◆「骸の誘惑」(雨宮町子)新潮社
1997年第2回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。
予備校の講師をしている結城可那子の弟がバイクの事故で死んだ。バイクが盗難車だったことに不審を抱いた可那子は弟の身辺を調べ始める。そこで浮かんできたのは弟の恋人だったらしい一人の女性の名前。しかし彼女は仕事も住所も不明で、連絡を取ることが出来なかった。やがて彼女は仕事も住むところも転々としている謎の女性であることがわかる。
いかにも1997年当時の世相を反映した小説と言えるかもしれません。幸せになりたい症候群、現実の自分と理想とのギャップを受け入れられない若者達、平凡であることへの苛立ち、そんな女性のある生き方が印象的です。
夢を実現する為に努力する事はたしかに素晴らしい。でも、夢とはTVドラマの登場人物になることではない、ということに気付いて欲しいですね。
ところで、この中に女性ヴォーカルのCDの話が出てくるんですが、なんとなく近頃ブームのヒーリングミュージックを連想しました。癒し系音楽ってブームなんですね。
でも実は私はあれが苦手です。全部がダメってわけでもないですが、特に有名な女性ヴォーカル、あれ怖くないですか?(笑) 私にはあまり健全でない宗教団体の本部で流れてそうな音楽に聞こえるんですよ〜。なんか洗脳されそうで怖い(笑) あの怖さに比べれば某娘団体のが、笑えるだけまともな気がします(笑)
◆「予知夢」(東野圭吾)文芸春秋
ガリレオシリーズ。帝都大学理工学科物理学教授・湯川学が科学的謎解きをする短編集。見えないはずの物が見えたり、不可能と思えること、原因のわからない事に明快な解答を与えてくれる、すっきりする1冊です。
「夢想るーゆめみる」……一見予知夢と思える事件の謎解き。
「霊視るーみえる」……幽霊を見た、その正体は?
「騒霊ぐーさわぐ」……突然振動する家のなぞ解き。
「絞殺るーしめる」……やっとでた科学の謎。
「予知るーしる」……これこそ予知夢のお話。
ネタバレ掲示板へ
◆「記憶の中の殺人」(内田康夫)講談社
会社社長の財田啓伍が殺された。財田家の墓の隣が内田家の墓だったことから、浅見光彦は事件に関わることになる。しかしなぜか兄・陽一郎は財田家の事件の話になると警戒するそぶりを見せた。今回の殺人事件は27年前、軽井沢で起こった出来事に発端があるらしかったが、その出来事には陽一郎ばかりでなく光彦も関係しているらしい。
幼年時代の浅見光彦や、陽一郎兄さんの初恋が描かれている興味深い作品です。謎の妹、佐和子のエピソードも語られてます(^^)
「財田」は「たからだ」だったんですね。ずっと「ざいた」と読んでました(^^;)
◆「はちまん」(内田康夫)角川書店
八幡神社を巡っていた老人が殺された。その老人の息子が浅見光彦の姪の学校の教師という関係から浅見は老人の死の謎を追う事になる。また偶然にも、旅と歴史の仕事もしているフリーの女性カメラマン小内美由紀は長野で取材中、その老人と出会って話を聞いていた。どうやら老人は八幡神社にまつわる人探しをしているらしかった。
一方、小内美由紀の婚約者は文部官僚であったが、サッカーくじ法案を巡る省内の対立から高知県教育庁生涯学習課長に左遷されてしまった。そこでは前任者が謎の事故に遭っており、裏にはさらに深い企みが隠されているらしかった。
珍しく冒頭から黒幕が登場する展開。
すべては終戦の時の"八幡の誓約"に関係してくるという内容です。戦争と政治家、戦争責任と戦後教育、難しい問題をテーマにしていますが、書かれている内容は実に冷静で公平で納得できるものでした。日本人は100%肯定か否定かを要求する事が多いけど、「反対だけど、ここは認める」という姿勢も大切ですよね。
最近の内田作品は政治的な巨悪をテーマにすることが多いので、ラストの犯人の扱いは難しいですね。不満を持つ方も多いようですが"小説"としての役割を考えると、私はこれで良いと思いました。
◆「日本語必笑講座」(清水義範)講談社
毎日新聞に連載されていた「月刊しみずよしのり新聞」に、雑誌の対談、書き下ろしを加えてまとめたもの。全編、言葉に関するおもしろ話です。
第1室は新聞連載なので、1つ1つが短くて掘り下げがイマイチ。読み応えという点で不満が残りました。でも第V室の「ヘンナ語みっけ」は笑えます!
例えば、「ネコの缶詰あります」は有名ですけど、「冷蔵庫飲み放題」(旅館の広告)も可笑しい。この本に書いてあることから思い出したんですが、私も「地域ごとに核を作る」という見出しを見たことあります。うっかり読むと怖いです(笑)
◆「仮面山荘殺人事件」(東野圭吾)徳間ノベルズ
樫間高之の婚約者である森崎朋美は、結婚式の直前に交通事故で死んだ。その3ヶ月後、朋美の父親の別荘に一族と関係者が集まることになり、
高之も招待された。
全員が集まった夜、朋美の事故に関して親友だった桂子から疑問が投げかけられた。別荘に集まった人々は、それぞれ胸に秘める疑いがあるようだった、しかしその夜、別荘に銀行強盗が逃げ込んで来た事から事態は意外な展開になる。招待客の一人が殺されたのだ。犯人は強盗かと思われたが、彼らには動機が無い事がわかる。
例によって閉ざされた空間物ですが、逃げ込んだ強盗によって外界との連絡が絶たれるという設定は面白いです。ストレートな謎解き物ではないということはタイトルからもうかがえますが、ラストに大ドンデン返しがあります。「騙された」と思うか不満に思うかで評価が変わってくる作品でしょう。これも一種の趣向を楽しむ作品ですね。しかしこのタイトルも意味が深い!
ネタバレ掲示板へ
◆「凍える島」(近藤史恵)東京創元社
第4回鮎川哲也賞受賞作。
喫茶店を経営しているあやめとなつこは、客の一人の知り合いが持っている別荘で夏休みを過ごす事になった。別荘は瀬戸内海の無人島にある。同行するのは常連客とその友人、家族など6人。島に着いて3日目の朝、その中の一人が殺された。密室となった部屋の中で心臓をえぐり取られて死んでいたのだ。翌日、さらにもう一人が殺されて焼かれた。さらに殺人は続いた。
閉ざされた島、連続殺人、密室、発火する死体と焼け跡から発見される白骨、ミステリーファンなら泣いて喜ぶ道具建てが揃っています。あまりに積めこみ過ぎた感じはありますが、無理無く解明されているので納得できました。(1つはやや無理がある気がしますが)閉ざされた空間物では、3人目の殺人あたりから犯人と被害者を1人にする方法が難しいと思うのですが、盲点を付かれた感じですね。
注【あやめが「口笛が聞こえる」がなんて言い出して出て行ったから、てっきり「これはやる気だな」と思ってしまった〜 引っ掛かりました^^;】
犯人の解明もひねりがあって最後まで楽しめました。
◆「どんな上手に隠れても」(岡嶋二人)講談社文庫
TV局から売りだし中のアイドルが誘拐された。一億円の身代金は、スポンサーとなっていた企業が支払うことになり、受け渡しが行われた。しかし、一刻も目を放さなかった刑事の前から身代金だけが消えてしまっていた。
この身代金受け渡し方法が、この作品の最大の見せ場です。とにかくヘリまで使ったスピード感や、東京から名古屋までの大移動、梱包の時点からずっと監視していた警察の目の前でお金だけが消えてしまうトリック、あっと驚くこと間違い無しの傑作です。
◆「たたり」(雨宮町子)双葉社
駆け出し作家の高橋哲哉と妻の佐知子は、那須の山奥にある哲哉の友人椎名の父親の持つ別荘を借りて住むことになった。その別荘は明治末期に國岡伯爵によって建てられた別邸で、20年ほど前に椎名の父親が買ったものだが、現在は使われていなかった。バス停からさらに細い山道を進んだ奥にある別荘は、古い様式の洋館で一階に6室、2階には7室もある大邸宅であった。引っ越してきたその夜から、何かがおかしかった。やがて小さな変化が二人に現れてくる・・・
最後はよくあるパターンで終わるんですが、その途中が怖かったです。
本当に普通の生活から、少しづつ少しづつおかしな事が重なっていく。
その過程がありふれているだけに、リアルなんですよ。
けっこう惹きこまれる作品でした。
◆「耳すます部屋」(折原一)講談社
時事事件からテーマを採った短編集。怖い話が多いかもしれません。意外な結末を持つ話も多い(落とし話のようなものもあります)。
「耳すます部屋」
宮田久恵は同じ団地に住む小3の娘の友達ゆかりを預かる事になった。
最初は大人かったゆかりだが、徐々に本性を現してきた。ある日ついにキレてしまった久恵は・・・
「五重像」
ニュータウンで8歳の男の子が誘拐され殺された。目撃者の証言で中年の男が容疑者として浮かんだ。
しかし逮捕されたのは15歳の少年Aだった。真実の犯人像とは?
「のぞいた顔」
学校の怪談。夜のトイレで個室の上から自殺した少女が覗く。このトイレのシーンはけっこう怖い。
「真夏の誘拐者」
パチンコ店の駐車場から車が盗まれた。盗まれた車には2歳の幼児が乗っていた。
やがて身代金の要求があったが、母親にはもう1つの心配があった。
「肝だめし」
中学生が深夜の墓場で肝だめしをやっていた。いじめられっ子の光男は騙されて気を失ってしまう。
翌年の肝だめしで光男は復讐をすることに・・・。
「眠れない夜の為に」
マンションの隣人の騒音問題から起こった悲劇。
「Mの犯罪」
連続幼女殺害事件の犯人M。その逮捕のきっかけを作った少女がいた。
事件から15年後、彼女のもとにMから連絡が入った。
「誤解」
同じ中学の同じクラスの生徒が続けて死んだ。一人はいじめを苦にして、もうひとりは猟銃の誤射だった。しかし2つの事件をつなぐ関係が見えて来る。
「鬼」
深夜の小学校で卒業生が百物語をしていた。その学校では以前、3年生の男の子がゴミ焼却炉に落ちて死んだ事件があった。百物語が進むに連れて昔の記憶が蘇ってきた彼らに、不思議な話が語られる。
「目撃者」
"私"は殺人事件を目撃したが、事情があって名乗り出られなかった。しかし被害者の家族が賞金をかけたので、名乗って出てみると・・・
◆「百夜行」(東野圭吾)集英社
犯人の人生を19年という長い年月に渡って描いています。
最初に起こるのは質屋の主人が殺された殺人事件。その事件が迷宮入りになった事から、事件に関わった人達のその後に人生が描かれていきます。
犯人探しではありません。犯人は判るように書かれています。強いて言えば動機探しでしょうか。このようにしか生きられなかった人生が悲しいですね・・・
この読後感は何かに似ていると思ったら「火車」でした。「火車」の時間や視点を逆にしたような作品ですね。
◆「天狼星V−蝶の墓」(栗本薫)講談社文庫
シリーズの完結編。
今回おなじみのメンバーが登場するのは後半、ほとんどラスト近くです。
物語の大半は15歳の少年の視点で描かれています。
ある日突然、北海道の鄙びた温泉町に不思議な美女と付きそう家来のような老人が滞在にやって来た。少年達はあまりに美しい女性の出現に騒ぎ出す。
その美女はこの世の者とも思えないほど美しいばかりで無く、彼らの同級生の一人、竜崎晶にそっくりだったのだ。竜崎晶の母親は女優で、晶が幼い時に惨殺されていた。晶と美女の関係に思わぬ過去が隠されていた。
栗本作品をずっと読んできた方なら、彼の正体に気付くでしょうね(^^)
全体的には後日談という感じで、あまりストーリは動きません。竜崎晶という少年の心の動きが中心になっています。そういう意味では、栗本さんがいろいろな機会に書かれている「15歳の夏シリーズ」の1冊とも言えるかもしれません。
栗本さんのもう1つのテーマである「そして時は流れた・・・」を描いた作品でもありますね。
|