特例措置で逮捕されないということなら捜査協力しよう。
早速、警察に電話しようと思うのだが、心配なことがあった。言葉が通じず、逮捕拘禁されてしまったら大変だと思ったのである。
そこで例の旅行社現地支店に電話した。日本語ができる人に同行して欲しいと思ったのだ。
現地支店は、「特例措置」については知らなかった。
実は第13章で書き忘れていたのだが、事件当日に旅行社に電話した際、オプションツアーの申込を断られていたのだ。国内便チケットを自分で買って、いろんな島に渡ろうと思っていたのだが、詐欺の被害で金を巻き上げられてそれができなくなったのだとはっきり自覚でき、それならばと思いついたのが、料金後払いでオプションツアーに参加するということだった。
ボルネオ島オランウータンツアーやパプアニューギニア島現住民交流ツアーなどはなかったが、さすがにボロブドゥール遺跡見学ツアーはあった。サーファーでもなく金もない俺が、長々とバリ島に滞在するのはあまりに辛い。日本に帰っても銀行の預金残高は1万円しか無かったのだが、そこはなんとかなるとして、せめてオプションツアーでも申し込もうと思ったのだ。もちろん金はないから、料金後払い。旅行社にはすでに身元を登録してあるのだし、事情は把握してもらっているのだから、何とかなるだろうと踏んだのだ。
現地支店の職員は、日本の本社に問い合わせてみますと請け合ってくれた。しかし、後ほど電話がかかってきて、本社はダメだと言っているとのことであった。当然俺は、ねばってみたのだが、らちがあかなかった。
そんないきさつがあったので、「せめて日本語ガイドを派遣しろ!」と思ったのだ。
さすがに俺のことを可哀想だと思っていたのだろう。特例措置で逮捕されないのならば、日本語ガイド派遣を検討してみるとのことである。やはり頼んでみるものだ。改めて電話するので、しばらく待って欲しいという。
予想外に時間が経ち、ようやく電話がかかってきた。ところが、現地支店の返答もまた、予想外だった。日本語ガイドを同行させるかどうか以前に、警察へ出頭するな、というのである。旅行社の現地支店で急きょ会議を開いて出した結論だということであった。その説明を聞いていて、さすがにワクワクなどしていられない恐怖に襲われることになった。