トリトン彗星 その4

 奇数ゼータζ(2n+1)の非明示性と微分方程式の関係を調べた。
奇数ゼータ問題を微分方程式の問題に還元した >
偶数ゼータの場合 >



2008/9/11          < 奇数ゼータ問題を微分方程式の問題に還元した >

 「その1」の< 奇数ゼータの研究 その1>で、ζ(2n+1)の明示・非明示の問題と微分方程式の関連を示唆した。
そこでは示唆しただけで別の考察を行ったわけであるが、ここでは奇数ゼータと微分方程式との面白い関連性がある
ことを示したい。

 < 奇数ゼータの研究 その1>で次のように述べた。再掲する。
**********************************************************************
[まとめ2]
3回微分してlog(2sin(x/2))になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)が明示的に求まる。
5回微分してlog(2sin(x/2))になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)、ζ(5)が明示的に求まる。
7回微分してlog(2sin(x/2))になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)、ζ(5)、ζ(7)が明示的に求まる。

 一般的に表現すれば、次のようになる。n>=1の整数。

(2n+1)回微分してlog(2sin(x/2))になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)〜ζ(2n+1)が明示的に求まる。

 「3回微分してlog(2sin(x/2))になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)が明示的に求まる。」
をとり上げると、それは
 y´´´=log(2sin(x/2))
となるような初等関数yがあるか?
という問題と同じことだから、結局は微分方程式の問題であるともいえるが、それは後回しにして、次では「まとめ2」を
さらに考察したい。
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  これだけでも非常に面白い事実であるといえるが、これを一歩進めたい。「後回しに」したことをここで行う。

 その前に簡単化を行っておこう。以降はlog(2sin(x/2))を使う代わりに、log(sinx)を使う。議論上、本質的にはどちら
でも同じなのであるが簡潔なlog(sinx)の方を使うことにする。

まず「3回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、・・」の問題を取り上げよう。
これは上で述べたように、
y´´´=log(sinx)となる初等関数yが存在するか?という問題と同じである。

 y´´´=log(sinx)
この両辺をさらに1回微分して
    y´´´´=cosx/sinx     ----@
@の両辺を2乗して、
  (y´´´´)^2=(cosx)^2/(sinx)^2
つまり、
 (y´´´´)^2=1/(sinx)^2 - 1      ----A
となる。
 @をさらに1回微分して
   y´´´´´=-1/(sinx)^2          ----B
 AとBから、sinxを消して
  (y´´´´)^2 + y´´´´´=-1      ----C

 微分の「´」が見難いので、D^nyを「yのn回微分」としてCを書き直すと次のようになる。

  (D^4y)^2 + (D^5y)=-1    ----D

すなわち、y´´´=log(sinx)となる初等関数yが存在するか?
(D^4y)^2 + (D^5y)=-1の微分方程式に初等関数yの解が存在するか?という問題と同じなのである。

次に、「5回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、・・」も、上と全く同様にして、
(D^6y)^2 + (D^7y)=-1の微分方程式に初等関数yの解が存在するか?という問題と同じになる。

「7回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、・・」も、当然ながら、
(D^8y)^2 + (D^9y)=-1の微分方程式に初等関数yの解が存在するか?という問題と同じとなる。

以下も同様に続く。

さらに偶数回微分にも問題を拡張できる。奇数ゼータの研究 その1での考察から、
 4回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)の明示性が言える。
 6回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)、ζ(5)の明示性が言える。
 8回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在すれば、ζ(3)、ζ(5)、ζ(7)の明示性が言える。
    ・
    ・
ということが明らかに言えるので、結局、奇数ゼータの明示・非明示問題は、
 n回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在するのか?
という問題と密接に関連しているのである。

 上の一連の微分方程式は、パンルヴェ方程式にすこし似た
       y^2 + y´=-1        ----E
に関係しているのは明らかである。なぜなら、例えば、yをy´´´´に置き換えるとD(C)になるからである。
つまり、奇数ゼータ問題は、
     (D^ny)^2 + (D^(n+1)y)=-1      ----F

の微分方程式の解の存在に関係している。ところで、n=0の場合(これはEだが)の一般解は、
   y=cos(x+C)/sin(x+C)     ----F-2

となる。Cは任意定数。
 またn=1の場合、Fは
     (y´)^2 + y´´=-1       ----G

となるが、この一般解も簡単にわかり、
     y=log(sin(x+C1)) + C2    ----G-2

となる。C1とC2は任意定数。
 Fの「n回微分してlog(sinx)になるような初等関数が存在するのか?」という問題では、
なんとn=0、1の場合では、初等関数yの解が存在するのである!!(F-2とG-2を見よ)

ではn=4の場合はどうなのだろうか?
これはD(C)の微分方程式に対応し、もし初等関数の解yがあれば、ζ(3)は明示的に求まることが言えてしまうので
あるが、はたしてそんな解は存在するだろうか?
n=6の場合はどうか?そして、n=8は・・と問いが続くが、
そんな解は存在しないに違いないということが「その1」の奇数ゼータの研究 その2>でわかったことである。
ここでの考察と奇数ゼータの研究 その1奇数ゼータの研究 その2>の考察から、非常に面白いことがわかって
きたといえよう。

 さらに上記「偶数回微分してlog(sinx)になるような初等関数が・・」の問題は、
cosx/1^3+cos2/2^3+cos5/5^3+・・   ---H
cosx/1^5+cos2/2^5+cos5/5^5+・・
cosx/1^7+cos2/2^7+cos5/5^7+・・
   ・
   ・
などのフーリエ級数の公式が公式集にないということに対応し、「偶数回微分して・・」の場合も「奇数回・・」と全く同様
のことが言えるのである。(Hだけは書いてはあるが、∫が混じるという明示的な表示ではない!)
またFのn=2と3の場合では、対応するフーリエ級数公式が公式集で非明示表示で記載されていることから、n=2と3
の微分方程式では初等関数yの解は存在しないはずとわかる。

 以上をまとめると、次のようになる。

[まとめ]
**************
 y^2 + y´=-1 --> 初等関数y=cos(x+C)/sin(x+C)の解あり
 (y´)^2 + y´´=-1 --> 初等関数y=log(sin(x+C1)) + C2の解あり
 (y´´)^2 + y´´´=-1 --> 初等関数の解なし
 (y´´´)^2 + y´´´´=-1 --> 初等関数の解なし
 (y´´´´)^2 + y´´´´´=-1 --> 初等関数の解なし  <--もしあればζ(3)が明示的に求まる!
 (y´´´´´)^2 + y´´´´´´=-1 --> 初等関数の解なし  <--もしあればζ(3)が明示的に求まる!
 (y´´´´´´)^2 + y´´´´´´´=-1 --> 初等関数の解なし  <--もしあればζ(3)とζ(5)が明示的に求まる!
   ・
   ・
となって、初等関数の解があるのは一番目と2番目の二つだけなのである!
D^(n)をn回微分とすると、 
  (D^(n)y)^2 + D^(n+1)y=-1
n>=2では永遠に初等関数解なし!(予想だが正しいはず)となる。ζ(3)、ζ(5)・・の非明示をいうにはn>=4で十分。

 初等関数の解があるのは二つだけというのはとてもふしぎである。
フェルマーの最終定理はn>=3で解なしだが、奇数ゼータ問題では微分方程式で同じようなことになっているのである。
**************

 「上記微分方程式の初等関数解が存在すること」は、「ζ(2n+1)が明示的に求まること」の十分条件となっていること
に注意いただきたい。ζ(2n+1)の明示をいうには、初等関数解(特解でOK)があれば十分!ということ。

記号的に書けば、次のようになる。
 上記微分方程式(n>=4)での初等関数解が存在する。 ---> ζ(2n+1)が明示的に求まる。        -----I
対偶をとれば、
 ζ(2n+1)が明示的には求まらない。 ---> 上記微分方程式の初等関数解は存在しない。
となる。
 Iの逆が成り立つのかどうか現時点ではわからない。おそらく成り立つのではと思うが、示せていない。


 この[まとめ]のところだけを、数学の巨人・佐藤郁郎氏に先にメールで知らせた。すると、佐藤氏はすぐにこの部分を
当サイトに書く前に氏のサイトで紹介してくださった。
-->http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/656_s28.htm

 パンルヴェ方程式については佐藤氏の記事「最大値分布について(その2)」を参考にされたい。
-->http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/279_max.htm



2008/9/13               < 偶数ゼータの場合 >

 では偶数ゼータζ(2n)ではどうなのか。その場合は、当然ながら初等関数yがあるということになる。
 それは当たり前すぎるので詳しくは書かないが、もし
奇数ゼータ問題を微分方程式の問題に還元した奇数ゼータの研究 その1>と<奇数ゼータの研究 その2
の三つと同様のことをζ(2n)で行った場合(nは2以上の整数)、どうなるか。結論的なことだけ書く。
 
y´´=(π-x)/2となるような初等関数yがあれば、ζ(2)は明示的に求まる。
y´´´=(π-x)/2となるような初等関数yがあれば、ζ(2)は明示的に求まる。
y´´´´=(π-x)/2となるような初等関数yがあれば、ζ(2)、ζ(4)は明示的に求まる。
y´´´´´=(π-x)/2となるような初等関数yがあれば、ζ(2)、ζ(4)は明示的に求まる。
   ・
   ・
となる。
 これらの初等関数のyは当然存在するし、すぐに求まる。よって、すべてのζ(2n)は明示的に求まる。

 オイラーが、まず最初にζ(2)の正体を探ったのは幸運なことであった。ζ(3)を最初にかかっていたらたいへんなこと
になったろう。オイラーは
 苦闘の末にζ(2)=1+1/2^2+1/3^2+・・・=π^2/6
を発見。円周率が現れたのを見てたいへん喜んだ。そしてζ(4)=π^4/90、ζ(6)=π^6/945・・を見出していく。
しかし、こんな幸運が現れるのは偶数の場合のζ(2n)だけである

 テイラーシステムでζ(s)を深く探求した結果、sが1より大きい実数とすると、(大雑把な書き方をすれば)
    ζ(s)=ζ(s)の無限和
となる。
 そしてsが2,4,6などの場合だけ自明な零点によって非常に特殊なことが起こり、ζ(2)、ζ(4)、ζ(6)・・が明示的に求
まってしまう。
 しかしζ(31/2)やζ(√2)やζ(e)などその他無数の値は、明示的な表示にはならない(厳密には予想)。
よって偶数を除く実数sでのζ(s)値に対応する微分方程式をζ(2n+1)類似の考察から構成した場合、それらの初等関
数解もまた存在しないはず!となる。

 ζ(2)=π^2/6などは極めて特殊なものなのである。これを最初に見てしまった人間はζ(2n+1)も明示的に求められ
ないかと思うようになり今日に至る。(オイラーはζ(3)の「∫が混じった非明示表示式」までは求めた)

 ζ(2)、ζ(4)、ζ(6)、・・は、自明な零点の力により地上界に降ろされた一連の花といえる。
大部分はゼータ世界に居座ったままだ。

 なおテイラーシステムでの結果に関しては「百武彗星」〜「ワータネン彗星」を参照。-->「ゼータ系の彗星群




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