BOOK BOOK こんにちは  2003.1月

我々はもしかして東京でいちばん読書量の多いバンドなのでは?

このコーナーは、3人の精鋭が日々読んだ本の感想を書いていくものです。

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       アオウ        コマツ       スヤマ

★1月27日(月)更新★★★★★★★★★★

帰ってきた読っぱらい

ボロ雑巾のような忙しさは止まらない。が、今週はついヤケクソになっていろいろ読んでしまいました。

(舞台はぼろいアパートの一室) だめおやじ「うい〜、けちけちすんな、1冊といわず、3、4冊まとめてもってこ〜い」 。奥さん「あんた、そんなに読んだら・・・」。 だめおやじ「うるせい!おりゃあ、だれを食わせるために働いてると思ってんだ、この野郎」 ・・・というひとり芝居が脳内で展開する。 そして、だめおやじ(自分)は読んだくれて、寝てしまう。明日からの生活を憂い、ため息をつく奥さん(これも自分)。

『熊の場所』(舞城王太郎・講談社)昨年、文芸誌で本書に収録されている短編『バット男』を読んで、ショックを受けた。衝撃の理由はまだよくわからないが、ひさしぶりに新しいものを読んだような気がしたのだ。このシト、メフィスト賞でデビュー(『煙か土か食い物』講談社ノベルス)したのにいつのまに文芸誌の世界に来たんだろ、と思ってたら、表題作は三島賞候補になってたんだってー。しかしこの単行本、ハードカバーと呼ぶに呼べない…クッションカバーともいうべきふわふわした感触なのは、ページ数が少ないのを補うため?

『バッテリー 5』(あさのあつこ・教育画劇)5巻。小説です。ハードカバーの児童小説(YAかな?)で、話が一冊完結じゃなくて、こんなに巻を重ねてもまだまだ先が見えないってどうなんだろ。Nさんからのメール通報で5巻が出たのを知り、いそいそ買いに行った。でも、内容にはちょっと不満である。ライバル中学の野球部員が、主人公(天才肌のエース)のことを、「お姫さん」と連呼するのが気持ちわりい。中学生男子同士で、「なにがほしくてミットをかまえてんだよ」…てな会話をするのが気持ちわりい。4巻あたりから確実に「活字倶楽部」の読者が喜ぶようなタッチになってる気がしてならない。

『世界音痴』(穂村弘・小学館)本当は、こういう世界音痴の人っていっぱいいるんじゃないかと思う。でも、おそらく多くの人は穂村氏の言う「飲み会で自然にふるまうことができない」を、「自然にふるまっているふりをする」ことに長けているゆえに、解消しているのではないか。だが、私はそういう人が恐ろしい。ときどき「自分の思っていないことを、それと気づかずに口に出している人」というのに出会って、言いようのない気味悪さを感じることがあるからだ。

何かのふりをすることは、だんだんと自分を麻痺させていく。そしてそのうち、何かのふりをしていたことさえ忘れてしまうのだ。こうして鈍い人は自分にがっかりしたりすることなく、世界につまずかずに暮らしていけるわけなのだろう。

『ハチミツとクローバー』3巻(羽海野チカ・集英社クイーンズコミックス)W氏よりの通報で、購入。わーい、おもしろーい。2回読んだ。連載時、読みのがしてたラブなシーンにかなり心ときめかす(そこは3回読んだ)。さらにこの作品が好きになった。

『レタスバーガープリーズ、OK、OK!』4巻(松田奈緒子・集英社ヤングユーコミックス)連載を読んではいるが、まとめて読むとまたいい。今、雑誌のほうで出てきてる太宰かぶれの作家・津島修治(笑)、おかしくていいす〜。

『ねこかぶりデイズ』(錦織友子・小峰書店)このタイトルはどうかなと思うけど、おもしろく読んだ。姉御肌の女の子が陰で悪口言われてたのに傷つき、転校を機に「だれにでも好かれるちょっと弱っちくてかわいい女の子」を演じる話。あるんかなあ、こんなことって。

『ミックスジュース』(唯野由美子・小峰書店)主人公の少年たちの会話が自然な感じで、好感がもてる。児童小説に未来はあるなあ。先生とのいさかいも、きれいに解決しすぎないところがいい。

『熱とはなんだろう』(竹内薫・講談社ブルーバックス)マイ・ファースト・ブルーバックス。

『アタックNo.1』(浦野千賀子・集英社文庫)ああ、買っちまったよ。まず1・2巻。7巻完結らしい。続刊待つ。思えば幼稚園のころは、バレーボールブームまっただ中。私も家の中でバレーボール選手をめざし、ハンカチを丸めて作ったボールで回転レシーブを試みるのに余念がなかったものだ。幼稚園に行けば、幼稚園生のくせにおばあさんのような顔をした、かき組のYに、「こずえちゃんは、こずえって名前だからアタック打てるんだよね」と言われ、気分を害したりしてたもんだ。でも、中学でバレー部に入ってしまったのは、一種の刷り込み現象なのか?

『アタックNo.1』はバレーをやってる時間より、しょっちゅうチームメイト同士やら監督やらとの間でもめごと起こしてる時間のほうがはるかに長くておもろい。ちょっと気に入らないことがあるとすぐに「バレーやめます」とか言ってどっか行っちゃうし。しかし、この浦野千賀子という人、『アタック』以外に有名な作品はないけど、地震とか熊に襲われるとかのパニックものをけっこう描いてるんだよね。なかなかの逆境好きとお見受けした。『アタック』もスポ根ではなく、一種のパニックものとして読むのが正解かも。文庫のプロフィールで、デビュー作が『死亡ゼロの日』と知る。なにそれ、読みたいよ〜。

『バイエルンの天使』(たらさわみち・講談社漫画文庫)全3巻 出たか〜、文庫で!

『BECK』5巻(ハロルド作石・講談社マガジンKC)W氏と電話で話した時、コレのことが話題になり、にわかに気になって。マンガ喫茶で読むべしと思ってたんだが時間がないので、1冊だけ。あえて中途ハンパな巻を買ってみた。やっぱりおもしろいのかも。買っちゃうのかも。

★1月20日(月)更新★★★★★★★★★★

 しょんぼりーん。いまや、大ピンチ。本を読む時間がどうにもないのであります。ふろの中ですら、考えねばならないことがいっぱいあり、最大の読書時間であるはずの電車の中では、(ケース1)これからする取材の資料を読み、(ケース2)これからする打ち合わせの内容を考え、(ケース3)これからする我々の練習の内容を検討したりしてるのである。しかも、人間の限界まで活動してるので、寝る前の読書タイムは1分くらい。こうなると、もう読書時間は食事しながらか、歯みがきしながらか、やかんでお茶わかしてる間くらいしかない。哀れなり、自分。

 そんな中で『アプローズ』1巻(有吉京子・秋田文庫)を読んだ。歯みがき粉、とばしながら。バレエ漫画『SWAN』で有名な作者による、演劇漫画。ちょっとレズビアン風味だが、上品なので許す。これ、週マに連載してたのね〜、オドロキ。昔の週マは大人っぽかった。有吉京子の絵は繊細かつロマンティックでいい。早く続きが出てほしいんだわい。

 あと『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ)の1巻の重版が出てたので、さっそく買う。渋谷のブックファーストでは1・2巻をすんごい面積で平積みしてました。売れてんのね。

『ほっこりぽくぽく上方さんぽ』(田辺聖子・文春文庫)を流し読み。大阪、京都、奈良、神戸などを、文学ゆかりの地、寺社などをたずね歩いたり、土地のものを食べたりして歩く関西案内の記。オダサクカレー、食べてみたいな。

 ある日の深夜、というより明け方、W氏よりファックスが流れてきた。「なんでい、こんな夜中に…」と思ったが、ななんとそこには非常に重大な情報が記されていたのである! 「渋谷の文庫タワーで、現代教養文庫のベストノンフィクションシリーズが『さよならセール』とかで100円でたたき売られている」というのだ! なななにい〜!? ベストノンフィクションといえば、ちーさな書店では置いてない、大きな書店でもあんまり置いてない…だが、実に気骨あふれるすばらしいシリーズである。なくなっちゃうのか、ベストノンフィクション?

 W氏に感謝のメールを入れる。翌日ちょうど渋谷方面に出かける用事があったので、さっそく文庫タワーにはせ参じたわけよ。ありましたさ、店頭でささやかなワゴンに入ったベストノンフィクション。哀れ正価の5〜6分の1である、100円の値札をつけられて…。『投手・桑田真澄の青春』(石川好)、『開拓農民の記録 日本農業史の光と影』(野添憲治)、『収集車「人民服務号ー農民のみる消費と環境破壊ー』(木村迪夫)の3冊を購入。ベストノンフィクションでは、ほかにも気になってたタイトルがけっこうあったのだが。『たいまつ十六年』『オホーツク諜報船』『日本のT村U再考』とか。あと、『愛と死を見つめて』の主人公になってる男性が後日譚を書いたようなものが出ていたと思うのだけど、記憶ちがいかなあ? 

★1月13日(月)更新★★★★★★★★★★

資源ゴミの日に、書籍の束を発見。本はどれも状態良好。しかも、「今まさにこういう資料が欲しかったんだよ!」という本が含まれているではないの!こそこそと部屋に持ち帰ってひもとく。10数冊あったが、(1)1回さっと読んで処分。(2)興味ないけど新しいから古書店に売れそう。(3)ぜひ手元に置いておきたい。の3分野にきれいに分かれる。

(1)から「美味しんぼ」の廉価セレクション版を3冊読む。それなりにおもしろいんだけど、いい大人がうどんの太さ細さをめぐってつかみ合いのケンカをする…ってなパターンは萎えるよなあ、いつものことながら。

1月8日(水)

プリンターで出力する間の待ち時間を利用して、読書時間とする、けなげな私。その姿はさしずめ二宮金次郎か、奉公先の問屋の仕事の間を縫ってお坊っちゃんの中学の教科書を読む吾一(『路傍の石』)のようだね。こんな時にぴったりなのは、当然短いエッセイ。というわけで『ミステリーのおきて102条』(阿刀田高・角川文庫)を選択。読み口爽快。この手の本を読むと、さらに読書欲がわいて困るな。困ると知りつつ読むんだけど。

『“It(それ)”と呼ばれた子』(デイブ・ペルザー ヴィレッジ・ブックス)。悲惨な幼児虐待を受けた本人によるなまなましい記録。いや、すごい。どうしてこの母親は、死に至らしめないギリギリの範囲での虐待をこんなに思いつくのか。食事はできる限り抜き、そのうえ外でものを食べてないかチェックするために学校から帰ってきたら必ず吐かせる。混ぜちゃいけない洗剤ミックスで危険な化学反応起こした浴室に、血ヘド吐くまで閉じこめる。洗剤を飲ます。しかし、それでも生への希望を失わず「チャンス」を待って耐え続ける、主人公の精神力もものすごい。続編もあるらしいね。

1月10日(金)

『花闇』(皆川博子・集英社文庫)美貌の歌舞伎役者・澤村田之助の生涯を描いた小説。不治の病で両脚を切断しつつも、舞台に立つ執念がすごか〜。この小説は田之助の身の回りの世話をする役者の視点から書かれているのだけど、会話なども非常に生きていて、読んでて心地よい。単なる美談じゃないんよ〜。圧巻。

1月11日(土)

『文章読本さん江』(斎藤美奈子・筑摩書房)古今の「文章読本」を分析した本。創設されたばかりの小林秀雄賞を獲ったんだったかな、この本(たしか、橋本治が三島由紀夫について書いた本と同時受賞だったような)。結局「文章読本」とは何のために、だれのために書かれた本なのか?という、足元をすくわれるような疑問から出発していて目からウロコが落ちる。また、子どもが必ず書かされる「作文」についての教育方針の変遷を扱ったところもおもしろい。斎藤美奈子の本はほぼ読んできたが、「論」としてはこれが一番の出来に思えた。

『秋の街』(吉村昭・文春文庫)十六年ぶりに刑務所の外に出た無期刑の囚人、十数万匹の実験用マウスを飼育する研究所員、変死体の解剖に従事する検査技師などなど…これまた偏ったポジションの人ばかりを主人公に据えた短篇集。しかし、『星への旅』のような乾いた詩情は感じられず残念。少しノンフィクション作家としての上手な取材っぷりのほうが勝ってしまった感じで。

ところで、今月は『ハチミツとクローバー』の3巻が出るんだね。1巻もようやく重版が出るんだね。いよっ、待ってました! 出たばっかの『YOUNG YOU』に掲載されてる最新話がいまいちで、ちょっくら先行きが心配ですが。

来週は、夏目漱石関連の書をたくさん読むことになりそうだ。

★1月6日(月)更新★★★★★★★★★★

例年、大晦日の夜12時までに着くように実家に帰り、4日ばかりを過ごす。実家で読もうと『世界の終わり、あるいは始まり』(歌野晶午・角川書店)』『星への旅』(吉村昭・新潮文庫)を携行す。

 実家の本棚を見るのは楽しい。そこにあるのは学生時代のこづかいでコツコツ買ったものばかりだ。まあ、あからさまに「青春の書」っぽいヤツばかりが並んで気恥ずかしいゾーンもあるにはあるが。私が中学2年から買い続けていた推理小説雑誌『EQ』のバックナンバーをぱらぱら見た。先日、友人と話題に出た『ノルウェイの森』(村上春樹)の上巻だけ読んでみた。いちいち思わせぶりすぎて鼻につくところもあるが、おもしろかった。時間があれば下巻も読みたかったが、そこで『メインディッシュはミステリー』(小泉喜美子・角川文庫)を読み始めてしまったので…。ミステリの分析、評論、エッセイがいっしょになったような本だが、これがおもしろくてねー。謎解き一辺倒のパズルミステリを一蹴し、「洒落たエスプリがなければミステリとはいえない」と言い切る姿勢がいい。『額田女王』(井上靖)も読みかけに終わった。ぶあついのでしょうがない。

『世界の終わり、あるいは始まり』(歌野晶午・角川書店)』小学校低学年の男の子ばかりを狙った誘拐殺人事件が頻発する。ちょっと詳しく説明するとネタが割れてしまいそうなのでくわばらくわばらなんだが、普通のミステリとはちょっと違うトリッキーなつくりになっている小説だ。しかしミステリなんかな、これ。家族小説?読者を翻弄する(はずの)構成がキモなので、もっと巧みに幻惑されたかったけど。

『星への旅』(吉村昭・新潮文庫)素晴らしい。私は淡々とした短編小説が好きだが、ここには淡々としつつもしっかりと息づく手応えがある。理由なきことの理由を言葉にして書く、熱意と知性がたぎる!!短い文章の中にしっかりとドラマがあり、幕引きのタイミングまで作者の手が行き渡り、実に味わい深い。読んだ、って気がする本である。

『鉄槌!』(いしかわじゅん・角川書店)

週刊誌ネタにもなったのでご存知の方も多いと思うが、漫画家いしかわじゅん氏がスキー場からの帰りのバスで用を足すため下車したところ、雪山に置き去りにされたことに端を発した事件の記録。この時、謝罪すらなかったことをマンガに描いたところ、謝罪されるどころか逆に名誉毀損で訴えられ、裁判に突入するのである。実際の問題よりも、弁護士事務所のヘンテコな対応のほうが興味深かったなあ。経験のない一般人が裁判に臨んでの驚きや疑問などを綴った本が、ほかにもあったら読んでみたい。

『アツイヒビ』(緑川ゆき・白泉社)短篇集。作者は恋愛モノが苦手だそうだが、すごく頑張って出したうっすらとした恋愛色がいい具合。主人公の机に花のモチーフが落書きしてある。それは、定時制の授業でその机を使っている男の子が描いているものだった…という「花の跡」はちょっとよかった。

『かんかん橋を渡って』続刊中(草野誼・集英社文庫)『ガレージママ』全2巻(草野誼・集英社)なんかヘンな作家である。ひとことで言えば、どちらも苦境でがんばる“めげない主婦”マンガなのだが、設定が独特すぎてヘンなんだよなあ。『かんかん橋〜』は、ヨソモノは徹底的に排除する体質の地域に嫁入りしてきた主人公が、姑のすごい意地悪に屈することなく明るくがんばる…これだけなら普通なのだが、その地域ではなんと「嫁姑番付」(要するに嫁いびり番付)なるものが作られているのだ。だから何?この先どうすんの?ヤだけどどこか気になるマンガである。

ところでビッグコミックオリジナルで連載が始まった『最強伝説 黒沢』(福本伸行)がおもしろい。私は『カイジ』も『アカギ』もさほどとは思わなかったのだが、これは好きになりそうだ。連載2回目の扉ページにはでっかく「人望が欲しい・・!』と書かれています。「せめて仕事仲間には…分かって欲しい…!オレの善さ…! 素晴らしさを…!」とモノローグしつつもすべりまくる黒沢を見れ〜。

★1月27日(月)更新★★★★★★★★★★

この「BOOK BOOK」をはじめたおかげで、とりあえず何かを次々に読まねばならぬ羽目になった。今週はなぜか(つーか、たまたま)脳の本を2冊。

『やさしい唯脳論』(養老孟司・楳図かずお・メディアファクトリー)。楳図かずお様のイラストがショッキングで秀逸!対談中でかずお様も感心していたが「マンガの吹き出しは漢字のルビに該当する」という養老説はちょっと面白い。もうひとつ、当たり前といえばそれまでだが「脳はしょっちゅう入力のあるものを現実と認めるクセがある」は、うまい、と思った。

『頭には、この刺激がズバリ効く!』(ドクター・ウィンウェンガー・三笠書房)。刺激的なタイトル!最近おそらくや頭脳の老化および欠損のはなはだしいオレには必読の書である。簡単にその内容を紹介しよう。衰えた脳を向上させるには、

1、紙袋を口にあて、30秒間繰り返し息を吸う。

2、ビタミンEを摂る。

3、幼児期の行動によるフィードバック、すなわち四つんばいになりハイハイをする。

以上。

 

『天下取ったる!天の巻・地の巻・人の巻』(青木雄二・河出文庫)。語りおろしなので、話を聞くように一瞬で読んだ。「人生に勝つために必要なこと。それはやはり、ケンカに勝ついうことやないかな」。すごくいい!前にも何かを読んだ時に思ったが、啓蒙書の類は実にイイのです。それはおそらく、想定する読者がいまいち不明であることに由来する滑稽味だろう。啓蒙書を書くような人は、幾分いい人で、しかし他人の為などということは究極的にはできないワケで、そのおかげで何らかの成功をおさめた人なのです。著者は共産主義者。矛盾をあえて体現してるのが面白い。主義っていったい何だろう?

 

『伝法水滸伝』(山口瞳・集英社文庫)。また山口瞳。ツルツル読めてよい。とにかく内容がなく、どうでもいいような話ばかりなのがサイコー!その極みともいえる「林間ホテル」、著者のウザイ性質がまるだしの「鯉」の2短編がよかったよー!

★1月20日(月)更新★★★★★★★★★★

 幻冬舎がNETで募集した小説の賞があるそうで、その受賞作を読んだ。「途中下車」というタイトルで,著者はたしか現役の東大生、千葉在住。名前は失念したが、内容は大学生の兄と高校生の妹の近親相姦物語。所在なくふらりと立ち寄った浜田山のブックオフ100円コーナーでなんとなく買って、そのまま下北のミスドで一気に読んでしまった。所要時間1時間くらい。なぜどこで買ってどこで読んでみたいな事を書いているのかと言えば、よくも悪くもそんな小説だったからだ。妙なてらいや嘘がないところに好感を持ったが、まだそれ以上のものは感じられなかった。でも作為にまみれた気持ちの悪い人よりも、こういう地味な人にしぶとく書いてほしい気がする。

「暗い春」(立原正秋・新潮文庫)を読んだ。面白かった。正秋つくづく軟派な男よのう。やっぱり自分の妹に恋する男よりぜんぜん魅力的である。鎌倉の瑞泉寺が作中に出てきて、行ってみたくなった。こないだ読んだ山口瞳の「小説・吉野秀雄先生」のエピソードにも、吉野先生が町を見下ろす瑞泉寺の境内で奥さんとイッパツやるところがあったからだ。オレはまだ鎌倉に行ったことがない。これはひとつの呪いである。かつて知り合ったカワイコちゃんたちは、みな何故か一様に、男と大仏前で記念写真を撮った経験をもつのだ。ジェラシー、である。どこかに「鎌倉処女」はいないものか?いまはなきナンバーガールに曲にして欲しいよ!まったく。まあ、そんな事はともかく正秋はチョーエラい!「手」という短編では、記者である主人公は、取材先の工場の電ノコで手をおとしてしまう。ガーン!スプラッター(怖)!しかし彼はすぐさま入院先の病院で「魅力的なしりを持つ」(こんな表現ではなかったが)年増の看護婦とデキてしまうのだ。小説とはいえこれは凄いことだ。夢に生き、夢を描くとは、こういうことを言うのだ。感心した。心強いかぎりである。後半生の指標としたい。

ひきかえまったく指標にならないのが「中年シングル生活」(関川夏央)である。まったく気取った男だ。気弱げなことを語り、平均的な同世代像に仮託して、同級生たちの今を嗤っているに違いない。真に受けてはバカを見る。きっと当時著者は、文学かぶれで中年に弱い20代の女子編集者あたりをガールフレンドとして、焼き肉屋でこの世の春を謳歌していたに違いない。だって「夏央」だぜ!「夏男」じゃないんだからよ(笑)。こんなモロモロを想像させるのが関川夏央の魅力だ。劇画「事件屋稼業」は漫画ゴラク連載(たしか)の頃からいつも楽しみに読んでいた。告白すればまったくのファンである。ものすごくイヤなヤツだ、とか、ガンに冒され余命いくばくもない、などのウワサもきくが、いつもフレーフレーと熱烈に応援しているのだ。できることなら今いちど劇画にトライしてほしいな。ペンネームは「せきかわ夏雄」で。

★1月13日(月)更新★★★★★★★★★★

『こころ』(夏目漱石・講談社文庫)を読了。もう何度も読んだ本だが、なんか今回はちょっと感慨が違った。それはたぶん自分の年齢のせい。やけに「先生」が年若い人に感じたのだ。フシギなもんだねー。かつて読んだときにはもっとミステリアスで面白い男に映ってたのが、今回はなんだかどうも退屈な男に思えてしょうがない。倫理(のようなもの)に拘泥してるばかりだし。でもやっぱり面白い小説だよなあ。細かい所がすごく周到なんだよね。わたしが先生を郊外に散歩に連れ出して、農家の軒を借りるとことかすごーく好き。

「先生」つながりで『小説吉野秀雄先生』(山口瞳・文春文庫)を読む。著者がかつての恩師との交流を描いた話なのだが、すごーく良かった!ホント読んでよかったよ!表題作以外にも山本周五郎や高見順らを描いた短編が入ってたが、どれもラストでグッとこさせるつくりになっている。山口瞳は濃い人だねー。ウザくて良いよ。しかもとても平易で読みやすい文章を書く人だ。ハマりそうな予感。

アオウが拾ったという本のなかから『誰のために生きるか』(前田日明・PHP)を借りて読む。変わった人だとは噂に聞いていたが、ほんとに変わってた(笑)。でも、それはプロレスラーにたいしてのオレの偏見かもしれない。ベルグソン、バクーニン、小林秀雄を著書に引用し、シュタイナーに心酔してるプロレスラー。ファンのためでなく、自分のために生きるレスラーはポップスターには決してなれないのだ、とよく判った。面白い人だ。

 

今週はライブ。なのに歌詞がぜんぜん出来ない!とにかくこの3年で完成したと言える歌詞は3つだけなのだ。我ながらヒドい(笑)!そして締め切りのようなものがあればあるほど本を読んでしまうのが人情である。そう!読書とはオレにとってまさしく逃避。映画もそう。ついでに言えば音楽(我々の活動ね)は趣味で実験でもしかすると表現、なのです。

『サーチエンジン・システムクラッシュ』(宮沢章夫・文藝春秋)に逃避した。ところが、この本じたいがこれまた何かから現実逃避したような話だった。ガックリ。面白かったといえば面白かったんだけど、それだけ。良くも悪くも演劇の人って感じがしたなー。もっと面白いの書きそうだからまたきっと読んじゃうんだろうけど。

『Y』(佐藤正午・ハルキ文庫)。冒頭のシーンから強烈に引き込まれた。主人公はかつて駅で見かけた少女に恋をする。偶然井の頭線の車中で再会するが、残酷な運命は出会ったばかりの二人を一瞬のすれ違いから永遠に引き離してしまう・・・こんな風に書いてしまうとなんだかこっぱずかしいが、だってそういう話なんだもん。まあ後は読んでください、という事で。運命の分岐点になるのが井の頭線下北沢駅のプラットホームというのがグー。オレすぐ近くに住んでて毎日使ってるから、もうなおのことなのです。ウットリきちゃう。

 

オレ前回2004年って書いたけど、今年って2003年だったんだね(笑)!1年ぐらいとんだって別にいいけどさ。

★1月8日(月)更新★★★★★★★★★★

あけましておめでとうございます!今年もよろしくね!2004年のオレのテーマは「獰猛」です。目標は、恥ずかしいのでナイショ(福笑)。あと、今年はオレの「ビデオ元年」となる予定。いっぱい映画やエロビ観ようっと。ウフフ・・・。

本もチョロチョロ読みますよー。なんかコレ初めてから、前より読むことを意識しちゃって、でも、つとめて意識しないように心がけてます。ガチャガチャとテキトーに読み散らかすのがオレなので、今年もヒドイよ(笑)!

一発目は『庭の砂場』(山口瞳・文春文庫)。いきなりチョー暗い(笑)&チョー後ろ向き&チョー拗ねものノリが大爆発。しかし案外、元旦の夜明け前にはピッタリで心地よいのであった。

つづいて『大人失格』(松尾スズキ・光文社)。内容は忘れちゃったが、楽しく読んだような。著者は劇団「大人計画」を主宰してる人である。この劇団をオレはけっこう観てる。演劇とかわざわざ見に行く人間ではないのだが、いつも決まってチケットをとってくれる友人がいるのだ。「大人計画」ではないが、去年の暮に観た松尾スズキ演出・荻野目慶子主演の「業音」は楽しめた。乗ってる人というのはオソロシイナーと感心した。あ、そうだ!昔吉祥寺のバウスシアターで観た「猿でいく」という映画がスゴク良かったのだ!アレもたしか「大人計画」がらみだった。「猿でいく」は、その年のオレの邦画ベスト1の栄光に輝いたのだった(ちなみに洋画は「トレマーズ」だった)。また観たいなー。ビデオ化してないのかなー。

『変わった種族研究』(吉行淳之介・角川文庫)は対談集。これももはや中身は忘れたが(早過ぎる?)ちゃんとした鼎談風でなく、後書きの人物印象記なのがめずらしくて良かった。淳之介はカワイイ顔して、ちょっとどこかイジワルなのだ。

帰省していたのだが、帰京の車中で漱石の「こころ」を読み始めたのだ。何回目?もはやどこかしら読書とも呼べない接し方なのである。

★1月27日(月)更新★★★★★★★★★★

さいきん、めっきり小説を読まなくなった。会話のカギカッコにつづく改行がイヤなのである。なんか…空白があると不安なのです。それに、やっぱり小説って、漱石が言うように〈頭の屁〉なので、屁をかがされる側としてはソレなりにココロの準備が必要なんだなあ。

さて、わしが最も好きな小説家は谷崎である。谷崎の小説のいくつかには、改行やカギカッコの殆ど、もしくは全然ないものがあって、コレは心が安らぐ。たとえば『盲目物語』。あ、そうだそうだ。コレを読もう。歴史上の出来事をモノガタル、盲目の法師の“〜でござりましたよ”文体だから、現代人のうざうざしい“屁”をかがされる心配もなかろうしな。

さて、いつもの本のハナシをね。 『〈日本人〉の境界』はいよいよ戦後沖縄の復帰運動にまつわるナショナリズムの動向に分析がうつった。本当に両刃の剣だわねナショナリズムって。右も左もないのよね。1950年代、“日本民族一致団結”の旗頭のもと、アメリカ帝国主義打倒を叫ぶ。アジア民族を欧米からのくびきから脱け出させるため大亜細亜の団結まで叫んじゃう。これって戦前なら軍部のセリフそのままなのよね。おりからアメリカの占領統治に失望の極みにあった沖縄のみなさんは本土の革新勢力に復帰運動の支援を要請。これに対し吉田首相以下の保守党側はアメリカのご機嫌とりに精一杯。かくして革新ナショナリズムVS保守欧米寄りアンチナショナリズムという、いまなら“ソレ逆じゃんよ”の様相を呈して戦後日本の政治思想界大騒動。「沖縄は日本の植民地。そこに住む人はただの少数民族」と云ってた人までも「いえいえそうではありませぬ。同じハラカラの日本の民として、米帝/本土与党の暴虐から守ってあげなければ」と言を翻すありさま。どうすりゃいいのさナショナリズム。右翼の専売特許じゃなかったのよ。…このへんの問題は、小熊氏の最新著作でさらにフォーカス効かせて扱われてるようだから、早く読まなくっちゃ!

★1月20日(月)更新★★★★★★★★★★

 ああーっ、いまでも小熊英二『<日本人>の境界』(新曜社)にかかりきりです。もうすぐ大日本帝国がいくさに負けるところまできました。朝鮮半島に徴兵制を施行 し、参政権を与えようとしております。欧米諸国は「日本が負けたら独立させてやる」と朝鮮・台湾に通達。焦る日本:「こらあ、本格的に朝鮮人を内地人と同列に扱わないと、そっぽ向かれてアメリカに寝返られるな」「総督府の権力をなしくずしに 弱体化させて半島の政治は中央政府が仕切る。内鮮一体、一視同仁、みんな仲良く戦争しよう」というところまできました。ぎりぎりまで追いつめられて、ようやく朝鮮半島/内地日本の境界を取り払おうと画策が始まる。しかし、一年も経たないうちに 帝国は降伏、すべては烏有に帰すのでございます。

次のチャプターからは、戦後の日本における「日本人」とはいったい誰? の検討に入るのでしょう。とくに沖縄での日本人観に関する著者の叙述の手さばきに期待が高まります。この重い本、電車で読み、お風呂で読み、一と月あまりが経過しました。なかなか充実した読書の時を過ごせるんです。他の本に手が出ません。これが終わったら、いよいよ次は『<民主>と <愛国>』に着手します。そうなるともう大変。わしの読書領域はますます小熊ワールド一色に! 『インド日記』も書いておられるので、いずれはそれも読まねばならんしな。

そういえば、週間「読書人」に小熊氏と上野千鶴子氏の対談が載っておったので、 これも参照した。著作活動にまつわる自らの態度を語る氏のことばを読んでいると、 文筆に携わる人として、小熊氏はなかなかの責任感ある、誠実なるお方であることがわかる。たとえ否定すべき対象でも,叙述するにあたってはきちんと物証を固める. その対象がおかれた時代・環境の条件をつねに考慮し、興味本位で取り扱うことなく、納得のいくまで考究する、という姿勢。わずかなネタをスキャンダラスにふくらまし,いいがかり的な批判を開陳することが商売の、雑誌関係のライターさんたちには、ぜひ小熊氏を読んでいただきたい。所得激減は必至であろう。  

「読書人」には第一面にポートレイトも載っている。バンドもやっている、ということは聞いていたが、なるほど・・・いかにもそうゆう印象。ヘアスタイルなぞ、わ しにちょっと似てる? というわけでまたまた中間報告に終始しましたー。次回もた ぶんそうなるでしょう。しゅまんのう〜。

★1月6日(月)更新★★★★★★★★★★

年の初めの、老いの繰り言

あけおめーあけおめー、と叫びながら、外国の人たちが街を歩いている。年もあけ た。今年も書物を読まんとしようぞ。とは言ってみたものの、どうも腰の具合が悪い。長時間座ったままでは本が読めん。 この原稿を作るのも一苦労だ。座っているだけで「うにゃらうにゃら」してくる。今年でわしも40なのだからまあ、無理もないであろう。そこで一昨日購入したのは: 『ヒトはどうして老いるのか 老化・寿命の科学』(田沼靖一、ちくま新書)であ る。老いの自覚を促すとともに、これからの、あきらかな余生にどう対処するか、その端緒となれば、との思いをこめて。今年は、このテの本をいろいろと読むことにな りそうだ。すでに机上には『東京で老いる』(山口道宏編・著、毎日新聞社)なる本も置かれっぱなしだ。

さて、『ヒトはどうして老いるのか』を読みかじってみると、どうやらとにかく、生物は全般に生殖期を過ぎれば要ナシであり、コドモを生む時期が終わればあとは衰弱の一途、というのが定石らしい。ただ、人間だけが医術・科学・薬学の「進歩」ゆえ になかなか死ななくなり、生殖器後の生存期間がやたらと長くなっただけ、ということなのだ。な〜んだ。そんなことか。 40なんて、もうとっくに生殖期は過ぎていると考えてよかろう。まあ、たとえばオンナと二人きりで一つの部屋にいたとして、20代ならいざしらず、いい年こいた40過ぎのオトコがムラムラしてたら、そいつは間違いなく色情狂か、よっぽどの生理的ガキだな。まあガキはやりたい盛りだからしかたないのだけど、サルだって生殖期 過ぎたら「もう、わしゃあ、いいよ」と思うであろう。わしはコドモが大嫌いで、オンナを妊娠させたこともないしさせたいとも考えない。自分が精液をぶっ放すのも最近どうも気恥ずかしくってまいっている。ちょうどいいな。腰も痛いし、セックスもなるたけ減らす方向で生活しようと思う。 今、そんなわしが読みたい本:「独居老人VS不動産屋の対決」をテーマにしたものじゃ。少子化がこのまま進行すれば、シングル用賃貸物件は借り手のないまま溢れ、 放置される時代が来るだろう。そのとき、いままで独居老人に部屋を貸すことを渋ってき続けた不動産屋たちはいったいどうするのか、その辺を調査・予測してくれるラ イターはいないものだろうか。