■ 疑問 其の壱 ■
短期…とはいえ、国外、遠隔地でのAランク。気の置けない友人とのツーマンセルは、それなりに気が楽で。
野営のついでに無駄話も出来てしまう。
「…やきもち?」
「おう」
「嫉妬?」
「それ。ねぇのか?」
食事時。ふと、思いついたようにアスマが訊いて来る。それに軽く首を傾げ、考え込む。
つい最近暴露して以降、アスマは、カカシの家庭事情を問うのを、里外に居る時にする事にしたらしい。カカシにしてみれば、殊更に隠している気がない為、初めその理由は判らなかったのだが。
どうやら、他者の耳に入った時、質問攻めに合うのを厭んだ結果らしい。
もっとも、カカシにしても、余計な面倒は増やしたくないので、あっさりと納得した事項。
ただし、その面倒回避が秘匿性高めている事には、二人揃って気付いていない。
「…ん〜。ここ十年はない、かな」
「へぇ。別居長いのにな」
したくてしていた別居ではなく、また、既にそれも解消されてはいるのだが、膨大な任務量で結局、別居状態と変わらないのを揶揄される。
それに対し、微妙な気分を味わうと、ゆっくりと口を開く。
「基本的に妬み・嫉みの感情は持たないようにしてるし」
自身が特別寛大だとは思ってはいないが、言われてみればそういう感情とはほぼ無縁。その内の半分弱は自制の結果の為、その旨を素直に告げる。
「…へ?いや。ああいうのはコントロール出来るもんじゃねぇだろ」
「ん〜。…って言うか、そんな感情、入り込む余地もないって言うかね」
「…へ」
嫉妬なんて感情は、本来、自己コントロールのし辛い物だろう。それを自制していると言われれば、疑念が生じる。
その点に気付いたか、苦笑気味に付け足される言葉に頭を捻る。
「我ながら、独占欲や執着心って言うなら、かなり強いと思うんだけどさ」
「おう」
独占欲はさておき、執着心は垣間見ている為、肯く。
カカシという人物は、相手に愛情はあっても表面上関心は少なく、どちらかと言えば放任しているように見えて、実は行動は完全掌握済み。妻の事について、どんな些細な事でも何一つ漏らさず把握しているのは、知っていた。
先日も、空恐ろしい事実(杞憂・飲み会参照)を目の当たりにしているアスマである。
「顔見れば心の行き先が解るじゃない。だから、嫉妬はね」
「…いや、確かによく見りゃ判りやすかったけどよ。よく見なきゃ判らねぇだろ、ありゃ」
相手も知らされて、知らぬ振りでよくよく観察してみれば、カカシの愛妻の表情は非常に読み易かった。
だが、それも知っていればこそ、であって、知らなければ気付かない。
それは、あまりにも自然な擬態。
否。
あまりにも自然体過ぎて気付けない、と言ったところかもしれない。
「俺が解ってれば良いのよ。困ってたら助ければ良いし」
「あ〜、確かにな」
くつくつ笑うのに頷く。誰に判らなくても本人同士が判っていれば良いという意見には同感する。
「それにさ」
「あ?」
「世間一般的に言うやきもちなんか妬いたらさ」
「…おう」
「里、殲滅よ」
能力値は里一の男である。
「…」
目の前の不穏な男の実力、そして相手の職務を思い出し、その結果、導き出されようとする状況を想像するのを、脳が拒絶する。
「流石にそれはねぇ」
「…もう良い。それ以上言うな」
しみじみと呟く友人の言葉を遮る。これ以上は精神が持たないと判断したらしい。
「ん〜。…あ。一キロ四方に敵大隊」
まるで救いのように現れた敵に、アスマが深く息を吐く。
野営の跡もそのままに、のんびりと構えると、言っておくべき忠告を口にした。
「今日は天変地異起こすなよ」
「…人聞きの悪い」
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