なんで恐竜でだけ分岐学が使われるの?
ミラ:ねえ、分岐分類学って恐竜だけで使われているんでしょう?
わらし:・・・・・・・
ミラ:すいません。好きで言ってるんじゃないんです。
わらし:ああそうなの。
ミラ:さっさと説明しろよ。
わらし:はいはい、分岐分類学っちゅーか、分岐学は恐竜だけじゃなくて生物の進化を探るあらゆる場面で使われていますね。
ミラ:具体的な例をいった方がいいんじゃない?
わらし:じゃあ、論文よめば?
ミラ:・・・・お前、それが説明かい?
わらし:例えば有名な例を見るのならバージェス頁岩の節足動物を分岐学で解析した例だな。
The Early Radiation and Relationship of the Major Arthropod Groups. Briggs & Fortey,1989. Science. vol.246. pp241~243
ミラ:現代の節足動物とバージェスの節足動物をまとめて解析した例もあるんでしょ?
Disparty as an evolutionary index: a comparsion of Cambrian and Recent arthropods. Wills, Briggs & Fortey,1994. Paleobiology. 20(2) pp93~130
わらし:ケリグマケラ、アノマロカリスやオパビニアの進化を論じた例があるけど、これも分岐図だな。
The morphology of Opabinia regalis and the reconstruction of the arthropod stem-group. Budd,1996. LETHAIA 1~14
ミラ:植物を解析した例もあるのよねえ?
わらし:植物だろうがなんだろうが色々あるだよ。そもそもねえ、分岐学の提案者であるヘニング(Hennig)さんは昆虫学者なわけだし、分岐学は昆虫の系統解析でも使われているだがよ。化石であろうが現生であろうが。
ミラ:なにを参考にしたらいいの?
わらし:例がいくらでもあるからねえ・・・・。まあ、昆虫でどのように系統解析が使われているか、その様子は 「動物系統分類学 追補版」とかを見ればいいんじゃないかね?
ミラ:魚でだって使われているんでしょう? 「Fishes of the World 3ed 」 Nelson 1994. や新井, 1988. 魚類の系統分類と分岐分類学 「現代の魚類学」朝倉書店 pp4~33が参考になるわよね。
ミラ:そうねえ。それにしても・・・、恐竜でしか分岐学が使われていない。これどういうことなのかね。
ミラ:うーん、実際に恐竜好きな人にはそういう誤解が広まったらしくて・・・・。多分、あれでしょう? 新種の恐竜を見つけた。すると論文に報告しなくちゃいけない。だとするとその恐竜が、恐竜のどのグループに所属するのかちゃんと判断しなくちゃいけない。だから研究者は論文で分岐分類学を使う。そして恐竜に興味がある人は論文を見たり聞いたりする。すると分岐分類学って言葉や名前が耳について、だから・・・。
わらし:するとあれだな、論文を英語で書いたら英語は恐竜の論文だけで使われる言葉になるわけだな。
ミラ:いやまあ、そういう誤解があるのではないかと、わたくしがですね、思っているだけという話でありまして。
わらし:ようするに他の生き物の論文を読んでいないだけだべや。
ミラ:まあ・・・そんな感じかもねえ。関心なけりゃあ目に入らないだろうし・・・・・。
わらし:思うに分岐学は形態しか扱えないって誤解もあるんじゃないかな?
ミラ:さいですか。
わらし:分岐学って遺伝子を使った系統解析でも使うのよね。一般にはあまりそう思われていないみたいだけどさ。遺伝子で系統解析した論文とか系統を論じたポスターセッションを幾つか見れば分岐学ってかならず出てくるけどね。
ミラ:そうだったっけ? 分岐分類学なんて言葉、分子系統学の論文やポスターにあったかなあ???
わらし:最節約法って書いてなかったかね?
ミラ:最節約法って分岐分類学なの?
わらし:分岐学はどんな基準で系統樹をつくるんだっけ?
ミラ:最節約・・・・・、ああ、そういう。
わらし:分岐学、あるいは最節約法は遺伝子のような塩基配列を扱えるだけじゃなくて、生き物の形っていうデーターだって扱えるアルゴリズムなわけさね。
ミラ:塩基配列だけじゃなくて、生き物の形も、なのね?
わらし:それを生き物の形しか扱えないって勘違いしているんじゃないかな。だとすると目の前にある論文で、”18S rRNA 遺伝子を近隣結合法と最節約法でそれぞれ解析し・・・・”と書いてあっても、その意味に気がつかないでしょ。
*分岐学は恐竜だけに適用が限られた、そんなちんけなアルゴリズムじゃございません。
参考文献として:
「系統分類学入門ー分岐分類の基礎と応用ー」 E・O・ワイリー他 宮正樹訳 1992 文一総合出版
「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版
「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会
「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫