ダーウィンの進化論

ダーウィンの進化理論とは具体的にどういうものなのか?

ダーウィンのアイデアはごく簡単なもので、以下のような事柄から成り立っています。

 1:遺伝する変異

*生物は同じ親から産まれた子どもであっても持っている性質や特徴が異なっている。例えば変異Aや変異Bがある。具体的には体の色の違い、体毛の長さ、体のほんのちょっとしたプロポーションの違いなど。ただしそうした特徴は遺伝するものであることが進化理論では必要である

 2:Struggle for existence :存続をめぐる争い

*いわゆる「生存競争」のこと。生物が生み出す子供のすべてが大人になれるわけではないし、子孫を残せるわけでもなく、その多くは死んでしまうこと。畑を雑草の生い茂るがままにさせておくと作物が負ける。さらに雑草も他の種類に負けて次々に交代することになる。生存競争は無視できない現実です。

 3:Natural selection:自然選択(あるいは自然淘汰)

*特徴Aを持つものが例えば1000分の1の確率で生き残るとする。一方、特徴Bを持つものは1000分の2の確率で生き残るとする。この場合、特徴Aを持つものがBを持つものよりも生き残りやすいのだから、世代が進むごとに特徴Aを持つものが数を増やすことになる。

  ダーウィンはこのわずか3つの事柄から自然界に見られるたくさんの生物と、その有り様がすべて説明できると考え、実際にそれを行いました。彼の画期的な著作「種の起源」において多数の具体例が示されていますから、より詳しく知りたい人は「種の起源」を読んでください(翻訳だけでなく、原文にもあたることが望ましいでしょう)。あるいは現在の進化学者たちのレポートや論文、教科書的なテキストなども参考になります。hilihiliのコンテンツ”種の起源を読む”でも参考文献や種の起源の簡単な紹介をしていますので、ご参考に。

 ダーウィンの進化理論は以上の通りで、これで充分です。しかしダーウィンが実際に説明しようとした事柄、説明の方法、論証の過程は非常に複雑で細かく具体的で多岐に渡り、しかも詳細です。生物界全体を説明したのですから当然ですね。以下はイラストも使ったもう少し突っ込んだ説明です。

 1:生物には変異がある

 以下に仮想生物ボクネンジンを考えます。ボクネンジンには体の色に変異、つまり暗い色と明るい色があるとします

 2:存続をめぐる争い

 生物が持つ変異にはしばしば”生き残って子孫を残す率”に違いがあります。例えばボクネンジンの色の変異には次のような違いが出ることが考えられます。

明るい環境、例えば砂地とか開けて乾いた草原にすむ場合、天敵に見つかりやすい暗い色をした変異は不利です。これが存続をめぐる争いの結果です。具体例としてはカタツムリ(モリマイマイ)の殻が以上の事例にあたります。住む場所と殻の色や模様によって”生き残って子孫を残せる率”に違いが出てくるのです。

 

3:自然選択

 以上のような場合、明るい色をした変異が有利なのでボクネンジンの集団から暗い色の変異はやがて消滅してしまうでしょう。こうした作用が自然選択です。また、もう少し別の状況を考えてみましょう。ボクネンジンの分布域に明るい場所と暗い場所があるとします。

 すると以上のように明るい場所、暗い場所でそれぞれ違う変異が増えることになるでしょう。具体的にはイワポケットマウスなどの例があります。自然界はどこも同じ状態ではありません。すると同じ種類でも場所によって違う変異が定着することになります。これが品種とか変種と呼ばれるものです。実際、同種とされる生物でも、詳しく調べると地域によって違いがあります。寒さに対応しているらしい変化が緯度を移るにつれて観察できたり、東日本と西日本では同種であっても違う変種が分布することはよくある話です。

 ダーウィンは自然選択が少しずつ変異を累積させていくことで、品種から変種が、やがて異なる種が誕生すると考えました。違いが積み重ねられることで種が誕生すると考えたのです。例えば次のような状態を考えてみましょう。

 

 4:Divergence of character :形質の分岐

 2つの種族、ダイケイとチョウホウがいるとします。ダイケイは平均すると背が高く、高いところのものを食べられます。チョウホウは平均すると背が低く、低いところのものを食べることに向いています。しかしどちらの種族も背丈には変異があります。一部の背の低いダイケイは低いところでも餌を漁れますし、一部のチョウホウはちょっと高めの場所の餌もとることができます。つまりダイケイとチョウホウは餌を採る高さがある程度、重複しているわけです。

 こういう場合、重複している背丈のものは存続をめぐる争いにおいて不利になります。ライバルと同じ高さのものを食べているのですから当然ですね。

 

すると、有利なのは背の高いダイケイと背の低いチョウホウです。するとダイケイとチョウホウの背丈は重ならないようになっていくでしょう。重複する背丈の変異が自然選択で排除されてしまったためです。この結果、ダイケイとチョウホウは以前よりもはっきりと違う種類へなっていきます。こうした現象はすでに知られていて、幾つも報告があります。ライバルになる種族がいない場所では変異が大きいのに、ライバルがいる地域では変異が小さくなるとか、あるいはライバルがいるといないでは分布に違いが出てくるといった証拠です。

 

 5:系統は分岐する

 こうしたことからダーウィンは生物の系統はお互いに違うものになるように変化し、枝分かれすると考えました。つまり系統が自律的に分岐して次々と新しい種族を生み出すと結論したのです。

ダーウィンのこのアイデアは画期的なものでした。なぜなら彼以前の人々は生物を下等/高等というように一直線に順位付けしたり、あるいはたくさんのまっすぐな系統が、ちょうど束ねられたパスタのように配置されていると考えていたからです。実際には生物は下等/高等で並べられるものではありませんし、束ねられたパスタでもありません。もしそうなら絶滅した種族がいるのですから、地球の生物は現在に近づくにつれてどんどん数を減らしてきたことになるでしょう。

 しかし実際にはそうではない。ダーウィンさん以前の進化論はあまり性能がよくなかったのです。

 ダーウィンはこうして多様な種族が入り交じる生物界の有り様を、たった3つの原則。遺伝する変異、存続をめぐる争い、自然選択によって説明しました。彼の理論は非常に単純で、なおかつ単なる事実だけから極めてうまく構成されています。これは未知の部品を使わずに、単純でなおかつ信頼性の高い機械を設計したことに例えることができます。そればかりか彼は種の起源の内部においてたくさんの証拠を集めてきました。彼は機械の設計だけでなく、建造と試運転も見事にこなしてみせたと言えるでしょう。

 ダーウィンの進化理論は神様が世界を作ったのだという創造論よりもはるかにうまく自然界を説明できました。また、ダーウィン以外の人が考えた進化論は理論の内部にブラックボックスがあったり、必要以上に複雑であったり、あるいは理屈がうまくかみあっていませんでした。生物がばらばらの系統の寄せ集めだと考えたり、一直線に下等から高等へと向かうのだという古典的な進化論は現実をうまく説明できません。こうしてダーウィンの進化理論は他の理論を圧倒して生物学の中心原理になりました。今ではもっとたくさんの証拠が集まっていますし、より詳細になっています。そしてダーウィンの発表以来、150年が過ぎた今でもその基本原理はなんら変わっていないのです。

 

 工事中 

 

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