おいちゃんとカーくん、1人と1匹劇場 番外編   ナポレオン・ボナパルトは実在したか?  
 
     (‥ )・・・・・うーむ
     □`
 ∧∧
( ‥)どうしました?、おいちゃん? 
 
         
     (‥ )無数の文章や遺跡がナポレオンという人物に言及している
     `   ここから、”おそらくナポレオンという人物は実在しただろう”という結論を導き出す。
         これ、アブダクションなんだそうだ。
 
 ∧∧
( ‥)へー、なんか意外。演繹や帰納ではそういう結論は導けないの?  
 
 
     (‥ )難しいんじゃないか?。例えばナポレオンの実在をこのように演繹したとしよう
     □`  この本に書かれていることはすべて真実だ
         この本にはナポレオンが実在したと書いている
         ゆえにナポレオンは実在した。
 
 ∧∧
( ‥)でも内容のすべてがまったくの事実のみの本って経験的には怪しいですよねえ。
 
 
     (‥ )そうだよなあ、この本を読んで、そこに一ケ所でも間違いが確認できたら
      ´□ この前提がそもそも崩れちゃうだろうしなあ・・・
 
 ∧∧
( ‥)じゃあ帰納ではどうなのかな?
 
 
     (‥ )文献Aはナポレオンに言及している、文献Bはナポレオンに言及している
         もしそうであったとしても、ここから帰納で導ける答えってさ、せいぜい
         文献はナポレオンに言及している。それだけじゃないかな?
 
 ∧∧
( ‥)そうなりそうですね・・・・。
 
 
 そもそもすべての文献がナポレオンに言及しているわけではないのだから、
 枚挙帰納法では文献のなかにはナポレオンに言及したものがある、と結論づけるのが精一杯ではなかろうか?? 
 
 
     (‥ )演繹や帰納では文献や遺跡からナポレオンが実在したという答えは
         確かに導けなさそうだよ
 
 ∧∧
( ‥)だからアブダクションであると・・・・。でもその仮説をどうすれば確かめられるの?
 
 
 
     (‥ )そうさなあ、ナポレオンに言及した文献や遺跡が申し述べていることは
      ´  同じ人物のことなのだから、ゆえにそれらはおよそ整合的であろうと予想するとか
         我々が知っている文献は過去に存在したもののすべてではないだろうから
         よく探せば文献の隙間を埋める新しい資料が見つかるであろう、そんな感じかな?
         
 ∧∧
( ‥)なんか話が進化論みたいになってきましたね。
 
 
 
     (‥ )うーん、どちらも歴史科学だから当然かもしれないな。ただ生物全般に関する理論である進化論よりも
         ナポレオン個人に関する事柄の方が難しい面があるのかもしれないよ。
         彼個人の人生や人格を実験したりシュミレーションしたりできないだろうし・・・・。
 
 
 ∧∧
( ‥)まあ歴史上一回きりの個人に関することですからね。
 
 
 
 でっここまで考えてふと思ったのだけど。
  
 
     (‥ )ナポレオンもさることながら神さまの存在も帰納や演繹じゃ導けないのじゃないかな? 
 
 ∧∧
( ‥)神様はアブダクションだってことですか?、そうかなあ?? 神さまを導くのは帰納や演繹じゃ無理ですかね?
 
 
 
     (‥ )無理じゃないか?。例えば神様は世界の一部Aを創造した、Bを創造した・・・・
         ということを観察したのなら神様は世界を創造した、と帰納的に言えそうだけど。
 
 ∧∧
( ‥)うーん、神様が世界を創っているところは見たことないですからね。
 
 
     (‥ )そもそも神さまを見たことないしね・・・・。Aさんが神さまをみた、Bさんが・・でも
         だめだろうなあ。それじゃあ、人間は神さまをみた、としか言えない。
 
 ∧∧
( ‥)見たもののすべてがあるわけではないですからね。うーん。たしかに帰納、つまり枚挙帰納法で
    神さまの存在を導くのは無理そうですね。じゃあ演繹ではどうなの?
 
 
     (‥ )一体なにからどう演繹すれば神さまが導き出せるかってのが、そもそもの問題だな。
     `
 
 ∧∧
( ‥)でも・・・、例えばデカルトさんは神様を演繹したんでしょ?。我思うゆえに我あり、この結論から
    考えている我を創造した存在である神さまを演繹したんだよね?
 
 
 
     (‥ )どうやったのかなあ? ひとつには、考えている自分を作るには自分よりもより高次な知性が
     □`  存在し、自分を創った、そういう論法を使っているようだが・・・。
         例えば、精巧な機械の観念を持つ人の、その観念はどこからきたのか?
         より完全なものが、完成度の低いものから産出されることはない、そういっているからね。
 
 ∧∧
( ‥)つまり、すべてのより単純なものはより複雑で高次なものに作られた。
    ゆえに人間はより高次なものに作られた。そういう論理ですかね?
    なんかよさげじゃありません?。
 
 
     (‥ )そうかなあ?単純な公式から複雑怪奇な模様をつくり出すこともできるし
      ´□ 進化アルゴリズムを用いて人間がこれまでした発明を再発見したりできるわけだろう?
         すべてのものがより複雑なものによって作られたわけではないぞ。
 
 ∧∧
( ‥)うーん、するとすべてのものはより複雑で高次なものによって作られた、
    という前提がそもそも成り立たないということですか
 
 
     (‥ )うん、だとすると少なくとも、こういう前提から神さまを演繹することは
         できないってことになりそうだ。あるいは演繹できるか怪しそうだな。
 
 ∧∧
( ‥)でも、プログラムを作ったのは人間でしょ?。進化アルゴリズムそれ自体が独力で発明することができても
   ´それを作ったのは人間ていう知性だよね?
 

     (‥ )いやあ、それはむしろ究極の原因がなにかって話じゃないか?
         原理が最初にありきで十分、原理さえ世界に現われればそれでいい。
         少数の単純な原理から世界を導けるのなら知性も神さまも必要ないじゃんよ
         もしもそう言われたら、どうするね。
 
 ∧∧
( ‥)なるほど。複雑なものを作る方法は知性だけでないし、
    原理に知性が介在する必要もないってことをいいたいわけですね。
 
 
     (‥ )ようするに世界や人間の観念から、それを創造したより高次な知性、
         そういう結論を導くことは必然ではないってことなわけだ。
         たとえば複雑なものを自立してつくる単純な原理さえあればいいわけだよ。
 
 
 ∧∧
( ‥)にゃあ、もしそうだとすると演繹でもないのにゃあ。だとすると神さまもアブダクションだってことなの?
 
 
     ( ‥)そうだと思うんだよね。世界という驚くべき秩序だったものがある。この驚くべきものとは何か?
        ´そこで次ぎのような仮説を考えた。
         これら驚くべき秩序を作った人間よりもはるかに高次な知性、全知全能の神が存在する。
         この神という仮説は世界の驚くべき構造を説明できる。
         こういうことじゃないかな?
 
 ∧∧
( ‥)うーん、世界を説明するために人間が帰納でもなく演繹でもない霊感で導いたもの
    それが神というわけですか。でも、なんか仮説としてはよさげに聞こえますけどね。
 
 
 
     (‥ )うん、直感的にはとてもよさげなんだよな。すくなくとも人間の霊感とは
         もともと神を導くものなのかもしれない。
 
 ∧∧
( ‥)じゃあどうして創造論は進化論にその座をゆずってしまったの?
 
 
     (‥ )たぶん・・・創造論自体は仮説演繹の過程で失敗したんじゃないかな?
 
 ∧∧
( ‥)はあ、どこがです?
  
 
     ( ‥)アブダクションであれなんであれ、なんらかの形で導かれた仮説、あるいは理論で予言を行なう
        ´そしてそれを検証する。例えばデータを集めることで最初の理論を帰納的に検証する。それが仮説演繹。
 
 ∧∧
( ‥)それはわかってますよ。それで?
 
   
     (‥ )神さま理論からどういう結果が予言できる?
 
 ∧∧
( ‥)・・・・・・・ええっとうまく世界ができているとか?
 
 
 
     (‥ )あるいは神さまは慈悲深く世界をお創りになられたとか・・・
 
 ∧∧
( ‥)そうですね
 
 
     (‥ )でもさ・・・・、それって神さまのパーソナリティーが組み込まれた予想だよね?
 
 ∧∧
( ‥)神さまは慈悲深い方であるから世界を慈悲深く創った・・・・・
    うーん、確かに言われてみればそうですねえ。
 
 
 
     (‥ )そこがそもそも問題かもしれない。
         例えばさ、神さまの性格とかパーソナリティーとか詳細に設定されているか?
         ようするに正確な予言ができる程度に設定されているかい?
 
 ∧∧
( ‥)いや・・・おそらくそうではないでしょうね。
 
 
 
     (‥ )たぶんこれが第1の不利な点じゃないかな?
     `   つまり予言しようにも神さまという仮説がアバウトなので
         正確な予言ができない。
 
 ∧∧
( ‥)うーん。だから神さま理論はダーウィンの進化理論に敗北したと?
 
 
 
     (‥ )少なくとも予想に関していうと、ダーウィンの進化理論に基づけば
         生物界の構造をもっと積極的に詳しく、なおかつ機械的に予言できるだろう?
         近隣のもの同士が似ているとか、生物の体系が入れ子構造になるとか。
 
 ∧∧
( ‥)そうですね、確かにダーウィンさんの理論の方が予言能力が高いですね。
   ´でもそれは同時にリスキーなことなんでしょ?
 
 
 
     (‥ )うん、厳密な予言をするとはずれる可能性が高くなるからね。
     `   でも逆にいうとだ、この点に関してダーウィンの進化理論の方が
         科学的にはよりよい仮説だってことになるな。
 
 ∧∧
( ‥)検証しやすいからですね。ところで神さま理論よりもダーウィン理論の方がいいのは
    他にもあるの?
 
 
     (‥ )予言を支持するデータがたくさんあることだろうなあ
 
 ∧∧
( ‥)ああ、生物界の入れ子構造や同じ祖先から受け継がれたと思われる遺伝の存在。
    発見がされるたびに既存の生物群の間を確実に埋めていく中間的な化石群とかですね?
 
 
     (‥ )うん。生物の進化の配置は、そのなんだ、いわゆる半順序集合と呼ばれるようなものだろうから
         中間という言い方はたぶん不正確だが、いずれにせよ、その配置を埋めるようなものがでてくるよなあ
 
 ∧∧
( ‥)ほかにも実験的に確かめた例もあるんでしょ?
    野外における遺伝子頻度の変動とか、実際の淘汰とか
 
 
 
     ( ‥)そうなんだよな。ひるがえるに神さま理論の方はどうだろうか?
         予言にあまり具体性がないというのも原因だろうが
         神さま理論をサポートする事例がほとんどないようだよね
 
 ∧∧
( ‥)うーむ、するっていうと神さま理論は予言を演繹する過程やデータを集める帰納の過程で
    失敗したということなの?
 
 
     (‥ )たぶんね。だから宇宙論や物理学から、さらには生物学から神さま理論は
     `   姿を消したんじゃないかな。
 
 ∧∧
( ‥)むう、仮説演繹という科学の過程でライバルの仮説にその座をゆずらざるをえなかったということなのにゃ
 
 
     (‥ )もちろん、神はダーウィニズムに基づいて世界を構築したと考えてもいい
     `   逆にいうとダーウィンが明らかにしたのは神が世界創造のさいに用いたアルゴリズムであった
         そう解釈することもできる。
 
 ∧∧
( ‥)はあ、でも最節約にはそういう解釈は支持されないんでしょ?
    余計な仮定をはぶくのがいいというのならダーウィニズムだけでいいのであって
    神さまの存在意義はそもそもなくなっちゃいますよねえ。
 
 
     (‥ )そうだろうね。それにしてもなあ・・・・
     □`  おいちゃんにはずっと考えている疑問がひとつあるんだ。
 
 ∧∧
( ‥)なんですか?
 
 
     (‥ )我々は斉一性原理とか最節約原理とかでものを考えているだろう?
 
 ∧∧
( ‥)考えていますね
 
 
     (‥ )これがなければ昨日と今日の性質が同じあろうとか、無限の仮説のなかから妥当と思える
     `   仮説をチョイスすることができない・・・。
 
 ∧∧
( ‥)はあ、だから
 
 
     (‥ )最節約原理で考えると自然界を理解する過程において
         神さまが仮定として必須でなくなってしまう。
         これは一体どういうことなのかな?
 
 ∧∧
( ‥)えーっと・・・・、我々の霊感は神という仮説をチョイスするが
    我々の知性そのものは神が存在する必要性を否定してしまうってこと?
 
  
     (‥ )なぜ神に創られた我らの脳は神の存在を最節約でないとして否定してしまうのだ?
     `
 
 ∧∧
( ‥)・・・・・・
 
  
     (‥ )昔この質問をある創造論者の人に問いかけたことがある。かれの答えは、
         知恵の実を食べ、楽園追放されたさいに生じた魂のゆがみ、というようなものだった。
 
 ∧∧
( ‥)はあ、まあ、説明にはなってますね。
 

     (‥ )説明にはなっているけどさ・・・・。事態はより深刻ではないだろうか?
         最節約な考えってのは科学のみならず日常でもごく普通に使っている考えだ。
         そういう考えを用いていながら僕らが現実世界でうまくやっていけるとはどういうことか?
 
 ∧∧
( ‥)いやあ、知性で考えるとおかしいけど生きていく時に便利な考え方ってあるじゃないですか。
   ´例えばほら、獣とか鳥さんとかお魚さんってカテゴリーがそうでしょ?。あれってあきらかに
    狩猟や調理のための概念だけど、現実の生物界の構造をきちんと反映していないじゃないですか。
 
 
     (‥ )使い勝手のいい便利な概念だけど、しょせんは人間の作ったものであって現実とは違うってわけだな。
 
 ∧∧
( ‥)だから最節約で考えているからって世界が最節約に構築されているとは限らないでしょ?
 
 
     (‥ )でもその理屈を成り立たせている生物界の構造を明らかにする方法論では
         しばしば最節約が使われているぞ。おかしくないか?
 
 ∧∧
( ‥)むう・・・・。
 

     (‥ )神さまが世界を作った。しかしその世界を理解し操作する考え方で考えると
         神さまの存在が支持されない。これはどういうことか?
 
 ∧∧
( ‥)にゃあ??、神さまが作った世界を理解しようとすると神さまの存在が必要でなくなるってこと?
 
 
 
     (‥ )よくわからないんだよね。神は自らの存在を観察から導けないように世界を構築したのか?
     `   あるいは神は世界創造のさいに自らの痕跡を可能な限り抹消したのか?
 
 ∧∧
( ‥)そもそも世界は最節約に構築されているのかどうか?ってことが問題では?
 
 
 
     (‥ )これ、難しい問題だね・・・。
      
 
 ∧∧
( ‥)そうですねえ 
 
 
 
 以上の会話の内容が妥当かどうかはともかくとして、細々した個々の事柄に関して参考にした文献は、
「哲学原理」デカルト 岩波文庫
「グラフ理論」O.オア 河出書房
「生物系統学」三中信宏 東京大学出版会
「パースの記号学」米盛裕二 勁草書房
「過去を復元する」E.ソーバー 蒼樹書房
「種の起原」 ダーウィン 岩波文庫
 発明家においついた遺伝的プログラミング コーザ、キーン、ストリータ 日経サイエンス2003.05

 なお、これらの参考文献は以上の会話の内容に関しては、特に関係ありません、  
 
 
 因果関係 <工事中(中身なし)
 
 
 科学のコンテンツへ戻る→