プテラノドンはなぜ恐竜でないのか?:補完

 系統と分類、そしてエラスモサウルスおよびそれに近縁な動物の頭骨の同定に関して

 

 これは、2003. 02.10 発売の「子供の科学 2003 March 3」に掲載された北村の記事を補完するページです。

 

 さて、この記事はプテラノドンやエラスモサウルス、イクチオサウルスがなぜ恐竜でないのか?、という問いかけから始まります。冒頭に紹介したように、人によってはプテラノドンが恐竜でないのは彼らが翼竜であるからだ、と答えてしまいます。でもこれは最悪の返答ですね。

 なぜなら最初の質問は言い換えると

 ”プテラノドンはなぜ恐竜に分類されないのか?”

 というものだからです。なぜ同じグループに分類されないの?、という問いかけに対して、別に分類されているんだよ、という返事はまったく答えになっていませんよねえ。

 ではどう答えるべきなのか?。

 この記事ではプテラノドンやエラスモサウルスは恐竜の子孫ではない、という説明の仕方をしました。あまり良い表現ではないかもしれませんが、要するにこれは、

 ”プテラノドンという動物は恐竜と呼ばれる系統には含まれない”

ということを示しています。

 

 系統は枝分かれするものです。例えば河川のように。地図で見ると神奈川県や東京都を流れる多摩川には幾つも支流があります。それぞれの支流には名前がついています。例えば乞田川という名前の支流が多摩市を流れています。その脇には大栗川という支流があります。乞田川と大栗川のちょっと上流にも幾つか支流があって、それぞれ浅川とか程久保川という名前がついています。

 では質問、乞田川と浅川は同じ支流ですか?。

 違いますよね。

 これと同じように、恐竜(浅川)とプテラノドン(乞田川)は同じ爬虫類(多摩川)ではありますが、同じ系統(支流)ではないのです。

     

 まあ、プテラノドンやエラスモサウルス、イクチオサウルスが恐竜ではない、ということは子供の科学、26ページの図8を見ればいわずもがなですね。

 なお、分類は系統をばくぜんと反映したものですから、プテラノドンが恐竜に分類されない、とはプテラノドンが恐竜と呼ばれる系統に含まれない、ということと近似です(楽観的な見解ですが)。いずれにせよ、爬虫類における分類、とはPhylgenetic Taxonomy であって既存の分類とはまるで違うものです。Phylogenetic Taxonomy のいう”分類”とは系統につけられた名前であることに注意してください。恐竜やテタヌーラ、コエルロサウリアなどは系統の分岐パターンに従ってつけられた名前であって、決して分類するために作られた分類群ではありません(浅川とか乞田川というのと同じですね)。

エラスモサウルス

 次ぎはエラスモサウルスの頭骨に関する補完情報です。エラスモサウルスの頭骨はざっと調べた限りではどうも不完全か、あるいは見つかっていないか、あるいは別物に再記載(?)されてしまっているようです。そこで、アルザダサウルスの頭骨をエラスモサウルスの代わりに使用することにしました。

 アルザダサウルスの頭骨は、保存が比較的良くて、なおかつ標本自体の模式図が載った論文があったからです。そこで問題になったのがアルザダサウルス(ひいてはエラスモサウルスに近縁な首長竜)の頭骨を構成する骨の同定についてです。

 

 問題としている骨の各パーツを色分けしてみました。

緑(L)=Lachrymal:ラクリマール 涙骨(子供の科学の記事では番号2の骨と表記しています)

赤(J)=Jugal:ジャーガル 頬骨

紫(QJ)=Quadratojugal:クアドレートジャーガル 方形頬骨

黄(SQ)=Squamosal:スクアモーサル 鱗状骨(子供の科学の記事では番号3)

左がWelles & Bump 1949 のアルザダサウルスの復元、右はCarpenter によるLibonectes の復元を参考にした骨の同定です。Libonectes はもともとエラスモサウルスとされた頭骨だそうで・・・、なんともややこしい状態ですが、Libonectes(エラスモサウルス?)もアルザダサウルスのいずれもエラスモサウルスに非常に近縁な動物であることには変わりありません。

 さて弱ったことに、見れば分かるように骨の同定は研究者によって大幅に違うのですよね。Carpenter では頭骨の後方を構成するのはスクアモーサルだけで、ラクリマールはありません(ラクリマールはプレフロンタールになってる・・・・)。一方、Welles & Bump 1949 ではまったく違います。彼らの骨の同定は、なんというか原始的な爬虫類、ペトロラコサウルスと比べると分かるような気がします。

 

 

 左がペトロラコサウルスの頭骨です。比べるとなんとなくですけどWelles & Bunmp 1949 の同定の根拠が分かりますね。この場合、ペトロラコサウルスの頭骨の後ろの2つの穴にうち、アルザダサウルスには下の穴しかないか、あるいは上の穴と下の穴がつながった、と考えるべきなのでしょう。

 ただ、弱ったことにエラスモサウルスに近縁である動物の頭骨は、どの動物もこの部分の骨の保存が悪いらしくて、どんなパーツで成り立っているのか良く分かっていないようです(Welles 1952)。骨と骨の接合部は縫合線(ほうごうせん)と呼ばれますけど、その縫合線がよく分からない。

 そもそも縫合線が点線で描かれていたりします。さらにはQJに?マークがついていたりします。ようするにあるはずなんだけど良く分からない、といった感じでしょうか?。

 アルザダサウルスの復元図ではなく、化石標本それ自体の模式図を見ても何がなんだか分かりません。模式図は説明するために縫合線とかをちゃんと描くものなはずなんですが・・、それを考えるとおそらく本物はもっと訳が分からないでしょう。

 するとこの骨の同定はどの程度確かなのでしょうか?。

 そういうわけで、今回の記事では骨の同定はCarpenter の考えに従いました。ちなみに、どちらの同定であっても子供の科学で北村が示した首長竜の系統関係は崩れません。そのことは心にとめておいてください。

 

 最近ではアルザダサウルスのような首長竜の頭骨は、ペトロラコサウルスの頭の後ろ半分にある下の穴(側頭窓と呼びます)がオオトカゲのように開いたもの、そう考えられているようです(例えば Rippel & deBraga 1996)。

 下のオオトカゲとアルザダサウルスを比べるとかなり違和感がありますが、原始的な首長竜、パキプレウロサウルスと比較するとこの考えはかなり確からしいように見えます(>このあたりの具体的な説明は子供の科学の記事を参考にしてね)。

 

 

 以上の事柄やrippel & deBraga 1996 に従うと、オオトカゲもアルザダサウルスのどちらも頭の後方にある穴が下に開いているということになります。

 それにしてもアルザダサウルス(ひいてはエラスモサウルス)の頭骨はとても変わっています。非常に面白い動物ですね。

 これに比べたら恐竜なんて別になんの変哲もない頭をしています。まあ、アンキロサウルスみたいに異常極まりないものもいますが、首長竜、萌え〜〜ですな^^)

 参考文献のアップは近日補完 

 

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