Reptilia レプティリア/爬虫類(鳥を含む) Varanus :オオトカゲ(左)と Puffinus :ミズナギドリ(右)の頭骨を口蓋から見たスケッチ オオトカゲの骨の同定は「動物系統分類学」を参考にしました。ミズナギドリの方は適切な参考図書を持っていないので、ハイルマンの本([ THE ORIGIN OF BIRDS] Gerhard Heilman DOVER PUBLICATIONS,INC 1972 :この本は原著の英語版ですね)を参考にしました。ミズナギドリのpalatine と max の境界部分、max とpmax の境界部分は融合してしまっているのでしょう、縫合線がほとんど見えません。ですからこの部分に関しては多分に推論が入っています。sof (suborbital foramen/あるいはfenestra ) の位置に関しては、この構造が palatine とectp あるいはjugal に挟まれたスペースであるという形質の説明から推論したものです。あくまで北村のメモの域を出ないので御注意を。
さて・・・、
口蓋というのは口の裏側のことで、人間も含めてさまざまな骨で構成されています。よく比較するとオオトカゲもミズナギドリも口蓋を構成する骨、palatine のわきにectp ( ectopterygoid ) あるいは j ( jugal ) にはさまれた空間があることがわかります。ミズナギドリはectp を失っているらしいのですが、この口蓋に開いた空間は骨の位置関係から考えると sof と呼ばれるスペースです。
sof を持つ、というのは以下でも述べるように爬虫類の特徴のひとつなのですが、鳥もそういう特徴をいまだに残しているのが見て取れます(詳しいことはおいおい取材と補完)。なおすべての爬虫類がこういう特徴を残しているわけではありません。
爬虫類とは?:
爬虫類は極めて種類の多い動物群で、さまざまな姿をしたものがいます。最盛期は中生代で、2億5000万年あまり前、ペルム紀末期の大絶滅以後からっぽになった地球上でたくさんの系統に分化しました。地球の歴史上最大の陸上動物をうみだし、海に適応した系統も数多く出現しました。自力で空を飛ぶ系統も2回出現しています。非常に栄えた爬虫類ですが6550万年前、隕石衝突による白亜紀末期の大量絶滅で多くの系統が途絶えてしまいました。
特にアルコサウロモルファの系統が大きな打撃をうけ、ほとんどの恐竜が絶滅しています。ですがそれでも現在にいたるまで数多くの爬虫類が栄えています。また最後の恐竜である鳥もいまだに大空を羽ばたいています。ただ、鳥と他の爬虫類、つまりワニやトカゲやヘビはあまりに形が違うので一般には同じグループであるとは思われていません。このように爬虫類と鳥は別物とされていますが、じつは鳥は爬虫類と呼ばれている系統の一部です。ですから系統学の立場では鳥も爬虫類に含まれます。
なお生命の樹のどの部分を爬虫類(Reptilia)と呼ぶのか?。それにはちょっと困った問題があるのですが、このコンテンツではこれまで一般的に爬虫類と呼ばれていた部分(ただし鳥を含む)を爬虫類として扱います。
爬虫類の系統:
爬虫類の代表的な系統を示す。
根_______Anapsida:アナプシダ/無弓類
| |__Captorhinidae:カプトリニダエ(カプトリヌス科)
| ?__パレイアサウルス
| ?__カメ:Testudines
|
|____Diapsida:ディアプシダ/双弓類
アルコサウロモルファ(鳥、ワニなど)とレピドサウロモルファ(トカゲ、ヘビなど)
ここでは比較的伝統的な範囲の爬虫類を示しています。アナプシダというのは古典的にはパレイアサウルスなども含む分類群です。ではパレイアサウルスやカプトリヌスがひとつの系統を作るのか?というとはっきりしません。パレイアサウルスたちはアナプシダ+ディアプシダの外群かもしれません。伝統的にはカメはアナプシダの代表なのですが、カメの系統上の位置には議論の余地があるので、これも不確定としておきました。
爬虫類の特徴:
:sof を持つ など
爬虫類の特徴というと一般的には、ウロコで身体を覆われ、冷血(代謝が低くて環境によって体温が大きく変動する)で、卵をうむ、というものです。しかし実際問題としてウロコは鳥では羽毛に置き換わっていますし、冷血という特徴も鳥では失われています。また、一部の絶滅した爬虫類でも羽毛を持つものがいたり、あるいは冷血ではなく、温血であったらしいことが示唆される種族がいます。また卵をうまないで子供を産む種類もいます。
そもそもこうした特徴はいわゆる原始形質で、グループを定義するために使うには不向きなものです(もっとも派生形質でも問題が起きると思いますが・・・)。いずれにせよこういう定義でグループを作ることは自然科学の立場では理にかなったものとは見なされないのでここでは使いません。なお人間の心理とか文化や伝統、整理整頓という見地からするとこうした見解とはまったく違う考え方があるのですが、このコンテンツは自然科学をテーマにしています。ここではそうした概念は取り上げません。
さて、
内臓などの特徴はともかくとして、爬虫類の骨格の特徴としては sof を持つ、などが上げられます。実際、例えばシナプシダはこの構造をもっていないか、まれにもっているものでもごく小さな穴でしかありません。
とはいえ、すべての爬虫類がsof を持つわけではありません。首長竜などでは sof はしばしば閉鎖しています。また開いているにしても右のパキプレウロサウルスの口蓋の模式図のようなものもあります。この場合は鳥のようにpalatine と jugal に挟まれたスペースがそれですね。見た目はオオトカゲのものとは違う印象を受けますが、これもsof とみなされるものらしいです。
ちなみにパキプレウロサウルスは首長竜の仲間。仲間の多くはsof を失いましたが、彼らはまだ残していることが分かります。こうした特徴をもとに中生代の爬虫類の進化を考えることについて簡単な記事を「子供の科学」2003年3月号で書いているので、興味のある人はそれを参考にしてください。またこちらも参考に→プテラノドンが恐竜でない理由:補完ページ。
なお、sofがある、というのは爬虫類という系統を定義する特徴というよりは、爬虫類と呼ばれる系統の初期に派生した(らしい)特徴であると思って下さい。別にこれでグループを定義しようというわけではありません。
カメは生命の樹のどこにいくのか?:
これははっきりしません。カメほど生命の樹における居場所が分からない動物は少ないかも知れません。詳しくはいずれ補完するとして(いつになることやら)、伝統的にカメは非常に原始的な爬虫類の生き残りであると考えられてきました。そのためでしょうか、爬虫類という名称をツリー・オブ・ライフのどこに使うのか?という指定(あるいは定義)にカメが使われています。その内容はおよそ以下のとおり、
現在のカメとサウリア(アルコサウロモルファ+レピドサウロモルファ)の最も最近の共通祖先とそのすべての子孫
ところが近年になってカメの系統上の位置には幾つか異論がでてきました。そういうわけでもしカメの系統上の位置が変化すると”生命の樹のどこを爬虫類と呼ぶのか?”という範囲の指定には不安定さがまぎれてしまいます。
例えばカメの系統上の位置に関する意見にはざっと思い付くだけでも以下のような例があります。
__________メソサウルス
|________パレイアサウルス
| |____カメ <Lee 1996
|_______カプトリヌス
| |____カメ <伝統的なカメの位置
|______ペトロラコサウルス
|_____トカゲ
| |__サウロプテリギア
| |__カメ <Rieppel & deBraga 1996
|____ワニ+恐竜
Lee,1996. nature,vol 379,pp812~815
Rieppel & deBraga 1996. nature,vol 384,pp453~455
また、文献はまだ読んでいないのですがワニ+恐竜(ようするにアルコサウロモルファ)の方にカメが入ってくるという論文もあるそうな。
このように、呼び名の範囲の指定に使ったカメが系統の位置のどこへいくかで爬虫類の範囲が違ってきます。Lee 1996 や伝統的な見解では伝統的な爬虫類の範囲とほぼ同じになりますが、Riepper & deBraga 1996 ではサウリアと同じ範囲になります。
ただしこれは系統のどこをなんという名前で呼ぶのか定義する時に、いわばブイとして使った動物の系統上の位置によりによって不確定な要素があったということであって、爬虫類をどうグルーピングするのかということで問題が生じているのではありません。
こういう件に関してはありがちな勘違いがあるのでこちらも参考に→
さらにいうと少なくともひと昔前まではカメが”原始的な爬虫類”であることに特に疑問はありませんでした。そんなカメがよりによって得体の知れないものだったとは・・・・。実際、おそらく爬虫類のなかでもっとも謎めいた動物がカメであるといえるでしょう。