刈 屋 小 学 校 で  授 業 を し ま し た!  楽 し かっ た で す!
課外授業・ようこそ先輩
  刈屋小学校 版

 「子どもの心と体の成長」
                2006/11/20 new
・・
 
 
     とても楽しいひと時を過ごしましたので報告します。
宮古市立刈屋小学校で、秋の日の午後、授業を受け持ちました。
宮古駅から車で30分から40分の、山あいにある小学校です。全校で50人ぐら
いの児童がいます。
対象は5,6年生20人、お母様、および先生方合わせて40人ぐらいでした。

@前もって、学校として希望する講演内容をうかがいました。
「子どもの心と体の成長について」という演題です。教科書の「新しい保健5・6
(心とからだ)」につながるようにして欲しい、ともいわれました。
Aさらに、「5・6年生が知りたいと思っている質問事項」を5・6年生から事前アンケ
ートとしてもらいました。 食生活を中心にした日常の生活に関する質問が、殆ど
を占めました。
一人の方が「子どもにもうつ病がありますか?小中学生でもなりますか?」と、質問
していました。 それをみて、「あ、これは真剣に伝えなければいけない」と思い
ました。 そして、できるだけ解りやすい、楽しいスライドを作ろうと思ったのでした。
 7月から10月にかけて、十分に案を練り、又自分の考えを確認するために
沢山の本を読みました。   そして次のスケジュールに決めました。
1) 15分間 実際に聴診器で心音を聞く。(人数分の聴診器を準備する)
2) 30分間 主講演「子どもの心と体の成長」 スライド約20枚
3) 15分間 質問から「生活リズム〜食生活を中心として〜」 スライド12枚

  
 「子どもの心と体の成長」の講演から、数枚のスライドをご紹介いたします。 
クリックしますと、拡大します。
今からたかだか半世紀前、私の子どもだったころ、
敗戦後の貧しい時代でしたが、子どもと子ども、
おとなとおとな、子どもとおとなの間のコミュニケー
ションがもっとよく取れていたように思います。
ひるがえって今を考えると、TVや新聞は、いじめや
自殺や、虐待を毎日のように報じています。
お互いが愛情を持って信じあえるように、困った事が
あったら、打ち明けられるように、又一緒に寄り添って、
解ってあげるにはどうしたら良いでしょうか。

今日は、おとなとして反省の気持ちをこめて、授業を
進めていきたいと思います。



はじめに脳のそれぞれの分野の働きについて簡単にお話しました。
皆さんは今私の話を聴いています。目で見たことは後頭葉で感じ、耳で聞いた事はウェルニッケ
の言語野で受け取りました。その後側頭葉、前頭葉、頭頂葉と連絡を取って理解しようと努力しま
す。私のほうは側頭葉、前頭葉、頭頂葉をつかってまとめた内容を、ブローカの言語野の命令で話
し、前頭葉の運動野の命令で歩いたりみぶりをしたりして表現しています。
さて今日のお話の主役は、脳の深いところにある、扁桃体と海馬と、前頭葉の前頭前野 です。
扁桃体は形からアーモンドの意味、海馬はタツノオトシゴの意味と言われています。


@嬉しい、楽しいetc.の感情を受け取る最初の
場所は扁桃体の、ある神経細胞群で、A悲しい、
つらいetc.nの感情を受け取るのは扁桃体の@と
は別の神経細胞群であると言われております。
@嬉しい、楽しいetc.の感情を受け取った扁桃
体は、直接および海馬をへて前頭前野に信号を
送ります。すると前頭前夜のある神経細胞群は
発達して、やるき・思いやりetc.が沸き、感情の
コントロールetc.も上手になります。
また自律神経にも信号を送ります。食欲もでるし、
成長ホルモンetc.のホルモンが活発に作られる
と言われています。 A悲しい、つらいetc.nの
感情を受け取った扁桃体は、やるきをおこしてくれ
る前頭前野に信号を送りません。海馬には悲しい
つらい記憶がしっかり残ります。自律神経には悪
影響を及ぼすので、食欲はなくなり、すべてのホル
モン分泌が悪くなります。前頭前野の発達が良くな
い為神経伝達物質も減少して、やる気がなくなり、
元気がなくなります。極限はうつ状態となります。



   
光トポグラフィー(近赤外線計測装置)

東北大学医学部教授川島隆太先生の著書から
写真をお借りしました。光トポグラフィーという検査
方法で、大脳皮質表面の神経細胞の活動を見る
ことが可能になりました。痛くないし、多少動いてい
ても検査ができるので、ここ数年でいろいろな事が
解ってきました。

私たちの骨や筋肉は赤い光を通過させる
性質があることを利用しています。
 

光トポグラフィー
左の図は目的のない指の動きをしている時の
前頭前野です。活動が低い時白っぽい色に
表現されます」。殆ど活動していない時は青に
表現されます。
右はおなかの赤ちゃんのために編み物をして
いるお母さんの前頭前野の図です。赤い色
は盛んに活動していることを示しています。
この検査はfMRIと言う方法です。大きな箱の中に
巨大な磁石が入っています。その力で脳の形と血液
の流れの速度を調べます。 脳の活動が活発なほど
血流が早くなります。 欠点は狭いところに頭部を入れて
ベルトで固定が必要な事です。 ゲーム中のfMRI図です。
活発に働いているのは、手を動かす前頭葉の運動領野
と画面を見ている後頭葉です。 前頭葉の前頭前野は
全く働いていません。川島教授はいろんなゲームで
実験していました。どのゲームでも前頭前野は働いて
いませんでした。

悲しいつらい状況では、扁桃体および海馬から、前頭前野の神経細胞群への電気信号が減少します。
神経線維の末端では電気信号は化学物質(神経伝達物質)に変わりますが、その神経伝達物質も減少
します。すると、前頭前野の神経細胞群から、やるき、おもいやりの信号が全身の神経細胞群へ行かな
くなります。つまり、悲しいつらい状況では食欲がなくなり、体の動きもにぶくなり、成長が遅れ、やるきが
でてきません。 言葉を変えると、周囲から無視されたり、いじめられたりする環境にいると、心も体も育
ちません。 神経細胞によって神経伝達物質が異なります。うつ病の場合は、セロトニンという神経伝達
物質が減少する事がわかっています。
嬉しい・楽しい・ワクワクする環境では 扁桃体・海馬・前頭前野の神経細胞群が活発な活動をして、やる
き・思いやりの心が沸き・感情をコントロールすることも上手になります。周りのおとなが、子どもに対して
「おとなは安心して頼れるのですよ」と言葉でも、態度でも示していきませんか。
自分の子どもにも、よその子どもにも、勇気を出して、言葉をかけ、態度で示していきませんか。


「心」の定義はまだなされていません。
扁桃体にはじまり、海馬・前頭前野に電気信号がおくられて、前頭前野から全身に指令が発せられる
一連の連携プレイが「心」の主役であろうと考えられつつあります。

          5・6年生への事前アンケート、「何を知りたいですか?」は、
                            食生活を中心とした、生活リズムに関するものが 殆どでした。 
  
一週間後には、皆さんの感想文が届けられました。
こちらが考えるよりも、深く伝わっていることに感動しました。
  5年生のある方の感想文です。
「ちょうしんきで心臓の音をきいて、思ったより音が小さかったので、周りが静かじゃないと、
聞こえないんだなあと思いました。ゲームをやりすぎるとだめなんだなあと思いました。
悲しみは、みんなと分かちあえばいいんだなあと思いました。」
  6年生のある方の感想文です。
「体を鍛えるには、運動・栄養・休息が必要です。脳を鍛えるには、脳の活動、栄養、休息特
に睡眠が大事だということを知りました。......。脳のいろいろの部分の働きを知りました。
夜の睡眠を大事にしたいです。」

  
  とても感動する感想文がいっぱい寄せられたので、私もお返事を書きました。
皆さん理解してくださってありがとうございました。皆さんの感想文は次の講演の内容に、
ふくらみを持たせてくださいます。 今回の機会を作ってくださいました、遠藤校長先生
および他の先生方に、心から感謝いたします。 また、学校とクリニックの間をなんども往復
してくださった養護の後藤先生ありがとうございました。 私のめんどうな要望のためにお手
数をおかけしました。  それから、教育事務所の指導主事でいらっしゃる伊茂野先生に、
往復の運転をしていただきました。 本当に申し訳なく、又ありがたい事でございました。
 ではまた、いつか機会がありましたらお会いいたしましょう!
      平成18年11月8日    うちだ小児科クリニック       内田 瑛子