分岐学(Cladistics:あるいは分岐分類学)とは具体的にどういうことをするのか?
共通祖先 共有派生形質 分岐図 共通原因から進化を探る
このコンテンツは2007年1月と9月に大幅に書き直ししました、前の文章を読みたい方はこちら。
わらし:じゃあこれから分岐分類学の説明をするだよ。
ミラ:はあ・・・・なんで語尾が田舎言葉?
わらし:気にするな。分岐分類学は分岐学ともいうだ。というか最近は分岐学という呼び方が一般的になってきているだな。
ミラ:ふーん・・・・それにしても分類学っていうからには分岐分類学は分類学の一種なの?
わらし:いや、そうではないな。そこらへんの詳しい話はこっちでするだが、まあ簡単にいうと分類学は生物を整理整頓する学問で、分岐学は系統解析の一種だ。ようするに2つはぜんぜん違うものだな。ごっちゃにしてはいけないだ。
ミラ:ええっと・・・・”けいとう、、かいせき”?
わらし:系統解析とは系統を解析することだよ。
ミラ:お前・・・・、それが説明か?
わらし:へいへい。まず系統というのは生物の血縁関係のことなのよ。あの生物とこの生物が祖先と子孫の関係にあるとか、この生物とあの生物が兄弟姉妹のような関係であって近い親戚であるとか、そういうもののことよ。それが系統ね。
ミラ:ええっと・・・具体的には?
わらし:例えば私たち人間に一番近い動物はチンパンジーよね。人間とチンパンジーは数百万年前に同じご先祖さまから進化した。具体的に書き出すと、
_祖先__チンパンジー
|__人間
ということになるわけよ。これは次ぎのような人間の血縁関係となんとなく同じものね。
__親__姉
|__妹
ミラ:ふーん、ようするに人間とチンパンジーは姉妹のような関係にあるってわけね。
わらし:うんだ、こういう関係を”AとBは姉妹関係にある”と表現するだ。この場合にはチンパンジーと人間は姉妹関係にあるというわけだな。これがチンパンジーと人間の血縁関係、ひいては系統関係というわけだ。
ミラ:はあ、まあなんというか・・・・分かったような分からないような・・・。
わらし:まあ直感的でもいいから分かったことにするだ。先に進むぞ。そして生物どうしがどんな血縁関係にあるのかを具体的に調べること、それが系統解析ってわけよ。
ミラ:具体的には?
わらし:ワラビとヒマワリ、どっちがタンポポの親戚だ?
ミラ:その疑問を調べて答えを出すことが系統解析なの?
わらし:そういうことだな。
ミラ:なるほどね。つまり分岐分類学は系統を解析する方法、つまり生き物の系統関係を調べる方法なのね?
わらし:そうね、分岐学は生物どうしがどんな関係にあるのか? 生物が具体的にどのように進化してきたのか? それを探る方法であり、系統解析の一種なのよ。だから分類学じゃないわけよね。世の中には分岐学と分類学をごちゃまぜにして理解が散らかる人も多いけどさ。
ミラ:誰が考えだしたの?
わらし:1950年、ドイツの昆虫学者Hennigさんね。
ミラ:Hennigってどう読むのかしら?
わらし:表記は本によってばらばらだなあ。発音も国によって違うだよ。
ミラ:なんで?
わらし:Hennigさんはドイツ人だけど英語圏の人は英語発音で読むからな。昔、ドイツ人にHennigってどう読むんだ? と聞いたらヘニンと言っていただ。末尾のgがあるせいか最後が少しにごる感じかな? ヘニングと表記した方がいいかもしれないだ。ドイツも地方によって発音が違うし、それに英語読みとかもあるからヘーニックとか、ヘニッヒと読んだり表記したりする人もいるだよ。ヘンニッヒと読む人もいるしヘーニッヒというのもあるだ。
ミラ:ややこしいわね。
わらし:まあな。ともかくヘニングさんの考えた分岐学は、今では遺伝子や形態データに基づいて生物の進化を探ることに広く使われているだ。英語ではCladistics :クラディスティクスというわ。じつは分岐学というのは分子系統学でいう最節約法:most parsimony method(あるいはmaximum parsimony method )と同じものなのよね。
ミラ:さいせつやくほう??
わらし:遺伝子をデータにして系統解析する時に使う方法のひとつね。最節約法は分岐学と同じものなのよ。このことを覚えておきなさいよ。分岐学と最節約法が違うものだと思っていると、
なんていうとんでもない勘違いをして、そのうち赤っ恥をかくことになるぞ。
ミラ:はあ、さいですか。でっ、分岐学ではどうやって血縁関係を調べるわけ?
わらし:まず頭に入れなくちゃいけないことは
:生物種どうしの血縁関係は生物が進化する過程でできる
ってことよね。だから分岐学の基本原理にはそうした生物進化の原則が盛り込まれているわけなのよ。
ミラ:なんで?
わらし:進化の過程で出来たものを解析する手段に、進化の様相をとりこまなくてどうするだ?
ミラ:いわれればそうか。でっ、どんなことが取り込まれているわけ?
わらし:そもそも、生物が進化する時、次ぎのようなことが起こるわけよ、まず、
1:生物の特徴は祖先から子孫に受け継がれる。つまり遺伝する。
ちょっと乱暴な言い方をすると、まあようするに子供は親に似るってやつね。
ミラ:いや、それはいけどチョンマゲって何よこれ? 架空にしてもずいぶんふざけた生物ね・・・・・
わらし:気にするな。もうひとつの原則はこれだな
2:ひとつの祖先から幾つかの子孫が進化する。
これはようするに家系が枝分かれすることを考えればいいだな。そもそも人間とチンパンジーが姉妹関係にあるのもこのためだ。
ミラ:ああ、なるほどね。ようするに本家から分家が出るとかそういう感じ?
わらし:どっちが本家/分家ってことはないが、まあそういうこっちゃ。くわしくは適切な参考書か、例えば「種の起原」を読めばいいだよ。さて、以上2つの原則から次の結論が導きだされるだ。すなわち、
3:同じ祖先から進化した子孫は同じ祖先から同じ特徴を遺伝によって受け継ぐだろう
こういうわけだな。
ミラ:ええっと、そうなりますかね?
わらし:そうなるだろ?
ミラ:そうかしら?
わらし:考えるだ。ひとつの祖先から幾つかの子孫が産まれる。祖先がある特徴を持っていたら当然、それは子孫たちにそれぞれ伝わる。だから同じ祖先から進化した子孫なら、どれも同じ特徴を遺伝で受け継ぐことになるわけよ。
ようするにこうなるわけね。
ミラ:なるほどねえ。ここではご先祖さまから産まれた2つの生物が、姿かたちはちょっと違うけど、どっちもチョンマゲを受け継いでいるわけね。
わらし:無精髭なおっさんザムライから浪人とお殿様が進化しただ。2種類の生物はいまや別々の場所で生活し、顔をあわせることもないぐらい違っているが、どっちも共通のご先祖さまからチョンマゲを遺伝で受け継いでいるわけだな。
ミラ:なんか漫画とはいえ悲しい進化ねえ・・・・・
わらし:さてここで応用よ。これを逆に考えればこうは言えないかしら?
4:ある生物、例えばAとBがどちらも同じ特徴を持っているのなら、AとBは共通のご先祖様から進化してきたと考えることができる
ミラ:はい?
わらし:こんな感じだな。地球には何種類もの生物がいるだよ。そういうあまたの種族はいずれ滅びる運命にあるだ。
ミラ:厳しい話よね。
わらし:まーな、でだ、オラたちは浪人とお殿様は知っているが、それを生み出した祖先は知らないとするだ。
ミラ:おっさんザムライは滅びてしまったわけね?
わらし:そういうこっちゃ。でも浪人とお殿様はどっちもチョンマゲを持っているだ。そこから滅びてしまったご先祖さま、つまり”おっさんザムライ”がいたことを推測できるだよ。
ミラ:ご先祖さまを直接知っているわけじゃないのに、そんなことができるの?
わらし:そりゃあできるさ。十分なデータがあれば今は手にしていないものも再現/推測できるだよ。さもなければ過去のことなんていっさい分からないだ。浪人とお殿様には共通の特徴チョンマゲがある。両者はすむ場所も習性も違うが、じつは共通のご先祖様がいたのではないか? 共通の特徴であるチョンマゲはそのご先祖様から受け継いだに違いない、ってそう考え推測するわけさ。
ミラ:共通の特徴を持っているから同じご先祖様から進化したと考えるわけね?
わらし:そういうこっちゃ。ちなみにこれは共通の現象には共通の原因があるに違いない、という非常に基本的な推測/推論でもあるわけなんだがな。
ミラ:???
わらし:お前の持っているイアリングと同じものをオラも持っているだよ。なんでだ?
ミラ:そりゃあ、同じ店で買ったか、同じメーカーの商品だからだろ?
わらし:ようするに共通のイアリングが存在するのは共通の原因があるに違いないってわけだな。それと同じだってこっちゃ。
ミラ:ああーーなるほど・・・。えっ? ちょっと待ってよ。じゃあ共通の特徴があるから同じご先祖さまがウンヌンってそういう日常的な話と同じことをしているわけ??
わらし:そうだよ。なにかいけないか?
ミラ:いや、いけなくはないが・・・・、科学って日常から逸脱したもっと高尚なものかと・・・。
わらし:科学は日常よりも厳密ではあるが逸脱はしないだろうな。日常が現実だというのなら現実から逸脱した科学ってなんだよそれ。
ミラ:いわれればそうか。
わらし:でな、こういう共通の祖先がいたことを暗示する特徴を共有派生形質というだ。
ミラ:きょうゆう・・・はせいけいしつ??
わらし:異なる生物が共通して持っているから共有。形質とは生物の特徴(キャラクター)のことだな。
ミラ:派生というのは?
わらし:派生的の派生だが、新しいって意味だと思えばいいだな。なぜ新しくなければいけないのかは次のコンテンツで話すが、共有派生形質というのはようするに、複数の生物が共通して持っている進化的に新しい特徴、のことだな。英語では、synapomorphy :シナポモルフィーというだよ。これが生物の系統関係を探る手がかりになるわけだ。
ミラ:ふーん、じゃあ浪人とお殿様のチョンマゲは共有派生形質、シナポモルフィーなのね?
わらし:そういうこっちゃ。
共有派生形質を持つ生物同士は結びつけられて・・・・・・
こういう関係図が描かれるだ。こうして描かれるのが分岐図だな。英語ではcladogram:クラドグラムというだよ。
ミラ:分岐図かー、でっ、これが系統関係を表しているわけね?
わらし:そういうこと。分岐図は家系図とか系統樹に二アリーイコールであると考えればいいだ。共有派生形質を見つければこうやって生物の系統関係が分かるだよ。
ミラ:でも・・・、どうやってそのなんだ、しなぽもるふぃーってものを見つけるわけ?
わらし:それが問題なんだな。じゃあそれは次のコンテンツで話すだ。
参考文献として:
「系統分類学入門ー分岐分類の基礎と応用ー」 E・O・ワイリー他 宮正樹訳 1992 文一総合出版
「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版
「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会
「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫
分岐学の入門書(のつもり)「恐竜と遊ぼう」はこちら^^;)→