かけがえのない日々のために出来る事 1234あとがき

「じゃあ、キネくんは留守番で良いの?」
 テツが問いかける。
 マリアからの依頼「少女の保護」の日程が決まったのだ。
 テレポートで移動、少女を預かり、足取りを追われないように数度テレポートを繰り返し、ココに戻る。
 そう言う行程を踏むためにテレポーターであるテツは必須なのだ。
 長距離移動のためのシンクロはウツでも可能だ。
 だからキネは残っていても問題は無い。
 だが彼の持つ索敵は重要なのだが。
「マッちゃんが来るらしいんだよ」
 マッちゃんとはTAKと呼ばれている旧知の友人だ。
「ミッコちゃんは?」
「私はRIN0を向かえるための準備。やるって言っておいて結局今日になっちゃったしね」
 マリアの指定した日は予想よりも早かった。
 あのビル制圧から幾日もたっていない。
 ビル制圧の準備もあってか受け入れ準備は後回しになってしまっていたのだ。
「TAKからの連絡って珍しいね」
 ミツコが懐かしそうに言う。
 TAKとはミツコを組織から連れ出した時以来、会っていない。
 何年も前の事になってしまった。
 組織から無事抜けだしたというのは風の噂で聞いてはいたが、実際はどうだか分からない。
 連絡を寄越したと言うことは無事なのだろう。
 ただ、今は何をしているのか不明なのが不安ではあるが。
「大丈夫、一応索敵かけておくから問題ないよ」
「分かってる」
 キネの索敵能力は高い。
 昔は2キロが限度と言っていたが今はそれ以上に上がっているだろう。
 惜しむらくは、今から自分たちがテレポートする範囲よりは短いと言うことだが。
「テッちゃん、時間になる」
「了解」
 ウツに言われ、テツは共にテレポートする。
 指定されてのはとあるビルの屋上。
 受け取り場所はこちらから指定しても構わないと言っていたが、結局マリアが指定してきた。
 少女の安全のためを思えばその方が良いように思えた。
 が、指定してきたマリア達の姿はまだ見えてはいない。
「いつ来るのかな?」
 ウツはテツに問いかけるともなく呟く。
「キネくんいないからね。いたら、マリア・クサカベの現在地が分かるんだけど」
「確かに。でも何かあったらまずいから索敵かけておくってキネは言ってたけど」
「キネくんの索敵範囲そんなに広くないよ」
「え?でも届くとかって」
「ボク、聞いてないけどぉ」
「あれ、勘違いかなあ。まあ、とりあえず歌っておく?」
 ウツはテツに聞く。
 ウツの歌はPSIブロックだけでなくESPブロックもかけられる。
 初めはPSIブロックだけだったのだが、ESP値の強いテレパシストのキネと行動するようになってから出来るようになっていたのだ。
 もちろん使い分けも可能だ。
「そうだね。キネくんの索敵が当てになるか分からないわけだし」
 そのテツの言葉にウツは苦笑する。
 テツは小さなキーボードを空間から取り出しながら音を出す。
「物の空間転送って便利だよな」
 テツがキーボードを空間から取り出しているのを見たウツは何時も思っていることを再び思う。
 時々無性に歌いたくなるウツの思いをくみ取った形がココに現れているのだがテツはあまりそれを表には出さない。
「そんな事ないよ。大体こういう時は一番ウツが楽だと思うよ」
「何で?」
「声って最高の楽器って言うじゃない。全ての楽器は声の多様性を求めて作られているんだと思うんだよね。ヴァイオリンなんてその最たる物じゃないのかな?」
 そう言いながらテツはキーボードの調整を進める。
「曲はウツに任せるよ」
「分かった」
 前も同じやりとりをしたなと一瞬思い出す。
 何時ものやりとりを繰り返しているのだが、既視感を覚えたのは今と同じ屋外のビルの屋上だったからだ。
 ウツはその時歌った歌にしようと声を上げる。
 街の隅々まで届くように響かせる。
「歌声が合図だなんてあなた達らしいわね」
 空間を飛び越えて、マリア・クサカベとソウスケ・バンノがやって来る。
 ソウスケは腕に眠る少女を抱えていた。
「彼女?」
 ウツがソウスケが抱えている少女に目を向ける。
「…彼女を引き渡す前に質問させて」
 マリアが問いかける。
「Zeit Netzwerk。彼女を保護するという依頼は引き渡した時点で発生する。放棄することを許されないわ。それでも構わないわね」
 マリアは改めてウツとテツに少女を保護する覚悟を問いかけているのだろう。
 恐らく、少女は自分たちが思っている以上に『どこかの何者か』が狙うほどの力を持っているのだ。
 その『どこかの何者か』が狙ってきた時、その時に自分たちが立ち向かうことの覚悟を問うているのだ。
 それは思う以上に過酷なのだろう。
 だから、マリアは慎重になっているのだ。
 あまりの過酷さに自分たちが投げ出さないかと。
「いいよ」
 ウツは答える。
 テツはその言葉に頷く。
「簡単に答えてくれるわね。本当に構わないの?」
 ウツとテツはマリアの言葉にお互いの顔を見合わせる。
 それだけで分かる。
 コレはもう決めた事だ。
 改めて問い直す事じゃない。
 覚悟は組織を抜け出すと決めた時に出来ている。
 自分たちは自分たちの願いを叶えるために組織を出たのだ。
 その中に一つぐらい願いが増えても構わないのだ。
 願いは多ければ多いほど、叶った時の喜び増える。
 二人はもう一度深く頷いた。
「この依頼には期限がないわ。すぐに終わるかも知れないし、ずっと先かも知れない」
 マリアは付け加えくるように言う。
 期限がないのは不安ではあった。
 が力を狙う者はたくさんいるのは事実だった。
 自分たちも狙われる側だ。
 組織の時の事、今やっている事を考えれば噂を聞きつけた者に狙われる事はないことではないのだ。
 ただ、今の所上手く逃げているせいもあって、直接来られたことは無いのだが。
「それは、サエの言葉だよね」
「ええ」
 テツの言葉にマリアは頷く。
 恐らくマリアは普通の依頼だと思っていたはずだ。
 少女を狙う組織をつぶせば依頼は終わるものだと。
「あなた達の依頼が完了するのは『その時』まで分からないそうよ」
 サエは…恐らくコレは予想だが能力者でも珍しい未来予知を持っているのかも知れない。
 だからこその依頼なのだ。
 確かにZeit Netzwerkはそれなりに知名度は増えてきた。
 それは能力者と言う側面は出てこない。
 むしろ、音楽ユニットと言う面が大きい。
 それは自分たちにとっては喜ばしいことであって悪い事ではないのだ。
 音楽ユニットの自分たちに接触したいというのなら、ISSAを通じてレイカが来るだろう。
 だが能力否保持者のレイカではなく保持者のマリアに直接依頼をしたのである
 初めから自分たちが能力者であることを知っている。
 その自分たちに期限が来たら何かをやって貰おうと考えているのでは無いだろうか。
 そこまで考えてテツは思考を止める。
 あり得ないことでは無いが、自分たちがサエが望む何かを出来るとは思えないのだ。
 それはその時が来れば恐らく分かるのだろう。
「分かった。大丈夫だよ。その時までRIN0を守ろう」
「了解した。ソウスケ」
 RIN0を抱きかかえたソウスケが近づいてくる。
「眠っているだけだ。よほど疲れたんだろうな」
 何故とは聞かない。
 真っ白なままでRIN0と付き合って行こう。
 ウツはそう思いながらソウスケからRIN0を受け取る。
「よろしく頼んだわ」
 そう言ってマリアはソウスケと共にこの場から離脱する。
「さて、ボク達も行こうか」
 テツがウツの肩に手を置く。
 テレポートをする前にテツは言う。
「ウツが歌ってくれるなら、三回も面倒なことする必要は無いんだけど」
 テツはウツの歌声でRIN0の足取りを消そうとしているのだ。
 最初の予定では3回だったのだが、ウツが歌えば攪乱の成功率は上がる。
「でも、一回は必要じゃないの」
「うん、だからココで」
 ウツの問いにテツはテレポートをしてから答える。
「RIN0が悪夢にうなされない曲ならば」
「もちろん」
 ウツは眠るRIN0を抱えながら歌をうたう。
 街中に響かなくても構わなかった。
 足取りを追えなくさせるのならばその場に聞こえるだけでも充分だ。
 気配を消してしまえばいいのだから。
 ウツが今うたっている歌は甘い歌だ。
 ソウスケの言葉通り疲れて眠っているRIN0に悪夢が襲いかからないように、幸せな夢を見られるように。

「お帰り」
 帰ってくれば、客がいた。
 ウツは自分に近い力をその客から感じる。
 年はRIN0と同じぐらいの少年だった。
「お帰り、彼女はとりあえずそこで眠らせてあげて」
 眠っている彼女を見てミツコが指定したのは、リビングと部屋続きの数段高くなっている場所にあるソファベッドでよくウツが昼寝場所として眠っている所だ。
 同じ場所にグランドピアノもある。
「えっと誰?」
 ウツは、リビングのソファでキネと、今はテツと話している少年についてミツコに聞く。
「TAKが連れてきた子。彼も組織にいたんだって」
「そうなんだ」
 ミツコの言葉にウツは物思いに耽る。
 TAKが連れてきた少年と同じくらいの年のRIN0。
 大体ウツが思った年だとすれば、彼らの年齢の頃、自分はキネやテツと共に組織内で自由に行動をし始めた頃だ。
 自分たちのしたことが後に影響していなければいい。
 少年を見てウツは思う。
 ふと、耳に優しい歌声が飛び込んでくる。
 我に返れば歌っているのはミツコだ。
「ミッコちゃん?」
 声をかければミツコは恥ずかしそうに微笑む。
「この娘が悪夢にうなされなければいいなって思ったの」
「うん、そうだね。そう思って僕も歌ったんだよ」
「そっか」
 他愛もない会話が続く。
 思うのはRIN0の事だ。
 RIN0には何があるのだろうか。
 ミツコの歌声を子守歌にして眠る少女を見て、ウツは彼女が狙われる理由が能力者であるという至極当然な理由以外思いつかなかった。
「自分たちが保護する理由がそこにあるんだろうね」
 テツすらそう言ったのだ。
 ウツには想像もつかない理由がそこにはあるのだろう。
 TAKがつれてきた少年が様子を見に来る
 彼女の部屋はどこにしようかとミツコとテツが相談している。
 そうこうしているうちにTAKがやってきて少年と共に去っていく。
 夜も深くなる。
 テツが弾くピアノの音が静かに部屋に響く。
 RIN0の様子が気になって、誰も落ち着けないのだ。
 テツが弾く曲はとても落ち着いた曲だ。
 リズムもテンポもメロディも全てがゆったりとしている。
「寝ちゃいそうだよな」
「皆は寝てて良いよ。僕が見ているから。
 ウツが言う。
 その言葉にテツ、キネ、ミツコの三人は驚く。
「ウ、ウツ、どーしたんだ珍しい」
「ウツこそ大丈夫?」
「逆に心配」
 大体こういう時、起きているのはミツコかテツだ。
 そして、テツと交代するキネ。
 ウツであることは珍しい。
「別に大丈夫だよ。ただ気になるだけ」
 RIN0の境遇はもしかすると自分と似たようなのかも知れない。
 ウツはそう思った。
 ずっと一人でいることを余儀なくされたウツ。
 キネと再会し、テツと出逢わなければ今の自分はいないだろう。
 だから、彼女が目覚めた時、一人では無いと安心させたいと思ったのだ。
「心配なら、なおさらあたしは一緒じゃなくちゃダメじゃない」
「大丈夫だよ、ミッコちゃん。僕一人でも」
「ウツじゃなくて、RIN0が目覚めた時に、近くに男の人がいたら驚くでしょうっていう話。彼女は女の子なの」
「そ、そうだよね。ミッコちゃんがアレだから、そうだよね。女の子の扱いって難しいよね」
「テッちゃん、何かひどくない?」
「あははははははは」
「性差を感じさせないって言うことは良いことだよ。うん」
「なんか、いいように聞こえないんだけど」
「それを含めて女の子の扱いは難しいんだよ。ミッコちゃん」

 テツがピアノを奏でる。
 彼が弾くピアノはどこからか切なさを連れてくる。
 その切なさは優しい切なさだ。
 郷愁とは少し違うのだが似ていると言えばそうかも知れなかった。
 
 彼女が目を覚ます。
 これから新しい生活が始まる。
 何が待っているのか想像がつかない。
「時の名前を持つあなた達に時を越える手紙を渡します。
 それは、これから来るいつかの時間。




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