; e^(-4π))=F(1,4,4; e^(-4π))=・・=1+1/e^(4π)+1/e^(8π)+・・・=e^(4π)/(e^(4π)-1)
が言えるので、E左辺はさらに簡単になって次を得る。
{e^(4π)/(e^(4π)-1)}{(1/e^(2π))/1^4 + (1/e^(4π))/2^4 + (1/e^(6π))/3^4 +・・・}
=(1/(48π))∫(0〜π) {e^(2π)/{2(cosh(2π)-cosx)}-e^(4π)/(e^(4π)-1)}{2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15}dx
萩L号で書くと、
{e^(4π)/(e^(4π)-1)}(n=1〜∞) 1/(n^4・e^(2nπ))
=(1/(48π))∫(0〜π) {e^(2π)/{2(cosh(2π)-cosx)}-e^(4π)/(e^(4π)-1)}{2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15}dx
[終わり]
数値計算を行いEの左辺と右辺が一致することを確認した。左辺はExcelを利用した。右辺の計算は、定積分の値が
計算できるフリーの計算ソフトBearGraphを用いた。E左辺の収束は非常に速い。
ζ(4)類似の場合を求めたのは、収束が速くなって検証が容易に行えるというそれだけの理由からである。ζ(2)類似
なども同じように求められることはいうまでもない。
下の式の左辺を見られたい。
じつはこれは「スワン彗星 その8」で佐藤郁郎氏の関連で導出した1/(n^k・e^(2nπ))のk=4の場合の式と本質的
に同じものである。積分表示自体も本質的に同じである。
今回、ガウスの超幾何関数F()を係数にもつフーリエ級数
1/(cosh(a)-cosx)^α
=2^α・e^(-aα){F(α,α,1; e^(-2a)) + 2(n=1〜∞) (e^(-na)Γ(n+α)/(n!Γ(α)))・F(α,n+α,n+1; e^(-2a))cos(nx)}
(-π<= x <=π, a,α>0 )
でa=2π,α=1の場合を調べた結果、先に求めていた式
1/(1^4・e^(2π)) + 1/(2^4・e^(4π)) + 1/(3^4・e^(6π)) +・・
=(1/(48π))∫(0〜π) {2π^2(π-x)^2 -(x-π)^4-7π^4/15)}{sinh2π/(cosh2π-cosx) -1}dx と偶然に一致した結果が得られた。面白いことである。
佐藤氏は、超幾何関数とフックスの問題で超幾何関数の多様性・一般性を述べておられるが、今回の一致からもその
あたりの性質が現れていると思う。
今回の場合(冒頭@)は左辺が簡単化されてしまったが、冒頭のAではそんなに簡単にはならない。
次にそれを求めることにする。
では次に
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))/1^4 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))/2^4 + (4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))/3^4 + ・・・ ---@
すなわち、
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4 ----@-2
を求める。
[ (n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4導出]
@の形から、次のcos級数
f(x)=(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))cosx/1^4 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))cos2x/2^4
+ (4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))cos3x/3^4++ (5/e^(8π))F(2,6,5; e^(-4π))cos3x/3^4+ ・・・ ---A
を考える。周期は2π。
この級数の直交性を用いて、
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))/1^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cosx dx
(3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))/2^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos2x dx
(4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))/3^4=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos3x dx
・
・
これらの右辺を部分積分する。f(x)はAであるから、簡単な計算から次となる。
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))/1^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))・F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (3/e^(4π))・F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2^3 + ・・)(sinx/1) dx
(3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))/2^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))・F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (3/e^(4π))・F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2^3 + ・・)(sin2x/2) dx
(4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))/3^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))・F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (3/e^(4π))・F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2^3 + ・・)(sin3x/3) dx
・
・
これらを縦に足し合わせて
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))/1^4 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))/2^4 + (4/e^(6π))F(2,5,4; e^(-4π))/3^4 + ・・・
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2^3 + ・・)(sinx/1+sin2x/2
+・・) dx
左辺を@-2の形で書くと
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1^3 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2^3 + ・・)(sinx/1+sin2x/2
+・・) dx
ここで右辺にSin-Cos移動の法則(部分積分)を適用すると、次のように次々に機械的に変形できる。
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))cosx/1^2 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))cos2x/2^2 + ・・)(cosx/1^2+cos2x
/2^2+・・) dx
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))sinx/1 + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))sin2x/2 + ・・)(sinx/1^3+sin2x/2^3
+ ・・) dx
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4
=(2/π)∫(0〜π) ((2/e^(2π))F(2,3,2;e^(-4π))cosx+(3/e^(4π))F(2,4,3;e^(-4π))cos2x+ ・・)(cosx/1^4+cos2x/2^4+・・)dx
------B
さて、ここで冒頭で見たフーリエ級数の公式
1/(cosh(2π)-cosx)^2
=4e^(-4π){F(2,2,1; e^(-4π)) + 2(n=1〜∞) (e^(-2nπ)Γ(n+2)/(n!Γ(2)))・F(2,n+2,n+1; e^(-4π))cos(nx)} ----C
(-π<= x <=π)
に着目する。Γ()などを整理してCより次を得る。
(2/e^(2π))F(2,3,2; e^(-4π))cosx + (3/e^(4π))F(2,4,3; e^(-4π))cos2x + ・・
=e^(4π)/{8(cosh(2π)-cosx)^2}- F(2,2,1; e^(-4π))/2 ----D
このDと、別のフーリエ級数の公式
cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 + ・・=(1/48){2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15} (0<=x<=2π)
をB右辺に代入して整理すると、次を得る。
(n=1〜∞) ((n+1)/e^(2nπ))F(2,n+2,n+1; e^(-4π))/n^4
=(1/(48π))∫(0〜π) {e^(4π)/{4(cosh(2π)-cosx)^2}-F(2,2,1; e^(-4π))}{2π^2(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15}dx --E
目的の積分表示が得られた。
∫内のF(2,2,1; e^(-4π))に関しては、F(2,2,1; e^(-4π))=(n=0〜∞) (n+1)^2・(1/4)^n=1.00001394・・ となる。
[終わり]
数値計算を行いEの左辺と右辺が一致することを確認した。左辺はExcelを利用。右辺は、定積分の値が計算できる
フリーの計算ソフトBearGraphを用いた。E左辺の収束は異常に速い。はじめから3項分を確認しただけだが十分。
Eの左辺は、一つ上で得た結果と違ってガウスの超幾何関数F()の形のままおいておくしかないものである。
この頁で求めた分をまとめておく。
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