1991年7月某日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで逮捕されたジェフリー・ダーマーが世間を騒がせていたちょうどその頃、ミシシッピ州ビロクシでは、ドナルド・リロイ・エヴァンス(34)なる元海兵隊員が、10歳の家出少女ベアトリス・ラウスを誘拐、強姦の末に殺害した容疑で逮捕された。その取調べにおいてエヴァンスは、恰もダーマーの騒ぎに便乗するかのように、大風呂敷を広げ始めた。
「俺はこれまでに少なくとも60人は殺している」
既にヘンリー・ルーカスという千三つ(千人以上殺したと豪語したクセに、後に全てを撤回した)の存在を知っていた捜査官は、流石にすぐには真に受けなかった。慎重に対応し、いくつかの州に渡って十数人程度は殺している可能性があるとの感触を得た。
まず、ベアトリス・ラウス殺害の件で裁かれたエヴァンスには死刑判決が下された。
その後、フロリダ州フォート・ローダーデイルで黒人の娼婦、アイラ・ジーン・スミスを殺害した容疑で裁かれた。その際、予てから白人至上主義者であることを公言していたエヴァンスは、法廷で名前を訊かれて「ハイ・ヒトラー(Hi Hitler)」と名乗ったという。このばかちんは「ハイル」を「ハイ」だと思っていたらしい。
1999年1月5日、ミシシッピ州立刑務所で服役中のエヴァンスは、シャワー室で黒人の死刑囚に刺されて死亡した。以上の2件の他にも13件への関与が疑われていたが、結局、その真相は闇の中だ。
(2009年12月3日/岸田裁月) |