実際に鳥の祖先は樹上性と推論できるのか?。
オルシェフスキーやフェデューシア教授、ポールは、鳥の飛行は樹上からの滑空という段階を経たと仮定したり、この動物のこの特徴は鳥や恐竜の祖先が樹上性であるという証拠として解釈できる、と主張します。
例えば、恐竜の後ろ足の第1指の特徴は、彼らが樹上で生活していた証拠に違いない、という主張があります。この主張は以下のように、
証拠:恐竜の後ろ足の第1指の特徴
↓
アルゴリズムによるなんらかの処理
↓
結論/解釈:彼らは樹上生活をしていたに違いない
というように出来ているのですが、問題になるのは最初の証拠をどう処理するとこのような結論がえられるのか?ということです。ようするに解釈/結論というものは証拠からなんらかのアルゴリズムで導かれたものなのです。
アルゴリズムにはさまざまなものがあります。例えば未来の事柄や過去の事件を探るのには、最節約という方法論の他にも、星占いとかシャーマンに頼るという方法もあります。そしてその答えや確からしさは様々です。
ですから解釈できるというだけでは意味がありません(サイコロであっても判断は可能)。解釈を導いたアルゴリズムがいかなる性質で、そもそも妥当なものなのかどうか、むしろそれが問題となります。
ではまだ見ぬ過去の生物の特徴を調べるにはどうすればよいのでしょう?。
一般的には確からしいアルゴリズムで作り上げた系統樹が与えられれば過去の生物がどのような特徴をもっていたのか推論することができます。
具体的に考えてみましょう。次のような系統樹が手もとにあったとします。
________フクロウ:飛べる
|______カラス:飛べる
|____ミズナギドリ:飛べる
| |__ペンギン:飛べない
|____アホウドリ:飛べる
このような系統樹があった場合、最節約に考えると、ペンギンは飛べる祖先から進化した、飛べない鳥である。そういう推論が成り立ちます。
↓最節約に考えると、これらの鳥のすべての共通の祖先A1は飛べたと考えられる
_A1______フクロウ:飛べる
|______カラス:飛べる
|____ミズナギドリ:飛べる
| |__A2_____ペンギン:飛べない
| ↑A1の子孫ペンギンが飛べないのはA2で飛べないという進化が起きたと考えればよい
|____アホウドリ:飛べる
このように最節約というアルゴリズムを使うことで、私達はペンギンが空を飛べなくなった鳥であるという推論を下すことができます。ちなみに最節約でないアルゴリズムではペンギンが飛べる祖先から進化したという結論が導かれない場合が当然ありえます。
これが最節約という方法で祖先の特徴を推定する方法です。
さて、以上のことを踏まえてかえりみると、ポールとフェデューシア教授がそれぞれ提案した系統樹は彼らの見解、すなわち鳥の祖先が樹上性である、を一応支持しています。
ただし、
ポールの系統樹は既存の他の系統樹よりも弱いために、彼自身のアイデアはあまり確からしくありません。
フェデューシア教授の系統樹は非常にもろいために、ほとんどあてになりません。
同じようにオルシェフスキーの系統樹を最節約に考えるとどうなるでしょうか?。
じつは困ったことに、オルシェフスキーの場合、彼の系統樹は彼の見解、鳥や恐竜は樹上にいた動物から進化したというアイデアをまったく支持しません。例えば彼の系統樹に基づいて推論すると次ぎのようになります。
_G1_________他の爬虫類:G
|_________G→T___メガランコサウルス:T
|________アパトサウルス:G
| |____オルニスキア:G
|________コエロフィシス:G
|______アロサウルス:G
|_G2____G→T___始祖鳥:G/T
| |__ディノニクス:G
|===ティラノサウルス/アヴィミムスなど:G
|___モノニクス:G
|__G→T___現代の鳥:T
注:Gは地上性を、Tは樹上性であることを示す。G→Tは地上性から樹上性への進化を示す。始祖鳥が樹上性なのか地上性なのかは矛盾する意見があるので、両方ということに一応しておきました(地上と樹上どちらもが妥当なところらしい・・)。現代の鳥は一応樹上性ということにしておきます。もちろんそう言い切れるものでもないですけどね。
以上の系統樹はオルシェフスキーの系統樹をおおむね示したものなのですが、これから最節約に考えた場合、すべての共通の祖先、G1は地上性であると推論されます。そしてメガランコサウルス、始祖鳥、現代の鳥がそれぞれ独立に樹上生活者になったという推論しかでてきません。
参考までに、G2の位置にいる始祖鳥と現在の鳥の共通祖先もまた陸上性であると推論されます。ようするにオルシェフスキーのいう樹上性のダイノバードという存在は彼自身の系統樹からは推論されないわけです。