■ 疑問 其の弐 ■
「やきもち?」
「うんそう。やきもち」
「やきもち…」
イルカにとって、毎度お馴染みの留守番。
そこに、軽やか且つ騒々しく現れた幼馴染と夕食を取り、食後のお茶を出した時に訊かれた言葉に、首を傾げる。
疑問を差し出した当の幼馴染は持参した団子を頬張り、楽しそうに笑う。
「無縁そうに見えるけどさ。一応あるのかなって思うじゃない?」
「…そうだね。ある、かな」
「あ、あるんだ」
然程仲良くしていない感情の所為か、少し思い出すのに時間は掛かったけれど。それでも頷くのに、相手の目の色が興味深そうにくるりと光る。
「うん。最近はないけど、中忍になった頃とか」
「…それって、結婚した頃じゃない」
他人様より随分と早く義兄(アンコ主観)カカシに嫁いだイルカが、嫉妬という感情を持っている事はさておき、その、発生(?)時期が不思議で口を開く。
結婚直後というのは、本来なら、一番不安のない時期なのではないだろうか。
それなのに妬いたのはその時期なんて。
どうにも解せない。
「だって。アカデミー生や下忍の時って、上忍とは接点ないし」
その疑問が伝わったのだろう。軽く肩を竦めながら解答を教えてくれる。
「あ、成程。妬くには情報が足りないんだ」
「そういうこと。上忍と接点が出来るのは中忍になってからだし、噂もね」
「それは言えるね」
アカデミー生の世界は狭く、下忍も、基本的に上忍師以外の高位の忍びとは接点がない。事実、今の新米下忍達だって、結局は上忍師とアカデミー教師、そしてその延長の忍以外とは関わりがないのだ。
「それに、出遅れ組のこっちは、ちょうどお年頃でもあったしね」
「解る解る」
大戦や九尾の事件等で、一部の開花が早かった者を除き、イルカ達の世代の忍登録(下忍試験合格)は他の世代と比べてかなり遅い。従って、中忍昇格時期もそれなりにずれ込んでいるのだ。
そして、漸く世界が広がった頃には、ちょうど、その手の話題が盛り上がるお年頃…だったと言う訳だ。如何に色恋沙汰に疎いイルカと言えど、その話題から完全に逃れられる筈もなく、そこそこイロイロな事が耳に入ってきたのだろう。その中に、当時は暗部がメインであまり人目に付かなかったとはいえ、里一の有望株だったカカシが触れられない等…絶対にあり得ないとアンコは言い切れる。まぁ、後は考えるまでもない、と言う事だろう。
もっとも、イルカが他所に目を向ける隙も与えず、まんまと捕獲を成功させた義兄の所業については、アンコは何も言う気がない。
あの義兄が待った年月は、年齢は別としてもあまりに長かったから。
知らぬは目の前の嫁ばかりなり…である。
「綺麗な人が噂してたり、側にいるのを見かけちゃうとね」
「へー」
困った顔で苦笑する姿に感心しつつ、半ば呆れてみたりする。
「カカシさんて優しいから。いつも穏やかだし」
「…無表情なだけじゃないの?」
自分達も含めて、あの無敵のポーカーフェイスの下を探り当てるのはまず不可能。それを穏やかと言うか、無表情と言うかは、本人達次第には違いない。
「…アンコちゃんに妬いた事もあるよ」
「ふぇ?」
思わぬ言葉に団子の串を取り落とし掛ける。甘味を落とすのは甘党の面目にかけて許されない。
「だって。師匠繋がりで仲良いの有名だったから。一緒に居られて良いなって」
困ったように申告する内容は、嫉妬、というにはあまりにもささやか。
人前では一緒にある事を主張出来ないと、そう、信じていた弊害から来る感情の発露。それを聞いたアンコが、心を動かされない筈も無い。
「…イルカ」
「な、何?」
「んも〜。何て可愛いの!」
「うわ!」
いきなり抱き着いてきた幼馴染に驚きながらも、なすがままにさせてしまう。
「公表して自慢して歩きたいわ!」
「…わざわざしなくて良いからね」
もう、特に内密にしておく必要はないと、公表?許可は出ているが、今更言って回るのも馬鹿らしいと、成り行き任せにしているのだ。
「うん。まぁしないけどね」
その辺りはアンコも同じ意見らしい。騒ぎそのものは嫌いではないが、面倒は嫌い…と、妙なところでこの義兄妹は似ていたりする。
「じゃ、大福をも一つどうぞ」
煎れ直したお茶を出し、やはりアンコが持参した大福を差し出した。
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