MESSAGE〜もう一度走り出す僕を〜
目次12345678910111213あとがき

崩壊の足音

 憂鬱な一日が始る。
「蘭、どうしてもあってって言われてるの。お願い、蘭」
『どうしても』という…その言葉に弱いのか、わたしはクラスメートのお願い通りに、呼び出しの場所にまで行く。
 誰…だっけ?
 記憶のなかからその人物を探しだすけど……見つからない。
 見つけだす必要なんてないんだけどね。
「毛利さん…俺さ…」
 彼の声が遠くに聞こえる…。
 聞きたくないなぁ。
 知らない人、好きでない人からの告白ほど退屈なものはない。
 新一の声…聞きたいな。
「毛利さん!!」
 突然、腕をつかまれる。
「な、何するんですか!!」
「何って、毛利さん、俺の話聞いてなくない?」
 聞きたくないのよ。
 新一…助けて…。
「薄情な幼なじみ?工藤……新一だっけ?アイツ死んじゃったんでしょ」
 軽く…その人は言う。
 その言葉に涙が出そうになる。
 勝手に決めつけないで…。
 自分の都合いいように考えないで…。
「だからさぁ、俺とつきあおうよ」
 やめて……。
 やめて…。
「何やってるんだ!!!!!」
 誰…?
 その声に彼は驚く。
「げっ新出だ!!」
 そう言って彼は逃げていく。
 新一じゃ…なかった…。
 落胆のあまりわたしはその場に座り込む。
「大丈夫かい毛利さん」
 新出先生はわたしに手を差し伸べ立ち上がらせてくれる。
「すみません。助けて頂いて…。大丈夫ですから…」
「本当かい?顔色悪いよ。保健室で少し休んだほうがいい。もし、差し支えなければ僕が送っていってあげてもいいんだが…」
「すみません。でも新出先生、わたしは大丈夫ですよ。ご心配なさらなくても」
「そうかい?もし辛かったら言ってくれよ。僕は一応この学校の校医なんだから」
「ハイ」
 新出先生の心配そうな顔をしり目にわたしは教室に戻る。
 大丈夫?。
 まだ、大丈夫だよ。
 新一がくれたこれがあるから。
 かくして身に付けている探偵バッジを触れてわたしは落ち着く。
 別れる前、新一にもらったこれ。
 博士にいつでも持っていられるようにってペンダント型にしてもらったこれを…。
「戻ってきたら、ケータイとこれに連絡するからよ。絶対持ってろよ」
 そう言って新一はわたしを安心させるように笑ったのを今でも鮮やかに思いだせる。
 だから、まだ大丈夫。
 新一、心配しないで。
 新一、信じてるから、信じてて。
 まだ、大丈夫のはずだから…。

〜大阪〜
「平次、快斗君から電話やで」
 珍しく玄関から入ってきた和葉から電話を渡される。
「すまんな、和葉」
 怪盗キッドこと黒羽快斗からやった。
 工藤と追ったときに結構仲良うなって……工藤の後をついて組織を追っていった。
「どないしたんや快ちゃん?」
「連絡遅くなって悪い。新一のことだよ」
「工藤のことか?」
 快ちゃんがオレらの中で最後に工藤を見ていた。
 せやけど…今まで連絡してこんかったんや。
「あぁ、新一はまだ生きてる。新聞に乗った高校生らしき人物は新一じゃない」
 快ちゃんはそう言う。
 工藤が目をつけとった施設が全壊したと新聞やニュースを駆け巡った時にその施設から高校生らしき遺体を発見とあった。
 工藤やない。
 その核心は全くなかった。
 血液型は一緒やったし。
 DNA鑑定は工藤の両親が鑑定のために一時帰国して検査をしたが…結果は血縁者やない言うことが分かっただけや。
 だが、ホンマにそれが正しいとはオレにも、もちろん工藤の両親も思ってへんかった。
 遺伝子が変更されているかもしれへんからや。
 人が伸び縮みしとるんやで。
 そんなことあってもおかしないやろ。
 だが、快ちゃんが持ってきたニュースはDNA鑑定が正確だということを証明した。
「ホンマか?快ちゃん」
「K薬品会社が全壊したときに、新一はオレと一緒にいた」
 オレの言葉に快ちゃんは言う。
「あぁ。しかも、その時新一はまだコナンだった。」
 なんちゅう事や……。
「じゃあ、新聞に乗ってた高校生らしき人物は工藤じゃない言うわけか」
「あぁ」
「ただな、その後新一がどうなったかわからねぇんだ」
 どういう意味や?
「……その場の近くに小さな家があったんだ。そこで殺人事件が起きた。そこに…」
「工藤が首突っ込んだ言うわけか…」
 工藤だったらやりそうなことや。
「あぁ。新聞に乗ってるはずだぜ、その事件」
「ちょー待て、和葉、K薬品会社が爆発したときの記事捜してくれへんか?」
 オレの言葉にデータベースとしてオレのパソコンの中に入っている事件の概要の中から和葉は施設が全壊したときの日の事件を検索する。
「平次………あったで。もしかしてこの記事?Y山氏宅にてY山翠さん殺害される。犯人は士道譲やって。士道譲。前科アリやで、平次。15年前に殺人事件起こして刑務所はいっとったけど釈放されたんやて」
 と和葉が簡単に説明する。
「士道譲言うたら、オトン達が騒いどったなぁ。15年前の殺人事件の犯人がまた事起こした言うて…。無期やったはずやけど……模範囚やったんやな。で、この殺人事件に工藤が首をつこんだんか…」
「あぁ、その時に、新一が犯人である士道譲を追っていった……。そこから新一の足取りがつかめない」
 アカン…。
 何やっとんねんあいつは。
 そうや、大事なこと思いだした。
「なぁ、快ちゃん、そん時工藤は江戸川コナンやったんか?それとも工藤新一やったんか?」
「最初は、コナンだった途中から工藤新一だったよ」
 …っちゅうことは…事件の最中に戻ったんか…。
「ちなみに、その瞬間は見られてないよ」
 快ちゃんはそうオレの言葉に応える。
 …そうか…。
「平ちゃん?」
 黙り込んだオレに快ちゃんは話かける。
「どうしたんだよ、急に黙り込んで」
「…快…ちょっとえぇか?」
「な、なんだよ。いきなり」
 快、とオレが呼んだことに驚いている。
 オレが快ちゃんを快と呼ぶにはよっぽどの理由があるからや。
「…工藤が生きとる言うこと…蘭ねーちゃんに言うたってもえぇか?やっぱアカンか?」
「…オレも…その事考えてた…。なぁ、平、平はどっちがいいと思う?」
 快ちゃんがオレの答えを求める。
 快ちゃんもどっちか考えあぐねとったんやろう。
「……言うて安心させたいと思うで」
「だよな……。けれど、安心するのはまだ早い。新一が生きてる可能性はまだ低いんだよ。新一が士道譲を追っていった後どうなったかオレは知らないんだから。…でも…」
 と快ちゃんは辛そうに言う。
 工藤がもしもと言うことになっとったら…蘭ねーちゃんは苦しむだけや。
「そうやな…。快…蘭ねーちゃんの様子見てきてくれへんか?工藤に…頼まれてんねん」
 せやけど…と言う言葉を飲み込みながらオレは快ちゃんに頼む。
 オレも和葉と共に行くつもりやけど、オレらより快ちゃん達の方が早いやろ。
「そのつもりだよ。平ちゃん。青子と話してたんだ、蘭ちゃん心配だからって。いい娘だよな…、蘭ちゃんって……自分の事は二の次で他人の事ばっかり心配する……」
「やから…工藤が好きになったんやろ」
「……似とるよね」
 突然、オレと快ちゃんの会話に和葉が割り込む。
「誰と誰や?」
「蘭ちゃんと工藤君。二人とも、自分の事より他人の事ばっかり心配する…」
「和葉ちゃんの言う通りだよ。何とかしてあげたいよな」
 和葉の言葉に快ちゃんは言う。
 ホンマ…何とかしてやらんとな…。

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