第七夜
能力効果の与え方

「で…「S」と「T」って何なんだい、季子(きこ)」

 季子と縫希(ぬうの)は近くにある喫茶店を訪れていた。「ローラライ」という名前のこの喫茶店は壁が薄いピンクを基調としており、そこらじゅうに猫の小物が置かれている。店主の趣味なのだろうか?縫希はどちらかといえば犬が好きである。たくさんの猫の置かれている理由がどのようなものだとしても、1人もしくは男同士では入りにくい店ではある。反面、女性の間の評判は良いのだろうか、店の客は女性同士もしくはカップルで占められていた。もちろん、季子と縫希もはたから見ればカップルなのだろうが……。

「パフェをおごってもらって悪いけれど、実はそんなに難しい話ではないの」

 どうやら今、季子がほうばっているパフェは縫希のおごりとなったらしい。縫希はチラリと嫌な顔をしたが、話を進めるように促した。

「「S型」とはスタンドが直接標的に触れなくても能力を付与できるタイプのスタンド。「T型」とは逆に能力を付与するためにはスタンドが標的に接触しなくてはならないタイプよ」

「SとかTとかはどういう意味なんだい」

 季子は食べている手を止めて説明した。
「S型は「Space Skipping 」。T型は「Touch Things」」

「訳すと…う〜んと「空間跳躍」か。Tの方は「物体接触」だな」

「ところで縫希、さっき私達が論じていた能力射程の問題をまとめてみてくれない」

「ん?そういえば最初はそのことを議論していたんだったな。そうだな…まず季子のアイディアは

○能力射程内では効果の強さは一定
○能力射程から外れたら効果は解除される
○解除された効果は回復しない

だったな。そして僕のケイジス論では

○能力射程の限界に近づくほど効果は落ちる
○効果の強さが落ちても能力射程内なら本体に近づくことで効果の強さは回復する

だ」

 縫希が話している間に季子はパフェを食べ終わった。空っぽになったグラスに落としたスプーンがチンッと音を発てた。
「かつてジョジョの作者は言っていたわ。「スタンドとは超能力をヴィジョンとして顕したものである」。従来の念じればカビンが割れるという概念ではなく、普通の人には見えない何かがカビンを殴り壊すという感覚なのよ」

「季子、話が飛んでいるぞ。何が言いたいんだ?」

 冷やされたグラスによって結露した水がテーブルに流れ落ち出来た小さな水たまり。右手の人差し指をその水たまりに浸し充分に濡らすと、季子はテーブルの上に直線を描いた。
「繋がっているわ。これはスタンドロジーの歴史よ」

「………」

「当初……スタンドのヴィジョンとは「超能力」そのものだったわ。だから、何かしらの不可思議な現象にはスタンド自体が必ず関わっている。海に渦が起きているのもダーク・ブルー・ムーンが水を掻いているからだし、人面疽ができるのもエンプレスが取り憑いたから。次にスタンド自体が接触することで標的にスタンド能力効果を付与するタイプが登場したわ。触れた相手に磁力を付与するバステト女神、物質を触れば射程内のすきな場所で直せるクレイジー・ダイアモンド。そしてついにはスタンド自体が触れることなく能力効果を付与するタイプのスタンドが出てきたわ。これはスタンド能力の発展と言えるわ。そして、前者の2つが「T型」。最後のタイプが「S型」となる」季子は一拍を置いた。「そして私のアイディアは「T型」の能力射程を表し、ケイジス論は「S型」の能力射程を表していると言えるわ」

「つまり…こういうことか。能力射程には2種類在った。だからさっき季子は自分の説も僕の説も半分正解と言ったんだな」

「そのとおりよ」

「う〜ん、そうなると能力射程について判定しなおす必要があるかな?」

「……その必要はないわよ」季子は水に浸した指で今度は大きく円を描いた。「考え方はどうあれ、結局射程の広さを判定しているのだから出る判定は同じになるはずだからよ」

「1つ質問が有るんだが、飛び道具タイプのスタンドはS型なのかい?」

「違うわ。「飛び道具タイプ」の能力は「S型」能力とはハッキリと違うわ。飛び道具タイプのいわゆる「弾丸」が運動をし、空間に軌跡を描かなければ標的に到達できないこととは異なり「S型」は空間の距離とは無関係に直接標的に能力効果が届くのよ」「能力の付与の仕方には4つあるわ。まず標的に触れる事で能力を付与するタイプ…「接触発動型」。能力が標的から標的へ伝染病のように広がっていく「連鎖反応型」。そして何の媒介もなく直接標的に能力を付与できる「空間跳躍型」。そして問答無用で標的を自分の思い通りの空間に引きずり込む「世界構築型」。最初の2つがT型、後者の2つがS型ね」

「「接触発動型」は季子のアイディアで説明されるんだよな。接触すると能力が付与され、射程内では効果の強さは一定だが射程外に出ると能力は解除されてしまい再び能力支配下におくためには再接触が必要である」

「そうね…。まれに射程外に出ても能力効果が異なる形で残ることがあるけれど、それはややこしくなるから含めない。スティッキィー・フィンガーズのジッパーが射程外では物質を保管する空間として残るけれど、それは能力射程と考えない方が良いわね」

「「連鎖反応型」というのは比較的最近登場したタイプだね。グリーン・ディが代表というところか」

「そして「空間跳躍型」はさっき言ったとおり標的に直接能力を付与するタイプ」

「「世界構築型」はそのままだな。自分の有利な空間を創って標的を引きずり込むッ!ズバリ、ザ・ワールドが代表だな」

「これに加えて、特に標的に能力効果を付与しないタイプもいるわね。その能力は「特殊移動」「攻撃補助」「情報収集」「自己変化」などに向けられる」

「待った待った!チョット整理させてくれ」
 そういうと縫希はポケットに入れていた手帳からページを破りとりフリーハンドで表を書いた。



能力の付与のしかた
T型 S型 R型
接触発動型 空間跳躍型 特殊移動
攻撃補助
情報収集
自己変化
連鎖反応型 世界構築型



「「R型」って何?縫希」

「ん?ああ、「T」「S」と来たから「R」にしたんだよ。そうだ季子。スタンドを分類してみよう」

「えっ、今ここで?本気!?100体以上いるのよ!」

「まぁ、いいじゃないか。パフェをおごってやるんだからそれぐらいはやってくれよ」

 季子は唇をつきだして不満の意を示した。そんな季子の態度に気付かないフリをして、縫希は新しく手帳からページを破りとった。



(第七夜 終)