2019(令和元)年の会社法改正について
- 1 株主総会資料の電子提供(会社法325条の2。未施行)。
- 2 株主提案権の制限
- (1) 株主提案議案の数の制限
- 3 議決権行使書面等の閲覧謄写請求の制限
- 4 取締役の報酬関係
- (1) 報酬等の決定方針
- (2) 金銭でない報酬等の定めの細分化
- (3) 取締役等の報酬等である株式及び新株予約権に関する特則
- (4) 情報開示の充実
- 5 役員責任関係
- (1) 補償契約
- ① 補償契約の内容決定手続
- ② 補償金額の返還
- ③ 取締役会における重要な事実の報告
- ④ 適用除外
- ア 競業及び利益相反取引の制限(会社法356条1項,365条2項。419条2項。)
- イ 対会社責任における任務懈怠の推定(会社法423条3項)
- ウ 取締役又は執行役の帰責事由なく任務懈怠が生じた場合における,自己取引に係る対会社責任の非免責(会社法428条1項)
- エ 自己契約及び双方代理の規定(民法108条)
- ⑤ 事業報告
- (2) 役員等賠償責任保険契約
- ① 役員等賠償責任保険契約の内容決定
- ② 適用除外
- ア 競業及び利益相反取引の制限(会社法356条1項,365条2項。419条2項。)
- イ 対会社責任における任務懈怠の推定(会社法423条3項)
- ウ 自己契約及び双方代理の規定(民法108条)。ただし,役員等賠償責任保険契約の場合,前述の手続きによって内容が決定されたものに限る。
- ③ 事業報告
- 6 社外取締役関係
- (1) 業務執行の社外取締役への委託(会社法348条の2)
- (2) 社外取締役の設置義務(会社法327条の2)
- (3) 社外取締役の設置義務に関しては,
- 7 社債関係
- (1) 社債管理補助者(会社法714条の2~714条の7)
- (2) 社債権者集会(会社法706条1項1号)
- 8 株式交付(会社法2条32号の2,774条の2~774条の11等)
- 9 その他
- (1) 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解(会社法849条の2)
- (2) 株式の併合等に関する事前開示事項
- (3) 会社の登記に関する見直し(会社法911条3項12号へ)
- (4) 代表者の住所についての情報開示の制限
株式会社が,株主総会参考書類,議決権行使書面,計算書類及び事業報告(会社法437条),連結計算書類(会社法444条6項)の内容を,自社のウェブサイトに掲載し,株主に対し通知した場合には,株主の承諾を得ずとも,株主に対し株主総会参考書類等を適法に提供したものとするという電子提供措置をとる旨を定款で定めることを可能にしました。
取締役会設置会社の株主が株主提案議案の要領の通知請求(会社法305条1項)をする場合において,株主提案議案の数が10を超えるときは,10を超える議案については通知請求の対象外とすることによってその数の制限がなされています。(会社法305条4項)
10を超える議案をどの議案とするかについては,提案株主が議案の優先順位を定めている場合を除き,取締役が定めるとされました。(会社法305条5項)
議決権行使書面等の閲覧謄写請求をする場合には,請求の理由を明らかにしなければならず(会社法311条4項後段,312条5項後段,310条7項後段),株式会社は,請求した株主が一定の事項に該当する場合には請求を拒絶できると定められました。(会社法311条5項,312条6項,310条8項)
金融商品取引法24条1項により有価証券報告書を提出しなければならない監査役設置会社(公開会社かつ大会社に限る。)及び監査等委員会設置会社は,取締役個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められている場合を除き,取締役会において,取締役(監査等委員会取締役を除く)の個人別の報酬等の決定方針を定めなければならないとされました。(会社法361条7項)
株式等を利用した報酬が普及・拡大しつつある状況を踏まえ,会社法361条1項3号及び409条3項3号(報酬等のうち金銭でないものにおける具体的内容)について,より内容を細分化して定めることとなりました。
上場会社で報酬等として株式や新株予約権を発行する場合について,その特殊性から,株式等の発行の際に定めるべき事項のうち,一定事項については定める必要がないとされました。(会社法202条の2,236条3項,4項)
また,その際に資本金又は準備金として計上すべき額については,法務省令で定めることとされました。
役員の報酬等に関して,公開会社では,法務省令の改正時に,事業報告による情報開示の充実が図られる予定です。
役員等が委縮することなく経営判断等ができるよう,会社補償及び役員等賠償責任保険について明確化されました。
株式会社が,役員等(会社法423条1項)との間で,役員等が会社または第三者から責任追及された場合に負担することになる一定範囲の費用等の全部又は一部を補償する契約(以下,「補償契約」という。)を締結する場合,その内容を決定するには,株主総会(取締役会設置会社の場合,取締役会)の決議によらなければならないとされました。(会社法430条の2第1項)
補償契約が締結されても,当該役員等が自己若しくは第三者の不正な利益を図り又は会社に損害を加える目的で職務を執行したことを知ったときは,株式会社は,当該役員に対し補償金額の返還を請求できるとされました。(会社法430条の2第3項)
取締役会設置会社では,補償を実行した又は受けた取締役・執行役は,遅滞なく,当該補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされました。(会社法430条の2第4項,第5項)
株式会社と取締役又は執行役との間の補償契約については,以下の規定は適用されないとされました。(会社法430条の2第6項,第7項)
役員等と補償契約を締結しているときは,一定の場合に,補償契約の概要等について事業報告の内容に含めるべきことが,法務省令の改正時に予定されています。
役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには,株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議によらなければならないとされました。(会社法430条の3第1項)
取締役又は執行役を被保険者とする保険契約の締結について,以下の規定は適用されないとされました。(会社法430条の3第2項,第3項)
役員等賠償責任保険契約を締結している場合は,被保険者及び内容の概要(当該役員の職務の適正性が損なわれることがないようにするための措置を講じているときは,その措置の内容を含む。)を事業報告の内容に含めるべきことが,法務省令の改正時に予定されています。
社外取締役の活用をさらに推進すべく,次のような改正がなされることとなりました。
社外取締役が期待された役割を適切に果たすことができる環境を整備するため,取締役会決議によって一定の業務の執行を社外取締役に委託した場合には,社外性を失わないとする規律が設けられました。
公開会社,大会社,かつ有価証券報告提出会社に限られますが,監査役会設置会社において,社外取締役の設置が義務付けられました。
でもご紹介しています。
社債に対する信頼性を高めるため,社債管理者よりも権限を限定した社債管理補助者に社債管理業務を委託する制度が設けられました。
社債権者集会の権限として,社債の全部についてする債務の免除が可能であることを明文化しました。
また,社債権者全員の同意をもって,社債権者集会の決議に代えることができるものとされました。(会社法735条の2)
株式交換のように,完全子会社とする場合だけでなく,100%ではない子会社とする場合でも利用可能な株式交付の制度が設けられ,現物出資規制を受けることなく,自社の株式等を対価として,子会社ではない他の会社の株式を当該株式の株主から譲り受けることにより,当該他の会社を子会社とすることができるようになりました。
株主代表訴訟など,取締役の責任追及等の訴えにおいて和解をする場合には,和解が不当な内容になることを避けるため,監査役等の同意を得なければならないこととされました。
現金を対価とする少数株主の締め出し(キャッシュアウト)における少数株主を保護するため,開示される情報が拡大される見込みです。
登記申請時までに払込金額が確定している場合には,新株予約権の払込金額の算定方法を登記する必要がなくなりました。
また,必要性に乏しいことから,支店の所在地における登記が廃止されました(会社法930条~932条削除。令和5年6月10にまでに施行予定)。
会社の登記に関して,①配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に規定する被害者等が申し出を行った場合には,代表者の住所が登記事項証明書に表示されないこと,②インターネットを通じた登記情報提供サービスでは,代表者の住所に関する情報が提供されないこと,といった改正が,今後行われる見込みです。
以上