オリヴァー・サイリャックスは著書『世界犯罪百科全書』の「成功」と題された項目の中でこのように述べている。
「世界的に有名な極悪人と見られたいと思う人間が存在する。その意図はただ有名になりたいがゆえに人を殺す」
そして、その実例としてロバート・スミスやポール・ジョン・ノウルズ、ヘンリー・ルーカス、ドナルド・リロイ・エヴァンス等を挙げているが、中でもひときわ目を引くのがイアン・ワービーのケースである。何故なら、彼は有名な殺人者になりたかったにも拘わらず、1人も殺せなかったからだ。つまり、社会の落ちこぼれである殺人者にすらなれなかったのだ。「落ちこぼれの中の落ちこぼれ」だったのである。
エセックス州ウィザム在住のイアン・ワービー(26)は、この手のボンクラと同じくナチスを賛美し、悪魔を崇拝し、マルキ・ド・サドや『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター、そしてテッド・バンディやリチャード・ラミレスといった実在の殺人犯に憧れていた。中でも特に心引かれたのがマイケル・ライアンだった。同じイングランドの殺人犯で16人も殺している。しかも、これなら「僕にもできそう」だ。よっしゃ、いっちょやってみるか。ワービーはハンマーとナイフを買い求めた。
1992年10月12日、街角に立ったワービーは、少年と老人をハンマーで殴りつけ、車に乗った若者や赤ん坊を抱いた母親をナイフで切りつけたが、いずれの場合も逃げられるか、逆に撃退された。そして、車椅子の障害者に襲い掛かったところで先ほどの若者にとっ捕まり、殴る蹴るされた挙げ句に警察に引き渡された。
彼の弁護人はこのようにコメントしている。
「自由に身動きが出来ない身体障害者ですら殺せない男は、殺人犯とは云えないでしょう」
8年の刑が下されたというから、とっくに娑婆に出ている筈だ。彼は今でも殺人者になることを夢見ているのだろうか?
(2011年2月6日/岸田裁月) |