MESSAGE〜もう一度走り出す僕を〜
目次12345678910111213あとがき

始まりの場所

「遅いね」
「そうだね」
「どこかで道草食ってんだろ?」
「それはないな。平が新一と逢う日に道草食うとは思えないしな」
「快、なんだよそれ」
「深い意味はないよ。ま、大方電車に乗り間違えたって所かな」
 今、オレと蘭はトロピカルランドにいる。
 冬休みに入り、予告通りに服部達が東京に来るといって快斗達も呼んであるからと言われ、すっぽかすわけにも行かず結局トロピカルランドに来てしまった。
 で、今は服部と和葉ちゃんをトロピカルランドの入り口で待っている。
「オォ、すまんすまん」
 そう言いながら服部達は走ってくる。
「みんな、堪忍な。まったくぅ、平次のせいやで。平次のせいで電車乗り間違えたんやからな」
「しゃあないやろ。ココに来る電車ややこしすぎるんやから」
 来た早々二人は喧嘩を始める。
 ふと気がついたのだが、この二人、何かにつけてすぐに喧嘩をする。
 仲が悪くない様子だが…。
 確か…幼なじみだった…よな。
 幼なじみってすぐ喧嘩するものなのか?
 快斗達も幼なじみだったよな…。
 でも、快斗達を見てもすぐに喧嘩するような二人ではなかった。
「なぁ、服部。お前ら…喧嘩そんなにいっぱいしてて飽きねぇか?」
 オレの言葉に服部は目を丸くする。
「どないしたんや工藤。オマエがそんなこと言うなんて珍しいなぁ」
 と服部は不思議そうにオレを見る。
 そうかな?
 記憶がなくなる前のオレってどんな感じだったんだろう。
 今一つ疑問になる。
「ともかく、中入ろうぜ!!これじゃ何のために来たかわからねーもんな」
 快斗の言葉にオレ達はトロピカルランド内に入った。
「さて、どこに行こうか?」
「そうやなぁ、取りあえず、全部案内してや」
 蘭の言葉に服部は軽く答える
「あのなぁ行き先決めろよ」
「えぇやんか、お勧めのところ案内してや」
「お勧めのところって行ってもなぁ、取りあえず、怪奇と幻想の島から行くか!!」
 と言うわけで、ここ入り口のある夢とおとぎの島の隣に位置している怪奇と幻想の島に向かった。
「ココの目玉はこのミステリーコースター何やな」
「そうだよ」
 怪奇と幻想の島は混んでいて、はぐれないようにとつないだ蘭の手が急に力強くなる。
 蘭?
 蘭を見ると辛そうにうつむいている。
「じゃあ、ミステリーコースターにするか」
「そうだね」
 と決まったときだった。
「わたし、ミステリーコースター乗らないで外で待ってるね」
 蘭がうつむいた顔をあげそう言ったのだ。
「なして?蘭ちゃんジェットコースターとか苦手なん?」
「そんなこと……ないんだけどね……ちょっと……ね」
 和葉ちゃんの言葉に心配かけまいと笑顔で蘭は答える。
「でも、蘭ちゃん一人にするわけには……」
「オレがいるよ」
 蘭を心配する和葉ちゃんにオレはそう答える。
「だから、4人で行ってきなよ。オレと蘭はココにいるから」
 オレの言葉に服部達はミステリーコースターに向かった。
「……どうして……新一はミステリーコースターに乗らなかったの?」
 蘭は4人を見送りながらオレに静かに聞いた。
「蘭は乗らないって言うんだろ。オレ、一人で乗っても楽しくないじゃん」
「そっか……」
 そう言って蘭はうつむく。
「……それに…こんな哀しそうな蘭をおいていけないよ。蘭にはいつも笑っていて欲しい」
「…新一…」
 オレの言葉に蘭は静かに微笑んだ。
 ミステリーコースター。
 蘭がここには乗りたくなさそうな様子だった。
 理由はわからない。
 けれど……オレもミステリーコースターには何故か乗りたくなかった。
「聞かないの?」
 不意に蘭が尋ねる。
「何を」
「………わたしがミステリーコースターに乗りたくない理由…」
「聞いても…いいのか?出来ればオレは聞きたくない。蘭があいつらに理由を誤魔化したのはそれなりの理由があるからだろう。オレも…何となくミステリーコースターに乗りたくないって感じてる。ソレはもしかして蘭と一緒の理由なのかな?まだ…その理由をオレはまだ知りたくない。ソレが蘭を悲しませてしまった根本的な理由だと想うから…違う?」
 蘭は答えないでうつむく。
「蘭…オレは蘭の事苦しませたくないよ。だから…まだ何も言わなくていいよ。オレの記憶が戻ったら全部聞くから…。ってこれはオレの都合だな。ごめん勝手なこと言って」
「……勝手なことじゃないよ、新一。当然だもん…。だから…新一ごめんなんて言わないで。分かってるから…。そのかわり、覚悟してね。新一の記憶が戻ったら思う存分言わせてもらうから」
 蘭はそう言って強気に微笑む。
「覚悟してるよ蘭」
 とオレが蘭の言葉に応えた時に服部達が戻ってきた。
 お昼時、オレ達は冒険と開拓の島内にあるレストランで食事をしている。
 他愛もない会話。
 そんな会話をしている今の時間が凄く落ち着いている。
 何故だろう。
 今までこんなふうにしていなかったような感じを覚える。
 そんなはずない。
 と想いながらもオレ達の中はこんなふうにしたことがなかった…という空気を感じる。
 隣には気心を知れた幼なじみ。
 そして気の合う友人。
 何故だろう…。
「ん?」
 服部がふと疑問の声をあげる。
「どうしたんだ?服部」
「ん?いや、蘭ねーチャンが戻ってきたで」
 とお手洗いに立った蘭を服部が認めオレにいう。
「お帰り、蘭」
 そう言おうとしたとき蘭の様子がおかしいことに気がついた。
 何だろう。
「蘭、どうかしたのか?どこか具合でも悪いのか?」
「えっ?んん、何でもないよ」
 蘭はオレの言葉に誤魔化すように言う。
「そうか…なら…良いんだけど」
 オレの言葉に蘭は静かに微笑む。
 何だろう。
 蘭の様子がおかしい…。
 ただ、どうして蘭の様子がおかしいのかわからなかった。
「っ?!」
 なっ…なんだ……。
 今のは……。
「どないしたんや、工藤」
 服部がオレの様子が変わったことに気がつき小声で問い掛ける。
 その口調は鋭い。
「…いや…何でもねぇ」
「……ホンマか?」
「ウソ、言ってどうすんだよ」
 オレの言葉に服部はそれ以上何も言わなかった。
 たしか…服部も探偵、だったよな。
 もしかすると気付いたかもしれねぇ。
 今の鋭い殺意を…。
 あれは誰に向けられたものだ?
 今のオレにソレを分かる術も確かめる術も何も持ってはいなかった。
 蘭に向けられたものなら……。
 オレは蘭を守ろう。
 蘭の様子がおかしいことも納得が行く。
 蘭はオレが守る。
 それはオレの独りよがりかもしれねぇ。
 けど…蘭のことはオレが守りたかった。
「さて、この後どうする」
 レストランから出ると快斗がそう言った。
「アタシ、蘭ちゃんと青子ちゃんが言うたとっておきの所行きたいんやけど」
 と和葉ちゃんが言う。
「とっておきの所?」
「そうや、蘭ちゃんと青子ちゃんがあそこは行っとった方がえぇって言うた所」
 和葉ちゃんはそう言う。
 でもとっておきの所ってどこだ?
 オレには検討がつかない。
「あ、あそこね。時間は…大丈夫ね」
「まぁ、時間は大丈夫だけどよぉ…。この人数で平気か?」
「大丈夫だよ。多分だけど」
 時計を見て蘭と快斗と青子ちゃんが話す。
 何だろう。
 時計を見た蘭につられオレも時計を見る。
 時間は…1時ちょっと前。
「取りあえず、行ってみっか」
 その快斗の言葉にオレ達はその場から目的の場所へと向かった。
 目的の場所。
 科学と宇宙の島。
 その端にある円形の場所。
 その中央に向かう。
「ココで何があんのや?」
「秘密だよ」
 服部の言葉に快斗はあっさりとかわす。
 何が…ここであるんだ。
「ん?いい感じ10.9.8.7.6」
 蘭と青子ちゃんと快斗がカウントダウンしていく。
『5.4.3.2…』
 記憶の中に入り込む景色。
「1!!」
 次の瞬間、周りに水が立ち上がる。
 そう、ここは噴水だったのだ。
「うわぁ、めっちゃえぇやんか!!」
「だろ。だから、ココはとっておきの場所なんだよ」
 和葉ちゃんの言葉に快斗は言う。
『ここ、2時間おきに噴水が出るんだ。オマエ、こう言うの好きだろ』
『……新一…』
 …一瞬のフラッシュバック。
 今のはいつだ?
 オレが観ていたのは間違いなく蘭だ。
「ココな、2時間おきに噴水が出るんだ。上手く行けばこうやって中心に入れるわけ。ココがこんな噴水になってること知らない人結構多いんだぜ。まぁ、知ってても他のアトラクションの方に行っちゃうんだけどな」
 と快斗が説明する。
 そう…。
 だからオレは…。
 オレは?
「新一?どうしたの」
 考え込んだオレに蘭が声を掛ける。
「確か…、蘭…こう言うの好きだよな」
「新一……」
 オレの言葉に蘭ははっとオレを見つめる。
 な…何かオレ変なこと言ったか?
「蘭、オレなんか変なこと言ったか?」
「違うの…わたしがこういうこと好きだって思いだしてくれたのが…なんか嬉しいの」
 そう言って蘭は綺麗に微笑んだ。
 夕方遅くならないうちにオレ達は家路につくことにした。
 今日は家には服部達だけでなく、快斗達も泊まると言っていた。
「きゃあ」
 不意に蘭が誰かに突き飛ばされる。
 その突き飛ばしたやつは走って逃げていく。
「蘭、アイツか!!!」
 オレがそいつを追おうとすると
「待てや、オレが行く。工藤は姉ちゃん達と先に帰れや」
 と服部が行きその後を快斗と和葉ちゃんがついていった。
「蘭、大丈夫か」
「うん…」
 力なく蘭は答える。
「どこも痛い所ないか?怪我してないか?」
「大丈夫…だよ、新一」
 そう言って蘭はオレを心配掛けないように言う。
「じゃあ、帰ろう。すぐに快斗達も戻ってくると思うよ」
 青子ちゃんの言葉にオレは頷き、倒れ込んだ蘭を抱きかかえて家に帰ることにした。

「見失ってもうたで…って何でお前らもおんねん」
 後を追ってきたアタシと快斗君に平次は文句を言う。
「まぁ、気にするなよ」
 快斗君が平次をなだめる。
「そうそう……平次…っあれと違う?!!平次っ」
 不意に、蘭ちゃんを突き飛ばしたやつを見つける。
 一見そこら辺にいるような奴に見える。
 だが、そいつと話していたやつをアタシは思いだす。
「和葉…?どないしたん」
 不意に呼んだアタシに平次は不思議そうにアタシの視線の先を見つめる。
 精悍な男。
「平次…あれって……」
「そんな…アホな…快…アイツは…捕まったんとちゃうんか?」
 平次の言葉に快斗君は小さく頷く。
「せやったら…なんでおんの?」
「オレに聞くなや…」
 アタシの言葉に平次は小さく言う。
「ともかく、オトンに電話するわ」
「オレは目暮のおっちゃんに」
 アタシの言葉を受け、平次は言う。
「何で?」
「全国になっとる可能性が高いからや。和葉、直に掛けろや。部屋通したらアカンかも知れん」
 平次の言葉にアタシは頷いた。
 携帯を取りだし、お父さんの携帯に直に電話する。
「ハイ、遠山」
「オトン、和葉やけど」
「どないしたんや和葉」
 お父さんの声は厳しい。
 もしかして…今捜査中かな?
 不意に感じる。
 だけど、そんなこと言っている場合じゃない。
 アタシは、意を決して言う。
 精悍な男の事を。
「オトン、士道譲どないなことになっとる?」
 そう、精悍な男とは士道譲のこと。
 工藤君と快斗君が巻き込まれた事件の犯人。
 16年前に引き起こした連続殺人事件の犯人で、出所後にまた殺人事件を起こした人物。
「和葉、どないしたんや?いきなり士道譲のことを口にだして」
「オトン、正直に答えてや。士道譲は奈良県警か、大阪府警の留置所におるんよね」
「かっ和葉!!今、一人か?」 
 アタシの言葉にお父さんは慌てる。
 …嫌な予感がする。
 何でやろう。
「一人やないで。平次がおる」
「そうか…」
 オトンは静かに呟く。
「なぁ、オトン答えて。アタシと平次士道譲らしき人物見かけとんねん」
「ホンマか?」
「そうや、今、後つけとる」
「アホ、危ないことするなや」
 アタシの言葉にオトンは当然の事ながら怒る。
「平次もおるし、他にもう一人おるから…平気」
「工藤君やないやろな」
 アタシの言葉を受け、オトンは思い掛けない人物の名前を出した。
 どうして…そこに工藤君の名前が出てくるんやろう…。
「和葉、工藤君やないやろな」
「ちゃうよ」
「そうか」
 アタシの言葉にオトンはホッと一息を入れる。
「どういうこと、アタシにも分かるように説明してや」
「……工藤新一には、士道譲に関する事件にかかわらすな。そう命令がきとんのや」
 オトンは厳しい声でそう言った。
「士道譲のせいで、工藤君が記憶喪失になった…。警察はそう思うてんの?」
「和葉、どこまで知っとる」
 アタシの言葉にオトンは反応する。
「何もしらんよ。アタシも平次も……。アタシ達が知っとるのは工藤君が、士道譲を追って行方しれずになったこと。そして、士道譲が事情聴取の最中に工藤君の名前を出したことだけや…」
「和葉……」
「ホンマの事言うて、士道譲はどないなっとる?」
 静かに言葉を紡いだアタシにオトンは言う。
「士道譲は工藤君を探しとる…。奴は奈良から大阪に護送するときに逃げよった。警官、一人が意識不明の重体になっとる。今、士道譲は全国指名手配犯や…。処遇は見つけたら直ちに発砲……」
 ソレって…凶悪犯の対応と違うの?。
「オトン…、士道譲はどうして工藤君を探しとるの?」
「逆恨みやな…。アイツがおらんかったら今回の計画は成功していたんや。そういつもいつも呟いていた」
 電話を切りアタシは平次にそのことを告げた。
「そうか……士道やったか……。狙われとるのは蘭ねーチャンやのうて…工藤なんやな」
 平次はアタシの言葉にそう言う。
「平、蘭ちゃんが狙われたのはそれなりの理由がアルかもしれねぇぜ」
「………工藤をおびき出すためのもんか?」
「もしかするとな…」
 工藤君をおびき出すために蘭ちゃんを狙うって言うの?
 そんなのひどすぎる…。
「ともかく、このことは新一には内緒にしておこう。もちろん、蘭ちゃんにもだよ」
 快斗君の言葉にアタシと平次は頷いた。
 でも…工藤君は気づいているかも知れない。
 蘭ちゃんが工藤君のかわりに狙われていることを。
 そして、自分もまた狙われていることを。
 工藤君は蘭ちゃんを守るそう言うてた。
 平次だったら…どないするんやろ。
 検討もつかなかった。

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