手のひらの汗
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−効果器レベルで汗を止める(1)−

末梢効果器,すなわち汗腺レベルで汗を止める方法です.塗り薬で汗孔を塞いだり,薬剤や電気で汗腺の発汗機能を抑制したり..汗腺自体を手術で取り除いてしまうなんて,ちょっと怖い方法もありますが,手のひらでは聞きません.
今回はその第1話.いろいろな外用剤のお話をしますね.

Key word  外用剤イオントフォレーシス

外用剤

 外用剤,つまり「塗り薬」ですが,これは皮膚科で一般的に処方されます.アルミニウム塩,サリチル酸,タンニン酸,ホルムアルデヒドなどが代表的なところで,これらを水やアルコールに溶かして使う.
 使い方は「就寝前に汗を拭ってから多汗部位に塗布し,翌朝洗い流す.毎晩外用し,治療効果が得られたら外用回数を減らす(嵯峨)」.また「1日2回外用させると効果的なことが多い(横関)」ともある.
 「効果の出るまでに個人差はありますが2〜7日かかります(しんじょう薬局)」とのことなので,あせらないでね.
  <処方例>
・10〜25%塩化アルミニウム液,10〜20%塩化アルミニウム水溶液
・5%タンニン酸,10%タンニン酸アルコール
・5%サリチル酸アルコール
・20%塩化亜鉛アルコール液
・3%ホルマリンアルコール液,ホルマリン(35%ホルムアルデヒド)
・2〜10%グルタールアルデヒド
(参考:横関博雄「皮膚疾患と発汗異常」,嵯峨賢次「掌蹠多汗症の治療」,しんじょう薬局HP

塩化アルミニウム液

 塩化アルミニウム液,通称「塩アル」だ.これはネットを検索するとよく出てくるよね.
 嵯峨によると「塩化アルミニウム液を掌蹠多汗症に用いた場合は,腋窩多汗症に用いた場合よりも治療効果が劣る.塩化アルミニウム水溶液は酸性で,皮膚刺激性がある.エタノール溶液の方が水溶液よりも刺激は少ない.刺激が強いときは,弱い副腎皮質ホルモン外用剤を併用するとよい.塩化アルミニウムの単純塗布で効果が得られないときは,密封療法を行うことにより有効性が増す.」なんていう,使い方のコツがあるらしい.塩アルつけてみて,ちょっとヒリヒリするなぁ..そんなあなたには,こんな工夫があるかもよ.それと密封療法ってなによ...思いましたよね? これはきっと薬を塗った後に,ラップなどで巻いて密封しておく方法だと思います.
 うちのリンクページにもある「しんじょう薬局」さんの「塩化アルミニウム・塩化ベンザルコニウム液」「わきの下の汗」でもお話しましたが,20%の塩化アルミニウム液に塩化ベンザルコニウムなんていう殺菌消毒成分まで配合されている.腋や足の臭いが気になるあなたには一挙両得かも...
 さて,その作用機序について少し触れておきたい.これにはいろいろな説があるのだが,小川は,その著「新・汗のはなし」の中で「汗の出口周囲に炎症を起こして導管を塞ぐと考えられていたが,導管は開いたまま.導管の透過性が高まって汗を再吸収してしまう.長期間にわたってこれを続けると,汗腺の分泌細胞の退化や分泌管の拡大などが起こる.」と書いている.
 嵯峨も「塩化アルミニウム液の作用機序は汗管を閉塞するためと考えられていた(Holzle E et al:J Soc Cosmet Chem 30,279/295,1979).しかし,McWilliamsらの報告(Br J Dermatol 117,617/626,1987)によるとアルミニウム塩は汗管だけではなく,エクリン汗腺の分泌部,細胞膜のイオン透過性に変化を与えたためと推論している」という.どうも汗孔の閉塞ではなさそうだが...
(参考:小川徳雄「新・汗のはなし」,嵯峨賢次「掌蹠多汗症の治療」)

ホルムアルデヒドなど

 「ホルマリン(35%ホルムアルデヒド)を10%程度にうすめ,手足に塗る.すると汗腺の導管が閉塞し汗が止まる(小川)」いわゆる収斂作用というやつである.
 「2〜10%グルタールアルデヒドは,塗布部位が褐色に着色するので手掌の治療には適さないが,足底多汗症の治療には用いることができる.濃度が高いほど有効性が増すが,着色も濃くなる.フォルムアルデヒドは着色はないが,グルタールアルデヒドよりも治療効果が劣り,接触過敏の頻度が高い.タンニン酸はグルタールアルデヒドよりも治療効果が劣り,着色を引き起こすので使用上の利点は少ない(嵯峨)」.汗が止まっても,手のひらが茶色になっては,さすがに嫌ですよね..^^;
 昔はこんな処方が使われていたそうだが,ホルマリンには動物実験で発癌性や催奇形性などが認められ非常に毒性が強く,しんじょうによると最近ではほとんど処方されなくなったとのことだ.私も解剖のあとに,よく吐き気や頭痛を催したことがある.とある薬局の自家製で,このホルマリンを配合したものがあると聞いたが,繁用が予想される多汗症に用いるのはいかがなものか...
(参考:小川徳雄「新・汗のはなし」,嵯峨賢次「掌蹠多汗症の治療」)
塩化アルミニウム液なんて知らなかったよね.赤ちゃんのあせも対策に塗るシッカロール.市販の制汗剤にもサラサラ効果としてパウダー粒子が使われてたりするから,汗止め薬って出た汗の吸収とか,粉で汗孔を塞ぐってイメージありますよね.でも,全然異なったやり方で,ある程度汗を抑えることができる.それで気持ちが楽になるなら,使わない手はないかもよ.
次回は,水と電気で汗を止める方法「イオントフォレーシス」のお話をします.


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