民法改正による賃貸借契約に関する規律の改正
(賃借物の修繕、賃貸不動産の譲渡の場合のルールの明確化、賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化、敷金のルールの明確化、賃貸借契約の債務保証に関するルール)
民法改正により賃貸借契約に関する規律が改正され、2020(令和2)年4月1日から施行されます。
この改正された賃貸借契約に関しては、その性質に反しない限り改正された売買契約に関する規律が準用されます。(改正民法559条)
なお、改正された売買契約に関しては、
でご紹介しています。
また、経過規定は以下の通りです。
改正法附則34条1項により、改正民法施行日前(2020(令和2)年3月31日以前)に締結された賃貸借契約については現行法が適用になります。
但し、改正民法施行前に締結された賃貸借契約でも、改正民法施行後に更新されるときは、改正法附則34条2項により、賃貸借の期間は、更新のときから50年を超えることができません。(改正民法604条2項)
また、改正民法施行前に締結された不動産賃貸借契約でも、改正民法施行日以後にその不動産の占有を第三者が妨害し、又はその不動産を第三者が占有しているときは、改正法附則34条3項により、改正民法605条の4が適用され、不動産の賃借人は、改正民法605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、その不動産の占有を第三者が妨害しているときは、その第三者に対する妨害の停止の請求ができ、その不動産を第三者が占有しているときは、その第三者に対して返還の請求ができます。
なお、賃貸借契約は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって生ずる契約です。(改正民法601条)
- 第一 修繕に関する要件の見直し
- ① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
- ② 急迫の事情があるとき
- 第二 存続期間に関する事項
- 1 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができません。
契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年となります。
(改正民法604条1項) - 2 賃貸借の存続期間は、更新することができます。
但し、その期間は、更新の時から50年を超えることができません。
(改正民法604条2項) - 第三 対抗力に関する事項
- 第四 不動産の賃貸人たる地位の移転に関する事項
- 第五 不動産の賃借人による妨害の停止等に関する事項
- 第六 賃料減額請求に関する事項
- 第七 転貸借に関する事項
- 第八 賃貸借の終了及び原状回復義務等に関する事項
- 1 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
(改正民法616条の2) - 2 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(改正民法621条) - 3 賃借人は、賃貸借終了時において賃借人が賃借物に附属させた物の収去義務を負うことが明文で定められました。
(改正民法622条、599条1項) - 第九 敷金に関する事項
- 1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
- ① 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
- ② 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
(改正民法622条の2第1項) - 2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。
- 第十 賃貸借契約に関する債務の保証に関する事項
- 1 極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となります。(改正民法465条の2第2項)
- 2 個人が保証人になる根保証契約に関しては、
次の事由(元本確定事由)があったときは、その後に発生する主債務は保証の対象外になります。
(改正民法465条の4第1項) - ① 債権者が保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき
- ② 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
- ③ 主たる債務者又は保証人が死亡したとき
- 3 なお、個人保証に関しては、
2017(平成29)年4月20日事業に係る債務について、個人保証人を保護するための「保証の方式制限」規定、及び極度額の定めのない個人の根保証契約は無効になること等について
でご紹介しています。
賃借人による賃借物の修繕について、改正民法607条の2が定められました。
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができるようになりました。(改正民法607条の2)
改正民法では、賃貸借の存続期間を伸張しました。
改正民法で、不動産の賃貸借の対抗力に関して、次の規定が定められました。
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。(改正民法605条)
改正民法で不動産の賃貸人たる地位の移転に関しては以下の条文が定められました。
登記した不動産賃貸借(改正民法605条)、借地借家法10条、又は31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(改正民法605条の2第1項)
賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
(改正民法605条の2第3項)
不動産の賃借人は、改正民法605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、その不動産の占有を第三者が妨害しているときは、その第三者に対する妨害の停止の請求ができ、その不動産を第三者が占有しているときは、その第三者に対して返還の請求ができます。
(改正民法605条の4)
改正民法では、賃料減額請求に関して以下の通り定めました。
耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。(改正民法609条)
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される。
(改正民法611条1項)
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
(改正民法611条2項)
改正民法は、転貸借に関しては、以下のように規定しました。
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。
(改正民法613条1項)
前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
(改正民法613条2項)
賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。
ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
(改正民法613条3項)
改正民法は、敷金に関する定義と敷金返還請求権の発生時期や賃借人への敷金の充当に関する規律について定めました。
この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
(改正民法622条の2第2項)