「ファン・ネス彗星 その1」では、ラマヌジャン式を様々な面白い形に変形した。その右辺を注意して見るとそのには
新種のゼータ関数が現れているのではないか?と思えるような式となっている。一部を抜き出すと、
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1/(e^(2π)-1) - 1/(e^(6π)-1) + 1/(e^(10π)-1) - 1/(e^(14π)-1) +・・
=(1/2){1/cosh(2π) + 1/cosh(4π) + 1/cosh(6π) + 1/cosh(8π) + ・・・}
1/(e^(2π)-1) + 2/(e^(4π)-1) + 3/(e^(6π)-1) + 4/(e^(8π)-1) +・・
=(1/4){1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + 1/(sinh(4π))^2 + ・・・}
1/(e^(2π)-1) - 2/(e^(4π)-1) + 3/(e^(6π)-1) - 4/(e^(8π)-1) +・・
=(1/4){1/(cosh(π))^2 + 1/(cosh(2π))^2 + 1/(cosh(3π))^2 + 1/(cosh(4π))^2 + ・・・}
4×2/(e^(6π)-1) - 6×4/(e^(10π)-1) + 8×6/(e^(14π)-1) - 10×8/(e^(18π)-1) +・・
=1/(cosh(2π))^3 + 1/(cosh(4π))^3 + 1/(cosh(6π))^3 + 1/(cosh(8π))^3 + ・・・
ここでcosh(x)、sinh(x)は、ハイパボリックコサイン、ハイパボリックサインであり、cosh(x)=(e^x+e^(-x))/2、sinh(x)=(e^x-e^(-x))/2である。
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右辺の式が、リーマン・ゼータζ(s)=1/1^s+1/2^s+1/3^s+・・の類似物となっていることに注目いただきたい。「その1」
では左辺を中心に見ていたが、右辺の式を新種のゼータととらえ、このゼータを中心に見てくことにする。わかりやすくする
ために、この新しいゼータを双曲線関数型ゼータ と名付けることにしたい。具体的には、次のようなゼータ関数を考えて
いこうというわけである。
sinhZ(s)=1/(sinh(π))^s + 1/(sinh(2π))^s + 1/(sinh(3π))^s + ・・・
coshZ(s)=1/(cosh(π))^s + 1/(cosh(2π))^s + 1/(cosh(3π))^s + ・・・
あるいは、右辺の「π、2π、3π・・」は、「2π、4π、6π・・」となるものも出てくるはずであるが。
なお、”双曲線関数型ゼータ” という名称は、双曲線関数ハイパボリックサインsinh(x)、ハイパボリックコサインcosh(x)を使う
ところから付けた。ここで、sinh(x)=(e^x-e^(-x))/2、cosh(x)=(e^x+e^(-x))/2である。
双曲線関数型ゼータを中心に見ていくと、「ラマヌジャン式が双曲線関数型ゼータの有理数倍の有限個の和で表される」
など興味深い現象が現れてくる。「その1」では、ラマヌジャン式を中心に書き、双曲線関数型ゼータという視点からはわかり
づらい表現になったので、双曲線関数型ゼータを中心に据えた形で「その2」以降を書いていきたい。
今回sinhZ(s)の特殊値が求まったので、それを先に示しておく。
sinhZ(2)=1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + ・・・ =1/6 - 1/(2π)
sinhZ(4)=1/(sinh(π))^4 + 1/(sinh(2π))^4 + 1/(sinh(3π))^4 + ・・・ = 1/(3π) - 11/90 + (ω/π)^4/30
sinhZ(6)=1/(sinh(π))^6 + 1/(sinh(2π))^6 + 1/(sinh(3π))^6 + ・・・ =191/1890 - 4/(15π) - (ω/π)^4/30
ここで、ωはレムニケート周率で円周率πの類似物である。ω=2.6220575542921198・・
一番上の値は「その1」ですでに間接的に導いたものだが、ラマヌジャン式を用いることでこのような特殊値が求まっていく
のである。
双曲線関数型ゼータに関しては研究をはじめたばかりでわからないことだらけである。ある理由からζ(s)と同様、奇数の
sinhZ(2)=1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + ・・・= 1/6 - 1/(2π)
sinhZ(4)=1/(sinh(π))^4 + 1/(sinh(2π))^4 + 1/(sinh(3π))^4 + ・・・= 1/(3π) - 11/90 + (ω/π)^4/30
sinhZ(6)=1/(sinh(π))^6 + 1/(sinh(2π))^6 + 1/(sinh(3π))^6 + ・・・= 191/1890 - 4/(15π) - (ω/π)^4/30
これら三値を導出する。[導出]の上半分は「その1」とほぼ同じ。
[導出]
まず
F(x)=sin(x)/(e^(2π)-1) + sin(2x)/(e^(4π)-1) + sin(3x)/(e^(6π)-1) + sin(4x)/(e^(8π)-1) +・・・・ ----@
という関数F(x)を考える。
右辺の各項を次のように変形する。
sin(x)/(e^(2π)-1)=e^(-2π)sin(x)/(1-e^(-2π))=e^(-2π)sin(x){1+(e^(-2π)+(e^(-4π)+(e^(-6π)+・・・}
sin(2x)/(e^(4π)-1)=e^(-4π)sin(x)/(1-e^(-4π))=e^(-4π)sin(2x){1+(e^(-4π)+(e^(-8π)+(e^(-12π)+・・・}
sin(3x)/(e^(6π)-1)=e^(-6π)sin(x)/(1-e^(-6π))=e^(-6π)sin(3x){1+(e^(-6π)+(e^(-12π)+(e^(-18π)+・・・}
sin(4x)/(e^(8π)-1)=e^(-8π)sin(x)/(1-e^(-8π))=e^(-8π)sin(4x){1+(e^(-8π)+(e^(-16π)+(e^(-24π)+・・・}
・
・
@右辺は上の最左辺を全て足し合わせたものだから、上の最右辺を足し合わせると@右辺は次のように表現できる。
@右辺 = (e^(-2π)sin(x)+e^(-4π)sin(2x)+e^(-6π)sin(3x)+e^(-8π)sin(4x)+・・・)
+ (e^(-4π)sin(x)+e^(-8π)sin(2x)+e^(-12π)sin(3x)+e^(-16π)sin(4x)+・・・)
+ (e^(-6π)sin(x)+e^(-12π)sin(2x)+e^(-18π)sin(3x)+e^(-24π)sin(4x)+・・・)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、ここでフーリエ級数の公式を適用する。 「岩波 数学公式」(一松他著、岩波書店)p.250にある公式
sinx/(cosh(a)-cosx)=2(n=1〜∞) e^(-n・a)・sin(nx) (-π<=x<=π, a >0) -------S
を上の”@右辺”に適用して次を得る。
@右辺 = (1/2){sinx/(cosh(2π)- cosx) + sinx/(cosh(4π)- cosx) + sinx/(cosh(6π)- cosx) + ・・・ }
これより、結局@は次となる。
sin(x)/(e^(2π)-1) + sin(2x)/(e^(4π)-1) + sin(3x)/(e^(6π)-1) + sin(4x)/(e^(8π)-1) +・・・・
=(1/2){sinx/(cosh(2π)- cosx) + sinx/(cosh(4π)- cosx) + sinx/(cosh(6π)- cosx) + ・・・ } ----A
この両辺を微分すると、次のようになる。
cosx/(e^(2π)-1) + 2cos2x/(e^(4π)-1) + 3cos3x/(e^(6π)-1) + 4cos4x/(e^(8π)-1) +・・・・
=(1/2){(cosh(2π)cosx-1)/(cosh(2π)- cosx)^2 + (cosh(4π)cosx-1)/(cosh(4π)- cosx)^2
+ (cosh(6π)cosx-1)/(cosh(6π)- cosx)^2 + (cosh(8π)cosx-1)/(cosh(8π)- cosx)^2 + ・・・} ----A
(-π<=x<=π, a >0)
で表現すると次のようになる。
cosx/(e^(2π)-1) + 2cos2x/(e^(4π)-1) + 3cos3x/(e^(6π)-1) + 4cos4x/(e^(8π)-1) +・・・・
=(1/2)(n=1〜∞) (cosh(2nπ)cosx-1)/(cosh(2nπ)- cosx)^2 ------B
(-π<=x<=π, a >0)
このAでx=0として変形・整理すると次式を得る。
1/(e^(2π)-1) + 2/(e^(4π)-1) + 3/(e^(6π)-1) + 4/(e^(8π)-1) +・・
=(1/4){1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + 1/(sinh(4π))^2 + ・・・}
右辺に双曲線関数型ゼータsinhZ(s)のs=2の特殊値sinhZ(2)が見えている。その形で書き直すと、次のようになる。
1/(e^(2π)-1) + 2/(e^(4π)-1) + 3/(e^(6π)-1) + 4/(e^(8π)-1) +・・=(1/4)sinhZ(2) -----B2
さて、左辺はラマヌジャンにより1/24-1/(8π)と求められているから、sinhZ(2)は
sinhZ(2)=1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + 1/(sinh(4π))^2 + ・・・= 1/6-1/(2π) -----B3
と求まる。
次にB式を1回微分すると、次のようになる。
1^2sinx/(e^(2π)-1) + 2^2sin2x/(e^(4π)-1) + 3^2sin3x/(e^(6π)-1) + 4^2sin4x/(e^(8π)-1) +・・・・
=(n=1〜∞) sinx{cosh(4nπ)+2cosh(2nπ)・cosx-3}/(4(cosh(2nπ)- cosx)^3) ------C
このC式の両辺をsinxで割って、xを0に近づけていくと(x->0、1回ロピタルの定理使用)、次のようになる。
1^3/(e^(2π)-1) + 2^3/(e^(4π)-1) + 3^3/(e^(6π)-1) + 4^3/(e^(8π)-1) +・・・・
=(n=1〜∞) {cosh(4nπ)+2cosh(2nπ)-3}/(4(cosh(2nπ)- 1)^3) ------C2
この右辺を変形していくと、結局、C2式は次のようになった。
1^3/(e^(2π)-1) + 2^3/(e^(4π)-1) + 3^3/(e^(6π)-1) + 4^3/(e^(8π)-1) +・・・・
= (1/4){1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + ・・・}
+ (3/8){ 1/(sinh(π))^4 + 1/(sinh(2π))^4 + 1/(sinh(3π))^4 + ・・・} ------C3
右辺にsinhZ(s)が出ていることに注目いただきたい。sinhZ(s)を使った形で書くとC3式は次となる。
1^3/(e^(2π)-1) + 2^3/(e^(4π)-1) + 3^3/(e^(6π)-1) + 4^3/(e^(8π)-1) +・・= (1/4)sinhZ(2) + (3/8)sinhZ(4) ---C4
左辺の値はラマヌジャンが”(ω/π)^4/80-1/240”と求めており、またsinhZ(2)は先に上で1/6-1/(2π)と求まったから、
sinhZ(4)は容易に
sinhZ(4)=1/(3π) - 11/90 + (ω/π)^4/30
と出る。
ここで、ωはレムニケート周率で円周率πの類似物である。ω=2.6220575542921198・・
先を急ぐ。次にさらにC式を1回微分すると、次のようになる。
1^3cosx/(e^(2π)-1) + 2^3cos2x/(e^(4π)-1) + 3^3cos3x/(e^(6π)-1) + 4^3cos4x/(e^(8π)-1) +・・・・
=(1/4)(n=1〜∞) {-3B+2B(cosx)^2+(AB-2A)cosx+2A^2・cos(2x)-Asinx・sin2x}/(A-cosx)^4 ------D
ここで、A=cosh(2nπ)、B=cosh(4nπ)-3である。
さらにD式を1回微分した式を示す。
1^4sinx/(e^(2π)-1) + 2^4sin2x/(e^(4π)-1) + 3^4sin3x/(e^(6π)-1) + 4^4sin4x/(e^(8π)-1) +・・・・
=(-1/4)(n=1〜∞) {g1(x)-g2(x)}/(A-cosx)^8 -----D2
ここで、
g1(x)=sinx{-4Bcosx+2A-AB-8A^2・cosx-2A(cosx)^2-2Acos2x}(A-cosx)^4
g2(x)=sinx{-3B+2B(cosx)^2+(AB-2A)cosx+2A^2・cos2x-Asinx・sin2x}4(A-cosx)^3
また、A=cosh(2nπ)、B=cosh(4nπ)-3である。
D2式の両辺をsinxで割りxを0に近づけて(x->0、1回ロピタルの定理使用)導出される式に対して長い変形を行うと、
最終的に次式を得る。
1^5/(e^(2π)-1) + 2^5/(e^(4π)-1) + 3^5/(e^(6π)-1) + 4^5/(e^(8π)-1) +・・・・
= (1/4){1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + ・・・}
+ (15/8){ 1/(sinh(π))^4 + 1/(sinh(2π))^4 + 1/(sinh(3π))^4 + ・・・}
+ (15/8){ 1/(sinh(π))^6 + 1/(sinh(2π))^6 + 1/(sinh(3π))^6 + ・・・}
右辺にsinhZ(2)、sinhZ(4)、sinhZ(6)が出ていることに注目いただいたい。それらを使って書き直した式を示す。
1^5/(e^(2π)-1) + 2^5/(e^(4π)-1) + 3^5/(e^(6π)-1) + 4^5/(e^(8π)-1) +・・・・
= (1/4)sinhZ(2) + (15/8)sinhZ(4) + (15/8)sinhZ(6) -----D3
上でsinhZ(2)とsinhZ(2)は既に求まっており、また左辺はラマヌジャンにより1/504と求められているから、sinhZ(6)は、
sinhZ(6)=1/(sinh(π))^6 + 1/(sinh(2π))^6 + 1/(sinh(3π))^6 + ・・・
=191/1890 - 4/(15π) - (ω/π)^4/30
となる。
以上のようにして、sinhZ(s)の特殊値sinhZ(2)、sinhZ(4)、sinhZ(6)が求まった。
[終わり]
このようにして目標の三つの特殊値が求まった。導出のキーはS式のフーリエ級数の公式であることがわかる。それは
エッセンシャルな公式であるといえる。
sinhZ(2)=1/(sinh(π))^2 + 1/(sinh(2π))^2 + 1/(sinh(3π))^2 + ・・・ =1/6 - 1/(2π)
sinhZ(4)=1/(sinh(π))^4 + 1/(sinh(2π))^4 + 1/(sinh(3π))^4 + ・・・ = 1/(3π) - 11/90 + (ω/π)^4/30
sinhZ(6)=1/(sinh(π))^6 + 1/(sinh(2π))^6 + 1/(sinh(3π))^6 + ・・・ =191/1890 - 4/(15π) - (ω/π)^4/30
求めたこれらの式をコンピューターを用いて数値計算を行い検証したが、左右両辺で値の一致が確かめられた。
さらに、一つ注意しておきたい。B2、C4、D3の式を再度眺めてみよう。
1/(e^(2π)-1) + 2/(e^(4π)-1) + 3/(e^(6π)-1) + 4/(e^(8π)-1) +・・・= (1/4)sinhZ(2)
1^3/(e^(2π)-1) + 2^3/(e^(4π)-1) + 3^3/(e^(6π)-1) + 4^3/(e^(8π)-1) +・・・= (1/4)sinhZ(2) + (3/8)sinhZ(4)
1^5/(e^(2π)-1) + 2^5/(e^(4π)-1) + 3^5/(e^(6π)-1) + 4^5/(e^(8π)-1) +・・・・
= (1/4)sinhZ(2) + (15/8)sinhZ(4) + (15/8)sinhZ(6)
この結果から、
ラマヌジャン式(左辺)は双曲線関数型ゼータの有理数倍の和として表現できることがわかる(予想)。
左辺が、^7、^9・・・の場合を求めることは計算が複雑なため困難であり、実際は予想であるが。
つまり、
1^7/(e^(2π)-1) + 2^7/(e^(4π)-1) + 3^7/(e^(6π)-1) + 4^7/(e^(8π)-1) +・・・・
= K1・sinhZ(2) + K2・sinhZ(4) + K3・sinhZ(6) + K4・sinhZ(8)
1^9/(e^(2π)-1) + 2^9/(e^(4π)-1) + 3^9/(e^(6π)-1) + 4^9/(e^(8π)-1) +・・・・
= K1・sinhZ(2) + K2・sinhZ(4) + K3・sinhZ(6) + K4・sinhZ(8) + K5・sinhZ(10)
のように秩序ある形になっていると予想される。K*は有理数。
ラマヌジャンが次式のように左辺の値を求めていてくれたおかげで、sinhZ(s)の偶数の場合の特殊値を次々に求めることが
できたのである。
1^1/(e^(2π)-1) + 2^1/(e^(4π)-1) + 3^1/(e^(6π)-1) + ・・=1/24 - 1/(8π)
1^3/(e^(2π)-1) + 2^3/(e^(4π)-1) + 3^3/(e^(6π)-1) + ・・=(1/80)(ω/π)^4 - 1/240
1^5/(e^(2π)-1) + 2^5/(e^(4π)-1) + 3^5/(e^(6π)-1) + ・・=1/504
まとめておく。
(参考文献)「数学の夢 素数からのひろがり」(黒川信重著、岩波書店)
追記2012/9/15
上記の双曲線関数型ゼータですが、これは既に研究されているものであることがわかりました。M先生が教えてください
ました。
あまり知られていないが、これは結構昔から考えられていて最初の特殊な場合はコーシーが与えた。またラマヌジャンも
この種の級数の研究を行っている。下記の論文も参照されたしとの意味のメールをいただきました。
http://kaken.nii.ac.jp/d/p/17540053.en.html たしかにそれらしき記述があります。世間は広いです。こんな関数を既に研究している人がいるとは! |