妙な昂揚感を感じて目を開ける。
まだ、薄暗いその時間は夜明け前で。
太陽の光が見えつつあるその時間は一日の始まりにはすばらしい雲一つない空と、夕焼けとは違うすんだ空気の気配がしていた。
この時間に目を覚ますと、もったいないと感じるときと得したと感じる時があって。
また眠るのもいいけれど、今日に限ってはもったいないような気がして起きることに決めた。
神殿内には朝のおつとめという物があるらしく、数人しかいないが神官達は動いている気配がした。
廊下を当てもなく歩いていると見知った背中がヒョコヒョコと歩いているのに気付いた。
祖母を見習ってラテスの神官になると言ってここまでやってきたシェラだ。
今日から神官見習いという立場だったと言うことを思い出した。
「シェラ」
そう呼びかけると勢いよく振り向いて笑顔を見せてくれる。
「マレイグ、おはよう。こんな時間にマレイグが起きてるなんて珍しいね」
「………おはよう、シェラ。でも、さ…挨拶ついでに言う言葉?」
「ごめんね、マレイグ」
とヒョコヒョコとやってくる。
まだ自分の背丈の3分の2もないシェラは小さくてかわいい。
彼女の血の特徴であるとがった耳も朝の空気に触れてヒョコヒョコと動いている。
「きゃ〜〜ん」
思わずつまめばそんな声を上げるから身をよじるから、くすぐったいんだろうなとは想いながらもおもしろがってしまう。
「マレイグ、やめてよぉ〜」
「ごめんごめん。朝早くから大変だな、シェラ」
「うん、ちょっと眠いけどがんばるよ。私、おばあちゃんみたいにラテス様の神官しっかりとがんばるから」
気合いを入れながらシェラは言う。
「チナさんの事おばあちゃんなんて言えるのシェラだけだよな…」
「そうかなぁ?」
ため息混じりに言った俺の言葉にシェラは首をかしげる。
シェラはクォート(1/4)だけど、チナさんは純血。
………おばあちゃんなんて言ったら殺されかねない。
どうあがいたって、彼女は孫がいるような歳には見えないのだから。
「マレイグ、何くだらないこと言ってるんだい?」
殺気を感じながら振り向けばそこには金髪でグラマラスなエルフがいた。
「おばあちゃん、おはよう」
そう言いながらシェラは彼女に近づいていく。
「おはようシェラ。でも神殿内ではおばあちゃんじゃなくてチナ神官長とお呼び」
「あ、はい。チナ神官長」
チナはシェラの実の祖母でラテスの神官でもある。
シェラは彼女を見て神官になりたいと言ったのだ。
「珍しいじゃないか。お前さんがこんな時間に起きてるなんて」
「たまにはこんな日もあるよ」
「たまにはね。馬鹿なことお言いよ。あたしやあんた達には今日は特別な日だろ?」
チナさんは言う。
特別な日。
確かにそうだ。
「シェラが神官としてつとめ始める日でもあるし。あんた達にとっても特別な日じゃないか」
「まぁね」
彼女の言葉に俺は濁すように答えた。
「シェラ、マレイグと一緒に少し神殿周りを歩いておいで」
「いいの?」
「あぁ、構わないよ。お祈りの時間までには戻っておいで」
そう言ってチナさんは僕にシェラを押しつけて行ってしまった。
「マレイグ、早く」
シェラが僕の腕を引く。
彼女が楽しそうだから、僕は素直について行った。
神殿が見下ろせる丘まで上って神殿とそれから登り始める太陽を見つける。
「マレイグ、オリアの星」
朝になりきらない空で、最後まで輝ける星をシェラが見つける。
「あれは、オリアじゃなくってルフィアだよ」
僕はシェラの知識を正しく訂正する。
「るふぃあ??」
「そう、夜、最初に見えるのがオリアで。朝最後に見えるのがルフィア」
「そうだっけ?」
学校とかで教わるのは両方オリアなんだけど…。
「本当はね、僕が言ってる方が正しいんだよ」
「そうなの?ラテス様に聞いてもいい?」
「いいけど。シェラ、僕のこと信用してない?」
「してるけど…マレイグが間違ってるかもしれないでしょう」
「そうだね」
僕が言っていることは合ってるけれど、ラテスから聞くだろうから、そのままにしておこう。
「そうだ、マレイグ、今日はパーティーね」
「パーティー?」
「そう。だって記念日だもん。マレイグ達も、あたしも」
「マレイグ、こんなところにいたのか?」
丘の上で寝ころんでいる僕にクロンが声をかけてくる。
「せっかく休憩してたのにな」
クロンの気配を近くに感じて目を開けてみれば、クロンだけじゃなくチェスも一緒にいた。
「ふぅ、クロン歩くの速いよぉ〜」
「お前、そんな体力ないんじゃどうするんだよ。倒れたって知らないぞ?」
「大丈夫、ボクは倒れないから」
「そう言って倒れた人間がここにいるのはどうしてだ?」
「ひどいよ。あれはちょっと体調が悪くって…」
「しょっちゅう体調が悪くなってるのを体力がないって言うんだよ」
二人がついた早々、静かだったここが二人の喧噪に巻き込まれていく。
「静かに休んでた意味ないよな」
なんて呟いたって言葉の応酬をしている二人には聞こえようがない。
「一休みもこれで終わり。また明日から新しい日々が始まるんだよ」
夜明け。
明るくなり始めた空を見ながらチェスターが言う。
そう言えば
「昔ここにシェラと来たな」
「昔?」
ふと、あのときのことを思い出す。
「いつだよ」
「眠れなくって、結局寝たのが3時ぐらいで、目さましたのが薄明るくなってきた時でさ……。シングルとアルバムが同時発売の…デビューの日だった」
あの日はデビューの日。
そして今日も偶然かなデビューした日。
「…そっか」
「あぁ」
僕たちはずっとあの日から走り続けてきた。
そして今日、また新たに走り始める。
「また1年が始まるんだな」
「あぁ」
僕の言葉にクロンがうなずく。
「じゃあ、新たなステージにでも上る?」
チェスがいたずらっ子のように楽しそうに切り出してくる。
「だいたい、あなたが言うことは想像つきますよ?」
「じゃあ、あの計画進めていいね」
その計画がなんだか知っている僕たちはチェスの言葉にうなずく。
「それじゃ、今度はどんなことやろうか」
「企画だしあいますか?」
「そうしましょう」
夜空を切り裂くように太陽が昇っていく。
朝のつとめと称してシェラが僕たちを見つけに丘までやってくる。
今僕たちが考えていることをシェラに話して彼女がどんなリアクションをとるのか想像するのが楽しい。
僕たちの夢も、情熱も終わらないことを彼女は知ってるから。
シェラとマレイグの年の差は8歳ぐらいです。このときシェラは12歳。マレイグは20。だと………丁度、現在が問題ないと思うんですが……。
現在マレイグは27歳っていう設定なので。