手を伸ばせば気付くだろうか。
手を伸ばしても気付いてもらえなくては意味がない。
この手を取れる距離で居ても構わないか?
今すぐ取れば…関係は変わる?
「手を伸ばせ」
コクピットブロックのハッチを開けてオレは彼女に声を上げる。
オレのユニットと彼女が乗る『女神』との距離は手を伸ばし合えばどうにか届く距離だ。
「届かないよ」
目がそう言っているような気がした。
「〜〜〜〜〜っ」
オレは彼女の名前を叫んで手を伸ばす。
オレは後悔した。
二度と手を放さないと決めたのに、オレは彼女がのばした手を掴まなかった。
いや一瞬掴むのをためらったのだ。
彼女の手を掴む。
ドコにも渡さない。
だが、それでいいのか?
そう戸惑った一瞬に彼女の手はオレの手からすり抜けるように届かなくなってしまったのだ。
最初の後悔をオレはもう一度する羽目になった。
たった一瞬の出来事への後悔。
だから、今度は諦めるわけにはいかなかった。
どんなに手を伸ばしてもたとえ届かなかったとしても。
オレは手を伸ばし続けなくてはならない。
「手を伸ばせ。オレがっっ」
なんて続ける。
考える余裕もなくオレは手を伸ばす。
「〜〜っ、オレの手を掴んでくれっ」
「あたしはっっ」
彼女のとまどい。
『敵部隊の増援が来る。無理矢理にでもさらってこい』
無茶苦茶な艦長からの通信。
『援護するぞ』
は隊長だ。
『帰っておいで』
クルーの声がオレのユニットを通して彼女に届ける。
「聞こえてるだろう?みんな待ってる。オレも、お前が戻るのを。だから、この手を」
増援部隊の攻撃が始まった。
『女神』に接近しているオレに攻撃を仕掛けてくる。
「早くコクピットの中に」
「お前もだ、〜〜っ」
「あたしは」
「つべこべ言わずにっ」
機体を操っていたもう片手を外し、機体につかまって漸く届いた彼女の手を無理矢理つかみ『女神』の中から引きずりだして、オレのユニットに押し込む。
「艦長、奪取成功。今から撤退行動取りつつ迎撃します」
『了解した、では指定ポイントまで到達した後一気に撤退する』
艦長命令に頷く。
彼女はオレの足下にいる。
コクピットの中は案外広くてそこが一番安定するからだ。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
オレの顔を見て頷く彼女の表情はあまり大丈夫のように見えない。
『女神』の能力がおそらく負担になっていただろう。
設計者の一人からパイロットには多大な負荷が掛かるとオレ達は聞いていた。
テストパイロットだった彼女はもちろん知ってる事実だ。
「お願いがあるの」
「何?」
「一回、女神を攻撃して、コクピットの位置を」
今『女神』には誰も乗り込んでいない。
敵の部隊が回収しようとしているがオレ達の攻撃のせいかそれとも他の味方部隊の攻撃のせいかまだ回収できていない。
「いいのか?」
オレの言葉に彼女は頷く。
「……分かった」
狙いを付けて、彼女の言葉通りの位置に攻撃する。
「あれは……ない方がいいの……」
そう言って彼女はポケットからリモコンを取り出し押した。
遠隔の自爆スイッチ。
「なんで、あんなものがあるんだろうね」
「……ごめん」
それ以外にオレには言葉が見つからなかった。
「なんで謝るの?」
「…オレは答えられないから。言いたいこと分かるし、オレもそう思う。きっと、狂った奴が造ったからって言う答えもあるかも知れないけれど、あまりそれも考えたくない……」
「……そっか」
オレにもたれかかって彼女は俯く。
「少し、スピード出すぞ」
「うん」
艦に戻るため機体速度を上げる。
「お帰り」
忘れていた言葉をオレは彼女に告げる。
「……ただいま、ありがとう」
「礼なんていらない。オレの手が届くところにいてくれればそれでいい」
「欲ないね」
「あるさ、俺自身、呆れるほどにな。でも今はそれでいいって思ってる」
「そっか」
手をのばして届かないなら、届かせるまで。
距離は、近い方がいいけれど。
まぁ、というわけでキャスト紹介。
主人公、杉田智和さん。ヒロイン、相沢舞さん。隊長、置鮎龍太郎さん。艦長……小杉十郎太さん?
かな?
艦長はなんか微妙です。 プロトタイプ(空の箱庭)の艦長は小杉さんなんだけどね。