キラが栗色の髪にアズライトブルーの瞳の彼女を見つけ声を掛けた。
「エニスさん、ヘーゼル隊長が……」
「べ、別に私は何も思ってなくてよ」
「は?」
キラはエニスの突然の言葉に驚く。
「え?」
早とちりしたと気付いたエニスは顔を真っ赤にした。
エニス・シカール。
栗色のボブカットの髪に印象の強いアズライトブルーの瞳の彼女は現在ラルドエード守備隊に所属している。
努力家で、周囲にも認められている彼女は現在、守備隊隊長の右腕として副隊長の任をつとめている。
「はぁ、なんであの時あんなこと口走っちゃったんだろう」
王城の一角でエニスはため息をついた。
エニスはキラと会話をした後、逃げるように今の場所にいる。
この場所は知る人はほとんどいないと言う穴場でエニスは偶然にもこの場を見つけ、一人になりたいときはココに来ている。
他にも来ている人がいるらしいということは残った気配で分かるのだが、誰が居たのかは時間が合わないために会うことはない。
エニスの目下の悩みはヘーゼル・ベンデンの事だ。
ヘーゼル・ベンデン。
ハイエルフでも珍しい銀ねず色の髪に黒色の瞳の彼はラルドエードの守備隊の隊長を務めている男だ。
まじめで誰からも好かれる。
実働部隊に現在所属しているキラやユリアは一時期彼の下にいたことがある。
そして、エニスが右腕を務める隊長でもある。
凄い人なのだ。
若くして隊長となり、それからずっとこのラルドエードの守備をつとめている。
実働部隊隊長であり、ラルドエード軍の将軍でもあるアルマ・レコリュナには一歩劣るがそれでも剣も魔法も強い。
守備隊の隊長なのだ当たり前だ。
部下にも良く目を掛け人気がある。
立派な人なのだ。
「でも何故、私なの?」
エニスはそう口に出していた。
彼は、有ろうことかエニスを好きだという。
「そんなのあり得ない」
それを聞かされたとき、彼女はあり得ないと首を振った。
でも誰もが認めている、ヘーゼルはエニスを好きだと。
だが、ヘーゼル自身がエニスに好きだと言った訳ではない。
二人ともいい大人だ。
そして上司と部下という立場もある。
隊長と副隊長という立場が邪魔しているのか、ヘーゼルはエニスにその事を伝えていない。
だが、誰もがそうだという。
それは彼の態度がそれを如実に表していた。
エニスの気を引こうと彼は一生懸命なのだ。
もしかすると彼はエニスに告白をする事を忘れているのかも知れない。
それとももう少し後と考えているのかも知れない。
「………ヘーゼル隊長だって…悪いんだわ…」
誰もいないことを良いことにエニスはそう口に出す。
「オレがなんだって?」
聞き慣れた声が背後から聞こえる。
振り向いてみればそこにはヘーゼル・ベンゼン。
「ヘーゼル隊長っいつの間に」
「姿が見えないんでな、探しに来た」
「お手間を掛けました。申し訳ありません」
そう言ったヘーゼルにエニスは今この国を取り巻いている状況を思い出しヘーゼルに謝る。
「でも、良くココが分かりましたね」
ヘーゼルがココに来たことはないはずだと考えながらエニスは言う。
「この場所はたいていの人間が知ってるぞ?クゼルやアルマ、バジル宰相もな。でたいていの奴が穴場だと思っている。ココは休憩するのに一番良い場所なんだよ。オレも結構利用する。この場所ではないんだがな」
とヘーゼルはエニスの言葉にそう返す。
この穴場は狭い場所ではない。どこかに誰かが居たとしても気付かない場合が多い。
そうヘーゼルは事も無げに言う。
「エニスがたいていの人間と鉢合わせすることがないと思っているのは、ただ単純に偶然だろう?お前とオレが一緒に休憩を取るわけにはいかない。他の人間にしたってそうだ。クゼルに至っては知っててもこの場所じゃなくって違う場所に行く。そうだろう?」
分かってしまえば単純な事だった。
自分一人だと思っていた場所が他の人間も知っていると知って途端に穴場じゃなく思えてくる。
それが顔に出ていたのだろう。
じっとエニスの顔を見つめていたヘーゼルは言う。
「今度は本物の穴場に行こう。そこはオレしか知らない場所だ。結構落ち着く良い場所だ。ちょっと遠い所にあるからココほど気軽にと言うものでもないが、遠出と言うほど遠くもない。ちょっとした休憩がちょっと長い休憩に変わるぐらいの距離ではあるがな」
とそこまで言って突然ヘーゼルは慌て出す。
「あ、すまない。エニスが、嫌なら良いんだ。もし良かったらで良いんだ。いや、あ、なんだ、その」
それが誘いの言葉だと気付いたのは、ヘーゼルがしどろもどろになり始めたときだった。
「私でよろしければ、お願いしますわ」
大して考えもせずエニスはそう答えた。
「本当か?一緒に行ってくれるのか?」
「えぇ」
「あぁ」
エニスの返事にヘーゼルは喜びの声を上げる。
それを見てエニスは嬉しくなるのだった。
部隊名が適当ですが後できちんと考えます。守備隊は守備隊。問題はアルマが率いる部隊……。