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チホちゃんは4才です。106急行バスに乗ってやってきます。
30分以上かかるところからやってくるのです。
はじめてクリニックにいらしたのは1才2か月の時でした。
「38、5℃から39、2℃が夕べから続いています」と御両親にだっこされて
いらしたのでした。 尿検査は幸い異常なし。呼吸音も良好。熱の割には
機嫌も良好。「あと1日2日がんばりましょう。」と言いました。
二日ほど高熱が続いてその後下がり始め、かすかに発疹が認められました。
「突発性発疹症のようです」と伝えました。でも翌日もいらっしゃいました。
「どんどん発疹がひどくなります。どんどん悪くなっていきます」と両親は不安が
いっぱいの様子です。「大丈夫ですよ。早く発疹が消える人もありますし、一週
間も消えない人もいるのですよ。病名は突発性発疹症で、新しい病気が
始まったのではありません。」と言いました。 その日から4〜5日で軟らか
だったウンチも普通に戻り、発疹も消えてピンクの美しい肌に戻りました。
こうしてひとつ病気が終わり免疫がつくのです。
その後3〜4ヶ月に1回という感じでいらしています。特に気候の変わり目には
お咳やゼーゼーがあってやってきます。 |
ある土曜日の午後、盛岡行きのバス停でばったりチホちゃんと逢いました。
「あ、うちだ病院のセンセーだ。うれしいなー。」
「どうして今日はピンクのお洋服じゃないの?ピンクが良いのに!」
そう、ユニホームがピンクで、今日はブルーと白の洋服でした。
「病院のセンセーといっしょ。うれしいなー。」と私にくっついて乗りました。
すぐ後ろの席に座って、ときどき私の洋服の袖に触っていました。
途中チホちゃんとお母さんが降りる時が来ました。チホちゃんは後ろを振り
向いて言いました。
「ワタシのことを忘れないでね! ワタシも忘れないから」まるで外国へ行くよう
な別れ方です。そしてさらに言いました。
「アクシュ、アクシュ!」私も手を出しました。熱い握手です!
運転手さんは数秒待ってくれました。
おもいがけない幸せな時間でした。
翌週も、チホちゃんはお熱を出して、クリニックにやってきました。
チホちゃんと私のバスでの会話は、お母さんは知らないらしいのでした。
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