「邪魔をしないで欲しい」
彼らの瞳はとても純粋で。
「いくらISSAでもボクらを縛れないよ。協力するって言うのなら話は別だけど」
でも、とても近づくことの出来ない雰囲気。
哀しみが彼らを覆って、その影に近づく私も覆われそうだと思ったからだ。
「私は、レイカ・キノモト。どうして気がついたのかは分らないけれど、確かに私はISSAのメンバーよ」
そう言ってレイカは長い髪をかき上げる。
見かけにはISSAにいるアンカーとはとても思いつかないけれど、でも醸し出す雰囲気はある種のソレを持ち合わせていた。
ISSAは各国の警察が連動して作った特殊組織、International Secret Special Agentの略で日本語に訳せば国際特殊工作員という組織のメンバーを意味するが正式日本名は国際特殊工作部隊である。
アンカーは、ISSAに属する隊員の俗称である(正式には最小組織である二人組を指す)。
「能力者という言葉は」
ウツが、彼女に問い掛ける。
「知らないと思って?ISSAは能力研究の最先端を走っているわ。は…言い過ぎかしら。ISSAも能力者の有効性に気付いたのはこの数年の事だし、マリア……マリア・クサカベが登場しない限り無理だったでしょうけど」
そう、皮肉気に彼女は語る。
マリア・クサカベ。
その名前にテツは心当たりがあった。
組織の情報を得るために何度かISSAにハッキングを仕掛けたときに出てきた名前。
テレポートとテレパスに長けた女性。
ISSAアメリカ支部の人間…そう、テツは記憶している。
『テッちゃん、思考が乱れてるよ』
疑問に思い思考を巡らせていたテツにキネがテレパスで声を掛けてくる。
『キネ君に言われなくても分ってるよ。で、彼女は信頼出来そう?』
『まぁ、本当に普通の人みたいだね。能力者でもない……気になるのは彼女の背後かな』
他人との交渉を苦手なウツに任せて、テツとキネは周囲をさぐっているのだ。
キネが気にしている彼女の背後にいる人間。
正確には隠れている人間と言うべきか。
キネはその驚異的な索敵能力でその人間を調べ上げている。
「で、彼はだれ?」
キネのテレパスを受けてウツは彼女に問い掛ける。
「彼?」
彼女は表情を変えずにウツの問いに疑問を投げ返す。
冷静に答えている。
だが、その内心はひどくうろたえて居るのだろう。
そんなことは読まなくても見ればテツには分った。
テツは人の顔色を伺って生きてきたような物だ。
ソレは、テツだけじゃなく、ウツやキネもそうだ。
あの組織の中ににいれば誰だってそうなる。
テツはそっと息を吐く。
「そう、君の背後………。距離とすれば、10メートル後ろ。建物の影から僕たちを探っているよね」
その間も問い掛けるウツの声。
その声は柔和だが、彼女しか知らない事実を暴き出すそれは彼女からすれば冷たい声に聞こえるだろう。
そんな感想を持ちながらテツは彼女をじっと見つめる。
「……能力者を侮っていたわ。彼はシュウ……ヒデヒト・ウツノミヤ。シュウというのは彼のあだ名よ」
突然、レイカは苦笑いを浮かべながら言う。
「話を戻すわ。私が貴方たちに会いに来たのは、ISSAに協力して欲しいと言いに来た訳じゃない。その逆。貴方たちに協力したいと思ってきたの」
その言葉にウツはおろか、テツ、キネも唖然と立ちつくす。
「組織はISSAが見逃せないほど強大になっている。あなた方が個人で組織をつぶすのは難しい。私は貴方たちに興味を持ったのZeit-Netzwerkに。貴方たちの音楽に。だから協力したいと思った。それだけじゃ理由にならない?」
彼女の言葉に3人は顔を見合わせる。
「僕らはしたいように動くけど」
「それでも構わないわ」
レイカはそう三人に笑顔を見せた。
レイカとの出会いって言うか……。ちなみに、シュウは能力者じゃありません。普通の人。
最初、テツの一人称で書き始めてTM版アンカーは3人称だったって言うことをうっかり忘れてて書き直した話です。