BOOK BOOK こんにちは  2002.8〜9月

このコーナーは、3人の精鋭が日々読んだ本の感想を書いていくものです。

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 アオウ
 コマツ
 スヤマ

★9月30日(月)更新★★★★★★★★★

9月24日(火)

先週、スヤマ氏が冒頭に書いてたのは、唯一私が作詞した『smoker』の一節。「そうだね、旅行に行くときに一冊だけしか本を持っていけないとしたら…『武器よさらば』」。わたしゃーヘミングウェイが好きなもんでこうなりました。この時コマツ氏は、「『ハレンチ学園』」と言ってなかったっけ?

文庫になったので、ようやく『絶対音感』(最相葉月・小学館文庫)を読む。私は一応「絶対音感」を持ってるわけなんだが、同じ絶対音感を持ってる人でもいろいろ感じ方が違うことがわかり、ページのはしを折りまくりつつ、興味深く読んだ。世の中で絶対音感をつけさせるための教育がそうとう盛り上がってることには驚いた。よく取材してあり、おもしろいエピソードが豊富で「研究レポート」としてはなかなかの読み物。これを出発点として、考えるべきことを触発される本だと思うが、ノンフィクションとしてのまとまりは今ひとつだったのが残念。

地下鉄文庫でカバーなしの文庫をたくさん手に入れる。『積み木の塔』(鮎川哲也)、『堕落』(高橋和巳)、『廃園』(原田康子)。そしてモームの短篇集4冊。『人間的要素』『怒りの器』『ジゴロとジゴレット』『十二人目の妻』、そして『女心』。ほとんど絶版だろうな。薄くてカバーのない文庫たちは妙にかわいく、親心が芽生える。今日からうちの子になるんだよ。

あ、もう1冊。シャトーブリアンの『アタラ・ルネ』。今は亡き旺文社文庫、カバー有り。この本は珍しいな。うれしい。

9月25日(水)

『ギッシング短篇集』(ギッシング・岩波文庫)。ディケンズのちょっと後くらいのイギリスの作家。「おかしみ」とあえて言うほどでもないくらい微量のおかしみ、「謎」とあえて言うほどでもないくらい微量の謎…など、小さな粒子がちょっとずつ空気を満たしてできてるような小説世界が好き。こういうのを読んでると、うっとりくる。すべての生活費を削って古本を買いまくる男。恋心を抱いた男性に結婚が決まった報告をされ、彼にくすり指を踏まれた思い出と傷を携えて消える女。そんな主人公たちよ…。

9月26日(木)

本八幡へ。長旅だから往復の電車の中で、行きで1冊、帰りに1冊、薄い文庫ちゃんを読んでやろうと思っていたのに机の上に忘れていく。行きは週刊新潮を買って読む。帰りは、友人が貸してくれたジョージ朝倉のマンガ『ハートを打ちのめせ』(祥伝社)『水蜜桃』(講談社)『カラオケバカ一代』(祥伝社)を読む。『ハートを打ちのめせ』のオビにあった「勝率ゼロの恋を描く〜」というコピーが気に入った。ジョージ朝倉は今、現役でいいなと思う少女マンガ家の数少ないひとりである。

初めて会った人と、ミステリの話をした。互いに好きな作家を手探りする会話が愉しい。コリン・デクスター、ディクスン・カーが好きなことが一致。相手に「『怪盗ニック』は?」と訊かれ「好きです!」と即答。お互いに“筋”を読み切ったムードが流れ、なんとなくにやにやする。ヒラリー・ウォーとピーター・ラヴゼイをお薦めしてみた。

9月27日(金)

雨音を聴きつつ、先日地下鉄文庫で収穫した『廃園』(原田康子・角川文庫)を読む。けだるいわーい。けだるいけれど変にアンニュイ気取ってるわけでもない文芸ムードが心地よい。また読みたくなりそうな気がする本。薄っぺらいし。細密な挿絵もうるわしい。

9月28日(土)

モーム短篇集『十二人目の妻』。おもしろいが1篇読んで休憩。続けて読むと、話がごっちゃになりそうなんで。夜、うとうとしてたら電話で起こされ、目が覚める。明日早いので寝なきゃーと思いつつ『世界文学史物語』(ジョン・メイシー・角川文庫)をぱらぱらやってたら、読書欲が湧いて昂揚してしまい、全然眠れねえ! 『ミンガス・アット・モンタレー』をBGMにしたのも良くなかったか。3回も聴いてしまった。

★9月23日(月)更新★★★★★★★★★

9月16日(月)

『小さな手袋』(小沼丹・講談社文芸文庫)。エッセイ集。いいわー、とてもいい。書かれていることはなんてことなかったりするんだけど。バス停で子どもがけんかしてたとか、小鳥をもらったとか。でも著者はいろんなことを実に細かく見ていて、実に達者にユーモアのあるストーリーにまとめてしまうのですよ。こんな本をいつまでも読んでいたい。小沼丹ってエッセイしか読んだことないので、今度小説も読んでみよう。

9月17日(火)

資料つながりで『天上の虹』(里中満智子・講談社漫画文庫・全6巻一部完結)を再読。中心人物は中大兄皇子(のちの天智天皇)、大海人皇子(のちの天武天皇)…そもそも持統天皇を主人公に一生を追っていく話のはずなんだけど、持統天皇が即位したところで終わってるやんけ! 第二部はまだかーまだかー! 読むたびに欲求不満に陥るです。しかし里中満智子の歴史マンガは読みごたえがある。絵も美しくて超ロマンティックぜよ!『女帝の手記』(中公文庫)、『長屋王残照記』もよかったなあ。

9月18日(水)

編集者に渡された『名探偵コナン』(青山剛昌・小学館)の編集本を読む。特別セレクトの“難事件”が、問題編と解決編の2冊に分かれてるやつ。初めてマジメに読んだが…とっても成功率の低そうな犯行に絶句することしばしば。ま、子ども向けの推理ものって、トリックの妙よりもいかに「推理してます」って雰囲気が出てるかが重要だもんな。そのロマンを買って許そう。

これまた仕事で『女検事ほど面白い仕事はない』(田島優子・講談社文庫)。適当なタイトルそのものな女検事一代記エッセイなのですが、読んでるうちに司法の知識がつくのがよろしゅうおます。もう一冊『ひとりぐらし』(藤堂志津子・中公文庫)。ひとり暮らしをする女性を主人公にした中篇集。予想に反して、相当しみったれたひとり暮らし像が展開され、好感度大。著者見直した。出口のない読後感がSO DARK,SO GOOD。 萩原葉子とかの域まで、ひたすらしょぼ暗街道をひた走ってほしいです。

9月19日(木)

資料を集めるため、図書館に行く。最近、なるべく本を増やさないよう心がけてるのでけっこう活用してる。2つの図書館で常に10冊ずつ借りているのですが…図書館もえらくなったものだ。私が子どものころは3冊しか借りられなかったんで、両親の名前で作ったカードも使い、計9冊借りていたっけ。

『日本史に学ぶ女の器量』(童門冬児・三笠書房)、『男と女の物語日本史』(加来耕三・講談社)、『愛された悪女と愛されない美女』(藤水名子・青春出版社)などを借りて読む。今週も、自分の趣味の本を読んでる時間はほとんどなさそうなので、『ミステリマガジン』『日本児童文学』のバックナンバーを借りるにとどめる。おや。ミスマガの表紙に「ヘンリー・スレッサー追悼」とある。死んじゃったんかー、合掌。

ところが、児童書コーナーで長らく探していた本を発見。『ひとり歩き』(ジェームズ・マーシャル・すぐ書房)。この出版社、すでにこの世にないかも? オーストラリアの砂漠に飛行機が墜落、奇跡的に生き残った姉弟の物語…ということだけわかってて、「航空機事故」本にするどく針のふれる私はずっと探してたんだよねー。読んでみるとけっこうのどかな物語だった。原住民の少年との交流、自然とのふれあいを通し、生き残る力をつけていくというようなストーリー。オーストラリアの動物や植物の、克明な挿絵も楽しい。

★9月16日(月)更新★★★★★★★★★

9月9日(月)

先週渡された仕事の資料が山と積まれている。早急に読まねばなるまい。ということで、まず『クレオパトラ』上下巻(宮尾登美子・新潮文庫)。ふだん歴史ものをほとんど手に取らないのは、ハマると大変そうだからだ。ただでさえ、買ってある読んでない本、生涯のうちになんとしても読まねばならない本リストに囲まれて暮らしているっちゅうのに。しかし、この本は平易な文体も好感が持て、世界に入りこみやすかった。人物像のデフォルメ具合は良くも悪くもカンタン明瞭だったが、物語世界へのいざない方はさすがに見事で、私の心はナイルの濁流で氾濫寸前だ。なんのこっちゃ。ごうごう。

戯曲の『ジュリアス・シーザー』が読みたい。『プルターク英雄伝』とか、今、盛んに書店に並んでる塩野七生の『ローマ人の物語』とか読みたくなってきた。うちにそーゆー本がないか探す。『ルバイヤート』『中世騎士物語』…NO〜!!今読みたいのは古代、古代ものなんだい!!すでにハマりつつある歴史ものアリ地獄。

9月10日(火)

さっそく古本屋で『ジュリアス・シーザー』(シェイクスピア・新潮文庫)を購入。戯曲だから声に出して読もうと思う。しかし疲れるね、音読って。すぐ挫折。

9月11日(水)

仕事をやっちゃあ資料読み、飯を食う間も資料読み…。前に八重洲ブックセンターで買い求めた、読書用のクリップみたいなのが意外と役に立つ。ページを開いたままにでき、スケルトンカラーなので、はさんでいるトコの下の文字が隠れない。

『クレオパトラ』の次は『流星 お市の方』上下巻(永井路子・文春文庫)が待っている。永井路子か…気が進まない。これまた資料である『歴史をさわがせた女たち』(世界編/日本編・文春文庫)をきのうからパラパラめくっていたのだが、全然おもしろくないんだもん。ネタを拾うには役に立つけど。エッセイ仕立てだけに精一杯冗談めかして書いてんだけど、ウィットを感じないのね。たぶん本人は毒舌のつもりなんだろうけど、切れ味が鈍くて、毒舌というより女性週刊誌の記者がなんとか記事を盛り上げようと大風呂敷広げてみました、どうせみんな死んでるし…って感じ。マジメに読んでるつもりなんだけど、気がつくと目が字の上をすべっていて、何にも頭に入ってこない。フセン片手に、とにかく早く読み終わろうと努力するのみ。

9月12日(木)

資料読みは続く。『ミスターXを探せ』(ミランダ・リー・ハーレクイン)。わお、ハーレクインロマンスって初めて読むよ!この本はハーレクインロマンスの中の「ティーンズロマンス」というレーベルに属するらしい。主人公は25歳、地味な服装で流行に無頓着な図書館司書。で、処女。むむ、なんちゅう設定か…。彼女は初恋の、近所のおにいちゃん(ルックス完璧で、ビジネスマンとしても成功をおさめている)に振り向いてもらうべく一念発起。髪型を大胆に変え、セクシーな服を買い、あっという間にハッピーエンド。

こういう本ばっか読んで読書をしてるつもりになってる人ってかわいそうだな。でも、自分で選びそうもない本を読むという体験はけっこう好きだ。道に落ちてたシドニィ・シェルダンの本を拾って読んだ時もそう思ったな。

寝る前は、友人に借りた『新潮45』のバックナンバーを夢中で読みふける。

9月13日(金)

『ジュリアス・シーザー』(シェイクスピア・新潮文庫)の続きを電車の中で読んでいた。千代田線で日比谷に向かっている筈なのに、ふと外を見たら経堂だった。方向反対じゃん!あわわわ…あろうことか試写に遅刻。

用事を済ませ、銀座の教文館をうろつく。まず、第一の目的である『アントニーとクレオパトラ』(シェイクスピア・新潮文庫)を手に取る。出たばっかの村上春樹の新刊が並んでいたのでパラッとめくったが、2秒くらいで戻す。40前後くらいの男性が隣で同じ本を手に取ったが、彼も同タイムくらいで戻していた。時は金なり。それにしても春樹の新刊の平積み面積も小さくなったものよのー。

『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』(金井美恵子・朝日文庫)を購入、読了。ひでえタイトル。金井美恵子の最近の作は、自分でもなんで読んでるのかよくわからない。露悪だよなあと思うし、主人公たちの鼻持ちならないプチインテリぶりにたいがいうんざりするのだ。登場人物の会話にゴダール出てきすぎ(笑)!このタイトルだからわざと? あといつものことながら、「かあいそう」って表記が気に障ってしょうがない。

しかし、時々は著者の、女性の駄目さを一挙一動ねちっこくツッこむ意地の悪い視線に「もっとやれ〜い!」と快哉を叫んでしまう自分がいる。どうせなら、もっと思い切って下卑てほしい。それにしてもあとがきで、堂々と自作をほめる根性は認めなければならないだろう。「誰それに誉めてもらって感謝してマス」などと遠回しに自慢する輩よりずっといい。

銀座からの帰り、銀座線で渋谷に向かってるつもりが、ふと見ると上野。どうなってんだろ、もう!

 

★9月9日(月)更新★★★★★★★★★

9月8日(日)

『6stories 現代韓国女性作家短編』(集英社)なんかひと昔前の日本を思い起こさせるような。20〜30代の女性を主人公にした作品が多いのだが、「どうでもいい日常を切り取った」ような作風はなく、けっこう硬派な印象。それでいてふつふつとたぎる熱を感じる読後感。岩波書店からも韓国の短編選集が出ていたような。併読したい。

9月6日(金)

『渚にて』(ネビル・シュート・創元SF文庫)第三次世界大戦で世界中が放射能に汚染され、逃げ場所もなく最後の日を待つ人々の物語。投げやりになるでもなく淡々と過ごしているように見える人の、ひそかな狂いぶりが、読みすすむうちにじわじわ胸に迫ってくる。

前に、こんな3本立てオムニバスの夢を見たことがある。主人公は5歳くらい、小学中学年くらい、18歳くらいの自分。共通していることは、どの年齢設定においても自分には半年ほどの余生しか残されていないという状況。悲劇的に思えるが、その夢の中で世界はなんとクリアーであったことか。いつもこうありたいものだ。

9月4日(水)

『おにいさまへ…』(池田理代子・中公文庫)いいわ〜、少女マンガって。舞台は女子校。先輩を宮さま、サン・ジュスト、ミス・ボルジアなんて呼んじゃってもいい少女マンガ世界、大賛成。とびかうバラ、抱擁(しかも女同士ね)、涙。話のツジツマとか細かいことを蹴散らすダイナミックな人間模様よ。漫画が荒唐無稽でなくておもしろいわけあるかっての!それにしても70年代の池田理代子の絵はスゴイね。華麗の一言。

『なんだかおかしな人たち』(文藝春秋編・文春文庫)その名のごとく、一風変わった人物たちの奇談・珍談を集めたエッセイ集。何よりおもしろかったのが、徳川夢声氏の筆による『獅子文六氏行状記』。特に、獅子文六VS内田百けん(←字が出ないよー!)氏の初対面バトルの件がメチャクチャおもしろかった。怪獣大戦争みたい。

9月2日(月)

週刊コラムなんぞを書く手前、我が心に喝を入れねばと久しぶりに『茶話』(薄田泣菫・岩波文庫)を再読。これは大正のころに新聞連載されたコラムから、著者自選の作を編集したもの。その幅広い知識…それを短いコラムの中でおもしろく物語る腕前にひれ伏す。そして鋭く簡潔な書きっぷりの気持ちよいこと! 

 最近、週刊誌でおもしろいと思うエッセイ&コラムになかなか出会わない。わたしゃー、「週刊新潮」派なんですが残念ながら楽しみにしてる連載エッセイっていっこもないもんね。読みごたえでは、福田和也のはまあまあだけど。桃井かおりのはヒドイ。イッセー尾形のしょぼいイラストがついてるのも意味不明、かつページの見栄えを悪くしている。女優やらタレントにエッセイ書かすなやー。おかげで「エッセイ」の地位はどんどん失墜していくようだよ。

★8月30日(金)★★★★★★★★★★

「戦争の記憶フェア」のオビがかかって並んでいた『北岸部隊』(林芙美子・中公文庫)を読み始める。特派員としての南京従軍記。さすが『放浪記』の林芙美子だけあって、緊迫した状況であるほど文章がいきいきと脈打つようだ。因果な…。【伏字復元版】といううたい文句に弱い私は、去年だかおととしの今ごろにも同じ理由で石川達三『生きている兵隊』(中公文庫)を買ったっけな。ま、おフミさんも石川ももともと好きな作家なんだけどね。

8月28日(水)

『チョコレート工場の秘密』(評論社)を何年ぶりかで再読。ロアルド・ダールは大人向けの小説ももちろんおもしろいが、児童向け小説の痛快さはそりゃたまらん! 田村隆一のグルーヴィーな訳文も最高でっす。現代においては改訳されて消されてしまいそうな言葉(白痴とか狂人とか)がそのまま残されてるのが驚異的である。世界一のチョコレート工場を仕切るイカれた工場長や、工場で働くピグミーたちが、腐れきってる子どもを時にさりげなく皮肉り、時に堂々と罵倒したりするトコが、児童小説じみてなくて好き。ブキミな挿絵もいいよ。勢いで『ぼくらは世界一の名コンビ』(ロアルド・ダール・評論社てのり文庫)も読む。こちらは、大人げないほど密猟マニアな父さんとひとり息子の物語。表向きはマジメに暮らしてる大人なのに、夜ともなれば冒険心がうずいて禁猟区に忍び込み、みっともなくも落とし穴に転落(笑)。どっこい生きてるやんちゃ心がビューティフル! 

8月26日(月)

昔、短篇アンソロジーで1、2篇読んだきりなんだけど、ずーっと気になって名前を記憶してた作家、ジェラルド・カーシュの本が出ましたよ。『壜の中の手記』(晶文社)なんて、タイトルからしていいじゃないの! タイトル作は、アンブローズ・ビアス(『悪魔の辞典』を書いた人ね)の失踪事件をネタにとったものだったりなんかして…こりゃまたロマンよのぅ。各編にあふれる不気味なムードはblackというより極彩色で、ねっとりとして豊か。話のアイデアだけでなく、文章も読みごたえがあって、先を急がずじっくり楽しませるのだ。

『創元推理21』2002夏号を読む。半年に1回出る、文庫サイズのミステリ専門雑誌。評論はおもしろいのが多いけど、残念ながら肝心の小説群は肩すかしな感じ…「ミステリっちゅうか、おとぎ話かよ」と悪態つく読後感。オチがついてるヤツでも「ええっ! そんなメジャーなミステリのオチを使い回していいの〜!?」と、びっくらたまげるような結末だったりしてしょんぼりんぐ。(注)「トリック」ではなく「オチ」というのがやっとなんです…。

でもねー、今年101歳で亡くなった最長寿のミステリ作家渡辺啓介や小松崎茂の追悼特集を、地味ながらもちゃんとやってくれるこの雑誌、好きです。がんばれ東京創元社! 

8月24日(土)

『涙の谷』(福田和子・扶桑社文庫)が文庫になったので購入。強盗殺人の挙げ句に逃亡し続けたが、時効スレスレ14年11か月 でお縄となった著者が自ら書いた、逃亡・逮捕・公判に至る手記。自殺するすると言いながら死に切れない、自首できないのをいちいち運命のせいにし、幾度となく「神はなぜ私を生かしておくのか」と独りごちる。死ぬ気などハナからないくせに。しかし、捕まりそうになってはギリギリで逃れるカンは見事だ。あさましいほどの生への執着には共感する。

 

★9月30日(月)更新★★★★★★★★★

睡眠不足じゃー。この3か月ほとんど仕事をしておらず、部屋で処分する本を選別する毎日。ほぼ連日オールナイトなのだー。そしてもちろんあらゆる本にひっかかりまくる。「けものたちは故郷をめざす」(安部公房・新潮社)再読のつもりだったが、今まで読んだところに記憶がない。安部公房にハマってたのは中学の頃だから、もうカンペキに違う人になっちゃったのかしらん。ついでに書くとオレが初めて見た演劇は、今は亡き安部公房スタジオだった。これがオレの演劇観を微量に狂わせている素かも。「東洋語源物語」(渡辺紳一郎・旺文社)逆にコレはたぶん読んだな。もう1冊くらいウチから出てきそうだ。でも面白いので飽きるまで読むぞ。「性の常識・非常識」(今戸悠・河出文庫)この本の著者とは2度ばかりお目にかかったことがある。やっぱりすごく長けてるのかしら。セクシャル・ヒーラーの「くりとりすOK」さんより100円で購入。すごく実用的で、性もいいもんだ、と思える好著。「ベルクソンの科学論」(澤瀉久敬・中公文庫)素晴らしい入門書。基本的に哲学は研究者のものだと思ってる。まず言葉にひっかかっちゃって、素養のないオレみたいなシロートはウロウロしてしまう。だから著者のようなすぐれた先生の講義を読んでから、モノホンをさすってみる、というのがベストだね。ベルクソンいい奴。好きよ。他に「井伏鱒二対談集」(新潮社)河盛好蔵とのが良かった。鱒二はいろいろ盗作疑惑のある人だが、平気でそのへんを触ってる(笑)ような気が。で、鱒二もぜんぜん平気(笑)。ジョン万次郎や山椒魚を直したり、ってやっぱり自覚はあるの?あと黒い雨つったら全部じゃん!深沢七郎もなんかヤなこと急に言ってた気がしたが、もう忘れてしもうた(笑)。ほかにもなんかまだあるような気がするがメモがないのでまた来週!

★9月23日(月)更新★★★★★★★★★

 いやー、自分が企画してるフリマの準備その他でメチャ忙しくぜんぜん本が読めましぇーん(泣)。悲しー!とは言ってもチビチビ隙をみつけては頁を繰っておるのです。だいたいオレは1冊ずつ読了していくという勤勉な読書人タイプではない。面白そうなら読み始め、飽きたら違う本にも手を伸ばし、さらに、さらに・・・といった具合。並行して、7,8冊読んでるのが常です。しかも内容にガックリきたらその瞬間、本を地に落とし、素知らぬ顔で立ち去ってしまうのです。クールでドライと呼ぶなかれ。時間は無限ではない。つまらぬものに拘泥してるヒマはないのだ。誰に頼まれたわけでもない、大事なオレだけの楽しみなのですから。

何冊も同時に読むと、特に小説の場合には場面の混乱が生じて面白い。一応、かぶるジャンルのものは無意識に避けているんだけど、まれに混ざっちゃってワケわかんなくなる(笑)。スリラーとか恋愛小説とかね。でもそういうの、おかしくて好き。ワザと似たようなのばっかにするのもなかなかいーよ。試してみ。ハーレクインはやめとけよ(笑)。

いま読んでる3冊はバラバラ。時代もテーマも設定も違うので本来はまず混ざりようもない。が、ちょっと頑張って意識的に、「高いところで」(笑・これ最近好きなフレーズ)混ぜてみたいと思ってるのだ。

「暗い絵・崩壊感覚/野間宏」(新潮文庫)

「リンゴォ・キッドの休日/矢作俊彦」(ハヤカワミステリ文庫)

「水いらず/サルトル」(新潮文庫)

どれも面白いよ。騙されたと思って読んでみー。

ポルノ数冊と吉本ばななの対談集も読んだなー。ポルノはいいよー。文章の勉強になるんじゃないかな。小説家志望の人にはオススメするね。今どき使わない字がバンバン出てくるし、ビジュアルショック度は劇画ネーム並みだよねー。「臀」とかさー。ヒキもちゃんとあるし、面白い面白くないの差が著しいジャンルですね。ちなみにオレはどうやら義母&看護婦ものが好きみたいよ(笑)。対談・インタビューは人を見るかんじで好き。THEピーズってバンドがオレは好きなんだけど、それもインタビュー読んでみつけたからな。「ぜったいいいに決まってる」と思って聞いたら、やっぱ良かったもんねー。ま、逆にいうとコワイよねー。人は自分で思ってるよりずっと自分を丸出しにしてるものなのだよ。気をつけろ!キミ。周りはやさしいぞー(笑)!

★9月16日(月)更新★★★★★★★★★

去年の秋に越したと思ったら、もう来春には出ねばなりません。アパートの取り壊しで、またお引っ越し。とにかく前回の引っ越しはつらかった!生まれてこのかたで一番だったよオーバーでなく。36時間不眠不休で肉体労働。言葉にすると簡単だけどいいトシこいて実際やると死ぬよー(笑)。特に最後、新居に荷物を入れる時が壮絶だった。いちいち狭い階段を運ぶのは面倒と、屈強な引っ越し屋のアンちゃんがトラックの屋根からボンボンと段ボール箱を投げ込むのよ、凄いテンポで。で、それをすごーく不安定な二階の窓ぎわで受け止めて部屋に入れる係がオレね(笑)。自慢じゃないけどオレは椎間板ヘルニア持ちよ。家のローンは組めないカラダよ(笑)。いやマジで審査通らないっていうからねー。そんなカラダで200以上の重ーい箱をキャッチボール。そのうち120が本だったのです。本ってホント重いのねー。受け損なうと下まで落としちゃうし、もう必死でした。全部おわってムチャクチャに部屋に積み上げられた箱の山を見たときに、オレは生まれて初めてと言っていいくらい、すごーく反省したのです。

こんなに本はいらない。もう一生分くらい十分ある。とりあえず今の目標はつぎの引っ越しまでに本を3分の1減らすこと(ムリかも)。でここんところ毎晩明け方まで処分する本の選び出しをシコシコやってます。でもこれがまた楽しいのね(笑)。一度は買った本。やっぱりざっと目を通し面白そうだと思って買ったワケです。だから読了してないものは読みたくなっちゃうねやっぱり。ヒヒヒ。アホですね。時間ねーよ。

そんな中でなんの躊躇もなく始末できるのはかぶって買った本。それらは必ず決まって青春の読書本ですね(主に文庫)。読みたくなったのに部屋で見つからなくて再度買ってしまうのです。『ヴェルレーヌ詩集』『ランボー詩集』『阿Q正伝』『高野聖」『中原中也』(こりゃ評伝だが3冊あった)『パンセ』『フォークナー短編集』『萩原朔太郎詩集』。ほかにチェーホフ、T・ウィリアムス、カミュ、倉橋由美子、太宰、安吾、漱石、H・ジェイムス、河野典生、チェイス、金子光晴にもあった。年のバレるラインナップですね(笑)。バラバラにしちゃうのは可哀相だからまとめて地下鉄文庫にでも置いてこようかしら。

★9月9日(月)更新★★★★★★★★★

森村誠一を読んでる人をはじめて見た!なんだかショッキング(笑)。

『本が虫』(養老孟司・法蔵館)書評集。ヨーローさん、なんか好き。「私が本を読んでいるときは、現実がむずかしくなる可能性が大きいときである」には皆、うなづけるだろう。ピクシーズのブラック・フランシスはインタビューで「ロックンロールとは逃避である」と述べていた。オレがフランシス氏を信頼するユエンはここにある。上記のヨーローさんのフレーズ、よく巷間口にされる事ではあるけれど、わざわざ書いてるとこにヨーローさんの本気を見る。いや、見てあげる。“ドグラマグラ”夢野久作を語るときのみやや身構えた感じがするのは気のせいか?

『耳のこり』(ナンシー関・新潮文庫)ナンシーさんには、仕事で数度お目にかかった事がある。シャイで、ブッキラボーな風情、ほとんど言葉は交わさなかったのだが、なんとも人として好印象が残っている。オレはここ10年テレビをほとんど見てないし、もちろんタレントも知らないのだが、この人の書くことはそのまま信じている。あの特異な外見と内面のギャップ故にものすごく可能性があった人だと思うが、残念。冥福をお祈りします。

『個人教授』(佐藤正午・角川文庫)また佐藤正午。オビにある「行方不明の彼女を追う、切ない愛の物語」はぜんぜん内容と違ってると思うけどいいのかな? ま、タイトルもなんかズレてる気がするのでいいのかも。50代の女性ってそんなに素敵なのか?ドキドキ。

★8月★★★★★★★★★★★★★★★★

『ジャンプ』『夏の情婦』(佐藤正午・集英社文庫) この人の文体がなんだか好きでデビュー作から愛読している。内容は、身勝手な男が地方のショボいスナックで酒を飲んでて、みたいな話ばかりだが、実によい。オレは酒もギャンブルもやらないので、ちょっと憧れちゃうのかも。こないだ帰省した時、尼崎競艇に友人と行ってみた。なんだか天国みたいなところだった。そう、この人の小説はギリギリで何かを保証してくれるかんじがする。甘ったるくて感傷的。すなわちロックンロール、もといハードボイルド。

『アルケミスト』(パウロ・コエーリョ・角川文庫)なぜかたてつづけに二人の女性から勧められた本。羊飼いの少年が宝物を求めエジプトのピラミッドを目指し、途中ショボイ宝石屋をアイデア商売で繁盛させたりする話。当然錬金術師も登場するのだが、ちょっとハリソン・フォードとかが演じそうなキャラであった。ハリウッド向きということか。面白かったな。なんか、オレがすすめられるのもわかる気がする。副題は「夢を旅した少年」(笑)。いま「ピエドラ川のほとりで、私は泣いた」を読んでいる。哲学ぶってるとこ以外は全部好き。ラブロマンス。最後まで読めそう。  

『太宰治との愛と死のノート』(山崎富栄・学陽書房/女性文庫)オレは去年はじめてさっちゃんの写真を見て「やられたー!」と思ったのだ。イメージとぜんぜん違った!文学かぶれのオールドミスみたいのと思ってたら、チョー可愛いんだこれが。太宰はさすがだね!だてにモテてないね、と思ったよ。しかもすごくいい子じゃん。女性はおしなべて嘘つきな生物であるがやはり可愛いんですね。可愛くあろうとする生き物なのです。多謝。

『回想 開高健』(谷沢永一・新潮社)オレも幸いなことに才能ある友人をいくらか持っている。彼らは当たり前だが自分に厳しく必ず孤独である。栄光も挫折も一身にひきうけているのだ。そんな風に憧れて、そうでもない人は違ったやり方を探さなくてはならないのです。たどりつきはしないかもしれないが。いやー、読んでて気分いいよ。まだ途中。

『ポップ1280』(ジム・トンプソン・扶桑社)サイコー。このミス2001第1位のオビに誘われたのだが、なかなか日本の読書する方々もセンスがいいと感心した。もともとB級ハードボイルドがたぶん最も好ましいジャンルなんだけど、これはさらにちょっとイイね。ものすごく心ない保安官の話なんだけどすごく頷ける自分がコワイ。みんなホントにこれ判るのかな、って感じですね。いや、読まない方がいいよ。

『彼女たちには判らない』(ボリス・ヴィアン・早川書房)で、気分よくなってこの本です。アホらしいほうでこれまたサイコー。女嫌いなのかね。やっぱそうでしょう。レズのギャング集団を金持ちのボンボンが片手間にからかうお話。よく書けてるねー。ずっとこんなのばっか読んでたいねー。

★9月30日(月)更新★★★★★★★★★

今週は、勤め先のホームページの新連載とかありまして、原稿書く時間がなかった。 おまけにネタがない。 コマツもこずえも、毎回よくあんなに毎週毎週、本が読めるわねえ。 ぜんぜんヒマそうに見えないのにねえ。

わしなど、3〜4冊平行して読んでるけど、一冊も読み終わらない週のほうが多いわ よ。 本を読む時間て、一日のうち、みんなどれくらい? わしなど、「通勤時間の20分間」と「メシの20分間」と「食後の喫茶時の30分 間」、計1時間10分ね。 あとは仕事・酒・音楽・放尿に費やされるものねえ。 あっ、「排便時の15分間」というのもあったわね。計1時間25分ね。 次に読む本は『さびしい男』(筑摩新書)と、『ノーム・チョムスキー』(版元忘れ た)です。 もう買ってあるの。 しかし、いつこれらの本の報告ができるかどうか・・・。

わしの連載も見てね:http://www.hakusuisha.co.jp 「クラブ白水」コーナー。10 月から「ふたつの世紀にまたがって」という、40代シングルライフを考察する新連 載をやるです。

★9月23日(月)更新★★★★★★★★★

お前とは寝たいだけ,の本

秋はよく眠れる季節ですよねえ.こんなときこそ,思想・哲学の本を読んで,ゆっく り眠りたいですよ. 『純粋理性批判』(I.カント,岩波文庫)全三冊なんておすすめです. あったわねえ.我々さんの歌に:「無人島に行くとき 一冊だけしか本をもっていけないとしたら〜 『存在と時間』〜.」じゃなくて,「・・・『存在と無』〜.」 だったかしら?

そうねえ.ゆっくり,誰も知らない南の島で,ハンモックに揺られ涼風に頬を撫でら れながら,『否定弁証法』(T.アドルノ,作品社)で顔を隠しながら眠りたいわあ. でかい本だから,日焼けしないですむし. わしは記憶力に人一倍自信ナシ.読んだ本についても,内容を覚えていないことがす ごく多し. 小説のディテイルやストーリーを綿々と飽きるほど説明できる人がいますが,驚嘆に 値いしますな. 「あっ,あの場面,良かったわよねー」ぐらいは言えても,「どういう登場人物がど ういう活躍を?」ということになるとカラキシ思い出せないこと多し.だから小説は ホント,何回となく読まないと. だから,思想・哲学関係でも,「あーあのヒトの言ってることって,まあだいたいこ んな具合よね」くらいは言えても,「どういう論理運びでそのような結論にいたった のか」についてはカラキシ.だからホント,やっぱり何度となく読まないと. でも,先日,わしだけでもないのだな,と思った.

わしの勤め先でとなりに座ってる 上司は『エチカ』(スピノザ,岩波文庫)を何度でも読む.『本居宣長』(小林秀雄,新潮文庫)も何度か読んでいる.なぜ? 「いやあだって,読んでしばらくする と忘れちゃうじゃない」そうですか部長,あたしもよ.ところでこの部長のおうちの トイレの前には大量のマンガ単行本がある.「やっぱりトイレはマンガに限るよ.」 彼は岡崎京子の全作品を読んでいる.高野文子の新作をわしが読みそこねていると 「ダメだよ早くよまなきゃ」と言う.そういえば,高野文子の最新作であろう『黄色 い本』のネタ本になってる『チボー家の人々』(R.M.デュガール,白水社)新書判全 13巻だが,いまどきこんな長いストーリー読むヒトいるのでしょうか? わしはそ のネタ本を刊行してる当の会社の社員であるのだが,読んだこと,ナシ.そういえ ば,仏文出身なのに,『失われた時を求めて』も読み通してない.いまの若い人なら べつに許されるかもしれんが(みんな読書どころじゃないだろうから,捌かなきゃな らん情報量が多すぎて),わしの年代だと,それくらい読んでないとねえ.なにしろ ヒマだったからねえ学生の頃は.まあ,どうせ読んでも,覚えてないんだろうけど.

さて,わしは本を読みながらメシを食う,ということは前回書いた.そしてさらに, わしは本を読みながら眠るのも好きなのである.昼休み.メシを食い終わり,スタバ などでコーヒーをやりながらウトウトするのは楽しい.その際に利用する本は,最初 に書いたように,「思想・哲学書」がいいのである.ストーリー運びにワクワクする ような本はダメね.目が覚めちゃうから.眠りながら読むと,フシギに頭に入ってく るのよねえ.逆説的.覚醒と思考が相容れない.むしろ睡魔が集中力を増幅.そうい う経験,ないですか? 

眠気が,雑念を消し去ってくれて・・・なんか穴の中に隠れ てるみたいに,眠気の中に落っこちていると,周囲になにがあろうと気にならなく なって,眼の前の活字に集中できるんです.気持ち良い,そのうち,何が書いてある かわかんなくても構わなくなってくる.難解なコトバのラレツが,晦渋ゆえに心地よ くなってくる. こういう読み方をしてるから,論理の筋道をたどりながら内容を理解するなんてムリ なのよ.あたかも断章をツマミ読むように,意識の薄れが長いパラグラフを切り刻ん でしまう.でも,かといってニーチェはこういう読みには向いてない.まるっきり断章だと,話題がクルクル変化するから,眠気が寸断されちゃうのね.それにたとえば 断章の神様ニーチェだと,歯切れと威勢がよすぎて「オラオラ,オレの本読んで寝る かフツー」って叱られてる気分になっちゃうわっ.

そういうワケで,いま読んでるのは,『自由の経験』(J.L.ナンシー,澤田直訳 未 来社)と,『寝ながら学べる構造主義』(内田樹 文芸春秋).前者は食後のお眠り 用.後者は,そのタイトルにもかかわらず,通勤車中で読んでます.

★9月16日(月)更新★★★★★★★★★

●時事ネタ本で楽しくランチのひととき

新聞を取っていない. テレビもない. ラジオ,聴かない. 何かあったらどうする! そうなのよ〜.1995年,ある朝,勤め先でお昼頃「だ いじょぶだった? 通勤,千代田線でしょ?」「なあにがあ〜?」「霞ヶ関で,毒ガ ス騒ぎだって,知らないの?」「知らん」

去年の今頃も:「アメリカ大変ですね,戦争になるかも?ってメールが来たんだけど,なんかあったん?」このときは同僚にものすごくバカにされた. では,どうすればいいのか? 「時事ネタ本」を読むのである.たいていは中公と か,講談社とかの新書である.同時多発テロのときは,『現代イスラムの潮流』宮田 律(集英社新書)をただちに自宅近くの「信愛書店」にて購入し,悔しさをまぎらわ すために読んだものだった(なにしろ、バーミヤンの仏像爆破事件も知らなかったの にゃ〜ん).こういうたぐいの本は,昼メシを食いながら読むのが習慣となってい る.なぜなら:文学作品じゃないから、文体に意を払いつつ読む必要がないので, ちゃんとメシを味わいながら読むことが可能/ラーメンの汁や、納豆の粒がページ上 に飛び散っても気にならない。どうせ時事本=短命。1年後には古びてしまう情報に すぎん/一つのテーブルで、スーツを着た4人くらいのオヤジに囲まれて、コソコソ とメシを食う状況でも、新書サイズだから読める。場所をとらない・・・などの利点 があるから.新聞読みながら食う人もいるけど,アレけっこうメイワクでしょ.

いちばん最近読んだ「時事ネタ本」は『ヒンドゥー・ナショナリズム』中島岳志(中 公新書ラクレ)です.この著者,1975年生まれ! わっけー!(わしと干支同じ ひとまわりトシ下),と思って,それと袖の写真がけっこう可愛かったんで買ったん ですよ(印パ国境の緊張の高まりに関心があったわけじゃなくて).しかも,この 人,柔道とか強くて,「民族奉仕団」メンバーの兵士をどりゃーって投げとばしちゃ う.わし,柔道とか空手とかに強いオトコに弱い〜ん.ハイスクール時代も,柔道部 のキャプテンにうっすらと恋心を抱いておりましたし.さて,この本はどういう本か ?真摯に南アジア地域の研究に取り組んでいたひとりのオトコがいた.しかしインド にて,偏狭で排他的なナショナリズムがドンドンおのれの研究対象を浸食している状 況に直面する.激しく傷つく彼,しかしヒンドゥーの理念をこよなく愛すオノレのココロを,今更捨て去るわけにはいかない.煩悶する若き研究者.「がんばって,中島 クン!」わしはページに向かって応援した.アコウダイの粕漬けを頬張りながら. 「これが真のヒンドゥーと言えるのか!」インドを縦断する聖地奪還のデモに参加し 中島は吠える.いぎたなくイカサマ商売をするデリーのタクシー運転手を中島はぶっ とばす!この本は,カラダを張ったルポルタージュの傑作である.

さて,わしが高校生時代に恋心を抱いていた,その柔道部のキャプテンだが,彼の本 が文庫になりました:『北朝鮮 送金疑惑 解明・日朝秘密資金ルート』野村旗守 (文春文庫)である.これも「そこまでやらんでも」というほどに,カラダを張って 朝鮮総連の影の世界に分け入っていく,ほとんでハードボイルド小説のようなルポ. 彼と最後に会ったのは,たしか有楽町で.ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」 をやっていた映画館だった.大学を卒業して3年くらい経っていたかしら.映画館を 出て,銀座の,今はない「ミュンヘン」で共にビールを呑んだ記憶がある.そのあ と,しばらくしてわしの勤め先に電話が掛かってきた.「オレ,いま外国人用の日本 語新聞の編集部にいるんだけど,日本語の良い教科書,教えてくれないか」わしは勤 め先で,『エクスプレス 日本語』という外国人向けテキストを担当したことがあったので,それを紹介した.それっきり,彼とは会っていない.「インドに居るらし い」という噂を,耳にしたことはあったが・・・.

さて,この本で,いちばん印象的だったくだり:「話してくれというのなら,話して やってもいい.しかし,話すとなれば,こっちは命をかけて話すんだ.あんたの方に その覚悟はあるのか.あるというのなら,まずそれを見せてくれ」その男に詰め寄ら れた私は,往生していた・・・私には,女房子供はいません.フリーの人間ですか ら,組織のうえでの心配もありません.もちろん,命は惜しいですが・・・.」ここを読んで,「ああ,野村君はいまでも独身であり,日本語新聞の編集者も辞め, ジャーナリストとしてハードに生きているんだ・・・」ということが分かった.わし はふと,高校の図書館で,種田山頭火を読んでいた野村君の姿を思い出した.いつ も,最後の授業のあと,閉館まで図書館でねばるのが彼とわしであった.そう.地元 の酒屋の息子である彼は,わしを自転車の後ろに乗せて,東上線のとある駅まで送っ てくれたこともあった・・・命を賭けて闇の世界への接近と事実の追求に生きる一匹 オオカミ・元柔道部キャプテン野村旗守.何も賭けずに後腐れのない恋愛と適度なモ ロモロの刺激を求めて生きる3流編集者・元文芸部部長わし.なんという彼我の相違であることよ.ちゃかちゃんちゃん.

★9月9日(月) 更新★★★★★★★★★

●再読のたのしみについて

むかし,おつきあいをしていた女性に, 「いま読んでる本,これで3回目なのよね」といったところ, 「ええ〜まじぃ〜(いや,当時はこんな口調で話す若者はまだいなかったな)? へ んだよそれ」 「何がですか」 「あたし,一回読んだら,すぐ捨てちゃうもん.何度も同じ本読まないよーフツー」 この女性とは三ヶ月と続かなかったが,原因はこのときの会話にあったのかもしれな い. たとえば小説なら,いったん読み終えてストーリーがわかってしまったら,二度と手 にすることはないだろうか.そんな小説はたとえ一度きりであっても読むには価しな いであろう. これが,前回とりあげた「メシ本」であれば,「今日の店はイマイチであった.次回 はどの店にしようか」と,何度でもレファレンスするであろう.・・・が,だからと いって,「メシ本」が繰り返し読むに価するジャンルだとは,とうてい言えまい. 何度となく,思い返しては,また読んでしまう本,あるでしょ?

ルイ・カストロ『ボサノヴァの歴史』(音楽の友社).先だっても,読み返した. なぜ繰り返しこの本を読むのか?  最初に読んだとき,この本に描かれている人たち,出来事,そしてとりあげられてい る楽曲について,ほとんど知らなかった.1940年代から60年代にかけてのブラ ジル.ああ,あまりにも遠い. で,実際にさまざまなボサのCDを聴きあさり,ポルトガル語を学び,ボサ・バンドで 歌ってみて,もう一度読んでみた. なぜか,一回目と,二回目で,新鮮さ,読んでいる間のワクワク感は,ほとんど"同 質の"ものだった. 結局,この本のクライマックスは,ヤク中と流浪と完全に近い自己幽閉の果てに, ジョアン・ジルベルトがサンバのリズムをつま弾き変形していき,ジワジワとボサの ビートを紡ぎだしてくるプロセスにあると思うのだが,ボサノヴァについてほとんど 無知に近い状態で読んだときと,ある程度ボサを体験した後で読んだときとで,「あ あ〜ん,かっちょいいわ〜ん」という気持ちは増えも減りもしなかった. こういう本は,また今年中にもう一回くらいは読むでしょう.いつのまにか読みたく なってくるんです. 「あっ,音楽って,こういうふうに変形生成していくものなのね」というのが何度で も実感できる本.

谷崎潤一郎『細雪』.これも3回ぐらい読んだ. はじめて読んだのは,ハタチのころ.市川昆の映画を見て,次女のダンナ役の石坂浩 二の演技がとても気に入ったので,では原作もということになり読んだのでした. 「なんと冗長な,しかも女くっさい物語であろう.これに比べて,映画のほうはなん とスタイリッシュにまとめられた構成美と整合感に満ちていたことであろう」という 感想.う〜ん中公文庫で900ページくらいだったか. ところがやはり.就職して仕事で関西へ行くようになって再読し,印象は激変しまし て.「こりゃアレだ.関西ええとこ嬢ちゃんソサエティー大絵巻だから,構成とかど うでもいいんだ.だいたい,難波の立ち飲みで酒飲んでみたけど,あのぐちゃぐちゃ な街の喧噪がこの小説の書きぶりと似てる.ストーリーなんてどーでもいいんだわ, きっと」この本のなんでもあり〜ムードを,酒も飲まず恋人もなく図書館通いしてた だけのハタチの頃には,楽しめなかったんでしょう. ちなみに,新潮文庫で上中下の三巻本も出ているが,やはり900ページの中公版で いきたい. 何度も読んでいるうちに,分厚い本が手垢でどんどんばっちくなっていく.わたくし の手に潤一郎が馴染んできて,いい感じ.『ボサ歴』も二段組500ページだし,本 が分厚いことも,再読を促す要因かしら.

枕頭の書,というものもある.枕元なので当然,夜中に読む.夜中なので,酔っぱ らっている. たとえば『コンスタンティン・カヴァーフィス全詩集』みすず書房. 25歳くらいのときに見出し,それ以来幾度となく読んでいる. 25歳のわたくし,この詩人の美少年エロス詩にはげしく魅せられた.「ふたりはゆ るされぬ愛を満たした/起きて,素早く服を着けた,ものも言わずに/人目を忍んで 別々に家を出た/だが,いささかふらふら通りを下るふたりを見れば/それとなくひと にわかると,ふたりは思う/さっき どういうたぐいの寝床を共にしたかが...」 酒も飲めるようになり,折しも一人暮らしを始めたころでしたので,ぺちゃんこの布 団にもぐりこんでは,この「エロス詩」を読み,酒をやっては身もだえしたもので あった. さいきんは,わたくしのエロス度もだいぶ低下してきたので,身もだえはしないが, やはりこの訳文.ひとり眠りに落ちる前に,声に出して読んでは酒,「いいわ」と呟 き読んでは酒.その反復で来年はいよいよ40の大台を迎えるに至ったわたくし.し かしいまだ,美少年を抱いたことはない.な〜になに.これからよ.ああ,この本も 分厚いんだった. あと,「定期的に漱石を読まねば病」というのもあるけど,これについてはまた機を あらためて.こないだは,『行人』を読みました.これもやっぱ,ハタチの頃よりぜ んぜんよかったわあー.

★8月★★★★★★★★★★★★★★★★

●「メシナビ本の快楽」

メシにはまる,ということがある.それには,いいメシ本が必要だ.メシ本について,ちょっと言わしてくれい.

『神様カレー』は,本からカレーの匂いがするので話題になった『俺カレー』(アス ペクト刊)の著者,東京カリ〜番長文芸春秋社から刊行したメシ本でござい. これを読みますと,そこに紹介されているカレー屋のすべてを訪れたくなりまする.カレーはいい・・・そんなことは言われなくても分かっている.ただ,このようにメシ本の中で,いろいろな店にナヴィゲしていただくにつれ,次第 にカレーそのものよりも,「店に到達する」ことが主たる目的となりますね. 食べ歩き,という,世にも愚かしい行為の術中にはまる〜ん.ぷるる〜ん.そのうち,ハッと気がつくと,行ったことのある店に印かなんか書き込んだりして.ミシュランのよーに,「う〜むこの店は星いくつ?」とか,星マジで入れたりして.仲間内で,「きのう,あの店行ったわーん」「えーどうだったあー」「口ほどにもないわーん」など,語りあったりしはじめ.カレー屋一日に3軒ハシゴとか.そのうち,飛行機のってカレー食いにでかけるようになり.「サッポロのカレー・シーンが今,ヴェリヴェリ・ホットでしたんですよう」など, 自慢報告し始める.アホやねえ.でも,つかの間,生活に目的とハリができたような気がして,生きる気概わいてきて,ちょっと安堵.人間,なんかやってないと不安だもんねえ.

これと同様のことを,ソバでもやっちゃうんですよ. 『ソバ屋で憩う』という本.杉浦日向子さんのやってる「ソ連」編.新潮文庫. この本にも,いろいろ書き込みしましたねえ.ちょっとご紹介しますね.「村山市(山形)高木酒蔵 本丸 十四代」「天ぷらは「ぎんぽ」をいった.2002年5月24日は,「稚鮎」をいった&湯葉あんかけソバ」「狂気の蕎麦店・酔漢ソ バ・突如売り切れ生ビ終了」「店主,おそるべきウンチクの洪水」 なんのことやら,何なのにゃー.「その他,松本にて訪れた店:「もとき」「翁庵」など」・・・本に載ってない店ま で書いてる. アホやねえ.自己満足やねえ. 本に書き込みをすると,「ほうら,ほうら,酔ってる酔ってる」とはやしたてる人が いますが,そーねー.線引っ張って,「このくだりに関しては,ニーチェの「仮面」をめぐる考察を参照」.赤ペンで「おのが人生の本意を得たりとの思い,強し ドーストイエフスキイもかく考察したりとは,今更乍ら感慨無量なり おそるべしキリーロフ」とか書き込みする のと,あんまり変わんないかもね. あとねえ,お店の箸袋とか,名刺とか,もらってきちゃあ,本に挟んでおくという奇癖もあらわれますにゃ.(レシートまで入ってる.)

三冊目は,『無敵のラーメン論』(講談社現代新書)です. この本は,勤め先の便所で熟読しました.どのような本とともにトイレに入るか,みなさまそれぞれだと思います. 私の場合,マンガか,メシ本です. 太田治彦さんの『ニッポン居酒屋漂流記』全3冊にはお世話になりました.「どこどこへ行ってこれこれの酒と酒肴を楽しんだ」というだけのハナシだから,読解に手間 取って便意がさまたげられる,ということがなかったです.『無敵のラーメン論』も,「どこどこの店はかくかくのラーメンを出す」ということ しか書いてない.頭カラッポのまま,排便に専念できる. まあ,全国4000店,8500杯のラーメンを食い歩いたという著者の,魂の入れ 具合には敬意を表したい. そのくせ,「これだけ食ったけど,まあキホンは○○のラーメン.結局そこに原点回 帰するんじゃないの」式にうそぶいたりはしない.あくまでも全国のラーメンをひたすら紹介しまくる.だから,「これが正しいラーメン.だけどあのラーメンは間違っ たラーメン」なんてことも言わない.ランク付けもしない.著者自身の主観は可能な限り排除されている.ストイックなまでのラーメン行脚追求の姿勢.なんかいいわ,こういうの.「食べ歩き」という世にも愚かしい本末転倒も,ひたすら貫けばなんだかパワフルな のであるのにゃ.