共有原始形質、つまり古い共通点を使うと系統推定を誤る。

では共有派生形質(シナポモルフィー)を見つけるにはどうすればいいのか?

 

わらし:共有派生形質をどうすれば見つけられるのか? 乱暴な言い方だけど、取りあえず同じ特徴に見えたらそれはシナポモルフィーの候補になるわ。

ミラ:それで真実のシナポモルフィーが分かるわけ?

わらし:真実ってのは科学にはそぐわない言葉だな。おいおい詳しく説明するが、シナポモルフィーも系統解析で見つけた系統もそれらは仮説的なもんなんだ。真実ではなくて仮説であり、それゆえに検証される対象なわけだ。

ミラ:真実ではない??けんしょう??

わらし:科学では検証という作業がとても重要なのよ。反対に”仮説的”という言葉にミラちゃんがなにかひっかかるものを感じるとしたらむしろミラちゃんの持っている科学観を見直した方がいいんじゃないかな。もしかしたらミラちゃんは非現実的な演繹万能主義者で科学を間違って理解しているかもしれないだ。

ミラ:そんなもんですかねえ?

わらし:そんなもんだ。だいたい宗教じゃあるまいし、真実とかいってどうするだ? ともかく分岐学の話を進めるぞ。共有派生形質を探す。それはいいだが、ややこしいのはここからだ。たとえ生物が共通して持っている特徴であっても、そのすべてが共有派生形質になるわけではないんだな。

ミラ:ほへ? どういうこと?

わらし:さっき派生って言葉は新しいという意味だといったよな。

ミラ:いったわね。

わらし:新しい、があれば古いもあるわけだよな?

ミラ:あるでしょうね。

わらし:実はな、少なくとも分岐学では”進化的に新しい特徴”だけが系統解析に使えると考えるわけ。逆にいうと古い特徴は使えないと見なしているわけね。だから分岐図を作るには生物が持っている共通点のなかから古いものを排除して、新しくて系統解析に使える特徴だけを見つける必要があるわけよ。

ミラ:へーそうなんだ。でも、なんで古い特徴は使えないの? 

わらし:それをこれから説明するだ。まず、以下のような進化が起きたと考えるだよ。

ミラ:また・・・・ふざけた進化と名前ね・・・。

わらし:気にするな。さて、この進化で起きたことはヒゲとチョンマゲを持つご先祖さまから無精髭や立派なヒゲを持つ種族が現れ、さらに立派なチョンマゲを持つ種族があらわれたりしたということなんだ。

ミラ:体が細長くなったものもいるのね。

わらし:そうだな。でっ、今の私たちは次の図のように3種類しか知らないとするわ。

ミラ:ロウニン・ブショウヒゲとトノサマ・ヒゲリッパ、そしてマロ・ウラナリしか知らないわけね。

わらし:そうだ。でっ、仮に”丸い体”という特徴で系統関係を推定したらどうなるかしら?

ミラ:ええっと、次のようになるんじゃないの? あれ・・・・でもなんか変ねえ?

わらし:そうだな、最初に想定しておいた進化の道筋と比べれば分かるが、これ、明らかに間違っているだろ? 

ミラ:間違っているわね。トノサマ・ヒゲリッパはマロ・ウラナリに近いはずなのに、ロウニン・ブショウヒゲに近くなってる・・・・。でもなんで?

わらし:実際の進化の歴史で起きたことを考えれば分かるだよ。

見てみるだ。まずマロ・ウラナリは進化の過程で丸い体が縦に細長くなったわけだな?

ミラ:そうね。

わらし:こういう場合、丸い体という特徴で束ねると、マロ以外の”丸い体という古い特徴を残した連中”だけが束ねられてしまうわけだよ。だから系統推定が間違ってしまうだ。

ミラ:なるほどね。あれ? だから古い特徴じゃだめってことなの?

わらし:そういうことだ。そのグループの進化の初期からあったような古い特徴は系統解析には使えないわけだ。こういうのを共有原始形質(symplesiomorphy:シンプレシオモルフィー)と呼ぶだよ。

 注:共有原始形質は系統解析には使えない、これは分岐学/最節約法の立場に立った考え方で、生物の形質の類似の度合いを使って系統を推論する近隣結合法などではこうは考えません。ただ最節約法と近隣結合法などの形質にたいするこうした態度の違いは、どちらのアルゴリズムが正しいのか?というよりは、むしろアルゴリズムの性質の違いを示しています。詳しくは系統学や分子系統学の教科書を参考にしてください。

ミラ:マロのように一部の子孫で失われたりするからなのね?

わらし:そうだな。しかもそれだけではないだ。例えばもしもマロも丸い体をしていたらどうなる? その場合、丸い体という特徴ではロウニンもトノサマもマロも全部束ねられてどれがどれに近いと言えないよな?

ミラ:そうねえ。

わらし:共有原始形質は進化の初期から存在するから系統全体を束ねてしまう場合があるだ。これではどれがどれに近いのかという系統解析の問題には使えないわけだな。

ミラ:しかも子孫の一部でそれが失われたりすると、今度は誤った答えを導きだしてしまうと・・・・・・

わらし:そういうこっちゃ。これにひきかえ新しい特徴、例えば立派なヒゲとチョンマゲはトノサマとマロを生み出した系統で産まれたものだろ? こういう系統の枝分かれの先っちょで誕生した特徴こそ系統を探る手がかりになるってわけさ。

 ミラ:なるほど、新しい特徴が使えて、なおかつ古い特徴が使えないってことは分かったわ。じゃあ最初の質問に戻るわよ。古くて使えないものも混ざっている特徴の中からどうやって新しい特徴だけを見つけるわけ?

わらし:外群比較という方法を使うだ。これを使って系統解析で使える共有派生形質だけを取り出すわけだな。それは

 5:系統解析したいAとB(あるいはその他)を、それらとは異なる生き物Xと比較することでA、Bに見られる共通の特徴を探す。

という方法だ。

ミラ:はーん??? それで何ができるわけ??

わらし:シナポモルフィーを見つけるといったでねーか。

ミラ:いや、だからさ、お前、具体的にいえよ。

わらし:はいはい。仮にAとBがXよりもお互いに近縁だとするだよ。そうしたらXは持っていないがAとBだけがもっている共通のご先祖さまがいたことになるだよな?

ミラ:はいっ???

わらし:じゃあ言い方を変えるだぞ。生物AとBは姉妹グループだ。そして生物Xは従姉妹のような関係だとするだ。

______X 

 |____A 

   |__B 

つまりこういうわけだな↑。いいか?

ミラ:はいはい、分かりましたよ。

わらし:さて、AとBには共通の祖先Pがいるだよ。

______X 

 |_P__A 

   |__B 

つまりこういうわけだな↑

ミラ:はいはい。

わらし:話を続けるだぞ。AとBは共通の祖先Pから共通の特徴を受け継いだだよ。それは花の色が赤いとか、頭に長い角があるとかそういうものだが、それをαとするだ。

______X 

 |_P__A(Pから受け継いだ特徴α) 

   |__B(Pから受け継いだ特徴α)

ミラ:αはAとBがPから受け継いだ共有派生形質なのね?

わらし:そうだあ。じゃあここで質問。生物Xはαを持っているか?

ミラ:持ってないでしょう?

わらし:なんで?

ミラ:だってXはPの子孫じゃないんでしょ? それじゃあXがαを受け継げるわけがないじゃない。

わらし:そのとおりだ。Xはαを持っていない。

ミラ:あたりまえでしょ。

わらし:あたりまえかどーかはまた別の話だがな。さて、ここで反対にいえばこういうことがいえないか?。AとBが持つ彼らだけの共通の特徴αを見つけるには、Xとくらべればよい。

ミラ:はい???・・・・ああ、いわれればそうか。Xはαを持っていないから、Xとくらべればαがあぶりだされるってわけね?。

わらし:そしてそれは?

ミラ:Pから受け継いだαよね? つまり共有派生形質であると。

わらし:そういうこっちゃ。外群比較はこうやって新しい特徴だけを取り出す方法なのさ。例えばここにザンバラ・アッタマという動物がいるとしよう。ザンバラ・アッタマと比べてロウニンとトノサマ、マロの共通点を見つけるだ。

ミラ:ザンバラ・アッタマねえ、またふざけた名前だけどまあいいわ。ヒゲとチョンマゲという特徴は3種類で共通なのね、そして長い立派なヒゲとチョンマゲはトノサマとマロで共通だわ。

わらし:そうだあ。こうして分岐図を作るとこうなるだな。

ミラ:今度は正しいみたいね。

わらし:そうみたいだな。じゃあ次は本物の生物で系統を考えて練習してみるだよ。

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 参考文献として:

 「系統分類学入門ー分岐分類の基礎と応用ー」 E・O・ワイリー他 宮正樹訳 1992 文一総合出版 

 「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版

 「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会

 「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫    

 

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