所謂「代替的作為債務」(たとえば建物収去債務など)や「不作為債務」を、債務者が履行しない場合における「代替執行」(民事執行法171条)
2018(平成30)年2月26日
- 1 「代替的作為債務」(代替可能な作為を目的とする債務)に関する代替執行は、債務者の費用で第三者に当該行為をさせることを執行裁判所が命ずる方法により行います。
- 2 「不作為債務」(一定の行為を行わない債務)に関する代替執行は、債務者の費用で債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすべきことを命ずる方法により行います。
- 3 管轄の執行裁判所は、債務名義により異なります(民事執行法33条2項、171条2項)。
確定判決や仮執行宣言付判決や確定判決と同一の効力を有する債務名義については、第一審裁判所が管轄の執行裁判所です。
和解調書又は調停調書については、和解又は調停が成立した簡易裁判所、地方裁判所、若しくは家庭裁判所であり、労働審判については労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所です。 - 4 以下は、代替的作為義務の強制執行で現実に申立てが多い、建物収去土地明渡しの債務名義に基づく建物収去命令の申立てを前提にした手続きの流れです。
- ①建物収去命令申立て
管轄の執行裁判所に対し申立てます。 - ②認容決定(授権決定)
授権決定に執行文の付与を受ける必要はありません。 - ③作為実施の執行官への申立て
授権決定において作為実施者が定められている場合、債権者はこれに拘束されます。
しかし、作為実施者とされた第三者は債権者の依頼を受諾する義務はありません。
ところが、作為実施者が、債権者の申立てを受けた執行官と定められている場合は、その作為の実施が執行官法1条2号の「裁判において執行官が取り扱うべきものとされたもの」に該当し、作為を実施すべき場所を管轄する地方裁判所の執行官に作為実施の申立てをすることになります(執行官法4条)。
この場合、執行官は申立てを拒むことはできません。
なお、建物収去土地明渡しの強制執行の場合は、建物収去の授権決定の執行と土地明渡しの強制執行(直接強制)が併存しているので、後者の関係では執行力ある債務名義の正本の提出が必要と考えられます。 - ④執行費用額確定処分申立て
- ⑤陳述の催告
- ⑥代替執行費用額確定処分
- 5 代替執行費用支払の申立て
執行裁判所は、授権決定をする場合、申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行為をするために必要な費用(作為実施費用)をあらかじめ債権者に支払うべき旨を命ずることができます(民事執行法171条4項)。
費用支払決定の発令は、授権決定をする場合になされるものですから、授権決定発令後にこの申立てをすることはできないとされています。 - 6 執行費用額確定手続
授権決定に基づく作為実施費用、又は、実際の作為実施費用と費用支払決定の額の差額について、債権者は、執行裁判所の裁判所書記官に執行費用額確定の申立てをすることができます(民事執行法42条4項)。 - 7 なお、強制執行するために必要な「債務名義」に関しては、
2004(平成16)年5月8日強制執行するにはー不動産差押・債権差押・動産差押などをするために必要なもの(債務名義)
でご紹介しています。 - 8 また、「建物明渡の強制執行」に関しては、
2017(平成29)年7月10日建物明渡の強制執行を申し立てる場合に、同時に建物内にある残置動産に対して動産差押申立をするか否かについて、特にいわゆる「ゴミ屋敷」の建物明渡の強制執行に関して
でご紹介しています。
所謂「代替的作為債務(たとえば建物収去債務など)や「不作為債務」を、債務者が履行しない場合における「代替執行」について解説します。(民事執行法171条)
参考文献
- ・ 執行官実務研究会編
執行官実務の手引(第2版)
株式会社民事法研究会発行 - ・ 中野貞一郎・下村正明著
民事執行法
株式会社青林書院発行 - ・ 園部厚著
民事執行 手続・書式ハンドブック
新日本法規出版株式会社発行