プロローグ依頼時間思惑協力エピローグあとがき
「撩。君は、永遠を信じるか?」
「永遠?」
 うさんくさい言葉を吐き出した魔術師の言葉におれは眉をひそめた。
「その様子じゃ信じてないようだ…。だが君は抜け出せない闇の中にいると思っている。それこそ君の中での永遠ではないのかな?」
「何が言いたい」
 殺気を出しても魔術師はポーカーフェイスを崩さない。
「永遠はない。君の闇もまた永遠ではない。光と闇は背中合わせなんだよ」
「宗教家みたいな事いうじゃねぇか」
「マジシャンはそのどちらも作り出せるからね。闇がなくてはタネは見破られる。光がなくてはマジックは披露できない」
 そう言って魔術師は何もない所から鳩をとり出す。
「こんな風にね」
 そう言って全身を白に染め上げた魔術師は鮮やかに微笑んだ。
エピローグ:記憶と思い
「一つ聞きたいんだけど…」
 マンションの屋上にたどりついて屋内への扉を開けた時だった。
 怪盗キッドの扮装を解いた快斗がおれに聞いてくる。
「親父とは…いつ?」
 端々に乗せた言葉に気になっていたのだろう。
「仕事したのは8年前。ちょうど、行方不明になる前の時だ。獲物は何だったかな?『ムーンリバー』月の川と言う名のムーンストーンだったか…」
 当時の記憶をたどるように、おれは言う。
「それもビッグジュエル?」
「あぁ…。かなり厄介な依頼だったよ。工藤優作や、槇村もいたか…」
「槇村?………香さんのお兄さんだったか?」
 そう言った快斗に驚く。
 さすが、と言うべきか。
 変装する人間の身の上から心情、感情の機敏まで全て調べ上げてる。
「……そこまで調べてるか」
「一応。何が出てきても対処できるように」
「お前の親父さんも変装にかけては天才的だったな…」
 以前からの顔見知りだが、仕事の依頼はあの時だけだった。
「あったのは10年以上も前の話だ。まだおれがアメリカにいる頃」
「…親父もその頃アメリカにいた事になってる」
「ミック……おれの悪友なんだが…奴と一緒に仕事してた時にな」
「知ってる、冴羽さんの家の前…あそこ?に住んでる元スイーパーの現在ウィークリー・ニュース誌の特派員記者。ちなみにウィークリー・ニュース誌って香さんのお姉さんが編集長ってなってるんだけど…ホント?」
「何処まで知ってんだよ」
「ある程度。教授も情報源の一つだけどね」
 なんて快斗はにっこりと笑って言いやがる。
 その様子は盗一を思い出すのはまちがいない。
「快斗」
 まだ、キッドを探している警察ヘリを見ている快斗におれは声をかける。
「何、冴羽さん?」
「おれは、お前の親父さんが死んだとは思っていない」
「なんでっ。母さんが確認したんだ。…母さんが、間違えないはずがない」
 …吐き出すように快斗は言う。
「お前ほどの頭のいい奴が考えなかったのか?遺体なんてどうとでも細工できるって。遺体確認なんざ、関係者が本人だって認めた時点でその遺体は本人になっちまう。たとえ本人じゃなくてもな。最も細かく調べれば違うって分かるだろう。だが身許を確認した遺体は遺族の元に向かって火葬されるのがオチだ。後から詳しく調べるなんざできやしない。お前のお袋さんがいったんだろう?本人だって。こう考えられないか?お前のお袋さんは親父さんの事を全部知っていてあれも親父さんだと偽造したと」
「……でも…」
 おれの言葉に快斗は弱く否定する。
「寺井ちゃんは…おれがキッドの衣装を着て寺井ちゃんの前に現れた時、親父が生きてるって思ってた」
「…そう考えるのが普通だろ?そう信じたいって言うのが普通じゃないのか?遺体が本人だと確認できないほどの黒焦げ状態。どうとでもできるんだよ」
「じゃあ、どうしろって言うんだ?オレには確認する手段がない」
「信じようが信じまいが、おれは思っている事を言ってるだけに過ぎないさ…」
 離れていくヘリを見ながら言う。
 警察無線は撤収とGPSの送信地を告げている。
「……会えるかな…」
 同じように離れていくヘリを見ながら快斗は呟く。
「……。世界一のマジシャンなら遺体を誤魔化す事ぐらい簡単さ」
 そう答えておれは屋内へと快斗を促した。


「お帰りなさい」
 リビングの扉をあけると香はソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
「怪我は?」
 と心配顔で聞かれる。
「大丈夫だ」
 と答えれば
「良かった…」
 といつもの笑顔を見せる。
「お疲れさま。そうそう冴子さんからの伝言」
 嫌な予感…。
「怪盗キッドに逃げられた貸しは絶対後で払ってもらうからっだって」
 はははは。
 その様子じゃ、おれがキッドと行動してたって言うことバレてるかもな。
 当分裏工作なしの上、ただ働きさせられそう。
「ハハハハハ、何させられんのかな?」
 と苦笑交じりに呟くおれに香はため息。
「…香さん、青子は?」
「青子ちゃんだったら待ちくたびれて寝ちゃってるわ」
 と影になっていたソファに目を向ければ、そこにはすやすやと眠っている青子ちゃん。
「さっきまで、起きてたんだけどね」
 花火がなってる時まで起きてた。
 その後ぐらいに眠ってしまったのそうだ。
「今日はもう遅いから泊まっていったら?」
 そう聞けば香が聞けば
「いい。これ以上お邪魔してたら冴羽さんに殺されそうだから」
 そう皮肉げに微笑んで青子ちゃんに近寄る。
「別に殺しやしねぇよ」
「冴羽さんの事だからその言葉あんまり信用できなくってさ」
「あたしも撩の言葉は信用しない方がいいと思うわよ」
「お前ねぇ」
 普段が普段だから…しょうがないとしても、こういう時に言うもんじゃねぇだろ?
「でも、気にしなくてもいいのよ。泊まってっても」
「平気。警部から連絡あったらちょっとヤバイから。一応青子、オレの家に泊まってるって事になってるからさ」
 そう言いながら青子ちゃんに掛かる髪の毛をそっと払う。
 そしてそっと抱き上げる。
 愛おしげに優しく。
「一応、屋上借ります。冴羽さん、香さん。ありがとう。また、なんかあった時はよろしくお願いします」
 そう言って快斗ははリビングを出て屋上へと向かう。
 どうやって帰るんだろうと思っていたら、窓から夜空に這える白いグライダーが見えた。
「…怪盗は怪盗らしく…か」
「…撩、大丈夫よね」
 飛んで行くキッドを見ながら香は呟く。
「大丈夫だろ?アイツは弱そうに見えて強い。守るものが側にあるのなら、その者の為に何とかしようってする奴さ。あいつもな…」
 そう言いながら香の肩を抱き寄せる。
「そう…だね」
 そう呟いて香はおれの肩にもたれかかった。
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