風が潮の香りを運んでくる。
海が近いことを肌で感じる。
この先はドコに行こうか。
すぐ隣を見上げれば気持ちよさそうに吹く風を浴びていた。
首都であるシャナから港のある場所までは結構ある。
ハーシャの東側の要になっている港は大陸を繋ぐスクードの道の両側にあってダウェイは北の商業都市シスアードに、片方は南の聖国マルデュースに直接つながる。
私たちはドコに行くか全く予定を決めていない当て所もない旅を今から始めようとしていた。
「しっかし、団長もとんでもないことを言ってくれるよな。世界中を見て回れなんて。見て回って何が分かるって言うんだ」
今まで気持ちよさそうに風を浴びていたメルフィストがそうぼやく。
私たちは国を守る騎士団に所属している。
いや、今となっては所属していたと言った方が正しいだろうか。
なぜなら私たちは騎士団の団長から除名をされたのだから。
だがそれも正確ではないのかもしれない。
事実、騎士団所属のエンブレムは所持している。
騎士団より除名された物はエンブレムは剥奪されるのが当たり前だからだ。
「まぁ、されたようなもんだろ?何も聞かずに国を出ろなんてさ」
メルフィストの言葉に私はうなずきながらもそれより数日も前に聞いた話が忘れられない。
たまたま立ち聞きしてしまった団長と国を守る巫女の会話を。
それは国が狙われていると言うこと。
確かにこのところ不穏な空気を感じていたのは事実だ。
だが、気のせいだと思いこんだところもある。
魔族の横行。
それはこの国だけじゃない。
そう思っていた。
それが、国を狙うモノの仕業だとは私は夢にも思わなかった。
いや、今でも信じられない気持ちでいっぱいだ。
団長も巫女もまだ確信はしていない。
だから私たちに外を見ろと送り出したのだろう。
自由に動ける私たちを。
騎士団の…団長の側近の中で自由に動けるのは私とメルフィストだけだ。
アイズは次代の巫女であるレイフィリアの護衛を務めなくてはならないし、リトは王国の大臣の息子だ。
巫女の護衛を務めなくてはならない者が自由に旅するわけにはいかないし、大臣の息子が旅をしたらそれこそ何かを勘ぐられてもおかしくない。
だからこそ私たちに言ったのだろう。
……だがコレは想像でしかない。
本当の所は分からない。
視野を広く持てと常々言っていた団長の事だ、前しか見ていない私たちに自由に旅をしろと言ったのかも知れない。
「で、クリス、ドコに行く?」
「何で私に聞くんだ。お前が行きたいところはないのか?」
「まぁ、有るとしたら、ドコ?」
だから、なんで聞き返す。
「オレはさぁまぁ、お前が一緒ならドコでもいけそうな気がするけどな」
メルはそう言ってまた歩き出す。
さらっとそんな台詞を吐くな!!。
どうしろって言うんだ!!
「ここはやっぱり世界中の食が集まるシスアードって言うのもあるなぁ……」
相変わらずの食いしん坊め。
メルフィストといるとだいたい食がメインになるのは何でだろう。
ただの幼なじみの宿命なのだろうか……。
青い空を見上げ思わずため息をつく。
本当に視野を広くもてるのだろうか。
このままでは本当にただの旅になってしまうような気がする。
「だから、何とかなるだろ?難しく考える事じゃないさ。中にいたら分からないことでも外に出れば見えることがある。外から見たら分からなくても中にいたら見えることがある。オレ達は今までハーシャの中にいたんだ。中から見たことはよく分かった。中からじゃ隠されてるかもしれない。じゃあ、外からは?それが分かるんじゃないのか」
外から見れば中で分からなかったことが分かる……か。
「ともかく当分は考えないでいろいろ動いてみよう。そうしたらそのうち見えてくるかも知れない。団長がオレ達に旅をしろと言った意味を。そうだろ?」
そう……だな。
「よし、そうときまればコーラルスの大陸に移動だな。ドコに行くかはぎりぎりまで考えよう。ココからだとフュルトの港が近いけど、ダウェイまで言っても途中にスクードの道があるから問題ないし」
メルフィストの言葉に私はうなずく。
これから何が起こるんだろう。
不安と期待を抱きながら、まだ私たちの旅は始まったばかりなのだ。
メルフィストは槍所持で、クリスは大剣所持です。二人とも背中にしょってます。
キャストはもうちょっと秘密。
サラの話に出てきた『アイズとレーアちゃん』はこの話に出てきた『アイズとレイフィリア』と同一人物です。
サラの話はこの話よりも数十年あと少なくても40年〜50年は後だと思います。