耳に気持ちいい波の音が聞こえる。
旅の途中にあった夏夏島は、プライベートな島と名付けるのが相応しいぐらい、小さな島。
申し訳程度の桟橋と、大きな椰子の木。
周囲は歩いて5分で回れるぐらいの島。
「ナミ、何してるんだ?」
トラバースを使って、島を動き回る。
「なぁ、なぁ、なぁ」
島が小さいから動き回ることが出来て。
「コレなんだ?」
そう言ってルフィはトラバースを掴む。
「ルフィ!!!」
「ワリィ」
全く罪悪感なんてどこにも持たず笑いながら言う。
「あんたねぇ、人の邪魔しないでよ」
「で、何してんだ?」
人の話を聞いてないのかこいつは!!
トラバースをいじりながら、ルフィは聞いてくる。
分ってることだけれども全く、腹が立つ。
「邪魔するなって言ってんの!!!それを離しなさい」
あたしの剣幕がよっぽど恐ろしかったのか、ルフィは勢いよくそれを離す。
簡単に壊れるような代物じゃないけど、だけど、あたしが地図を作るために必要な道具。
「で、何してたんだ?」
「地図よ。この島の地図。小さいから簡単に書けるしね。この周囲は海流も複雑みたいだから、地図を作って正確に把握しようと思って」
しつこく聞いてくるルフィにあたしは観念して答える。
「ふーん。ログはいつたまんだ?」
「さぁ、分らないわ。すぐにたまるのかも知れないし、明日かも知れない……。1年後かも知れない」
「そっか……」
あたしの言葉にルフィは海を見る。
遠い水平線の彼方。
あたし達が向かう方角か、それはログがたまるまで分らない。
「ウソップすげー」
「すげーだろう」
「ぬぁ〜ミさ〜ん」
「おいおい、こいつは何で泣いてんだ?」
「それはナミがルフィと一緒にいるからだと思うわ?」
「下らない」
「ヨーーホホホ」
背後で仲間達の騒ぐ声が聞こえる。
けど、どこか遠い。
それほど広い島でもないけれど、狭い島でもない。
日の光は頭上から差して、キラキラと漆黒の髪を輝かせる。
視線は未だ水平線の向こうを見つめてる。
「……っっ」
息が詰まる。
この感覚は怖い。
ルフィといると、時々この感覚が起きる。
「ナミ?」
髪と同じ漆黒の瞳が無邪気にのぞき込む。
うつむき加減のあたしの顔のすぐ側。
「る、ルフィっっ」
「どうしたんだ?変な奴だな、急にうつむいて」
「あのねぇ」
何を言って良いのか分らなくなった。
ただ、感覚が怖くて逃げ出したかった。
「不安になる必要ないだろう。オレが居るのに」
そう言って満面の笑みを浮かべるルフィにあたしは頷く。
「ルフィ……」
「やっぱ、ナミはオレンジみたいだな」
唐突に、言うルフィにあたしは戸惑う。
「何言ってんのよ」
「うまそうだな、って」
「だから何言ってんだバカ!!!!」
思いっきりグーで殴る。
なんかすっきりした。
夜、次の島に向けて、宴を開く。
ログは夜にはたまった。
その方向を見れば、ルフィが眺めてみた先。
それが分ってあたしは思わず苦笑した。
それを見たルフィがまたしつこく聞いてきたけど、あたしは笑って誤魔化した。
島の大きさは周囲1キロぐらい。トラバースって言うのは測量用語のようです。