定款に退任取締役の退職慰労金に関する規定がなく、株主総会の決議もない場合の、退任取締役の退職慰労金相当額の請求方法
2024(令和6)年10月31日
- 第1 退任取締役の退職慰労金の性質、及び支払請求権の確定
- 1 退任取締役の退職慰労金は、退任取締役の在職中の職務執行の対価である報酬の後払的な部分が含まれています。
- 2 退任取締役の退職慰労金は、職務執行の対価の性質を有するので、定款の規定がない場合は、会社は株主総会の決議によらなければ支払うことはできません。(会社法361条1項)
- 3 従って、退任取締役は、定款の規定ないし株主総会の決議により具体的な支払金額が確定しなければ会社に対して退職慰労金の支払請求をすることができません。
- 第2 定款に退職慰労金の定めがなく、かつ株主総会で退職慰労金の支払い決議をしない場合の、退任取締役の救済方法
- 1 退職慰労金に関する内規や慣行により、従来から相当額の退職慰労金が支払われているとか、会社と退任取締役間で退職慰労金の支払い約束がある場合は、取締役会(代表取締役)は、退職慰労金に関する議題を株主総会の決議に付すべき義務があります。
- 2 取締役会(代表取締役)が、正当な理由がないのに退職慰労金に関する議題を株主総会の決議に付すべき義務を怠った場合、あるいは不当に株主総会で否決させた場合は、不当に退職慰労金の支払い手続を怠ったという不法行為が成立することになります。
- 3 その場合は、退任取締役は、代表取締役に対して損害賠償請求をすることが可能になります。(会社法429条1項、民法709条)
- 4 また、上記2項の場合、退任取締役は、代表取締役がその職務を行うについて第三者に加えた損害を会社が賠償する責任を負うとの会社の損害賠償責任規定(会社法350条)により、会社に対して損害賠償請求をすることが可能になります。
- 5 上記3項及び4項の損害額は、退職慰労金の支払いを株主総会に付議していたら決議されたであろう退職慰労金相当額になります。
- 6 退職慰労金相当額の算定は、内規、従来の退職慰労金の支払状況、報酬、具体的な状況を総合して行うことになります。
- 7 なお、退任取締役が会社を被告として訴訟を起こした場合の会社の代表者に関する特則に関しては、
でご紹介しています。 - ・会社法の重要問題と実務対応
著者 新谷勝
発行 株式会社 民事法研究会 - ・会社訴訟・仮処分の理論と実務(増補第3版)
著者 新谷勝
発行 株式会社 民事法研究会 - ・株式会社法 第9版
著者 江頭憲治郎
発行 株式会社 有斐閣
参考文献