作用素の定理を調べていたら、偶然に次のような面白い展開式(定理)を見つけたので報告したい。
これは上から順に、
************
e^xのべき級数展開を思わせる作用素”で影響を受けたf(x)の結果(関数)は、e^xの重回積分の無限和で表現できる。
e^(-x)のべき級数展開を思わせる作用素”で影響を受けたf(x)の結果(関数)は、e^(-x)の重回積分の無限和で表現できる。
sinxのべき級数展開を思わせる作用素”で影響を受けたf(x)の結果(関数)は、sinxの重回積分の無限和で表現できる。
cosxのべき級数展開を思わせる作用素”で影響を受けたf(x)の結果(関数)は、cosxの重回積分の無限和で表現できる。 ************
という驚くべきことを表しているのだが、f(x)が任意の関数!であることに注目いただきたい。
右辺はべき積分級数展開とでも呼ぶべき形になっている。(よって、「べき積分級数展開定理」と名付けた。)
これはある意味でフーリエ展開やテイラー展開(べき級数展開)などと同類の基本的な展開式であるように思えてならない
のだが読者はどう思われるだろうか? また別の見方をすれば左辺と右辺で関係性が反転しているともとれる。反転定理
というような名称の方がよいのだろうか。
例えば、f(x)=x^2などとして実験をし、この定理の感覚を味わっていただきたい。
一般化された場合についても
g(x)に関係した作用素で作用を受けたf(x)は、g(x)の重回積分の無限和で表せる
ということを示している。なんとも不思議な話であるが、確実に成り立っている。
一般のg(x)の場合の例を示そう。
例えば、逆tanx関数であるtan-1xのべき級数展開は、次のようになる。
tan-1x=x-x^3/3+x^5/5-x^7/7+・・ ( |x| < 1) ----@
定理中(注意2)に示すように∫、∫^2、∫^3・・はそれぞれ(x^1/1!),(x^2/2!),(x^3/3!)・・に対応するとするから、この場合
「g(x)=tan-1xのべき級数展開に関連づけられる作用素」は、@右辺の形に注目して次のようになるのである!
「g(x)=tan-1xのべき級数展開に関連づけられる作用素」=∫-2!∫^3+4!∫^5-6!∫^7+・・
よって、定理から、次が成り立つ。
(∫-2!∫^3+4!∫^5-6!∫^7+・・)f(x)
=f(0)tan-1x + f´(0)∫tan-1x +f´´(0)∫∫tan-1x + f´´´(0)∫∫∫tan-1x +・・
この不思議な感じを味わっていただきたい!!
次にこの定理の証明を示す。
この定理の証明を示す。
[証明]
一般のg(x)の場合を示すのが本道だが、g(x)がsinxの場合の式、つまり次のA式を示しても、本質的には同じある。
よって、ここではわかりやすいこのA式の成立を示すことにする。一般の関数g(x)にも全く同様の証明が適用できる。
(∫-∫^3+∫^5-∫^7+・・)f(x)=f(0)sinx + f´(0)∫sinx +f´´(0)∫∫sinx + f´´´(0)∫∫∫sinx +・・ ---A
さて、証明をはじめる。
f(x)は、べき級数(蚤n・x^n)展開したとき収束半径がrである関数とする。以下では、変数xのとり得る範囲は全てrより
小さいとする( |x| < r)。 ------------------B
f(x)をべき級数展開(マクローリン展開)すると、次のようになる。
f(x)=f(0) + f´(0)x + f´´(0)x^2/2! + f´´´(0)x^3/3!+ f´´´´(0)x^4/4! + ・・・ -----@
このf(x)に対して、∫f(x),-∫^3f(x),∫^5f(x),-∫^7f(x),・・・を計算していく。ここで、例えば、∫^3=∫∫∫である。
∫の範囲は全て0〜xとする。以下において∫でのdxや、∫^nでのdx・・dxの表記は省略している。
条件Bから項別積分が可能であることに注意して、@より、
[1]
∫f(x)=f(0)x + f´(0)x^2/2! + f´´(0)x^3/3! + f´´´(0)x^4/4! + f´´´´(0)x^5/5! + ・・・
-∫^3f(x)=-f(0)x^3/3! - f´(0)x^4/4! - f´´(0)x^5/5! - f´´´(0)x^6/6! - f´´´´(0)x^6/6! - ・・・
∫^5f(x)=f(0)x^5/5! + f´(0)x^6/6! + f´´(0)x^7/7! + f´´´(0)x^8/8!+ f´´´´(0)x^9/9! + ・・・
-∫^7f(x)=-f(0)x^7/7! - f´(0)x^8/8! - f´´(0)x^9/9! - f´´´(0)x^10/10! - f´´´´(0)x^11/11! - ・・・
・
・
上の無限に存在する各重回積分結果は、確実にある有限の値になる。なぜなら、f(x)のべき級数展開の収束半径が
rの場合、その重回積分値(関数)のべき級数展開の収束半径も同じrとなることは容易に示すことができるからである。
よって確実に上の各式は、ある有限の(関数としての)値として計算されることになる。
さて、上式を縦に足し合わせると次のようになる。( f(0)、f´(0)、f´´(0)・・でまとめた。)
(∫-∫^3+∫^5-∫^7+・・・)f(x)
= f(0)(x-x^3/3!+x^5/5!-x^7/7!+・・) + f´(0)(x^2/2!-x^4/4!+x^6/6!-x^8/8!+・・)
+ f´´(0)(x^3/3!-x^5/5!+x^7/7!-x^9/9!+・・) + f´´´(0)(x^4/4!-x^6/6!+x^8/8!-x^10/10!+・・)
+ f´´´´(0)(x^5/5!-x^7/7!+x^9/9!-x^11/11!+・・) + f´´´´´(0)(x^6/6!-x^8/8!+x^10/10!-x^12/12!+・・)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ -------A
さて、左辺は(∫-∫^3+∫^5-∫^7+・・・)f(x)=∫f(x)-∫^3f(x)+∫^5f(x)-∫^7f(x)+・・・
であり無限和であるが、これは有限の値に収束するのであろうか。答えはYes. 有限の(関数としての)値に収束する。
なぜなら、ハートレー彗星 その3で示した次の定理5よりそれが言えるからである。
Aの左辺は、この定理から次のように変形できる。
A左辺 = (∫-∫^3+∫^5-∫^7+・・・)f(x) = (sinx∫sinx+cosx∫cosx)f(x)dx
=sinx∫sinxf(x)dx+cosx∫cosxf(x)dx ----B
いまf(x)の収束半径r内で積分しているから、Bの計算結果は確実に関数としてのある値に収束する(f(x)にsinxやcosxが
掛かっても全く正常に積分計算ができる)。よって、Aの左辺も(関数としての)ある値に収束する。
次に、Aの右辺に着目しよう。
[1]の左辺を無限個足し合わせるとある有限の(関数としての)値となったのだから、[1]の右辺の各べき級数を足し合わせ
ても当然左辺と同じ値になる。
Aを(x^2/2!-x^4/4!+x^6/6!-x^8/8!+・・)=∫^2sinx や、(x^3/3!-x^5/5!+x^7/7!-x^9/9!+・・)=∫^3sinx となることに注意して
変形すると、次のようになる。
(∫-∫^3+∫^5-∫^7+・・・)f(x)
= f(0)sinx + f´(0)∫sinx + f´´(0)∫^2sinx + f´´´(0)∫^3sinx + f´´´´(0)∫^4sinx + f´´´´´(0)∫^5sinx + ・・・
ここで∫^2=∫∫、∫^3=∫∫∫、∫^4=∫∫∫∫、・・であることに注意せよ。
これは目標としていたA式そのものである。
f(x)べき級数展開における収束半径r内のxを使って積分範囲0〜xで積分している限りにおいては常に上式が成り立つことが
わかった。
これで「作用を受けた関数に対するべき積分級数展開定理」が証明された。
[終わり]
この定理は、右辺を作用素でまとめてしまえば、次のようにさらに簡潔に表現できる。この方が左右の反転の意味が
より明瞭になっているかもしれない。
ただし、冒頭の表現も捨てがたいものがあるのは、”作用素で持ち上げられた関数”が別の関数集団で表されるという
展開の意味を示しているからである。
研究の結果、上記定理の左辺の作用素を外すことができた。つまり、f(x)=・・の式が得られた。次のものである。
f(x)=f(0) + f´(0)∫e^x +(f´´(0)-f´(0))∫∫e^x + (f´´´(0)-f´´(0))∫∫∫e^x + ・・
f(x)=f(0) + f´(0)∫e^(-x) +(f´´(0)+f´(0))∫∫ e^(-x) + (f´´´(0)+f´´(0))∫∫∫e^(-x) +・・・
これは任意の関数f(x)をe^x重回積分やe^(-x)重回積分で展開する式と言える。定理として述べておこう。
この式は、本ページ冒頭の「作用を受けた関数に対するべき積分級数展開定理」と「作用素の定理」を組み合わせれば
割合簡単に導出できる。e^xの方だけを示す。e^(-x)の場合も全く同じである。
[導出]
f(x)は、べき級数(蚤n・x^n)展開したとき収束半径がrである関数とする。以下では、変数xのとり得る範囲は全てrより
小さいとする( |x| < r)。
以下で、例えば、∫^3=∫∫∫である。∫の範囲は全て0〜xとする。以下において∫でのdxや、∫^nでのdx・・dxの表記は
省略した。
「作用を受けた関数に対するべき積分級数展開定理」から、次が成り立つ。
(1+∫+∫^2+∫^3+・・)f(x)=(f(0) + f´(0)∫+ f´´(0)∫^2 + f´´´(0)∫^3 +・・)e^x
この式の左辺に「作用素の定理」e^x∫e^(-x) f(x)dx=(∫+∫^2+∫^3+・・・)f(x) を用いて、次を得る。
(1+e^x∫e^(-x) )f(x)=(f(0) + f´(0)∫+ f´´(0)∫^2 + f´´´(0)∫^3 +・・)e^x
これは、つまり、次と同じである。
f(x) + e^x∫e^(-x)f(x)=f(0)e^x + f´(0)∫e^x+ f´´(0)∫^2 e^x + f´´´(0)∫^3 e^x +・・
変形して、
∫e^(-x)f(x)=-e^(-x)・f(x) + f(0) + f´(0)e^(-x)∫e^x+ f´´(0)e^(-x)∫^2 e^x + f´´´(0)e^(-x)∫^3 e^x +・・
両辺を微分して、整理すると次のようになる。
f´(x)=f´(0)e^x + (f´´(0)-f´(0))∫e^x + (f´´´(0)-f´´(0))∫^2 e^x + (f´´´´(0)-f´´´(0))∫^3 e^x + ・・・
両辺を積分して(積分範囲は0〜x)、
∫f´(x)=f´(0)∫e^x + (f´´(0)-f´(0))∫^2e^x + (f´´´(0)-f´´(0))∫^3 e^x + (f´´´´(0)-f´´´(0))∫^4 e^x + ・・・
左辺はf(x)-f(0)だから、整理して次を得る。
f(x)=f(0) + f´(0)∫e^x + (f´´(0)-f´(0))∫^2e^x + (f´´´(0)-f´´(0))∫^3 e^x + (f´´´´(0)-f´´´(0))∫^4 e^x + ・・・
よって、目標の式が導出できた。
[終わり]
再度、二式を書いておく。
f(x)=f(0) + f´(0)∫e^x +(f´´(0)-f´(0))∫∫e^x + (f´´´(0)-f´´(0))∫∫∫e^x + ・・
f(x)=f(0) + f´(0)∫e^(-x) +(f´´(0)+f´(0))∫∫ e^(-x) + (f´´´(0)+f´´(0))∫∫∫e^(-x) +・・・
後で気づいたことだが、これはマクローリン展開と本質的に同値である。よって新しい展開式(当初そう思ったが)では
ない。ただし、形は興味ある形をしており、有用な応用があるのかもしれない。
さらに、上記二式を辺々足し合わせて2で割ると次式が得られる。
f(x)=f(0) + f´(0)∫cosh(x) - f´(0)∫∫sinh(x) +f´´(0)∫∫cosh(x) -f´´(0)∫∫∫sinh(x)
+ f´´´(0)∫∫∫cosh(x) - f´´´(0)∫∫∫∫sinh(x) + ・・
ここでハイパボリックコサインcosh(x)、ハイパボリックサインsinh(x)は、cosh(x)=(e^x+e^(-x))/2、sinh(x)=(e^x-e^(-x))/2。
このような形でも表現できる。
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