疑問


  ■  疑問 其の四  ■


「そういやさ」
「うん」
「イルカって、誰に舞習ったの?」
 イルカの、舞のおさらいの最中にに乱入し、邪魔した代わりに笛の囃子を買って出ていたアンコが、伸びをしながら問い掛けた。
「誰って」
「あ、ほら、うみのの家の舞ね?巫女の」
 普通の舞には里推薦の師範が居るが、神事に関わるものは話が別。
 アンコ自身は血筋ではないものの、盃を交わした身内扱いを受けている為、幾つかは修得したのだが、その時々で師匠は違う。
 各本家筋の伝承者に教えたのは誰か…というのに興味が湧いたらしい。
「お母さんだけど」
「…九尾の時には完璧に伝承されてたって事?」
「…まぁ、大体は」
 基本は一子相伝であれば、それは解る。
 巫女筋は代々、婿養子を取っていたらしいと言うのも知っているので、師匠が母親だと言うのも頷ける。
「大体って、他に教えられる人いたの?実はそこが知りたいのよ」
「…カカシさんなら全部舞えると思うけど」
「護筋にも舞があるのは知ってるけど」
「それもそうだけど、あの人、一度見た物は全部記憶してるから」
「…あぁ。お兄ちゃん、化け物だもんねぇ」
「…アンコちゃん…」
 …義兄をあっさり化け物扱いするアンコに項垂れてしまう。もっとも、否定しきれないイルカもイルカではあるが。
「いや、うん。アレはともかく。いくらなんでも他に師匠いるのかな、て思って」
「…ん、まぁ、いるよ」
「誰?アタシの知ってる人?」
「よく、知ってると思う」
「誰」
「大蛇丸様」
「…へ?」
 大蛇丸と言えば、アンコの知る中では一人しかいない。
 表向きには里抜けをした、伝説の三忍の一人で、アンコの師匠兼親代わりの彼だけだ。
「大蛇丸様、巫女筋の方でね?うちの母と舞を覚えたそうで」
「…納得出来るような、反発したくなるような」
 臨時要員だったのだろうとは思うが、あの言動の要因はもしかしたらそこにあるのでは…と、不安になってしまう。
「三忍の人達、それぞれ筋の方らしいよ?」
 綱手様以外は傍系だけど。
「…どれがどれかは髪の色で判るからいいわ」
「…まぁ、一番判りやすい目印だけどね」
 金・銀・黒。敢えてどれがどれとは言わないが、非常に判り易い事には違いない。
「ふぅん…。だから、有事の時は里帰りすんのね、あの人達」
「変化はしてるけどね」
 流石に、表向きとはいえ里抜けをしていたり、出奔して行方不明の筈の人間が里内を闊歩していて良い道理はない。人手不足を理由に、彼らを逐一呼び出さなければならないこちら側にも、多少の問題はあるとは思うのだが。
「それは良いんだけどさぁ。…ねぇ、今思い付いたんだけど」
「何?」
「次の神官はナルトよね?」
「うん」
 現状、直系・現役を三忍の一人に求めるなら、次は前代の実子のナルトにお鉢が廻る予定である。
「今の護筋と巫女はカカシとイルカ」
「他にいないからね」
 哀しいかな、二人共、直系唯一の生き残りである。
「次は?巫女筋の次」
 嫁いじゃったから断絶間際じゃないの。
 そう続けたアンコに軽く頬を染める。確かに、唯一の巫女が護筋に嫁いでしまっているのだから、取りあえず護筋は継続が見込めるが、巫女筋にはそれがないのである。
「…男の子と女の子を産めば良いんだよ。数は、不問」
 暫しの沈黙の後、ぽそりと呟く。その顔は、耳まで赤い。
「…あ。成程。じゃ、早く産みなさい」
 その言葉にあっさり納得する。要は跡取さえいれば問題ない訳で、当然、その辺も異常に早い結婚の条件の一つに入っていたのだろうと推測する。
「こ、こればっかりは、ほら、授かりものだから」
 冗談半分、促した途端、真っ赤になって慌てる幼馴染を半眼で見遣り、深く溜息を一つ。


「カカシが任務に行かなきゃ、確率跳ね上がるわよ」


「…アンコちゃぁん…」



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