その返答は意外で、案外好印象を持ったのは事実だった。
ランディールはたまたまその使者を出迎えることになった。
ベラヌール聖王国から、神託を受けにこのゴルドバにやってきた神官。
「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。私の名はシルフィア・バークスタインと申します」
「…シルフィア?」
彼女が名乗った名前にランディールは驚いたように視線を彼女に向けた。
「はい、かのシルフィア法皇猊下と同じ名前を頂いております」
シルフィアは驚かれることに慣れているのか少しだけ苦笑いを浮かべながらそう答えた。
シルフィア1世。
長いベラヌール聖王国の中で唯一の女性の法皇となった人物である。
そして、ランディールが自らベラヌール聖道騎士団の騎士団長を務めて居たときの法皇でもある。
「父が、シルフィア様のようになって欲しいと、名付けたそうです。法王庁ではなかなか許しが得なかったそうなのですが……先代の騎士団長様がお力添えをなさったとかで……私の名前はシルフィア様と同じになりました」
ランディールはシルフィア法皇という人物の人となりを知っているだけ、彼女から聞いた法王庁のシルフィア法皇に対する特別視にどこか困惑してしまう。
それでも、シルフィア法皇のやったことは確かに偉業とも呼べるものだ。
「シルフィア法皇はベラヌールの中でも憧れと聞く。彼女の偉業ばかりが目立って、良く比較されたりはしないか?」
シルフィア法皇と同じ名前を持つ彼女にそうランディールは問い掛けた。
誰もが通る道なのだろう。
自分でもそうだった。
偉大なる父そして兄を持つランディールは、今でこそ銀の聖騎士、巫女姫の従騎士と讃えられるがベラヌールにいる頃はよく父や兄と比較されていた。
「はい、でも…、私は私ですから。シルフィア法皇猊下と同じ名前を持っては居ますが、私はシルフィア様と違いますから。同じには決してなれないと思います。……でも、憧れです。女性の身で初めて法皇になられたシルフィア様ですから」
シルフィアの返答にランディールは感心した。
普通ならば卑屈になってもおかしくないだろう。
でも彼女は決して卑屈にはなっていない自分は自分だと割り切っている。
長い時を生きているランディールでさえそう割り切れたのはつい最近だ。
「シルフィア殿」
「ランディール様、私のことはシルフィアではなく、ルフィアとお呼びください。親しい友人にはそう呼ばれているんです。混乱するって私のせいじゃないのにわたしそう言うんですよ?最初に言い出した人ははそう言う理由じゃないらしいんですけど。ってすいません……ランディール様が私の事あまり呼ぶこと有りませんよね。あたしたったら、なにやってるんだろう」
自分の調子で話し始めたことに気がついたのかシルフィアは真っ赤になった顔を手で覆い隠してランディールより離れる。
「あ、あの〜〜」
その時だった。
「シルフィア・バークスタインって言うのは」
二人の耳に淡々とした声が聞こえる。
「ユエ、彼女がそうだ」
シルフィアの様子に気も止めずランディールは入ってきたユエにシルフィアの事を示す。
「ミアが呼んでいる。あなたのことを、だから一緒に行こう」
ユエの言葉にシルフィアは顔を上げる。
「ミア様がですか?わかりました。参ります」
ユエに連れられシルフィアはミアが待つ場所に向かう。
その背中を見送っていたランディールは突然声を上げて問い掛ける
「…………ルフィア殿、帰りはどうなされるのか」
「はい、司教様と護衛の者と共に来ておりますのでその方々と帰ります」
「そうか」
うなずいたランディールを見てユエはシルフィアをミアの待つ部屋へと連れて行く。
部屋に入る二人を見てランディールは自分が今行った行為に呆然となっていた。
何故、呼び止めたのか。
何故、呼んで欲しいといった名で呼んだのか。
その意味をランディールはまだ理解していなかった。
司教さんとゴルドバに来たシルフィアさん。
ネタバレというかまぁしてみると前にランのロマンス書きたいぜ編で出てきた寝ていた彼女がシルフィアさんです。
ベラヌールで神官してます。下っ端神官。でも司教様のお供のゴルドバにやってきました。
しかもミアにも逢えてるよ?
なんで彼女は何故ミアに会いに来たのか。
それはまた後日。