プロローグ依頼時間思惑協力エピローグあとがき
 時間は上等!
 寺井ちゃん、Thanks!!
 あとはどうやってここを抜け出すか。
 依頼、受けてくれるか?
 暗闇の中で思案する。
 手強い敵、工藤親子がいる。
 中森警部ぐらいだったら簡単にあしらえるけど。
 さてさて、いろいろとお手並み拝見させていただきましょう。

『来る土曜日に『RAINBOW RAINBOW』を頂きにあがります。目に、ご注意を。怪盗キッド』
思惑:闇から抜け出して
 やりやがった。
 思わずうなるぐらいキッドの盗みは見事だった。
 電源カットはおそらく協力者がやったのだろう。
 タイマーでの警察が張り込んでいるから仕掛けは難しい。
 となれば協力者だ。
 ホテルで開催の盲点は宿泊客全員の変装チェックが出来ないこと。
 泊まり客になってしまえばあとは変装なりすれば電気室に潜りこむことは可能だ。
 突然の闇、いくらおれでも気配を探るのが精いっぱいだ。
 その中で、ほんの一瞬の隙をつき無駄の無い動きで奴は『RAINBOW RAINBOW』を奪い取った。
 奴は知ってたんだろう。
『RAINBOW RAINBOW』が取り外せる事を。
「キッドを探せ!」
 中森警部の声が響き渡る。
 ホテルの電源はすぐに復活した。
 闇に目がなれた頃の明かりに思わず目を細める。
「撩!」
「あぁ、やりやがった。だがあいつはまだこの会場内にいる」
 香にそう告げる。
 主催者の工藤優作氏はこの突然の事態にも驚こうとしない。
「突然の事態、皆様方には大変申し訳なく思っております。では、本物は東都美術館でお目に掛かると言う事にしましょう」
 と平然という。
『女神の接吻』はまた『RAINBOW RAINBOW』に口付ける事が出来る事を知ってるかのように。
 まるで、この会場…いや、ホテルから怪盗キッドが脱出できる事など出来ないかのように。
「皆様方は警察の方の確認を受けてお帰りになられるよう大変申し訳ありませんが…………」
 司会者の言葉が終わる前に招待客は騒然となって入り口へと向かう。
 その波に紛れるようにおれ達も冴子の元へと向かう。
「撩!!!!何やってるのよっっ」
 おれを見つけるなり冴子はおれを怒鳴りつける。
「あのなぁ、何やってるって」
「さっさと怪盗キッドを追ってっていってるのよ!!!!!」
 他の招待客に聞こえないように冴子は声を落として言う。
「だいたいさぁ、お前等、あれに発信機つけなかった訳?」
「………つけたみたいよ。でも、『RAINBOW RAINBOW』が取り外し出来るなんてあたし知らなかったのよっっ」
「発信機をつけたのは女神像の方何ですよ」
 この事態を苦笑している、高校生探偵工藤新一がおれ達の会話に入ってくる。
 工藤新一の口ぶりからすると、どうやら、冴子は『RAINBOW RAINBOW』が取り外し出来る事を聞かされてなかったようだ。
 知っていたのは間違いなく工藤親子と中森警部のみだろう。
 ついでに、中森警部のとなりで怒鳴っている『茶木警視(冴子から聞いた)』も知っているだろう。
「じゃあ、警察は宝石の方になにもつけなかったんですか?」
 唯香が興味津々と行った風情で工藤新一に話しかける。
 唯香の場合、宝石につけなかった発信機の事って言うよりも、工藤新一そのものに興味がありそうだ。
 取材、ネタの対象。
 おそらく父親のネタの対象にされているのか敏感に唯香の態度に反応して苦笑いを浮かべ唯香の問いに答える。
「そうですよ。正確には警察はと言ってもいいと思いますよ」
「…どういう事?」
「中森警部は怪盗キッドに関して熟知している。彼がどうやって逃亡するか、彼がどうやって…たとえばこの会場から逃げ出すか。…誰かに変装して怪盗キッドはこの会場から抜け出すでしょう。たとえば…冴羽さん、あなたとか」
 そう、工藤新一はおれを見る。
「おれねぇ……確認してみる?」
「……させてもらいましょうか」
 探るような目つきで工藤新一はおれを見る。
 思慮深いが、無鉄砲。
 相反しているが、ある意味こいつに対するおれの印象はそれだ。
「………好きにすればいいぜ」
「こいつは本物よ」
 そう言ったのは、香。
「なんで分かるんですか?」
「一応、こいつの癖はあたし熟知してるもの。あなたの背後を通る美女見て何度も相好崩しそうになって、眉間にしわ寄せてるのなんて冴羽撩以外にいないもの」
「お前ねぇ」
「確かに、香さんの言う通りだわ」
 香の意見に冴子は同意する。
「さすが香さん、長年冴羽さんのパートナー組んでるだけありますね。ついでに恋人もしてるだけある」
「ゆ、唯香ちゃんっっ」
 唯香のからかいに香は顔を真っ赤にして反論する。
「さて、そろそろ行かせてもらいたいんだが…その前に一つ聞いてもいいか、名探偵?」
「何ですか?」
「名探偵と称されるお前達親子とキッド専任の中森警部が悠長に構えてる理由だ」
 笑顔で招待客と言葉を交わしている工藤優作と、仏頂面ではあるが椅子に座って構えている中森銀三の姿を目の端に止めておれは工藤新一に聞く。
「……なるほど、あなたはなかなか侮れない方だ。特捜課にいる野上警部があなたに一目置いてるのも…分かります。そうですね、実は、『RAINBOW RAINBOW』は絶対に、このホテルから出る事は出来ないんですよ」
 そう言って工藤新一は工藤優作と共にいた蘭ちゃんの元へと向かった。
 どうやら、何か仕掛けを『RAINBOW RAINBOW』にしているらしい。
「冴羽さん?どうするの?」
「さて、行くぞ香」
 唯香の問いに答えず、おれは香に言う。
「行く?」
「あぁ、怪盗キッドを追いつめる」
 はっきりと言葉に出す。
「追いつめるって、あなた、キッドがどこに行ったか知ってるの?」
「さて」
 冴子の言葉に笑顔で交わす。
「撩っ」
「お前からの依頼は、怪盗キッドを守る事、出来れば『RAINBOW RAINBOW』も守る事だったよな」
「……そうだけど」
「依頼受けたから、依頼料、よろしく」
 そう言っておれは香と共に会場を出る。
「何処に向かうのよ」
「さてね」
 そう言っておれは携帯を確認する。
 電波の状態があまり良くない。
「さてねって。怪盗キッドの居場所がわかるの?分からなければ意味ないんじゃない?」
「まぁ…ぐるぐる回ってたら見つかるんじゃないのか?言ってたろ?名探偵が。『RAINBOW RAINBOW』はこのホテルから出る事が出来ないって。おそらく、奴もその事に気付いたはずさ。いや、聞いてたか?ともかく、今おれ達が出来る事はこのホテル内をぐるぐる回って奴が飛び出せそうな所を探すだけさ。あの話なら、おそらく、出入り口と言う出入り口はもう警官隊がはってるはずだしな」
 おれの言葉に釈然としないまま香は頷いた。
「分かったんだったら行くぞ」
 最上階から一階ずつ下へと下がっていく。
 非常口はすでに警官に押さえられている。
 屋上へと続くエレベーターも同意だ。
 最上階から一階下がるとスイートルーム。
 そしてその下に下がってデラックスルーム、…ここら辺に来ると警官隊の姿もない。
 上の喧騒が嘘のように静まり返っている。
「撩、ホントにキッドが見つかるの?」
 香の言葉を聞きながら胸ポケットにある携帯で確認する。
 電波状況は悪くないが、画面を見た瞬間。
 思わず舌打ちがしたくなった。
「撩?どうしたの?」
 舌打ちしたことに気付いたのか、香は聞いてくる。
「なんでもないさ。」
 そうかわして改造してある携帯の反応を調べる。
 もう少し性能いいヤツにするべきだったか?
 後悔先に立たずとはこういうことかともう一度舌打ちがしたくなった。
「撩、どこまで行くの?キッドはこっちにきてるの?」
 デラックスルームの階で降りたおれの後を小声で聞きながら香はついてくる。
「いや」
「じゃあ、何でこの階に降りたのよ」
「確認のためさ。捜し物と言ったほうが良いか?」
「捜し物?何よ」
「なぁ、香」
 しつこく聞いてくる香におれは声をかけ立ち止まる。
「なに?」
 そして香も立ち止まる。
「そろそろやめにしねぇか?」
 そう言っておれは後ろを振り向く。
「どうしたのよ、撩」
 おれの言葉に香は首をかしげて聞いてきた。
 そのセリフにオレはため息を隠さずつく。
「だから、くだらねぇ化かし合いはやめにしないか?って言ってるんだよ」
「化かし合いって何?」
 そう香は眉をひそめて聞いてくる。
「香は何処だ」
 目の前の香に向かっておれはそう言う。
「な、何言ってるの?あたしはここにいるじゃないのよ」
「…はぁ、他の人間はだませるかもしれねぇけど?オレには無理だって」
 そうおれが言ったって引く様子がない。
 その様はいつもの調子と変わりがない。
 誰も、気付かない。
 誰も、疑わない。
 ホント、見事に変装したもんだよ。
 あの場で暴いても良かったが、都合が悪い。
 だいたい、どうやって連れてった?
「ひん剥かれたくなかったら、正体表せよ。別に、オレはお前が本当の香だったとしても問題ないぜ。逆にラッキーって思うぐらいだし。都合よし」
「……サイテー」
 あくまでもシラを切るつもりか?
「オレはあいつの気配を探る事が出来る。お前はあいつの気配を持っていない。お前が誰だかって言ったっていいんだぜ?」
 最後通告の言葉に相手は陥落したらしい。
 苦虫を潰したような顔でオレをにらみ付ける。
 が、外見は香だ。
 いまいちどうもうまくいかねぇ。
「なんで、分かった」
「だから言ったろ?香の気配をお前は持っていないって。普通の人間じゃまぁ分かりゃしねぇな。お前が香だって言ってもそのまま通用する。オレの周りでさえだませるな。現に冴子や唯香は完全に騙せたな。が、オレみたいな男には無理だよ。どうあがいたってな。もう一人にも無理だな。あいつは気配探して生きてる」
 タコ坊主を思い出しながらオレは香の背格好と香の顔の変装を施した目の前の奴に向かって言う。
「ついでに言っといてやるよ。分かったのは最初から。最もハンマー食らった後だがな。お前、香の癖もコピーしやがって」
 千の声と顔を持つ変装術か。
 かなりのもんだな。
 見事としか言い様がない。
「…さすが、シティーハンターって所か」
「お前の変装も見事だよ、怪盗キッド。ま、裏の世界の人間を甘く見ないほうが良いって事だよ。香は何処だ」
「彼女ならホテル内にいる。彼女の気配を探す事が出来るんだろう?だったらすぐに見つかるんじゃないのか?」
「あいつが眠らされてたりしたら話は別だ。だから聞いてるんだろ?ここまで来たら全フロアつき合うか?発信機も無反応だ。勝手に外しやがって」
 耳に掛かるピアスを見ながらおれは言う。
 香がしているピアスは発信機がついている。
 それを携帯で受信できるようにしてある。  こいつがしているピアスはおそらく偽物の磁気かシールのピアスもどきだろう。
 運良く香のしてるものを見つけたか…それも全て調べ上げたか。
「……この姿楽なんだけどな」
「冗談よせよ」
「…周囲の刑事さんや他の連中に気付かれずに行動するにはシティーハンターのパートナーって言う立場が一番楽なんだよ。もし狙われたとしても、あんたはパートナーは守るだろうからな」
 なんつー頭の切れる坊主だ。
 さっきおれをかばったのも、おそらくそのうちの一つだろう。
 おれをかばう事で、自分も疑いから外す。
 見事なもんだ。
「で、香は何処だ?」
「こっちで、知り合いと待っててもらってる」
 そう言って連れてこられたのはこのホテルの一室。
「お帰りなさいませ、快斗ぼっちゃま。冴羽様もお久しぶりでございます」
 と部屋の扉を開けて出迎えたのは、昔何度か会った事のある老人だった。
「食えねぇな、まったく」
「いやいや。お見事ですぞ、冴羽様」
 そう寺井は言う。
 教授の顔なじみの寺井。
「撩!」
 そして、部屋の奥には女の子とのんきに会話していたのは香だった。
「おまぁなぁ……」
 あまりののんびり具合に呆れて物も言えない。
「どうしたの?撩。そうそう、この寺井さんって教授の知り合いなんですって」
 はぁ〜〜〜〜。
 笑顔満面の香におれはため息をついた。
「ちょっと、撩!何ため息ついてるのよ」
 そう不機嫌になって言ってくる香の鼻を思わずつまみあげた。
「キャ〜〜〜〜、あんたねぇ、何すんのよ!!あたしは本物よっ」
 痛む鼻を押さえて香はむっとした顔を見せる。
 確かに本物だ。
 偽物だと疑った訳じゃないが、気配さぐれば分かるし。
 見た感じで判断したかった。
「ったく、探したんだぞ」
「……うん。って言うか、撩があの時寺井さんの変装した美女にくっついて行かなければこんな事にはならなかったと思う」
 そうおれをにらみながら呟く香の言葉におれは疑問を持った。
 何であん時の美女が寺井だって知ってる?
「おまえ、もしかして今どういう状況か全部知ってる?」
「寺井さんから聞いたわよ。依頼受けて欲しいからこうやったって」
「…依頼…ねぇ」
 ため息ついて背後で機会をうかがっているキッドと寺井に目を向ける。
「…おれが男からの依頼受けない。それも調べてるんだろうなぁ」
「またそんな事言ってっっ」
 香が声を上げるがさえぎらないで『香』の扮装からキッドの装束に着替えた男に問いかける。
「知ってる。一応、聞いてたし」
「一応、誰から聞いた?」
「取り合えず、秘密って事で。『プリンセス』っておれは呼んでるけどね」
『プリンセス』…ねぇ。
「言っとくけど、教授からじゃないよ。教授はほとんど教えてくれなかったしね」
 肩をすくめてキッドは言う。
「お前は、黒羽盗一のなんだ?」
「………………………………」
 問いかけた言葉にキッドは黙り込む。
「黒羽盗一って…何年か前になくなったマジシャンよね……」
 香が思い出すように言う。
「えっと…高校の時だっけ…?」
「そう、今から8年前、テレビの企画で行った脱出マジックの最中に、黒羽盗一は亡くなった。死体は黒焦げだったが遺族が本人だと確認。司法解剖の結果、直接的な心因は煙による窒息死、だったか?」
「そうでございます」
 おれの言葉に寺井は俯き答える。
「オレは黒羽快斗。黒羽盗一はオレの父親。オレは親父が死んだ原因を探すためにビッグジュエルを盗んでいる」
「…だって、事故死じゃないの?」
「黒焦げだったらいくらでも細工できる。窒息死なんて言ってるが本当はどうかな?ビッグジュエルは厄介な代物だし」
「厄介な代物?」
「そうさ、妙な謂れがついてるものが多い。その謂れのせいでこいつには妙な伝承がつきまとっている」
「妙な伝承?」
 おれの言葉に香は首をかしげる。
 さっき説明…ってこいつはさっきこいつじゃなかったっけ…。
「ボレー彗星近付くとき、命の石を満月に捧げよ…さすれば涙をながさん。…この涙をのむと『永遠の命』ってやつが得られるんだと」
「…何それ」
 おれの説明に香は怪訝な表情見せた。
「世の中にはその伝承を信じてる奴がいるって事だ」
 あの男は違ったかな…そう言えば。
 怪盗キッド…黒羽盗一。
 目の前のガキが、黒羽盗一の息子とは…な…。
「…お前の依頼って奴はなんだ?」
 おれは静かにキッドに目を向ける。
「受けてくれるのか?」
「男からの依頼は受けない。さっきそう言ったはずだが?冴子からの依頼はこれで終わるようなもんだしな」
 懐から銃をとり出し向ける。
 香と…この部屋でさっきまで香と会話していた女の子が息を飲むのが聞こえた。
「…依頼は、ここからの脱出。いつもだったら簡単だけど、あんたも知ってる通り『黄昏の十字軍』が絡んできている。おれが予告状を出したせいで…青子が奴らに目をつけらた。つまり怪盗キッドが何者かって言うことが奴らに知られたって事だ。ずっと側にいる事で青子を守ってたけど、脱出に関してはそうはいかない。青子と一緒に脱出するのは…正直難しい。だから、シティーハンターであるあんたの力を借りたい」
 そう言ってキッドは青子と呼ばれた女の子の側に向かう。
 蘭ちゃんに似ている女の子。
 キッドの大切な人物なのだろう。
 絶対に守らなければならない対象。
「…だったら『RAINBOW RAINBOW』を盗む必要が何処にあった」
「…それでも、突き止めたい。親父が死んだ理由。何のために、親父はビッグジュエルを盗んでいたのか。何故怪盗キッドをやっていたのか」
 そう言ってキッドは自分の手袋をはめている手を見つめる。
 …理由か…。
 そういや…言ってなかったな。
 理由は。
 聞こうとも思わなかったが。
「依頼料は払う。…現金じゃないけど」
 キッドはそう言いながらおれに渡してくる。
「これは」
「虹の涙。この『RAINBOW RAINBOW』同時期に作られたペンダントトップ。普通の市場じゃ値の付けられないものだけど、ブラックマーケットなら数千万で取引される。あんただったらブラックマーケットの一つや二つ心当たりがあるはずた。シティーハンター相手にちゃちなものはもってこないよ。」
『RAINBOW RAINBOW』と同種の石。
 虹色のキャッツアイ。
 ティアドロップに整形されてるそれはかなり上等の石だと分かる。
「よくまぁ、こんなものを持ってきたよ」
 ため息ついておれは怪盗キッドを見る。
 忘れ形見。
 そういうよ、ホントに。
「撩、どうするの?」
 不安そうに香は聞いてくる。
「受けるよ。冴子の依頼もついでだしな」
 おれの言葉に香や一同はホッとしたように笑顔を見せたのだ。
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