インドネシア拉致事件(13)
LAST UPDATE 2004-07-16
世界は狭い!A

 やはり俺は騙されたのだ。話が出来すぎている。
 もし俺がボブなら、Mr.マリックから金を取り返すために、金を失ったpoorな若造を再び呼び出して、再度勝負をさせるなんてことはしないだろうと思った。

 ホテルの部屋に戻った俺は、やがて、そういうふうに心を整理した。しかし、大変な事態に陥った事にはかわりない。警察に被害届を出すわけにもいかない。

 当時の同僚がくれたメモを引っ張り出した。インドネシア人の名前と電話番号が書かれてある。実は、その同僚の娘がバリ島の男性と結婚し、バリ島の有名な免税店で勤めていた。そして、その夫の兄弟が日本語が達者で面倒見がいいので、もしコレラにでもかかったら電話して相談しなさいと言われていたのだ。その年、日本人がインドネシアでコレラに感染する例が続いており、奈良県の男性にも帰国後死亡した人がいたのだ。

 相談できる人がいるということが、その時の俺には、この上なく救いだったのだ。コレラに感染したわけではないが、早速、その番号に電話した。しかし、彼は仕事からまだ帰宅していないとのことだった。

 次に頼ってみようと思いついたのが、旅行社だった。珍しく、この旅はパック旅行を利用していたので、これ幸いと旅行社の現地事務所に電話してみた。日本人らしい女性の声が応対してくれた。

女性「 典型的な詐欺ですね」
俺「 ええっ!やはりそうですか」
女性「 いかさま賭博に巻き込まれたようですが、警察にバレたら逮捕されてしまいます。実際に、警察にいけば、いかさま賭博の被害にあったにも関わらず、拘置されている日本人がいます。若い女性で拘置されている人もいるぐらいだから、kuro○○さんは、確実に逮捕されると思いますよ」
俺「 どうしたらいいんでしょうか。お金もないんです」
女性「 誰か、個人的に相談できる方が、バリ島にいますか?」
俺「 一人いるので、電話してみたら、まだ仕事から帰っていないらしいんです」

俺に、バリ島内に知人がいるとは思っていなかったのだろう。電話口の女性が、俺に問い返した。
女性「 こちらに知り合いがおられるんですか!何という方ですか?」

その人の名前を聞いてもどうなるものでもないのに、と思いつつ、
俺「 ※□◎△さんという方です」
女性「 その方なら、まだ仕事から帰っていませんよ」

おいおい、知り合いなのか?
女性「 その方は、今、私の隣にいます」
俺「 ?????」


 何と、同僚に紹介してもらった男性は、俺が利用した旅行社に勤務する現地ガイドさんだったのだ。追いつめられた俺がその男性に電話したが不在だったので、旅行社に電話したところ、応対してくれた女性の隣のデスクにその男性が座っていたのだ!
 バリ島の市内観光でも「世界は狭い!」と思ったkurochanだったが、その時再び「世界は狭い!」と、つくづく実感したのであった。

 その男性が電話口に出てくれ、日本の親戚(=俺の同僚)から聞いている事、今晩から早速男性の自宅に泊まりに来いという事、食事も出してやるから心配するなという事を、申し出てくれた。俺は本当に感謝一杯だったが、夕刻から急に訪問するのは失礼だと思い、今晩の飯代ぐらいはあるから、今日はこのホテルに泊まります。明日からお願いします、と告げた。

 

電話口は再び女性にかわり、こう付け加えた。

日本領事館が力になってくれるかもしれませんよ。領事館は現地警察への通報義務はありませんから、警察に突き出されることはありません。でも、あれこれ聞かれるだけかもしれませんから、どうするかはkuro○○さんにお任せします」




 でも、そういわれると電話せずにはおれなくなった。

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