プロローグ依頼時間思惑協力エピローグあとがき
「香さん、どう?家まで?」
 信号待ちしている所に居合わせたのは車に乗ってる麗香さん。
「珍しいわね、麗香さんが車なんて」
「たまたまよ。依頼人がちょっと遠い所の人だったの。香さんこそ、今日はなんだか嬉しそうじゃない?依頼でもあったのかしら?」
「まぁね」
 麗香さんの問いにあたしはさらりと交わす。
 あたし達と麗香さんは商売敵みたいなもの。
 そう簡単に話す事は出来ないわ。
「残念。まぁ、良かったじゃない。依頼があったんだから」
「まあね」
「あら?姉貴が来たみたい」
 あたし達のマンションの前に止められる赤いポルシェ。
 冴子さんがさっそうと車から降りてきた所がちょうど見えた。
依頼:午後、お昼過ぎに
「何しに来たんだよ、お前」
 香が出したコーヒーを飲みながら、のんびり香と世間話をしている冴子におれは話しかけた。
 警察官として忙しいはずなのに、こうやって世間話して笑っているのは何故だろうか。
 殺し屋と警察官、相反するものが談笑する様はシュールにしか見えない。
 絶対に、何か用があるに決まっている。
 冴子が来る時は、『厄介事』と言う名の依頼をしに来る時だけだ。
 さてさて、今回は何を持ち込んできたのやら。
 用心する事に越した事はない。
 下手に受けて香の機嫌を損ねるのも今後の事に支障をきたしかねないからな。
「あなた、そんなにあたしが香さんと話しているのが気にくわないの?」
「何しに来たんだって言うのを聞いてるんだよ!!!」
「随分な言い草ね。あたしが香さんと話しているのも不満な訳?あなたってば香さんへの思いを表に出した途端あたしに薄情になったわよね」
 妙な所に言葉を強調しながら冴子はおれに向かって言う。
 だいたい、普通そういう事言うか?本人の目の前で。
「そういう意味で言ってるんじゃねぇよ」
「まぁまぁ、二人とも、冴子さん、話があったんでしょ?話って何?」
 香がこれ以上喧嘩になっては困ると言ったふうにおれと冴子の間に入ってくる。
 そうだよ、香と世間話してんじゃなくってさっさと用件話せってんだ。 
「まずは、これを見てちょうだい」
 そう言って冴子は持ってきた書類を広げ、一枚の写真をさす。
「何?」
 大きな宝石か何かに口付けている女神像の写真。
 目を引くのは女神像の半分の大きさを閉めている宝石。
 色味は虹色で一筋の線が入っている。
 もしかすると、こいつが噂の女神像か?
「すっごい、これ宝石よね?」
「この像は『女神の接吻』と言われている石像なの。高さは15センチぐらいかしら?そのサイズだから置物ね。彼女が口付けしている宝石は世界最大のキャッツアイ『RAINBOW RAINBOW』よ」
 噂の女神像だったらしい。
「有名なのね」
「えぇ」
 冴子の説明に香は写真を見つめながら聞いている。
「………で、こいつが何だってんだ?」
「…東都美術館にこれが飾られる事になったの。その前に、ホテルでの披露パーティーが行われるんだけどね」
 とどこか意味あり気に冴子は言う。
「……こいつがねぇ」
 ため息つきながらおれは写真を見る。
「知ってるの?」
「まぁ、噂だけどな」
 内容を知りたそうな香にオレは自分の知ってる限りのこの女神像の『噂=曰く』を話す。
「こいつは曰くつきの奴なのさ。名前はまぁ色っぽいんだが持ち主が決まると女神は宝石の力を使って、そいつを殺しちまう。持ち主を呪殺す宝石ってあるだろう?これもそういうヤツさ」
「で、この女神が抱えている宝石を怪盗キッドが狙っているの」
「怪盗キッドが?」
 驚いた香に冴子は頷く。
 怪盗キッド。
 現在、日本中を騒がしている白衣の怪盗だ。
 8年前に一度消息不明になっている。
 ………嫌な予感がする。
「で?」
「でって決まってるでしょう?あなたには怪盗キッドからこの宝石を守って欲しいのよ」
 だと思った。
 相変わらずこいつは妙な依頼を持って来やがる。
「守って欲しいったってさぁそういうのは警察の仕事だろ?」
「冴子さん、キッドには専任の刑事がいるって聞いたことあるけど」
 そう、香の言う通り、怪盗キッドには彼を追う専任の刑事が警視庁にいる。
 その事は有名な話だ。
「………この女神の接吻はとある組織も狙っているというの」
 香の言葉に応えず冴子は話を変え、言葉を紡ぐ。
「え?」
 突然の話題転換に思わず話が付いていけない。
「黄昏の十字軍って知ってる?」
 …………。
「何それ」
 聞きなれない言葉に香は首をかしげる。
「随分と、オカルトめいて来てねえか?」
「っていうことは撩は知ってるのね」
「知識としてあるだけで詳しいことはしらねぇよ」
 噂、こいつも噂として知ってるだけだな。
「名前を知ってるだけで充分よ」
「ちょっと、二人だけで納得してないでよ。何?黄昏の十字軍って」
 香の言葉に冴子は持ってきた書類の中から資料を探し出し表に出す。
「まぁ得体の知れない宗教組織。わかりやすく言えば秘密結社の一つさ」
 冴子の資料を見る香におれは簡単に説明する。
「公的に発表されているデータから言えばキリスト教の数ある宗派の一つね。でも彼らの実態はほとんど知られてないわ。活動内容も構成メンバーすらも。そのせいで存在すらしてないと言われていたわ。彼らが歴史に登場するのは今から300年程前の事なんだけど」
「300年前?!そんなに古いの?」
「数ある秘密結社の中ではもっと古い組織もあるものよ。それに古いって言ったって名前が明らかになったと言うだけだし。ともかくその彼らが『女神の接吻』の所有権を主張したの。最も彼らが所有していたのはかなりの昔の事らしいから彼等も強くは言えなかったんだけど。キッドが予告状を出したことで状況が変わってしまっての」
「奴らを刺激したってことか」
「その通り。彼等はそれを狙うキッドの殺害予告をしてきたのよ」
 ………妙な方向に行きそうだ。
 ますます嫌な予感がする。
「撩」
「だから?何?」
 結論、聞かなくたって分かる。
 けど、聞きたくねぇよ。
「ちょ、撩!!!、だからって言い方無いでしょう?あたしはあなたにキッドを守って欲しいって言ってるの!!!そのついでに宝石も守れるじゃない!!」
 結局はそこかよ!!!!!
「宝石が守るのがついでって……。お前さぁ、コソドロ捕まえるのに殺し屋に依頼するか普通?」
「仕方ないでしょう?こういう事引き受けてくれるの撩ぐらいしかいないんだもん」
 もんって。
 色っぽい声で言ってくれるよ。
 …こいつは、それでおれが断れない事を確実に知ってやがる。
 槇ちゃんと冴子の二人はおれを使う時それを利用してたんだからな。
「………場所は」
 ため息ついておれは冴子に聞く。
「撩!!!!」
 香と冴子の正反対の声音が聞こえるが、
「受けるって決めた訳じゃねえからな」
 そう、一応言っておく。
「分かってるわよ。場所は東都センチュリーホテル。そこで『女神の接吻』が披露されるの。日時は来週の土曜日。PM:7:00からよろしくね〜〜〜」
 そう言って冴子は上機嫌ででていく。
「結局、依頼受けるんだ」
 香の白い目線が鋭く突き刺さる。
 ついでに声が冷たいよ、香ちゃん。
「ま、まだ受けるって決めた訳じゃねえぞ」
「どの道あんたは受けるわよ。冴子さんの依頼。ああそうだ」
 しどろもどろに言い訳するおれに軽くため息をつきながらも香はふと我に返りポケットに入っているものを取り出す。
「撩、伝言板に行ったらこんなものが張り付いていたんだけど」
 冴子さんに会ったから忘れてしまったのだけど。
 そう言って香はそれを手渡す。
「『XYZ』って書いてあるから…あたし達あてよね」
 封書の表書きは印刷文字で『XYZ』と印字されている。
「…………………随分と怪しい」
 そう呟き裏を見ればそこには封蝋。
 クローバーがあしらわれている。
 ……見覚えのある、封蝋。
「ねぇ、撩。これって何かしら」
「中は見たのか?」
「見ようとしたら麗香さんに会って、車だったから乗せてきてもらったのよ。そうかかる距離でも無いけどね。だから、まだ確認してないのよ」
 そう言って香は苦笑する。
『ライバルに依頼内容は明かせません!!』
 等と言って香は麗香の前でこの封書をあける事をしなかったのだろう。
「撩?」
 封蝋をじっと見つめるおれに香はおずおずと声をかける。
「知ってるの?」
「……………………………………………………。ま…あな…」
 答えない訳にはいかないだろうな…。
 変に誤解するかも知れないけど。
 と思ったら、
「誰?女…じゃないでしょうね」
 ヤッパリ、誤解した。
「違う」
 誤解はさっさと解く。
「じゃあ、誰よ」
 おそらく香は全く検討がつかないだろう。
 四つ葉のクローバーをデザインした封蝋。
 この模様を奴の使っている片眼鏡の紐に付いている飾り。
 そこにあしらわれている。
「この封蝋を使っている男を一人知っている」
「男?誰?」
「……お前も知ってるはずだ…。いや、この日本で知らない人間はいないって言うぐらいの有名人だな。ついでにさっきの冴子との話しにも出てきたな」
「怪盗キッド…?だってキッドってあの似顔絵がトレードマークじゃない?」
 香が言う似顔絵とは新聞等によく見かける彼を模したであろうのマーク。
 予告状に描かれているそれはよく新聞、テレビ等で予告状が送り込まれてくるたびに映しだされる代物だ。
「あれはただのサインだよ。他の文字はプリントアウトされた文字だが…似顔絵は自分のサインって事」
「会った事あるの?」
「さぁ?」
「撩っ」
 香の言葉に笑って誤魔化して中身を確認する。
「さてさて、8年前に死んだ奴は、どういう理由でこいつを持ってきたのかな?」
「ちょ……」
 ん?
「ちょ、ちょっっと〜〜〜〜〜、」
 隣を見れば香はすでに泣き顔。
 しまったっ。
「なんだよ、香」
「あんた…8年前って……死んだって……」
 幽霊のたぐい、香は全然ダメだった、どう誤魔化す。
「8年も出てこなかったじゃねぇか」
「それで死んだって言う訳じゃないでしょう?」
 そりゃそうだ。
 香の言うことはもっともだ。
 だが、あの男は8年前に死んだはずだ。
 確認してるわけじゃなし、どっちかっていや、………あの男の事だしな。
「まぁ、そうりゃそうだけどよぉ。いやぁ〜相変わらず、香ちゃんは幽霊ダメだねぇ〜」
「知っててからかうなっっ」
「香ちゃんからかうと面白いし」
「あんたねぇ〜〜〜〜〜〜」
 取り合えず、幽霊事から抜け出れたはずだ。
 話、元に戻せるかな?
「ともかく、開けるけど、おまぁ、どうすんだ?」
「み、見るわよ」
「…ホント怖がりだよな」
「知ってるでしょ?」
 知ってるから、全部。
「あぁ、ほら」
 ともかく涙目の香をなだめながら、封筒の中から封筒の中から一枚の紙を取り出す。
 2つに折り畳まれており、手触りは色上質紙。
 見れば、招待状のようなものだった。
『親愛なるCITY HUNTER、冴羽撩様。そしてその最愛のパートナーであらせられる槇村香様。突然のお手紙驚かれた事かと思います。来る日に東都センチュリーホテルにて執り行う私のマジックショーに、あなた方お二人をご招待いたします。あなた方の来訪を心よりお待ち申し上げます。怪盗キッド』
「マジックショー?」
 怪盗キッドからの手紙を読み終えたおれは香と怪訝な顔を見合わせた。
 キッドが指定したショーの日付はもちろん彼が宝石を盗むと予告した日。
「盗む事も奴にとってはショーの一つって奴か……」
 そういやぁ、そういう奴だったよな。
 怪盗キッドって奴は。
「ねぇ、どういう意味だと思う?」
「さてね。XYZって事は依頼なんだろうが……何考えてるのやら」
 招待状に目を落としながらおれは考える。
 怪盗キッドは、何を考えているのか。。
 どう考えようとおれ達がどういう人間か知っていて依頼してきたのは間違いないようだ。
「それより、どうしよう」
 不意に香が声を上げる。
「撩、あたし達どうやって会場に行こう」
「香、何言ってんだ?」
「だから、東都センチュリーホテルにどうやって行こうって言ってるんじゃなくって、会場にあたし達どうやって入るの?」
 そう言って香は新聞記事を指し示す。
 そこには怪盗キッドの予告状と共に、東都センチュリーホテルで行われるパーティーに付いて書かれていた。
「キッドが予告してきた日は招待された客と関係者のみ入場とされており、一般公開は………」
 って………おいおい、招待状ってなんだよ。
「どうしよう」
 新聞記事を読み上げるのおれの横で香は呆然とキッドが送り付けた封筒をのぞく。
 もちろん、その封筒の中身はキッドからの招待状のみ。
 それで会場に入れるはずもない。
 冴子が寄越した資料にもない。
「撩………」
「どうする?」
 おれと香は呆然とするより他なかった。
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