疑問


  ■  疑問 其の参  ■


「…なぁ。お前、得意な楽器って何かあるか?」
「へ」
「上忍である以上、一通りこなせるのは判ってるけどな。その中でも得手不得手ってのがあるだろう」
 上忍に昇格した際に習得した技術を保持するのは当然の義務である。
 その中に『楽器』もあるのだが、アスマは他はさておき、芸事は苦手とあって、一人で練習するのを避ける傾向にある。
 この日は、ちょうど暇に見えたカカシを拉致し、軽く教授を請いながら竜笛を弄っていた。
「あー。そうね。そういえば、アスマは三味線や琵琶は結構得意だったっけ」
「まぁな。管楽器はあまり好きじゃねぇし…。三味線が一番楽だな」
「その辺、血だよね。三代目も三味線得意だし」
「習った事ぁないけどな」
 側に置いてあった三味線を掴むと、軽く打ち始める。下手とまでは言わないが…というレベルの竜笛と比べ、遥かに滑らかで、微かにパーソナルトーンの感じられる音が響く。
 忍であるからには、なるべく個性を消すべきなのだが、この芸術部門だけは、どうしても個性が湧き出てしまう。
もっとも、必要時に個性を抑えられれば問題がない為、然程気にされてはいないのだが。
「いや。俺はいいけどよ。お前こそどうなんだよ。滅多に人前じゃ披露しないが、かなりの腕だって聞いてるぜ」
「んー。どれも同じようなもんだぁよ。一つに秀でてる人には敵わないって」
「…断っておくが、その一つが超一流を指すんなら、それはそれで嫌味だぞ」
 それを言うなら俺は全滅だ。
 そう続けて、三味線をカカシに渡す。
「とりあえず、困らない程度に出来るだけだって」
 渡された三味線を手慰みに打ちつつ、苦笑気味に応える。澱みない音は、比較的頻繁に触っている証左かもしれない。
「…俺より上手いじゃねーか…」
「そんな事ないよ。でも、どれも一定レベルを保っておくと、どんな時も対応出来て便利だよ」
「便利って…」
「囃し方が足りない時とか、子供たちに教える時とか」
 最近、何とか三味線が板についてきた子供たちを思い出し、くつりと笑う。
「…ガキ共にも教えてんのか?」
「勿論。覚えておいて損はないし、うちの子たちの最終目標、一応上忍みたいだしねぇ」
「あー…。今から仕込んだ方が楽ってか」
「そうそう。管楽器は、一定年齢超えないと、肺や気管支の発育とか関わって拙いから基礎しか教えてないけど、最近、三味線は上手くなってきたよ。次は琴にしようかと思ってんの。サクラが喜びそうじゃない?」
「…ついでに、うちのいのにも教えてやってくれよ」
「じゃ、次の合同演習の時にでも教えようか」
「おう。…じゃなくてな?お前の得意楽器の話だよ」
「だから…」
「ない、とは言わせねぇぞ。それが耳で判別つくレベルじゃなくてもだ」
 事実、得手を超一流、不得手を一流のレベルで示されても、一般人には判別不能である。
 一流と二流の差程、離れてはいないのだから。
「あー…。あんまり気にした事なかったんだよねぇ」
「…あのな」
 器用すぎるのも考え物である。
「んー。…あ、ちょっと木の葉じゃ珍しいのでも良い?」
「構わねぇが」
「ピアノ」
「…あ?」
「俺、結構ピアノ得意なのよ」
「ピアノだぁ?」
「うん。一回、火の国一のピアニストの影武者やった事もあるし、これって特殊スキルじゃないかな」
「…待て」
 一瞬、聞き捨てならない事を聞いてしまったアスマである。
「火の国一のピアニストって…」
「あ、実力自体は写輪眼でコピーしたんだけどさ。元々弾けなきゃコピーしても指、動かないから」
「…あー。まぁ、そうか」
 映画もラーメンもある木の葉と言えど、ピアノの弾ける上忍はまずいない。
 最近、アカデミーの授業の音楽に一部取り入れられているので、アカデミー教師はある程度弾けるらしいが、あくまで伴奏程度。
 ピアニストの影武者が出来るような者は稀有、なのである。
「向いてるみたいよ。指長くて握力・腕力あって」
「…指の長さはさておき、他のは重要なのか…?」
「うん。ピアニストって指と腕を重点的にトレーニングしているようなものだし、何だかんだ言って体力も結構あるのよ」
「へー…」
「…ま、基本時に俺が弾くのはノクターンだけどね」
「なんで」
「それ位、調べなよ」


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