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1契約成立とその効果
保険代理店を自営する宅建一氏48歳は、築20年の土地建物を売却し、最近竣工した高層マンションの購入資金に充てることを決断した。
そのため、宅氏は、10月1日に、友人の剛田太郎氏に、5000万円で、土地建物を売ることをもちかけた。
剛田氏は、この申し込みを、同日即座に承諾し、3日後の10月3日には、契約書に署名押印した。 |
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宅氏と剛田氏の土地建物の売買契約は、どの時点で成立し、また、
契約が成立するとどうなるのだろうか。 |
土地建物の売買契約は、どの時点で成立したのだろうか。
| 1-1 契約の成立 |
| 契約とは、約束のことだから、当事者が「契約をしましょう」という意思(考え)を言葉や態度で表示し、それが一致すれば成立する。 |
つまり
10月1日の時点で契約は成立している
。
では、契約書はなぜ作るのだろう
契約書を作るのは、後でトラブルが起きないように、契約したことを証拠として残しておくためだ。

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1-2 契約成立の効果 |
| 契約が成立すると、当事者間で約束したとおりの権利と義務が発生する。 |
つまり
Caseで、宅氏は「土地・建物を売ろう」と言ったことで、「5000万円を支払ってくれるなら、この土地・建物をあなたに引き渡そう=引き渡す義務を負おう」と約束している。
また、尾沢氏が「土地・建物を買おう」と言ったことは、「土地を引き渡してくれるなら、私は代金を支払おう=支払う義務を負おう」と約束したことになる。
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宅氏 |
|
剛田氏 |
| 権利 |
代金支払い請求権 |
 |
建物の引渡し請求権 |
| 義務 |
建物の引渡し義務 |
代金支払い義務 |
なお、権利とは、〇〇できるという約束ごとだ。この約束ごとは、誰に対する約束かによって、債権と物権とに分けられる。
債権は、人に○○請求(要求)できる、という特定の人と人の約束だ。債権が発生すると、その裏返しの義務も必ず生じるが、この義務を債務という。剛田氏の代金支払義務は、債務だ。このように債権・債務は、必ずワンセットで成立する。
そして、債権債務は、原則として契約=約束から生じる。約束の内容は、自由に決められるから、債権・債務の内容は、当事者間の契約で自由に決めることができる(契約自由の原則)。

これに対して、「モノに対して○○できる」という世間一般の約束ごとを物権という。
土地・建物の売買契約の結果、土地・建物の所有権は宅氏から剛田氏に移るのだが、その所有権が物権の代表選手だ。
所有権とは、目的物に自由に使用・収益(人に貸して賃料を得る)・処分(売る等)できる権利(民法206)だ。要するに目的物をどのようにしようとかまわない。このほか、抵当権、地上権などの物権がある。
このように、物権とは「モノに対して○○できる」という世間一般の約束ごとだから、各人の考えや約束で勝手に作られては取引が円滑に進まなくなる。そこで、物権は法律で定めたもの以外認められないことになっている(175条 物権法定主義)。


契約は、10月1日の時点で成立している。
契約成立の結果、
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宅氏は土地建物を剛田氏に引き渡す義務を負う反面、
剛田氏に代金5000万円を支払うよう請求できる権利を得た。 |
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剛田氏は、宅氏に代金500万円支払う義務を負う反面、
宅氏に土地建物を引き渡すよう請求できる権利を得た。 |
|
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2無効な契約―権利義務がなんら発生しない
宅建一氏は、軽井沢の別荘を、大学の先輩の剛田氏に売る契約をした。ところが、その別荘は、契約をした前日に落雷で焼失していた。 |
館氏は、隣人の大地氏所有の土地建物を、大地氏に無断で、剛田氏に売る契約をした。 |
これらの契約は、有効なのだろうか。 |

契約が成立したように見えても、権利義務が何ら発生しない=無効な場合もある。
| 第一に、契約内容が公序良俗に反する場合は無効(90条)だ。 |
| |
公序良俗とは「公の秩序と善良な風俗」の略語だが、要するに社会的な良識、ということだ。それに反するのだから、反社会的ということだ。 たとえば、覚醒剤の売買契約や暴利で金を貸し付ける契約だ。このような反社会的な契約には、法律上の権利・義務を認めるわけにはいかないから無効だ。 |
| 第二に、契約内容がおよそ実現不可能で、債権・債務を発生させようがない場合も無効となる。 |
| |
たとえば、夜空に浮かぶ月の売買契約がその例だ。月の引渡し債務など認めても、およそ実現することはできないので、その契約は無効だ。 |

では、 《宅氏が、契約を結ぶ前の日に別荘が落雷で焼けてなくなってしまったのに気がつかず、剛田氏に売った場合》は、どうなるだろうか。

この契約も無効だ。月と同じように、焼失してしまった別荘を引き渡すことはできないからだ。契約締結の前に焼失していた建物の売買契約は、実現不可能だから無効となる。 |
では、 《宅氏が、隣人の大地氏の土地建物を無断で剛田氏に売ってしまった場合》はどうだろう。


これは有効だ。大地氏の土地建物は現に存在する。だから、宅氏が大地氏と交渉して権利を取得、つまりその土地建物を購入すれば、剛田氏に引き渡すことができる。
宅氏は、剛田沢氏に土地建物を引き渡すと約束した以上、引き渡す努力をすべきなのだ。 |


宅建二氏は、宅地取引業を開業したお披露目のパーティで酒をしこたま飲んで、わけもわからないうちに、自宅を剛田氏に売る契約をしてしまった。 |
契約内容以外の面からも、無効の場合がある。
契約をした者に意思能力がない場合、意思無能力と言う、は無効だ。
意思能力とは判断力のことだが、意思無能力とは、判断力がまったくない状態だ。強度の精神障害や泥酔状態で右も左もわからなくなっている場合がその例だ。このような状態では、意思表示そのものがあるとはいえないので、無効となる。

酒をしこたま飲んで、わけもわからないうちに、自宅を剛田氏に売った宅氏は、意思無能力なので、この契約は無効だ。 |

| 1-3 無効な契約 |
| 1 |
公序良俗に反する契約は、無効。 |
| 2 |
実現不可能なことを目的とする契約は、無効。
⇒契約締結前に焼失していた建物の売買契約は、無効。
≠他人の物(権利)の売買契約は、実現可能だから、有効。 |
| 3 |
意思無能力状態でした契約は、無効。 意思無能力 |
|
| |
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| 1 4タイプの制限行為能力者と保護者 |
   
そうします。 You 売っちゃいなよ。 |

不動孝太君18歳。最近、ご両親を相次いでなくし、大きな屋敷を相続した。 が、一人で住むには、大きすぎる。折から、亡きご父君の友人剛田氏が、その屋敷を2000万円で買い取るから、孝太君は、その代金で、1000万円のワンルームマンション、そして、その残金で、イタリア製の超高級スポーツカーを買ってはどうかという話をもちかけた。
孝太君、この話に飛びつき、相場3億円の土地建物2000万円で剛田氏に売ってしまった。
孝太君は、この契約に拘束されるのだろうか。 |

未成年者はもとより、大人でも判断力(事理弁識能力という)が十分でない人が契約に拘束されてしまうと、損な契約をさせられ、この弱肉強食の競争社会で食い物にされてしまう。
そこで、民法は判断力が一人前でない人を保護するため、この人達を制限行為能力者と呼び、制限行為能力者が自分ひとりでした一定の法律行為*は、あとで不利だと思えば、取り消せるものとした※。
| * |
法律行為 契約のように、意思表示によって権利義務が生じる行為のこと。単に行為ということもある。 |
| ※ |
取り消せるのは、本人と保護者であり、相手方は取り消せない。 |
なお、取り消しとは、無効とは異なる。無効の場合は、初めから何らの権利義務も発生しないが、取消せる行為は、取り消すまでは有効だ。しかし、取り消しがあると、初めから無効であったものとみなされる(121)。
無効ではなく、取り消せると扱うのは、制限行為能力者の行為は必ずしも自己に不利とは限らないので、不利でない場合は取り消さないで有効のままにしておけるようにするためだ。

制限行為能力者には、次の4タイプあり、それぞれ保護者がつく。
| タイプ |
プロフィール |
保護者 |
| 未成年者 |
満20歳未満の者 (婚姻した者は除く)* |
法定代理人 |
| 成年被後見人 |
事理弁識能力※を欠く常況にあり、 後見開始の審判を受けた者 |
成年後見人 |
| 被保佐人 |
事理弁識能力が著しく不十分であり、 保佐開始の審判を受けた者 |
保佐人 |
| 被補助人 |
事理弁識能力が不十分であり、 補助開始の審判※を受けた者 |
補助人 |
未成年者のところで、*婚姻者は除くとなっているのは、婚姻をすると独立して家計を営むから一人前に扱う必要があり、成年者とみなされる(婚姻による成年擬制)からだ。
| * |
男は18、女は16から父母(少なくとも一方)の同意を得て婚姻できる。 |
また、未成年者の保護者の法定代理人とは、法律上本人の身代わりで契約できることが定まっている者という意味で、一般には親(親権者という)だ。が、親がない場合は、最後に親権を行うものの指定で(839条)、その指定がない場合は本人等の請求により、家庭裁判所が未成年後見人を選任(840条)でき、その者が法定代理人だ。

各種の審判は、本人や配偶者等の請求によって、家庭裁判所が行う。 なお、比較的能力の高い人に行う補助開始の審判※は、本人の意思を尊重して、本人の請求又は同意がある場合にだけできる。
また、判断力が回復すれば、やはり請求により、審判を取り消してもらえる。そうすると、行為能力者に戻れる。
|
2 制限行為能力者の取り消せる行為の範囲
制限行為能力者が、取り消せる行為の範囲は、能力の程度に応じて異なる。順番に見ていこう。

1未成年者が取り消せる行為
判断力が備わっている未成年者の親=法定代理人*が、身代わり (代理)契約をする※場合は、取消しは問題にならない。
| * |
未成年の保護者である親(親権者という。)は、子の身代わり(代理)で契約することが認められている。このように、法律上身代わりで契約できると定められている人を法定代理人という。 |
| ※ |
ただし、親権者とその子との利益が相反する行為(例:親権者の債務のため子の不動産に抵当権*を設定)又は親権を行う複数の子相互の利益が相反する行為(例 遺産分割協議)については、親権者は、その子(複数の子のために親権行使をする場合は、その一方)のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(826条)。特別代理人を専任しないで代理行為をしてしまうと、無権代理行為(Part4の7)となる。平成25年問2第4肢
*
|
抵当権 借金が払えなくなったときは、それ(抵当権)をくっつけた(設定した)不動産を競売して、その代金から借金の返済に充てられる権利(Part8Ⅰ)。 |
|

取消しが問題になるのは、未成年者が自分で契約する場合だ。
たしかに17歳くらいになれば大人勝りの賢い子もいる。が、未成年である以上、まだ親がかりなのだから、未成年者が契約をするには、
| 原則 |
法定代理人の①個々的な同意か②範囲を定めた営業の許可*を得る必要があり⇒同意・許可を受けず、勝手にやった行為は取り消せる。
| * |
法定代理人は、未成年者に、業種を定めて営業の許可をすることができ、許可された場合、その営業に関する行為については、成年者と同一の行為能力が認められる(6条)=取り消せない。 |
|
| 例外 |
③得する行為※は、勝手にやっても取り消せない。
| ※ |
得する行為=単に権利を得、又は、義務を免れる行為。したがって、負担付き贈与(自分も義務を負う贈与)は除く。 |
|
| ①の例 |
親の同意を得てバイクを買った⇒取り消せない |
| ②の例 |
宅地建物取引業者の親が、子に支店の営業を許可した場合の宅地建物の取引⇒取り消せない |
| ③の例 |
贈与を受ける、借金をまけてもらう⇒取り消せない |
つまり
勝手にやった行為は不利益な場合があるので原則取り消せるが、
得する行為(③)は、取り消す必要もないからはじめから取り消せないものとしておく。

結局、
| 2-2 未成年者が取り消せる行為(4~6条) |
| 原則=勝手にやった行為(同意・営業許可のない行為)は、取り消せる。 |
| 例外=得する行為は、勝手にやっても取り消せない。 |
| なお |
法定代理人が、身代わり (代理)契約をする場合は、取消しは問題にならない。が、親権者とその子との利益が相反する行為(例:親権者の債務のため子の不動産に抵当権を設定)又は親権を行う複数の子相互の利益が相反する行為(例遺産分割協議)については、親権者は、その子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(826条1項)。平成25年問2第4肢
|


不動孝太君は法定代理人に無断で屋敷を剛田氏に売却しているので、この契約は、取り消せる。もし、屋敷を引き渡していたら、 契約は取り消すから返して欲しいと請求(要求)できる。
|

2 成年被後見人が取り消せる行為
成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況で、判断力がほとんどないのだから、日用品の買い物など日常生活上の行為以外は、すべて 取り消せるものとする。日常的でない契約なら、たとえ成年後見人の同意を得ていても、また、贈与を受ける行為のように得する行為でも取り消せる。 このように成年後見人が行う日常的でない行為は、常に不完全なので、保護者の成年後見人は成年被後見人の身代わりで(代理をして)契約できることになっている。つまり、成年被後見人に付く成年後見人も法定代理人だ。

| 2-3 成年被後見人が取り消せる行為(9条) |
1
|
日常生活上の行為以外は、すべて取り消せる。 成年被後見人の同意を得ていても、得する行為も取り消せる。 |
| 2 |
日常生活上の行為以外の行為は、保護者である成年後見人が身代わりで行える(代理 859条1項)。ただし、居住用不動産を処分(売ったり,抵当権を設定する)には家庭裁判所の許可が必要である(859の3)。 |
| 2のただしのこころ |
成年被後見人が住居を失うことがないよう、家庭裁判所がチェックをする。 |
|
|

3 被保佐人が取り消せる行為
被保佐人は、ある程度の判断力はあるので、未成年者のように原則として保護者の同意が必要とするのはいきすぎだ。要するに、被保佐人は、家計崩壊につながる重大な行為を制限すればよいのだから、

| 2-4 被保佐人が取り消せる行為(13条) |
| 原則 |
勝手にやった行為(同意のない行為)も、取り消せない。 |
| 例外 |
一定の重大行為*は、保佐人の同意(又はこれに代わる家庭裁判所の許可)が必要であり※、勝手にやると取り消せる。
| ※ |
保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときには、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる(カッコ書き参照)。 |
|
| * |
勝手にやると取り消せる重大な行為とは、 ①借金をする、又は他人の保証人*1になる、 不動産の売買契約や不動産に抵当権をつける契約 ③土地について5年、建物について3年を超える※1賃貸借*2 ④相続の承認・放棄、遺産の分割※2等
| *1 |
保証 借金をした人の代わりに返済しなければならない債務(Part8)。 |
| ※1 |
超える 3年を超えるとは、3年1日からをいう。3年以上とは3年ちょうどからをいう。また、3年未満は、2年364日までをいう。3年以下は、3年ちょうどまでをいう。超える・未満は基準の数字を含まないが、以上・以下は、基準の数字を含む。 |
| *2 |
賃貸借 有料でものを貸し借りする契約(Part9)。 |
| ※2 |
遺産の分割 遺産分け(Part12)。 |
|
| ※ |
保佐人が、被保佐人の居住用の不動産を処分(売ったり、抵当権を設定したり)することに同意をすることは、家庭裁判所の許可が必要である(876条の5)。 |

4被補助人が取り消せる行為
被補助人は、被保佐人よりさらに能力が高いので、保護者の同意が必要な行為を、被保佐人の場合より、さらに限定した。
| 2-5 被補助人が取り消せる行為(17条) |
| 原則 |
勝手にやった行為(同意のない行為)も、取り消せない。 |
| 例外 |
一定の重大行為行為中の特定行為*は、補助人の同意(又はこれに代わる家庭裁判所の許可)が必要であり※、これについて勝手にやると取り消せる。
| ※ |
補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときには、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる(カッコ書き参照)。 |
|
| * |
勝手にやると取り消せる重大行為中の特定行為は、被保佐人が取り消せる重大行為(2-4)の中から、補助開始の審判の時に自ら選ばせる。 |
| ※ |
補助人が、被補助人の居住用の不動産を処分(売ったり、抵当権を設定したり)することに同意をすることは、家庭裁判所の許可が必要である(876条の10)。 |
つまり
同意が必要な行為を、被保佐人が取り消せる重大行為中の特定の行為(審判のとき、選ばせる)としただけで、あとは被保佐人と同じ。 |
| |
3制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者の相手方はいつ取消されるかわからないから、気がもめる。そこで、その不安な状態を解消する3つの制度がある。
1法定追認と追認催告
行為をした制限行為能力者が行為能力者になった後*又は制限行為能力者の保護者が、「その契約は有効のママにしておく」とか「取り消すつもりはない」と意思表示をしたら、もう取消しはできなくなる。この意思表示を追認という。
| * |
成人したか、各種審判の取り消しの審判を得たことを意味する。 |
| |
行為者は、行為能力者となった後でないと追認できない理由
⇒追認は取消権の放棄という重大な結果を招くからである。 |
そして、はっきりと追認と言わなくても、追認する意思があることが明らかな一定の行為をすると追認したものとみなしてしまう(法定追認)。
|
2-6 法定追認(125条) |
| 追認できる者(行為能力者となった行為者又は保護者)が、追認意思が明らかな行為をすると、追認したとみなされる。 |
| 追認意思が明らかな行為(法定追認事由) |
具体例 |
| 履行 |
成人した孝太君が、その土地を引き渡してしまう |
| 履行の請求 |
孝太君の保護者が剛田氏に代金を支払ってくれと請求する |
権利の譲渡 等
|
孝太君の保護者が代金債権を第三者に譲渡する 等 |

さらに、制限行為能力者の相手方は、取消しなり追認なりの返事を要求することができる。これを追認催告と言う。この催告に返事があれば、そのとおりの効果が生じるが、返事がなくても一定の効果が生じる。
行為者が成年被後見人又は未成年者の場合は、行為者本人は催告通知を受け取る能力はないので、もっぱら保護者に催告し、返事がなければ追認と扱う。
そのこころ
取り消せる行為は一応有効なので、返事をしないということは有効のままでかまわないという意思が推測されるからだ。

行為者が被補助人・被保佐人の場合は、保護者のほか、催告通知を受け取るぐらいの能力はある行為者本人に催告をしてもよい。ただし、被保佐人・被補助人は、単独で追認できるまでの能力はないので、「保護者の
追認をえるべきこと」を催告することになっている。
そして、
保護者に催告し返事がない場合は追認と扱うが、
被保佐人・被補助人に催告し返事がない場合は、追認拒絶=取消しと扱う。
そのこころ
「保護者の追認をえるべきこと」を催告したのに対し、返事が無いということは保護者の追認が得られなかったことが推測される。
まとめると
| 2-7 制限行為能力者の相手方の催告権(20条) |
相手方は制限行為能力者側(成年被後見人・未成年者を除く)に、追認するのかどうかを催告(催促)でき、
確答(返事)の発信がなければ、
| |
保護者に催告した場合⇒追認 |
| |
被保佐人・被補助人に催告した場合⇒取消し |
と扱う。 |
成年被後見人・未成年者に催告しても、無効!
そのこころ
成年被 後見人と未成年者は 催告通知を受けとる能力もない。 |
| なお、行為者が行為能力者になった場合は、もっぱら行為能力者になった行為者本人に催告すべきで、返事がなければ追認と扱う。 |

契約後、何年もたってから取り消されては迷惑だ。
2取消権の期間制限
| 2-8 取消権の期間制限(126条) |
| 追認できるときから5年又は行為のときから20年経過すると、取り消せなくなる。 |
つまり
17歳で土地を売った未成年者は、20歳になったら追認できるのでそれから5年経過後の満25歳になったら取消すことができなくなる。また、成年被後見人が土地の売買をして、後見開始の取り消しの審判を受けることがなかったとしても、行為のときから20年経過すると取消すことができなくなる。
3制限行為能力者の詐術
たとえば、未成年者が親の同意を得たとウソ=詐術、をついて契約をした場合だ。こういうことをすると、取消しできなくなる。
|
2-9 制限行為能力者の詐術(21条) |
| 制限行為能力者が、相手方に能力者と信じさせる、又は、親や保佐人・補助人の同意を得たと詐術(うそ)を用いたときは、取り消せなくなる。 |
そのこころ
制限行為能力者の取り消しは、判断力が一人前でない者を保護するためのものだから、このように悪知恵が働く者の保護はしない。
|
|
| 10年で4回の出題頻度。出題は、4タイプの制限行為能力を並べて又は意思無能力の場合も加えて問うこともある。内容的には、テキストに記載のあることばかりでやさしい。ときにかなり細かいことを問う。その場合は、消去法で解く。 |

|
| だまされ、又は、おどされてした契約や、本心のない契約をした場合には、契約をやめたくなる。しかし、契約には当然相手方等の利害関係者がいる。
そこで、こうした不完全な意思表示は、関係者の利益を不当に侵害しない限りで、取り消せたり、無効の主張ができたりすることになっている。 |
1詐欺による意思表示
―だまされて売るよと言ってしまうと |
宅氏が、「あんたの屋敷の敷地には、産業廃棄物が不法投棄されているから、そのうち有毒ガスが噴き出すよ。今のうちに、相場の6割でも、僕に売ったほうがいいよ。」と剛田氏にだまされて、「じゃ、君に売るよ」と言ってしまった場合、宅氏は「売るよ」と言ったことに拘束されるだろうか。 |
|

は、宅建一氏が、契約の相手方剛田氏にだまされて「売るよ」と言ってしまった場合だ。
1 相手方がダマした場合
宅氏にもうかつにだまされたという落ち度がある。しかし、その原因はだました相手方剛田氏に100%あるのだから、だまされた宅氏を保護することだけを考えればよく、相手方の詐欺による意思表示は取り消せる。
宅氏は、「売るよ」と言った意思表示は、取り消すことができる。
剛田氏に、「売るよといったことは取り消すよ」、と言えばよい。そうすれば、「売るよ」と言ったことは、初めからなかったことになる。
|

剛田氏の友人館氏が剛田氏に恩を売ろうとして、宅氏を「あんたの屋敷の敷地には、産業廃棄物が不法投棄されているから、そのうち有毒ガスが噴き出すよ。今のうちに、相場の6割でも、剛田氏に売ったほうがいいよ。」とだまして、宅氏に同物件を剛田氏に売らせてしまった場合、宅氏は、この契約を守らなければならないのだろうか。
|
|
2 第三者がダマした場合~例外的なパターンだ
のように、第三者の館が、宅氏をだました場合はどうなるか。
この場合は、相手方剛田氏の立場を考えなければならない。
そして、剛田氏の立場は、館がダマしていることを知っていた(悪意)か、知らなかった(善意)かで全く異なる。
| ① |
相手方・剛田氏が詐欺を知っていた(悪意)⇒剛田氏は館がだましているのに乗じて(悪用して)契約をしたのだから、剛田氏自身がだましたのと同じくらい悪い⇒宅氏を保護すべき⇒宅氏は、取り消せる。 |
| ② |
相手方・剛田氏が館の詐欺を知らなかった(善意)⇒宅氏は、いわば勝手にだまされているので、詐欺とは無関係な剛田氏を保護すべき⇒宅氏は、取り消せない。 |

宅氏は、剛田氏が、宅氏が館氏からだまされていたことを、知っていた場合は、剛田氏との契約を取り消せる。
剛田氏が、宅氏が館氏からだまされていたことを、知らなかった場合は、剛田氏との契約を取り消せない。 |
3 利害関係をもった第三者との関係は
宅氏が剛田氏の詐欺を理由に取り消す前に、剛田氏がすかさず第三者*・大地氏に土地建物を転売してしまった場合は、宅氏は、取消しを大地氏に対抗できる※だろうか。
| * |
第三者とは、館氏のように契約当事者以外の人。 |
| ※ |
対抗できる 法律上の効果を、第三者に主張できることをいう。 |
|

この場合は、大地さんの立場を考えなければならない。
| ① |
第三者大地が宅・剛田間の契約が詐欺によるものであったことを知っていた(悪意)⇒大地氏は宅氏がだまされているの に乗じて宅氏の土地を乗っ取ろうとしているのだから、剛田 氏がだましたのと変わらない⇒宅氏を保護すべきで、宅氏は 大地氏に、取り消しを対抗できる。 |
| ② |
第三者・大地氏が知らなかった(善意)⇒宅氏は、いわば勝 手にだまされているので、無関係な大地氏を保護すべき⇒宅氏 は大地氏に、取り消しを対抗できない。 |
なお、悪意とは、あることがらを知っていること、逆に、善意とは、あることがらを知らないことを意味する。日常用語では、善意とは心が温かいこと、悪意は敵意を意味することが多いが、法律的には、あることがらを知らない(善意)・知っている(悪意)ことだけを意味する。


宅氏は、 第三者大地氏が詐欺について悪意の場合は、取り消しを対抗できる。 第三者大地氏が善意の場合は、取り消しを対抗できない。 |

詐欺による意思表示をまとめておこう。
| 3-1詐欺による意思表示 (96条) |
| 1 |
相手方の詐欺による意思表示は、取り消せる。
第三者が詐欺をした場合は、相手方がその事実を知っていたとき(悪意)に限り、取り消せる。 |
| 2 |
詐欺による意思表示の取消しは、取消しまでに利害関係をもった善意の第三者に対抗することができない。 |
| Keyword |
相手方詐欺は、取り消せる。
第三者詐欺は、相手方悪意の場合に限り、取り消せる。
詐欺取消しは、善意第三者に対抗できない。 |
|
| |
2 強迫による意思表示
―おどされて売るよと言ってしまうと
「僕に、あの家を500万円で売る気になったかね。うちには、命知らずの書生が大勢いるので、売ったほうがいいと思うよ・・」と剛田氏。宅氏は、気押されて、つい売ると言ってしまった。宅氏は、この契約に拘束されるのだろうか。 |
 |

の「その家を売ろう」という意思表示は、おどされた、つまり強迫による意思表示だ。 一方的におどされてこわい思いをさせられた者は、うっかりだまされたという落ち度がある者より強く保護しなければならない。

そこで、
| |
相手方がおどした場合は、当然取り消せるが、 |
| ① |
第三者がおどした場合も、相手方がそのことにつき悪意の場合はもとより、善意の場合でも、取り消せる
| |
第三者がおどすとは、館氏が宅氏に「剛田氏に売ったほうが身のためだよ。」とかおどす場合だ。 |
|
| ② |
利害関係をもった第三者が、強迫について悪意の場合はもとより、善意の場合でも、取消しを対抗できるものとする。
| |
利害関係を持った第三者とは、剛田氏から宅氏の家の転売を受けた者等である。 |
|
詐欺の場合とは、①②の赤字部分の2点において異なる。

相手方剛田氏におどされて、売るよと言わされた宅氏は、当然取り消すことができる。 |

強迫による意思表示をまとめておこう。
| 3-2 強迫による意思表示(96条) |
| 1 |
強迫による意思表示は、誰の強迫でも、取り消すことができる。 |
| 2 |
強迫による取消しは、取消しまでに利害関係をもった善意の第三者に対抗することができる。 |
|
3 通謀虚偽表示-相談してウソの契約をしたら

館氏は、宅氏に多額の金員を貸しているが、まだ返えしてもらっていない。そこで、館氏は、宅氏の土地建物を差し押さえ、競売にかけようとしている。
そうなってはたまらないから、宅氏は友人の剛田氏と相談して、ウソの土地建物の売買契約をして、登記*名義を剛田氏に移してしまった。
館氏は、宅氏の土地建物に差し押さえをすることはできなくなったのか。
|
| * |
登記 不動産にどんな権利が成立しており、権利者は誰かを公示する(知らしめる)制度。一定区域ごとに登記所(法務省法務局)が設置され、管内の不動産の物理的な現況と権利関係を記録=登記しておき、だれでも閲覧できるようにしてある。⇒Part12 |
|

のように、相手方と相談(通謀)してウソの契約をした場合を通謀虚偽表示という。このように、不動産の差押えを免れようとする場合にされることが多い。

1 相手方との関係は
宅氏は、売るつもりはない。また、剛田氏も買うつもりはない。双方望んでいない契約に法律上の効力を認める必要はなく、虚偽表示よる契約は無効だ。
したがって、宅氏は剛田氏にいったん引渡し、登記名義も移した土地建物を、いつでも返してくれと主張できる。
また、 宅氏に多額の資金を貸した館氏も、その契約は無効だと主張し、土地建物を宅氏のものとして差し押さえることができる。


宅氏に多額の資金を貸した館氏は、その契約は無効だと主張し、土地建物を宅氏のものとして差し押さえることができる。 |

2 利害関係をもった第三者との関係は
虚偽表示により仮装で譲り受けた剛田氏が宅氏を裏切って、第三者大地氏にその土地建物を転売してしまった。
この場合も、宅氏は、剛田さんとの契約は無効だから、その土地建物を返してほしいと大地氏に主張できるのだろうか。 |

虚偽表示によって生じた虚偽の権利関係に新たな利害関係をもつ第三者が生じた場合は、その第三者の立場を考えなければならない。
| ① |
第三者大地氏が虚偽表示につき、善意の場合 ⇒ウソ契約とは関係のない大地氏を保護する必要がある反面、ウソ契約をした宅氏には、表示通りの責任を認めてよい
⇒宅氏は善意の第三者大地氏に、虚偽表示の無効を主張=対抗できない。虚偽表示無効を対抗できない結果、虚偽の契約も有効と同様になり、土地建物の権利は大地氏が取得できる。 |
| ② |
大地氏が悪意⇒大地氏はウソの契約に乗じて宅氏の土地建物を乗っ取ろうとしている⇒大地氏を保護する必要はない⇒宅氏は悪意の第三者大地氏に、虚偽表示により無効であることを対抗できる⇒その結果、宅氏は大地氏に、その土地建物を返してくれと請求できる。 |
善意の大地氏に過失があったらどうだろうか。
過失とは、不注意、つまり、注意していなかったことだ。逆に無過失とは、注意をはらっていたことだ。善意の場合は、過失ありのときと無過失のときに分けられるので、過失の有無によって違った扱い をすることがある(⇒たとえば、次に見る心裡留保は、相手方が善意でも過失ありのときは無効と扱い、善意でも過失がないときには有効と扱う 3-4)。が、

が、虚偽表示では違った扱いをしない。つまり、虚偽表示者は、善意の第三者に過失がある場合でも、虚偽表示の無効を対抗できない。
そのこころ
虚偽表示は、取引の安全を害する迷惑な行為だから、利害関係をもった第三者は、善意でありさえすれば、できるだけ保護する。
また、同じ理由(利害関係をもった第三者は、善意でありさえすれば、できるだけ保護する)から、第三者は登記がなくてもよいとされる。

まとめておこう。
| 3-3 通謀虚偽表示 (94条) |
| 1 |
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 |
| 2 |
虚偽表示による無効は、虚偽表示により生じた虚偽の権利関係に利害関係をもった善意の第三者に対抗できない。
なお、善意の第三者には過失があってもよい。また、登記がなくてもよい。 |
| |
また、第三者には、利害関係を持った第三者からさらに権利を譲り受けた転得者も含む。
したがって、転得者が善意の場合は、直接の第三者の善意・悪意を問わず、虚偽表示者は無効をもって転得者に対抗できない。(5年出題、27年出題)下図①
また、転得者が悪意であっても、直接の第三者が善意の場合は、転得者は直接の第三者の立場を引き継ぐので、虚偽表示者は無効をもって転得者に対抗できない。(予想問題)下図②
結局、虚偽表示者が転得者に無効を対抗できるのは、直接の第三者及び転得者のいずれも悪意の場合に限られる。下図③
虚偽表示者―――-相手方―第三者―――― 転得者
虚偽表示 善意又は悪意 善意⇒対抗できない ①
善意 悪意⇒対抗できない ②
悪意 悪意⇒対抗できる ③ |
|
4 心裡留保-冗談で売るよと言ってしまうと
宅氏が売るつもりもないのに、冗談で、剛田氏に「あの土地建物(相場6000万円)を500万円で買いませんか。」と言ってしまったら、どうなるだろう。 |

冗談戯れ言のように、真意(本心)がないのを自分でも知っている意思表示を心裡留保という。本心を心の中に留保=隠しているという意味だ。
心裡留保の意思表示は、相手方がどう思ったか又はどう思われるような言い方だったかによって、扱いが違ってくる。

| ① |
相手方・剛田氏が冗談を冗談とわかっていた場合(悪意)には、冗談ですませてよい⇒したがって、宅氏の申込は無効とする。もし、剛田氏が承諾しても、契約は無効だ。 |
| ② |
相手方剛田氏が冗談と思わず本気ととってしまった場合(善意)は、そのことに、
| ②-1 |
剛田氏に過失がある場合、つまり、注意すれば冗談とわかったじゃないかという場合と、 |
| ②-2 |
剛田氏に過失がない場合、つまり、十分注意したが冗談とわからなかった場合がある。 |
| ②-1 |
の、注意すれば冗談とわかった場合(善意だけど不注意=過失あり)とは、普通の人なら冗談とわかる場合で、いわば普通の冗談だ。この場合に、冗談が通じなかった人に「言ったとおり責任を取れ」と詰め寄らせることもないので、この場合も冗談ですませる(⇒無効にする)。 |
| ②-2 |
の、注意しても冗談とわからなかった場合(過失なし)とは、要するに、だれも冗談と思わない場合で、いわば悪い冗談だ。高額のお金がからむ取引の際に、悪い冗談は言うべきではないので、この場合(相手方が善意無過失)は、冗談ですませず、言ったとおりの責任を取ってもらう(⇒有効にする)。したがって、この場合は、剛田氏が、「ではその屋敷を買おう」と言えば、契約は有効に成立してしまう。 |
|

まとめておこう
| 3-4 心裡留保 (93条) |
心裡留保による意思表示は、相手方がその真意を知りえかった(善意無過失)ときは有効である。
相手方がその真意を知り(悪意)、又は知ることができた(善意だけど過失あり)ときは、無効とする。 |


宅氏の冗談につき、剛田氏が、 |
| ① |
悪意⇒冗談で済ます⇒無効 |
②-1
|
善意・過失あり⇒注意すれば冗談と分った⇒普通の冗談⇒冗談で済ます⇒無効
|
| ②-2 |
善意・無過失⇒誰も冗談だとは思わない⇒悪い冗談⇒冗談ではすませない⇒有効 |
|
5 錯誤―勘違いで売るよと言ってしまうと

宅氏が剛田氏に、A建物を売るつもりでB建物を買いませんか、と言ってしまった場合は、どうなるだろうか。 |

Caseのように、意思と表示が食い違い、表示に対応する意思(本 心)がないことを本人も気づいていない意思表示を錯誤による意思表示という。言い間違い、勘ちがいの場合である。
1 錯誤による意思表示の効果
錯誤では、本心がないのを本人も気づいていないので、表意者を保護するため無効とすることを考える。

が、ささいな錯誤でも無効とされては相手方に迷惑なので、 無効となるのは、要素の錯誤(重大な錯誤)がある場合に限る。
さらに、表意者に重大な過失がある場合は、無効の主張はできないとする(95条)。 重大な過失とは過失の程度が大きい場合だ。過失にも、普通の過失(軽過失)と重大な過失があるが、錯誤無効の主張ができなくなるのは、重大な過失の場合だけだ。過失があるから錯誤するので、過失があれば常に無効主張できないとすると、厳しすぎる。そこで、重大な過失、どえらい過失の場合にのみ、無効主張を封じるのだ。


A建物とB建物を取り違えたのは、要素の錯誤と言えるが、建物の取り違えは一般にはどエライ勘違いで、重大な過失ありとされる。よって、宅氏は錯誤無効の主張はできないのが普通だ。 |

2 錯誤無効の主張権者

宅氏が、重大な過失なく甲建物を乙建物と取り違えて、6,000万円の甲建物を2000万円で剛田氏に売ってしまった。宅氏は、錯誤に気がついたが、錯誤無効を主張して、甲建物を取り返しても、借金をしている館氏に差し押さえられてしまうだけなので、あえて錯誤無効の主張をしなかった。

この場合に、館氏は剛田氏に錯誤無効の主張をして、剛田氏に甲建物を宅氏に返還するよう請求できるだろうか。 |
錯誤無効は、原則として表意者しか主張できない。錯誤無効は、表意者保護の制度だからだ。
例外として、表意者*の債権者は、表意者が錯誤を認めているときは、表意者に成り代わって(代位して)、錯誤無効の主張ができる(判例)。
*表意者 意思表示をした者
債権者が、表意者に成り代わって錯誤無効の主張ができるのは、表意者が、錯誤があったことを認めている場合に限られる。表意者が錯誤を認めていないならば、債権者は、錯誤無効の主張はできない。

表意者以外の者が錯誤無効を主張できる要件は、
| ① |
主張しようとする者が表意者の債権者であること |
| ② |
表意者が錯誤を認めている |
こと、だ。


宅氏が自ら要素の錯誤があったことを認めているのならば、宅氏に金を貸している宅氏の債権者館氏は、剛田氏に対して、宅氏に代位して=成り代わって、錯誤無効の主張ができる。
宅氏が自ら要素の錯誤があったことを認めていないのならば、錯誤無効の主張はできない。 |
3 動機の錯誤
宅氏が剛田氏に甲土地を売却するさい、今なら課税されないと誤信して売ることを決め、剛田氏に「甲土地を買いませんか」と言った。後に、誤信に気がついたとき、先の申し込みを、錯誤を理由に無効主張できるだろうか。
|

この場合、土地を売る意思には錯誤がなく、売ることを決めた理由=動機に勘違いがある(今なら課税されないと勘違いして、売ることを決めた)。このように意思決定をした動機に勘違いがある場合を、動機の錯誤という。動機の錯誤は、次のように扱う。

動機の錯誤は(意思の錯誤ではないので)、原則として要素の錯誤とはならない、が、動機が表示されており、意思表示の内容となっていた場合は、要素の錯誤として無効主張できる(判例)。
そのこころ
動機の錯誤も表意者を保護する必要はあるのだが、動機の錯誤を相手方が知らない場合まで無効主張できては、相手方に不測の損害を与える。そこで、動機が表示されており、その錯誤を相手方も知っていた場合のみ、錯誤無効の主張ができることとする(判例)。



宅氏が、上記イラストのXパターンの言い方をしていた場合は、動機の表示がないので、要素の錯誤とならず、錯誤無効の主張はできない。
Yパターンの言い方をしていた場合は、動機の表示があるので、要素の錯誤となり、錯誤無効の主張をできる。 |

錯誤について、まとめておこう
|
3-5 錯誤による意思表示(95条) |
| 1 |
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 |
| 2 |
錯誤無効は、原則として表意者しか主張できない。
例外として、表意者の債権者は、表意者が錯誤を認めているときは、表意者に代位して(成り代わって)、錯誤無効の主張ができる(判例)。 |
| 3 |
動機の錯誤は、原則として要素の錯誤とはならない、が、動機が表示されており、意思表示の内容となっていた場合は、要素の錯誤として無効主張できる(判例)。 |
|

|
| ほぼ毎年出る。出題項目は、虚偽表示、強迫、錯誤、詐欺の順で、心裡留保はほとんど出ない。相手方との関係、第三者との関係をおさえる。錯誤は、動機の錯誤まで問われるが、該当箇所のイラストをインプットしておけば、簡単だ。 |
|
| |
宅氏は、いつも子分を引き連れている、こわもての剛田氏が苦手だった。
宅氏は、自分より弁が立つ友人の大地氏に、自分に代わって契約の交渉と締結をして欲しいと思っている。 大地氏が、宅氏の身代わりで契約をするためにはどうしたらよいのだろう。 |

本人の身代わりで、契約をできる仕組みが代理だ。
1 代理とは、どんなことか -代理の概念
代理では、本人の身代わりで代理人が契約をすると、 本人に契約の効果が生じる。 
制限行為能力者の成年被後見人や乳幼児は、自分では契約できない。
行為能力者でも、今忙しいから、だれか手伝って欲しいということがある。

そんなときのために代理制度がある。
2 どんな事情があれば代理が成立するのか-代理の要件
代理人の行為の効果が、本人に生じるためには、
| 4-1代理の要件 -ここが出発点になる (99条) |
| ① |
身代わりをしようとする者に、代理権があり、 |
| ② |
相手方に、本人の身代わりであることを示して、 |
| ③ |
相手方と契約をする、 |
| ことが必要である。 |
つまり
この①~③の要件(事情)があれば、代理人が意思表示をして契約をすれば、本人が契約の当事者となり、契約から生じる権利義務は本人のものになる。

1代理権
| 代理権は、 |
| 法律が定めている場合(法定代理) |
と、 |
| 本人が与える 場合(任意代理) |
がある |
|
法律が定めている場合とは、「親権者は、・・子の財産に関する法律行為についてその子を代表する」(824条参照)とある場合など。
本人が与える場合は、Caseの宅氏が大地氏に代理権を与えるような場合だ。この場合に、本人が代理権を与える行為を、授権行為という。

授権行為は、不動産のように重大な取引の場合は、委任状(上参照)を交付してなされるのが普通だ。 ただ、書面でするのは、代理権を与えた確かな証拠とするためで、授権行為自体は、口頭でもできる。

授権行為の際、代理権の範囲を定めるのが普通だ。 たとえば、上の委任状では、甲建物の売却の代理権を与えているので、乙建物を売ることはできない。

代理権の範囲をはっきり定めなかった場合(たとえば、アパートのオーナーの宅氏が大地氏に、「アパートの管理、あとは頼む」と言って海外旅行に行ってしまったような場合)は、次の規定による。
|
4-2権限の定めのない代理人の権限 103条 |
| 保存行為又は代理の目的物(又は権利)の性質を変えない範囲での利用もしくは改良を目的とする行為を代理できる。 |
たとえば
大地氏は、保存行為として、屋根の修繕を依頼することや、利用行為として、入居希望者と賃貸借契約をすることはできるが、アパートを飲食店に変える改築をすることはできない(∵目的物の性質が変わってしまう)。もちろん、アパートを売ってしまう(処分行為)ことはできない。

2 顕名ー身代わりであることを示すとは
大地氏は、宅氏の代理人として契約することを、剛田氏に示さなければならない。本人宅氏の名を顕すことになるので、これを顕名という。通常、委任状を相手方に見せることによって行う。

顕名をしないと、どうなるか。
これをしないと、相手方は、本人と契約するのでなく代理人と契約するものと思ってしまう。そこで、

| 4-3 顕名をしない場合 (100条) |
代理人が顕名をしないと、代理人自身が契約当事者になってしまう。
ただし、相手方が、代理人であることを知っているか、又は、知ることができた場合は、顕名があったと同じだから、本人に契約の効果が及ぶ。
|

大地氏が宅氏を代理して、剛田氏と交渉契約するためには、宅氏が大地氏に代理権を与え、大地氏は宅氏の代理人である旨を示して、剛田氏と交渉・契約を締結すればよい。 たとえば 宅氏を代理して大地氏が契約をすれば、宅氏が売主として引渡し義務を負い、また、代金債権を有することになる。 |
|
3自己契約・双方代理の禁止 一人相撲は、原則禁止
「だれか買主を探し、できるだけ高く売ってくれ」と宅氏から土地建物の売却の代理権を与えられた大地氏が、自分でその土地が欲しくなって、自分自身が買主となって契約をした。 |
宅氏から土地建物の売却の代理権を与えられた大地氏が、剛田氏からも土地建物の購入の代理権を与えられ、宅氏と剛田氏を大地氏一人で代理して売買契約を成立させた。
|
の契約は、有効だろうか。 |

代理人は、本人を代理して自分と契約することや契約当事者双方を代理することはできないのが原則だ。
なお、代理人が、自分と契約することを、自己契約にという。 契約当事者双方を代理することを双方代理という。
の自己契約の場合、契約と言っても値段など全部を大地氏が一人で決めてしまえるので、大地氏は、できるだけ安い値段で契約するだろう。これでは、できるだけ高く売ってくれと頼んだ本人宅氏の利益を害する。 また、売主と買主の双方から代理する の場合も、どちらかの本人の利益を害する。
そこで、
|
4-4 自己契約と双方代理は禁止(108条) |
| 1 |
代理人は、本人を代理して自分と契約する(自己契約)ことや、契約 当事者双方の代理人となって契約(双方代理)をしてはならない(しても無効)。 |
| 2 |
ただし、この禁止は、本人の利益を守るためだから、本人が事前に許諾、又は事後に追認(承認)すれば許される(有効な代理となる)。 |

大地氏が宅氏を代理し、大地氏自身に売ったとしても、その契約は無効である。しかし、宅氏が、君が買ってもいいよと追認すれば、はじめから有効だったことになる。 |
宅氏と剛田氏を代理する契約は無効だが、宅氏と剛田氏が、これでいいよと追認すれば、はじめから有効だったことになる。 |
4代理権の自動消滅
宅氏が頼りにして代理人にした大地氏 の様子がにわかにおかしくなり、奥さんの 請求により後見開始の審判を受けてしまった。 大地氏は、なお代理行為をできるのだろうか。 |

せっかく与えられた代理権も、自動的に消滅することがある
4-5代理権の自動消滅事由 111条
| 本人 |
死亡 |
破産手続開始の決定 |
|
| 代理人 |
死亡 |
破産手続開始の決定 |
後見開始の審判 |
本人が、後見開始の審判を受けたことは代理権消滅事由ではない。


大地氏は後見開始の審判を受けたことで、代理権は消滅するので、もう有効な代理行為はできなくなった。 |

5 代理人の行為能力
後見開始の審判を受けて、代理権が自動消滅してしまった大地氏の代わりに、気が強いと評判の大地氏の娘・さなえさんが、宅氏の代理人になるというのだが、さなえさんは、まだ19歳(未婚)だ。未成年者も代理人になれるのだろうか。 |


未成年者も代理人になれるが、後で泣き言は言えない。つまり、 |

|
4-6 代理人の行為能力 (102条) |
| 代理人は行為能力者である必要はない。 |
| ⇒制限行為能力者を代理人にした場合、後で、制限行為能力を理由に代理行為を取り消すことはできない。 |
そのこころ
制限行為能力者の下手な代理行為により不利益が及ぶのは本人だから、本人が制限行為能力者を代理人にすることを禁ずる理由はない。 |
6 代理人がだまされたら
宅氏の代理人・大地さなえさん、相手方剛田氏にだまされて宅氏の土地建物を相場より安く売ってしまった。さなえさんは、だまされて意思表示をしたので、その代理行為は取り消せるはずだが(3-1)、この場合、本人の宅氏が取り消せるのだろうか、代理人のさなえさんが取り消せるのだろうか。
剛田氏がさなえさんをダマしているのを宅氏が知っていた場合も、取り消せるのか。 |


本人の宅氏が取り消せる。 代理行為の効果は、本人に及ぶのだから、取消権も本人のものになっているからだ。実際上も、その契約を切実に取り消したいのは、契約の効果が及んでくる本人だ。
なお、代理人も取り消せるかどうかは、ケースバイケース(取り消すことの代理権も与えられていれば取り消せる)。
その場合は、取り消せない。 任意代理では、代理人と本人はいわば一心同体なので、代理行為の善意・悪意は両者の事情を総合して判断する⇒いずれかが悪意なら、全体として悪意になる(101条参照)。 とすれば、相手方剛田氏の代理人・さなえさんに対する詐欺を本人・宅氏が知っていながら、さなえさんに契約させた場合は、全体としてだまされたことになっていない。
|
なお、代理人のさなえさんも取り消せるかどうかは、宅氏から取り消すことの代理権も与えられていたかどうかにかかってくる。つまり、ケースバイケースだ。
ここは、本人が取り消せることをしっかり押さえる。
|
7 無権代理 代理権がないのに代理行為をしたら
後見開始の審判を受けた大地氏が、そのまま宅氏の代理人だと称して、相場6000万円の物件を1億円で、剛田氏に売ってきた。この代理行為は有効だろうか。 |

大地氏は、代理権が消滅しているのに代理行為をしたことになる。このように、代理権が全くない代理行為、又は、与えられた代理権の範囲を超えた代理行為を無権代理という。

無権代理行為は、有効な代理の要件がないのだから一応無効だ。ただ、無権代理行為も、Caseのように、本人に有利な場合もある。このような場合は、本人が追認できれば便利だ。そこで
|
4-8 無権代理は本人が追認できる(113・116条) |
| 無権代理行為は、そのままでは無効だが、本人が、相手方に追認*すれば、契約のときにさかのぼって効力を生ずる(本人に効果が及ぶ)。 |
| *追認は相手方に対して行うべきなので、無権代理人にした追認は、そのことを相手方が知るまでは、追認したことを相手方に対抗できない。 |
大地氏の代理行為は、無権代理行為なので一応無効だが、本人の宅氏が追認すれば、はじめから有効な代理行為だったことになる。 |

本人が追認できるとなると、相手方は追認されるのか追認されないのか気が気でなくなるので、相手方の立場を安定させる制度が必要だ。
|
4-9 相手方保護の制度―催告権と善意相手方の取消権(114・5条) |
| 1 |
相手方は、相当期間を定め、追認するのかどうか、本人に催告できる⇒確答(返事)しなければ追認拒絶とみなす。※
| そのこころ |
催告に返事がないということは、追認拒絶の意思が推測される。 |
|
| 2 |
善意の相手方は、本人の追認前ならば、自分の方から取り消し(本人又は無権代理人に対して行う)て無効確定させ、追認できなくすることもできる。
| 善意者しか取り消せない理由 |
悪意の相手方は、不安定な状態になるのがわかりきって契約したはずだから、今さらそれは困ると言わせる必要はない。 |
|
| ⇒追認があると、取り消せなくなる。取消しがあると、追認できなくなる⇒善意相手方の取消権と本人の追認権は、早い者勝ち |

本人が追認しない場合は、無権代理人に責任を取らせるほかない。
|
4-10 無権代理人の責任(117条) |
本人の追認を得られず、かつ、相手方が無権代理につき善意・無過失であったときは、相手方は無権代理人に、契約を代わって履行するか、又は、損害を賠償するかを、選択して請求できる。
ただし、無権代理人が制限行為能力者のときは、この責任追及はできない。 |
つまり
善意・無過失の相手方は、追認がなければ、お前(無権代理人)が代わりに契約を履行するか、損害を賠償しろと請求できる。相手方に善意・無過失が要求されるのは、代理制度を正当に信頼した者だけを保護すればよいからだ。

8 表見代理
さらに、相手方が善意・無過失なうえに、その誤信に本人が原因を作っていた場合は、本人に責任を取らせることもできる(表見代理)。
| 4-11 表見代理(109・111・112条) |
無権代理でも、
| ① |
本人が、誤解の原因をつくり (ⅰ授権表示・ⅱ小さな授権・ⅲ以前に授権) |
| ② |
相手方が、善意・無過失 (無権代理人に代理権があると信ずる正当な理由がある) |

本人に契約の履行を請求できる。 |
誤解の原因となる行為は次のとおりだ。
| ⅰ授権表示 |
たとえば、授権していないのに委任状を与えていた。 |
| ⅱ小さな授権 |
たとえば、土地の賃貸借契約の代理権を与えていた。 |
| ⅲ以前に授権 |
たとえば、以前に代理権を与えたが、代理人が後見開始の審判(又は破産手続開始の決定)を受け、代理権が消滅している。 |
| Keyword |
善意・無過失の相手方は、 本人が誤解の原因をつくった場合には 本人に責任追及できる=表見代理。 |
なお、表見代理が成立するときも、無権代理であることに変わりないので、本人の責任を追及せず、無権代理人の責任を追及してもよい。

無権代理の関係をまとめておこう。
| 1 |
本人 ⇒相手方又は無権代理人へ 追認*1/追認拒絶権 |
| 2 |
| 相手方 |
⇒本人へ追認催告権⇒返事なし⇒追認拒絶 |
| |
⇒本人又は無権代理人へ取消権(善意者のみ) ~追認とは早い者勝ち |
| |
⇒無権代理人の責任追及(善意・無過失者のみ*2) |
|
| |
*1無権代理人にした追認は、相手方が知るまで対抗できない |
| |
*2本人が誤解の原因をつくれば、本人にも責任追及できる(表見代理) |
|
9 無権代理と相続
無権代理と相続の関係が問題とされることがある。

不動孝太君が父不動純一氏の宅地を、純一氏に無断で純一氏を代理して(無権代理行為)、剛田氏に売却する契約をした場合に、
①父・純一氏が急死して、
ⅰ子・孝太君が純一氏を単独で相続したとき( )、 |
ⅱ孝太君と兄の進一君が共同相続したとき( ) |
逆に
②孝太君が急死して、純一氏が孝太君を相続したとき( ) |
は、どうなるのだろうか。 |

相続というのは、死亡者の権利義務をまとめて引き継ぐこと(Part12)だから、
| ①ⅰ |
無権代理人が本人を単独相続した場合は、無権代理人は本人の追認権も追認拒絶権も引き継ぐ。 しかし、自ら無権代理行為をしながら追認拒絶をするのは、信義則*上、許されない。したがって、追認するほかないので、追認がなくても、当然に追認したものとして、有効なものとしてしまう(判例)。 |
| |
*信義則 社会生活上、一定の状況下では、相手方の正当な期待に添うよう行動しなければならないという原則。 |

無権代理人の単独相続の場合は、無権代理人で相続人の孝太君は、剛田氏に相続した宅地を引き渡さなければならなくなる。 |

共同相続の場合は、追認権も共同相続され、共同相続された追認権は共同行使しなければその効果が生じない。孝太君は無権代理人だから追認するほかないのだが、兄の進一君は追認しないこともできる。 そして、兄が追認しないときは、弟の相続分についても契約は有効にならない。 したがって、兄が追認しない場合は、剛田氏は、孝太君の無権代理人の責任(4-10※)を追及して、損害賠償の請求をするほかないだろう。ただし、この請求ができるのは、剛田氏が無権代理行為につき善意無過失である場合に限られる。 |
本人・純一氏が無権代理人を相続する②の場合は、本人は無権代理行為をしたわけではないので、追認を拒絶することもできる。が、相続というのは被相続人の権利義務をまとめて引き継ぐことだから、無権代理人が善意・無過失の相手方に負う債務(損害賠償債務 4-10※ )を引き継ぐことまでは免れられないと、された。 |

まとめておこう
|
4-13無権代理と相続 (判例) |
| 1 |
息子が親の土地を無権代理により処分した後、親が死んで息子が単独相続した場合⇒息子が行った無権代理行為の効果は、直接に息子と相手方との間に生じる(判例)。 |
| 2 |
息子が単独相続ではなく、共同相続した場合(無権代理人が本人を共同相続) ⇒共同相続人の全員が共同して追認したときを除き、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではない(判例)。 |
| 3 |
逆に、息子が先に死亡して、親が息子を相続した場合
| ⇒ |
1.親は、どら息子が行った無権代理行為を追認拒絶できるが、 |
| |
2.相手方が善意無過失のときに負う無権代理人の責任*の承継を免れることはできない(判例)。 |
| * |
無権代理人の責任(4-10) 本人の追認を得られず、かつ、相手方が無権代理につき善意・無過失であったときは、相手方は無権代理人に、契約を代わって履行するか、又は、損害を賠償するかを、選択して請求できる。 |
|
10 復代理 復代理人は代理人のコピー人間
宅氏から剛田氏との契約の代理を頼まれた大地氏は、急病になってしまった。宅氏を代理する仕事を、友人の館氏に代わってやってもらうことはできないだろうか。
|
代理人が自分の仕事(本人を代理すること)を代わってやってくれるものとして頼めるのが、復代理人だ。復代理人は、代理人と同一の権利義務を有する代理人のコピー人間だ。

| 4-14 復代理人の権限等-復代理人は本人の代理人(107条) |
| 復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利・義務を有する。 |
復代理人は、代理人のコピー人間だから、
|
代理人の代理人ではなく、本人の代理人であり、本人の代理人として代理行為をすれば、その効果は直接本人に及ぶ。 |
| 復代理人を選任しても、代理人の代理権はなくならない。 |
| 代理人の代理権が消滅すれば、復代理人の代理権も消滅する。 |
代理人は、本人に無断で復代理人を頼めるのか。

復代理人は、代理人のコピー人間として行動するのだから、そういうことをされる 本人の立場も考えなければならない。
|
4-15 復代理人の選任権とそれに伴う責任(104~6条) |
| 1 |
本人に見込まれてなった任意代理人は、
| ①本人の許諾を得たとき、又は |
| ②やむを得ない事情があるときでなければ |
復代理人を選任できない。
そのかわり、本人に対し、復代理人の選任監督上の責任しか負わない。 |
| |
つまり
復代理人が本人に損害を与えた場合、代理人に選任又は監督上の過失がなければ、代理人は責任を負わない。 |
| 2 |
好きでなったわけではない法定代理人は、 いつでも復代理人を選任できる。
その代り、復代理人の行為につき全責任を負うのを原則とする。
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つまり
復代理人が本人に損害を与えた場合、代理人に選任又は監督上の過失がなくとも、代理人は責任を負う。 |

大地氏は任意代理人だから、やむを得ない事情があるか、本人の承諾があれば復代理人を選任できる。 急病になったことはやむを得ない事情であるので、館氏を復代理人として選任できる |
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代理も、1問出題されることが多い。出題項目は、無権代理が最も多い。無権代理の場合の関係(4-12)は、きちんとまとめておこう。その他、代理人の行為能力、双方代理がよく聞かれる。まれに、難しいことを聞かれるが、正解肢は、やさしい。 |
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