解釈だけでは科学ではない

説明できるだけでは科学ではない

そしてアイデアは検証できなければいけない

そのアイデアは

検証できるような形式になっているのか?

 

ちょっと考えてみたい仮説3

ダイノバード仮説・ダイノバード理論

あるいはBCF理論(BCF仮説/最初に鳥ありき)・鳥から恐竜が進化した説

提案者:ジョージ・オルシェフスキー  

 

1:ダイノバード仮説をもっと詳しく

 オルシェフスキーという人の肩書きは良く分かりません。有名な研究者ジョン・R・ホーナーと、ジャーナリストのドン・レッセムの著作、[大恐竜 T・レックス新発見 二見書房 1994 pp176]では彼を、サンディエゴの天才プログラマー、元マンガ本収集家、恐竜系統図の管理者であるジョージ・オルシェフスキーは・・と紹介しています。

 肩書きうんぬんはともかくとして、いずれにしても彼の仮説は査読のある学術雑誌、例えばNature や Journal of Paleontology ,Cladistics, などに掲載されたことがありません。ようするに科学論文がないわけで彼の仮説は科学的には存在しないのです。

 しかし彼のダイノバード仮説は、むしろマニアの間ではポールやフェデューシア教授の仮説よりも知られているくらいです。また、彼の仮説は Bird come First (鳥が先=鳥から恐竜が進化した)というつづりからBcF理論と呼ばれることもあります(検索かけるとまったく違う分野の専門用語もひっかかってくる様子^^;)。

 オルシェフスキーは樹の上で生活していた爬虫類が鳥類の祖先であると考え、恐竜もそうした爬虫類、すなわちダイノバードの子孫であると主張しました。これがダイノバード仮説です。樹の上で生活していた爬虫類から鳥が進化するという点で、彼の主張はフェドューシア教授のものと似ています。そうした動物の候補としてメガランコサウルスやロンギスクアマをあげた点も教授と同じです。

 しかし、教授が鳥と恐竜はほとんど血縁関係がないと主張するのに対して、オルシェフスキーの意見は違います。彼は恐竜もそうした樹の上にすむ爬虫類の子孫であること、一部の恐竜、例えばティラノサウルスやディノニクスは飛行するダイノバードから進化した飛べない子孫であると見なしました。この点はむしろグレッグ・ポールの主張に近いと言えるでしょう。

 いってみればオルシェフスキーの主張はポールとフェドューシア教授の折衷案とでもいうべきものです。

 彼の描く系統樹はだいたい次ぎのようなものです。

___________他の爬虫類

 _________メガランコサウルス

  ________アパトサウルス

     |____オルニスキア

  ________コエロフィシス 

    ______アロサウルス

     _____始祖鳥

       |__ディノニクス

      ===ティラノサウルス/コンプソグナトス/アヴィミムスなど

      |_____モノニクス

        __現代の鳥

 注:オルシェフスキーの出した以上の系統樹は竜脚形類がオルニスキアと姉妹群を作っている。これはバッカーなどの意見に近い。特異なのはティラノサウルスやアヴィミムスが始祖鳥よりも鳥に近い点。彼の系統樹の一部はポールのものに似ているが、ティラノサウルスとコンプソグナトスの位置は非常に独特。全体としては既存の系統樹とあまりに形が違う。本人がどのようなデーターをどのように処理して作ったのか明言していない(つまり十分に科学と言えない)のであるが、ざっと見た限りではおそらく彼の系統樹はまるで最節約な系統樹ではない。これを支持する積極的なデータもおそらくない。また他の研究によってもサポートされていない。

 ダイノバードとはなにか? これはまだ見つかっていませんが、オルシェフスキーが仮説的に考えた樹上性の動物たちの総称であって、以上の系統樹でピンクで示された部分にあたります。ちなみにこのような表記の仕方は現代の分岐学の立場からすると正しいものではありませんが、あくまでオルシェフスキーの主張にそって示しています。

 さて、彼に言わせると、樹上性の爬虫類から現代の鳥が進化するにあたって順次枝分かれした系統があり、それらが何度も地上生活に適応した、その動物たちこそ恐竜なのだ、ということです。ようするに彼のアイデアの要点は

 1:樹上性の爬虫類から鳥が進化した(これはフェドューシア教授と同じ)

 2:樹上性の爬虫類が鳥へと進化する過程でさまざな枝分かれが生じた

 3:それらのうち地上に適応したものが各種恐竜の系統である

 4:一部の肉食恐竜は空を飛んでいた動物の子孫である(これはポールと同じ)

というものです。

 

 何が問題なのか?:

 さて、彼のアイデアはいろいろな問題を抱えています。まず、

 1:オルシェフスキーはこの系統樹を作り上げた元データーやアルゴリズムを示していない

 このコンテンツで取り上げたほかの2名、ポールやフェドューシア教授の場合、彼らは自分達の系統樹を作成したデーターやアルゴリズムをそれなりに詳しく示しているのですが(ただし十分とはいえない)、オルシェフスキーのデーターやアルゴリズムはまったく不明です。あるいは彼の示した根拠や理由では系統樹が作成できません(例えば彼が主張するドローの法則だけでは系統樹は作成できない)。

 彼は自分がどのように系統を導いたのかについて具体的に語っていませんし、語っているように見える文章も非常に断片的で不明瞭です(詳しく知りたい人は「恐竜学最前線」学研 における彼の連載記事などを参考にしてください。ただしこの雑誌は絶版なので図書館か古本屋で見つけるしかありません。簡単には「恐竜世界のひみつ」学研などが参考になります)。

 ですから彼は未知のアルゴリズムを使って答えを導いたとしか言い様がないでしょう。しかしこれは科学の世界ではかなりまずいことです。

 科学の論文は、

”これこれのデーターをこのようなアルゴリズムで解析し、そしてこのような結果を得た、そしてこの結果を以下のように考察する”

という形式になっています。実際、そうでなきゃあ困りますよね。あなたには言えない証拠をあなたには言えない方法で処理したらこんな結果が出てきたのです。でっ、これを信じていただけませんかね? なんていわれても困る。そんなもの科学じゃありません。

 ですからダイノバード仮説は科学とはいえません。

 つまりオルシュエフスキーのアイデアは

 :論文として提出されていないので、形式として科学ではない

 :形式うんぬんはともかく、彼が系統樹をどのように導き出したのか不明である

 :形式だけでなく、そもそも彼の主張内容は科学としての条件を欠いている

ということです。弱ったことに問題点はそれだけではありません。

 

 2:オルシェフスキーの系統樹は彼自身の考えを支持しない

 彼の作った系統樹はもうひとつやっかいな問題を持っています。オルシェフスキーの示した系統樹は彼の考えをまったく支持しません。少なくとも最節約に考えた時、彼のいうダイノバードという樹上性爬虫類は彼の系統樹からは推論できません(詳しくはこちら)。

 つまり最節約に推論すると彼の系統樹は彼自身の考えを支持しないのです。にもかかわらず彼は鳥や恐竜の祖先が樹上性であるという結論を下しています。このことから考えると、彼は最節約以外のなんらかの未知のアルゴリズムを用いて祖先の形質を推定したということが言えます。

 普通、祖先が持っていた特徴/あるいは形質を推定する方法は最節約法です(最近では最尤的に推論する方法も開発されました)。もちろん最節約以外のアルゴリズムを使うことがいけないのではありません。別の方法があってそれが有効であればそれを使ってもいいのです(実際、使われています)。

 ここでの問題は先ほどと同じです。ようするにここでもまた彼は彼が使った未知のアルゴリズムの性質をまったく語っていないところです。つまり彼のダイノバードというアイデアもなんだか分からん形式で述べられているわけで、これまた科学として不十分です。

 結論:

 1:ダイノバード仮説は論文ではないため形式として科学ではない

 2:ダイノバード仮説はデーターが明らかでない

 3:ダイノバード仮説はどんなアルゴリズムを使って答えを導きだしたのか語っていない

 4:以上の2と3からダイノバード仮説は科学論文の条件を満たしているとはいえない

 5:つまりダイノバード仮説は形式としても科学ではないし、科学論文とは言いがたい。

 6:またオルシェフスキーの系統樹はダイノバードの存在をそもそも支持しない。あるいは未知のアルゴリズムでないとダイノバードを示すことはできない。いずれにしてもそのアルゴリズムについてはまったく語られていない。ようするに根拠不明である。

 結論:ダイノバード仮説は科学ではありません。科学ではない何か、多分、疑似科学(創造科学とか超能力研究とか)でしょう。あるいは「衝突する宇宙」に近いかもしれません。

 さて、こんな結論がでたところで、もう十分ですって人はこちら 考える、の本文に戻る→ をクリックして戻っていただくとして・・・・。

 これだけでは記述の形式について述べただけで、形式的でいかにもつまらない。そう思った人は続けて読んで下さい。もう少しこのアイデアをいじくりまわしてみましょう。

  

 ダイノバードというアイデアは確かめられないのか?

 :科学的な予言にしては内容があいまい

 少なくともオルシェフスキー自身は自分の使ったアルゴリズムを示していないのですから、彼自身では自分のアイデアを検証しようがないといっているのと同じです。これはひどくまずいことなのですが(注1:このコンテンツの最下段を見て下さい)、それでもなおスタンダードな立場から彼のアイデアを評価することはできます。

 どうするのか?

 あ〜〜した天気にな〜あれ、と言いながらクツを飛ばして天気を占う遊びがありますね? あれは大げさにいうと未知のアルゴリズムを用いた天気予報なのですが、この天気占いが出した結果が正しいか/正しくないかは翌日になれば確かめることができます。あるいは翌日にならなくても天気予報師の視点からこの占いが妥当かどうか考えることもできるでしょう。考えた上で、翌日の天気を見て、さらに確かめることもできます。

 同じようにオルシェフスキーが出した結論自体をスタンダードな科学の視点から判断することは可能でしょう。

 ではどのように判断されるのでしょうか?。

 まず系統樹に関してはいわずもがなです。あのような特異な形の系統樹はいまだに作られたことがありません。ポールやバッカーの系統樹に部分的に似ていますが、全体として見ると系統樹の形に関しては否定的な答えしかでてきません。

 恐竜の祖先が樹上性であることもいわずもがなです。最節約に考えるとそうした結論はでてきません。

 では他に何かないか?。オルシェフスキーは

 ”ティラノサウルスの祖先は2本指のダイノバードであり、そのような動物が見つかるだろう”

 という面白い予測をたてています(参考として「恐竜学最前線 10」学研 1995 の79ページ以降を読んで下さい)。

 これは一見するとしばしば科学で使われる論法にのっとった主張のようです。興味深いですね。ではもしオルシェフスキーの予想、2本指のダイノバードが見つかったらどうなるのでしょう? 例えばもし2本指で風きり羽を持つ獣脚類が見つかったらそれは彼のいうダイノバードでしょうか? それが見つかれば、あるいはそういうものが見つかるだろうと言えば、それは科学でしょうか? 

 いや、そうではないでしょう。ダイノバード仮説ではどうだか知りませんが、スタンダードな科学からするとオルシェフスキーの予想や予想の仕方ではおそらく不十分です。

 もしある化石が発見されて、それが基本的にコエルロサウリアの原始的な特徴を持っており、なおかつ

 Dセクションな前上顎骨歯

 穴の開いたジャーガル

 Bの字型の側頭窓

 リッジのある腸骨

といった特徴を持っていた場合、それを最節約に検討すれば、その化石がティラノサウルスの祖先(正確にはティラノサウルス科の外群)であるという結論が出てくる可能性があります(注2)。

________アロサウルス

  |_____ティラノサウルス科

  |  |__以上で想定した2本指の獣脚類

  |_____始祖鳥

    |___鳥

↑もし以上でいったような特徴の組み合わせを持った化石がでて、それを最節約に解析すると以上のような位置に出てくるかもしれない。ただしここでは議論を意図的に簡単にしている。もしオルシェフスキーの系統樹を正確に反映させ彼の主張を成り立たせるとしたら、ことはそう単純ではない(注2を参考)。

 ではもしこういうことが起こったらどう考えるべきなのでしょう?。予想が当たったのですから、オルシェフスキーのダイノバードというアイデアや恐竜の祖先が樹上生活者であったという他の予想もまた正しいのでしょうか? いえ、そんなことにはならないでしょう。

 例えばさっきのクツを使ったお天気占いを思い出してください。このお天気占いがあたったらあなたはどう考えますか? このクツには明日の天気を当てる力があると考えますか? それとも偶然だろう?と考えますか? 多分、後者ではないでしょうか?。

 せっかく当たったのに一見すると否定的に考えてしまうのはなぜでしょうか?。天気予報師や私達の頭が堅いからでしょうか? いやいや、そう思われる原因はむしろお天気占い自身にあります。お天気占いではクツがどうして明日の天気を占えるのか明らかにしていません。ようするにアルゴリズムが明瞭でないのです。これでは答えが当たっても、たまたま当たったのか? それとも確かな理由があって当たったのか確信が持てません。

 つまりアルゴリズムが不明瞭なので、せっかくあたったのにお天気占いは信用の度合いがあまり上がらないのですね。同じく、オルシェフスキーはどのようなアルゴリズムで系統樹を作り、どのように2本指のダイノバードを予想したのか自分では語っていないので、ひとつの予想があたってもあまり信用の度合いは上がらないでしょう。クツが明日の天気を占う力を持っていることを示すには、確率で予想される以上に天気を当てなくてはいけないのと同じです。

 ですから2本指の風きり羽を持つ肉食恐竜が見つかっても、それでオルシェフスキーのアイデアが確かめられたとはとうてい言えないし、ましてや彼の主張する他のアイデアが正しいとも言えない。

 そしてそのようにみなされてしまう原因は科学が非寛容であるというよりもダイノバード仮説がいい加減でそもそもアルゴリズムを公表していないからです。

 いずれにせよ残念ながら2本指で風きり羽を持つ肉食恐竜なんて見つかっていません。

 あと、オルシェフスキーの予想はあまりにもアバウトではないでしょうか? 2本指のダイノバード、そうした仮想的な動物が持つであろう特徴を彼はもっと列挙できるはずです。例えば、Dセクションの歯を4対もった大きなプレマキシラを持ち、aofは小さいがそれでもなお前方部分にaaofがあり、ジャーガルの上向突起は切れているが上側頭窓は全体としてBの字型である、などなどと言うことができるはずなのです。ところが彼はそうしていません。彼の予想はとてもアバウトなものです。

 アバウトな予想は当たってもあまり評価されません。明日の天気を曇りと単純に予想するのと、午前中は晴れ、正午から雲が出始め、夕方には雷雨、夜半まで雨、と細かく予報するのとでは当たった場合の説得力が違います。ノストラダムスの予言が懐疑的な目で見られるのもこのためです。あの予言はなんとでも解釈できる言葉なので、仮に当たったとしても説得力があまりない。

 2本指のダイノバードは予想がアバウトなので、出てきてもダイノバード仮説は特に支持されるわけではないでしょう。またアルゴリズムを示していないので、もし出てきてもあまり信用の度合いは上がらないと考えられます。興味深いことに最近発見された樹上性の肉食恐竜ミクロラプトルはダイノバード仮説が正しいことの証拠だ、という人もいるようです。これは大胆な飛躍だと思いますが、こんな考えが出てきてしまうのも、ダイノバード仮説のアバウトさ、あるいはアルゴリズムを公表しなかったことに原因があるのかもしれません。ダイノバードというアイデアが確かめられるには2本指のダイノバードでは不十分ですし、ましてやミクロラプトルの発見では効果がほとんどありません(より詳しくは以下の注3を参考のこと)。

 

 結論2:

 7:ダイノバード仮説はアルゴリズムが不明なのでダイノバード仮説が予想したと主張する答えが仮に見つかっても、それが仮説全体の正しさを示したことにはならない(クツによるお天気占いが当たったとしても、クツ占いの正しさはただちに受け入れられない)

 8:以上はもしもの話で悲しいかなそんな発見はない(付け加えると予想がアバウトすぎないだろうか?)

 9:ミクロラプトルの発見はダイノバード仮説を特にサポートするものではない(注3)

 10:結局、ダイノバード仮説は発見によってサポートされていない。

 11:以上の理由からダイノバード仮説は科学ではないし支持する根拠もなく、信じる根拠はない。

 苦言:予言をする時はもっと細かく具体的な予言をしましょう。アバウトな予言では当たってもぬるい支持しかえられません。アルゴリズムは明らかにしましょう。明らかにしないと、予想が当たったのではないか?という事例がもし出てきても、あまり評価されません。それに科学うんぬん以前にそんなことでは本来の評価よりも低く見られる場合があります。

 ただしアルゴリズムを明らかにしたらむしろ評価が大暴落という場合には、アルゴリズムを秘密にすることをお勧めします^^)大暴落するよりは少し低くみられるだけですみますからね。ただそれはもう科学ではありませんし、社会的にも感心しません。

 考える、の本文に戻る→  

 

 付記:

 注1:オルシェフスキーが持論のアルゴリズムを示していない以上、彼のアイデアは彼自身では検証できないわけですが、逆にいうとこれはすくなくとも彼自身では反証のしようもないということです。

 例えば3本指の原始的なティラノサウルス類、エオティランヌスが見つかった時、これでダイノバード仮説は反証された、と北村に言った知人がいました(オルシェフスキーの予想は以上のようにティラノサウルスの祖先である2本指のダイノバードという存在が見つかるというものだった)。

 しかし、もともと彼のアイデアは確かめることができないのですから、エオティランヌスが見つかっても、反証もなにもない。逆に言うとこれはきわめてまずい状況です。反証できない。一見するとこれはダイノバード仮説が堅い仮説であるかのようですが、むしろ科学でもなんでもないということです。

 

 注2:以上の本文では2本指のダイノバードがティラノサウルス科の外群になることだけを考えているので非常に話が単純になっているけれど、ダイノバード理論に忠実にしたがって、もっと厳密に考えると話はこうは簡単にはいきません。

 オルシェフスキーの系統樹を見る限り、ティラノサウルスは始祖鳥よりも現生鳥類に近いことになっているので、彼のいう2本指のダイノバードは本文で述べた特徴だけでなく、鳥類的な首の関節、短い頸肋骨、裾広がりでない肩甲骨、外を向いた肩関節、派生的なコラコイド、後ろを向いた恥骨、後方だけに発達したピュービックブーツ、細長い平行四辺形型のイスキウム、退化した大腿骨の大4転子、短い関節突起を持った尻尾の骨、その他もろもろの特徴を持っていないといけなくなります。実際にはもっと難しい条件を考えなくてはいけないでしょう。

 正直言って、ダイノバード仮説に賛成をした人は恐竜の骨格の形質の把握がぬるくないでしょうか?。

 

 注3:人によると前後の足に風きり羽を持つ奇妙な肉食恐竜ミクロラプトルはダイノバード仮説の証拠だ!!と言います。ですが、これは言い過ぎですね。なぜなら、ダイノバード仮説の売りは

 ”樹上性の爬虫類が鳥へと進化する過程で順次地上に適応した系統を生み出した”

というものだからです。ダイノバード仮説が確からしいということを示すには、樹上性の肉食恐竜を見つければすむ、というものではありません。ミクロラプトルの発見では新しいムササビ説が有力になるだけです。フェドューシア教授のアイデアやダイノバード仮説が有利になるわけではありません(皆さん、ダイノバード仮説のセールスポイント、ちゃんと把握してますか?)。

 ダイノバード仮説が他のアイデアよりも有利になるためには恐竜の各系統でそれぞれ樹上性の種類を見つけなければいけない。それには少なくともこうならなければいけません。

___________他の爬虫類

 |_________メガランコサウルス

  |_________アパトサウルス

  |  | |____オルニスキア

  |  |______フィトディノサウリアの特徴を持った樹上性の爬虫類

  |_________獣脚類の特徴を持つが明らかに樹上性の爬虫類

  |_________コエロフィシス 

    |_______アロサウルス

     |  |___カルノサウリアの特徴を持つが明らかに樹上性の爬虫類

     |______始祖鳥

      | |___ディノニクス

      |   |_ミクロラプトル

      |=====ティラノサウルス/アヴィミムスなど

      |  |__ティラノサウルス科の特徴を持っているが明らかに飛行できる爬虫類

      |_____モノニクス

        |___現代の鳥

 以上の簡易な系統図であってもミクロラプトルに加えて以上のような動物の化石がでて、それらがこのような系統関係にならないとダイノバード仮説は他のライバル仮説よりも有力にはなりません。ダイノバード仮説のメリットはこのような条件がそろわないと発揮されない。

 

 以上のような発見があって初めてダイノバード仮説はほかの仮説よりも有利になりえます。これは不当に厳しいようですが、実はそうではない。ダイノバードはアイデアとしては法外で大胆なアイデアです。法外なアイデアであるダイノバード仮説には法外な証拠が必要になるのです。実際、もし以上のような証拠が最初からあればダイノバード仮説は法外にはならなかったし、そもそもスタンダードな研究者からひとつの仮説としてとっくの昔に提案されていたでしょう。ダイノバード仮説が法外なのは、そもそも証拠もないのに無理のある仮説を提案したからです。証拠もないのに提案したから法外な証拠が必要になるのです。

 ミクロラプトルの発見は確かにダイノバード理論やフェドューシア教授の仮説を以前よりはわずかに有利にしますが、ミクロラプトルの発見者たちが主張する新しいムササビ仮説の方がずっと有利になります。また、既存のスタンダードな仮説はどうなるかというと、以前よりも若干不利になるか、あるいはまるで影響をうけません(詳しくはこちらを参考のこと:ミクロラプトルは鳥の進化仮説にどのような影響を与えるか?)。

 逆にいうとダイノバードやフェドューシア教授のアイデアが多少有利になっても、彼らの主張が、新しいムササビ説やスタンダードな仮説よりはるかに不利であるという状況は以前とまったく変わりないのです。

 

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